44頁目.ノエルと音叉と事件の匂いと……
それからしばらくして、宿にて。
ノーリスの国王の自白を聞いたノエルたちは、驚きのあまり言葉を失っていた。
また、国王を口止めをする必要がないことに気づき、そのまま踵を返して帰ってきてしまったのだった。
「一体……どういうことなんだ? どうして国王はバレて欲しくないはずなのに、あそこまで堂々と言えた……?」
「まあ普通に考えるならば、あれくらいのことはバレても問題がないと判断したということですわね」
「でも新聞の記事を揉み消した、って外の人間のあたしたちに言ったら大問題だよね?」
「本来ならその新聞の記事を揉み消す必要がなかったのに、揉み消したってことか? あの国王の頭がよほど悪くない限りあり得ないんだが……」
「大臣など周りの誰も指摘しなかった時点でそれはないですわね。揉み消すことに何か意味があったということにはなりますが」
「うーん……。ロウィさんの周りで謎が謎を呼んでごちゃごちゃしてきた……」
サフィアは唸ってベッドに寝転んだ。
ノエルたちも荷物を置いてローブを脱ぐ。
「確かにロウィさんについて調べるつもりが、いつの間にか国を巻き込んだ謎になってますわねぇ」
「しかもその謎について国王に聞いても意味がないとなると、ロウィかその周りの連中に聞くしかないときた」
「ロウィさんの過去とかこの国の謎を知るには、ロウィさんの周りから攻めなきゃいけない、ってことですか?」
「そういうこと。国王とロウィたちはきっと何かを隠している。そして隠しているということは、そこに何か問題があるってことだ」
ノエルはベッドにドカッと座り、隣の部屋に聞こえないくらいの声量で言った。
「ロウィの身辺を探ってロウィとこの国が隠している謎を解き明かし、そこにある問題をアタシたちが解決する! それでロウィに貸しを作って協力してもらうんだ!」
「人間として最低の発想ではありますが、賛成ですわ。ノエルがロウィさんに感じていた違和感というのも気になりますし」
「まあ最悪、蘇生魔法を手伝ってもらわなくても土魔法の魔導書とかなら分けてくれるかもだし、あたしも賛成です!」
「よし、それじゃ明日からロウィの工房に……ロウィにバレないように行くとしよう!」
「「おーっ!」」
***
「とは言ってみたものの……」
次の日の朝、ノエルたちはロウィ魔導工房に行くエレベーターに乗ろうとしていた。
しかし、その手前で足踏みをしていた。
「そういえば、エレベーターで上った目の前が工房でしたね……」
「しかもあいつ、やけに耳が良かったよな? 一昨日、それなりに遠くからアタシたちの話を全部聞いてたし」
「もしかしたら、この話し声も聞こえているかもしれませんわよ?」
その瞬間、ノエルとサフィアはバッと上を見上げ、誰もいないことを確認する。
「冗談ですわよ。壁で遮られていますから聞こえるはずもありません。それに、見上げても何も見えないでしょうが」
「驚かせるなよ、一瞬ドキッとしただろうが」
「お姉ちゃん、性格悪ーい」
「あら、それは失礼ー。って、サフィー? 今何と?」
「まあ何にせよ、どうにかして上に行ったところで、工房の周りで探索するのは難しいかもしれないな」
「じゃあ、また別の方法を考える必要がありますね……」
その時、誰かがサフィアの肩を叩いた。
サフィアが振り向くと、そこには見覚えのある作業服を着た体格の良い男が立っていた。
「あなたは確か……昨日、工房でロウィさんを呼んでくれた作業員の人!」
「覚えててくれたんですね。ところでお客さん、エレベーター使わないんで?」
「あ、あぁ、邪魔だったね。お先にどうぞ」
「もしかして……姐さんに何か用があるとか?」
「えっ! い、いや、それは……」
マリンが返答に困っている間に、ノエルは何か閃いたような表情をする。
「いや、実はアタシたち、ロウィのことを調べて来ないと元いた国に帰れないんだよ。だけどあいつには自分のことを知られたくないって断られちまったのさ」
「あー、そりゃ災難でしたねぇ」
「それで、何かロウィについて知ってることとかないかい? 頼む、アタシたちを助けると思って……!」
「う、うーむ……。そう言われたからといって、簡単に姐さんについて話すわけにはいきやせんし……」
「お金なら出す! 頼む! ロウィについて教えてくれ!」
「だ、ダメなもんはダメです! 失礼しやすよ!」
「あぁ……! 待ってくれ……!」
ノエルは作業員の腕を掴んで引き戻そうとする。
しかし、作業員はノエルの手を振りほどき、そのままエレベーターで上まで行ってしまったのだった。
「ノエル! あなた強引にも程があるでしょう!?」
「それに今ので工房の人に聞くっていう選択肢が消えちゃったんじゃ……」
「シーッ……。静かにしてくれ」
「ますます状況が悪化しているというのに、あなたは一体何をしていますの!?」
「静かにと言っただろう。アタシの本領を見せてやる」
ノエルは突然カバンから奇妙な形状の音叉を取り出し、人差し指と親指で挟んで持つ。
しばらくすると音叉が震え始め、何やら不思議な音を出すようになった。
「よし、サフィー。この音を風魔法で順転できるか?」
「え? あ、はい! ええと……『増幅の風』!」
すると不思議な音が段々と響き始め、声らしき音が聞こえるようになった。
「これはもしかして……新しい魔法ですの? さっきの人の声が聞こえますわね?」
「あぁ、闇魔法『盗賊の音叉』だ。さっきあの作業員に引っ付けといたから、これで盗み聞きをする」
「うわぁ、犯罪スレスレの魔法ですわね……。ロウィさんが魔力感知したりして盗聴がバレたらどうしますの?」
「問題ない。違和感ないくらいの闇の魔力をあいつの身体中に付けといたから、場所まではバレないはずだ」
「なるほど、だから腕を必死に掴んでいたんですわね。わたくしも気づきませんでしたわ」
サフィアは音叉の音を増幅させながらノエルに言う。
「とりあえずあたしがこのままこの音を順転させておくんで、早めに終わらせてくださいね!」
「あぁ、そっちは任せた! それじゃ、マリン。聞き逃すなよ」
「ええ、そちらこそ」
***
「え? ノエルにアタイのことを聞かれた?」
「えぇ。とはいえ、あまりに執拗に迫られたんで振りほどいてきましたがね」
「はぁ……。あれだけ調べないでって言ったのに、ここまでしつこいとは……」
「やっぱり……あのことは誰にも言わないんで?」
「言えるわけない……。それに、誰かに相談したところでもう過ぎたことだしね……」
「まぁ、ロヴィアの姐さんのおかげで今の生活が営めてるんで、何かあればあっしらが相談に乗りやすんで」
「その名前で呼ぶのはやめてってば! 私は……アタイは……ずっと、これからもロウィなんだから……」
***
サフィアの魔力が切れたらしく、そこで音が切れてしまった。
「はぁ……はぁ……。どうだった……?」
「あぁ、ありがとうサフィー。だがこれは……」
「一体どういうことですの……? ロウィさんが実はロヴィアさんっていう名前で、だけどロウィさんはロウィさんで……?」
「と、とりあえず一度宿に戻って情報整理だ。ここにいたら、いつロウィと出くわすか分からない」
「え〜、もうあたし疲れましたよ〜。もう少し休んでからにしません?」
「仕方ないですわね〜! お姉ちゃんがおんぶしてあげますわ!」
「あ、恥ずかしいからそれはやめとく」
「そんなぁ……」
幸いにもロウィが降りてくる様子もなく、十分に休憩した後にノエルたち3人はまた宿へと戻ったのであった。
***
宿にて。
「じゃあ、さっき聞いた情報をまとめましょうか」
「予想通り、ロウィとその周りの人たちは何かを隠していた。そしてそれはもう『過ぎたこと』だと言っていた」
「過去にどうしようもないような何かがあって、それをみんなで隠してるってことですか?」
「ええ、そういうことでしょう。ただ、ロウィさんはそれをどうにかしようと思ってもいる。事件の匂いがプンプンしますわね!」
マリンはウキウキしている。
ノエルは話を続けた。
「そして一番の問題はその次の会話に出てきた『ロヴィアの姐さん』という言葉だ」
「ロウィさんが本当はロヴィアって名前だってことですよね。どういうことなんでしょう?」
「名乗った時も国王さまが言っていた名前も、全て『ロウィ』という違う名前でしたわね」
「あいつはロヴィアという存在でありながら、ロウィという違う人物としてこの国で生きている。これはとんでもない異常事態だぞ」
「確かにそれなら自分のことをひた隠しにする理由はなんとなく分かりますが、どうしてそんなことをしているのでしょう?」
「国からの圧力か……はたまた他に何か残された謎があるのか……だな」
ノエルは再びカバンから音叉を取り出す。
「あ、そうでした。それっていつでも使えるんですか?」
「いや、対象がある程度近くにいないと聞き取れない。だが、逆に言えばバレてない限りはずっとあの作業服に引っ付いたままだよ」
「じゃあなぜ今それを取り出したんですか?」
「なに、バレてないか確認したくてね。……よし、どうやら大丈夫そうだ」
「良かったですわね。これで午後も探索を続けられますわ」
「うーん……そんなに上手くいくとも思えないけど……。って、またあたしがこき使われるの!? そんなぁ……」
それからその日の探索を続けたが、作業員は作業するばかりでそれ以上の成果は得られないのであった。
こうしてノエルたちのノーリス探索3日目は終わってしまった。




