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41頁目.ノエルと別世界と喚く少女と……

 ノエルたちはそれから4時間ほどでノーリスに到着した。

 3人での鉄道の移動にはそれなりのお金がかかるため、5年以上はノーリスに来る機会が無かった。

 ホームに降り立つと、歯車の音が上の方で微かに響いている。



「うーん、歯車の音は相変わらずだな……」


「ここの天井は防音天井ですし、あまり気にしていないのでしょうねぇ」


「でも数年前の半分くらいの音になってますよ? あたし、耳には自信がありますから!」


「そう言われてみると……。って言うほど、よく覚えていませんわね……」


「ええ〜! あたしたち3人の冒険が始まった大事な場所なのに!」


「それは分かってるんだが……。単純に、音の大きさまで覚えてるサフィーの記憶力が凄いだけなんじゃないか?」


「ですわね……。年の差と言ったらそこまででしょうが……」



 ノエルは駅のベンチに座ると、おもむろにカバンから手帳を取り出した。



「何ですの? その手帳は」


「数年単位の旅ともなると、各国の社会情勢に敏感にならなきゃいけない。だから新聞で得た最新の情報をこうやってまとめてるのさ」


「はえー……。ノエル様にそんなマメなところがあるとは知りませんでした」


「確かに歯車の音が小さくなったというのが本当なのであれば、ノーリスの工業に何かしらの変化があったと考えるのが妥当ですわね」


「そう思ってこいつを出したんだが……うーん」



 ノエルは怪訝な顔をして首を振った。



「ダメだ。社会情勢の記事しかまとめてないからかもしれないが、ノーリスの工業についての記載は全くなかった」


「んー……。明らかに音の大きさが違うんだけどなぁ……」


「まあせっかくここに来たんですし、その真相はわたくしたちの目で確認するべきでしょう」


「だな。探究心こそ魔導士の成長の源だ!」



***



 サフィアの言葉が本当かどうか確かめるべく、3人はエレベーターに乗って最上層・歯車街にやってきた。

 エレベーターから降りた瞬間、ノエルとマリンは目の前に広がる光景に唖然とした。



「「は……」」


「は……?」


「歯車がほとんど動いていない〜!?」


「ですわ〜!?」



 数年前、2人はそれぞれ別々の機会に歯車街を見学したことがあった。

 その時はあまりの音圧に気圧され、どちらもエレベーターですぐ降りてしまったが、その時に見た動く歯車の数は凄まじいものだったという。

 しかし今の歯車街では、その半分以下の歯車しか動いていなかったのである。



「そんなに違うの?」


「違うって程度じゃありませんわ。完全に別世界じゃありませんの!」


「それに加えて、この国じゃ見慣れない建物が……。明らかに工業にそのもの変化があったとしか思えない光景だ!」


「でもここの歯車って、最下層の住宅街の暮らしを支えるためにあったんですよね? それがほとんど動かなくなるほど大きな変化なら新聞に載らないわけが……」


「いえ……違いますわ! あそこをよく見てくださいまし!」



 マリンが指差したのは、ノエルが『見慣れない建物』と言った場所だった。

 そこは見る限り人が住むための空間ではなく、まるで何かの工房のような場所で、歯車が回る音とはまた違った重たい音が響いている。

 ノエルたちはその建物の奥で動いている、複数の人型の物体に目が行く。



「ん〜……ん? 何だあれは?」


「動く……岩?」


「あぁ、あれはゴーレムですわね。岩ではなく土塊の魔物です」


「魔物!? そんなのがいて危なくないの!?」


「いやいや、ゴーレムは魔物と言うべきではないだろう。だってゴーレムは魔導士が()()モノなんだから」


「それってつまり、この国に魔導士がいるってことですか?」


「じゃあ使い魔と訂正しておきますわ。とりあえず、恐らくあれが新聞に載らなかった理由でしょう」


「ど、どういうこと?」



 マリンはカバンからノーリスの断面図の資料を取り出して説明する。



「かつて、ここでは歯車が最下層の人々の生活を支えていました。ですがある日、ある魔導士がこの国にやってきた……と仮定しましょう」


「恐らく土魔法が得意な魔導士だろう。ゴーレムは土魔法で作られるからね」


「ええ、そして何かがあって、その魔導士はゴーレムを労働力として国に差し出そうとした」


「ゴーレムは人の何百倍も力持ちだと聞く。歯車で動かすよりももっと効率が良いエネルギー回しが出来ると考えたんだろう」


「さらに騒音について思うところがあった国王は、その申し出を受け入れたのですわ。ですがそこで問題が発生したのです」


「そういうことか。1人の魔導士の力のおかげで国の様々な問題が解決された。だが、それが世界中に知られてしまうとなると、国としての顔が立たない。だから国がその記事を揉み消したのさ」


「ええ!?」



 サフィアは驚き、周りを見回して誰もいないことを確認した後、ひそひそと話し始めた。



「そ、そんなことが許されるんですか!?」


「その魔導士以外、誰も不利益を被らない揉み消しですから」


「その魔導士にも許可は取ったんだろうが、それにしても情けない話さ。だが、新聞に載らないというのは恐らくこういうことだろう」


「なるほど……。って、何で2人の意見はいつもそんなにピッタリなの?」


「まあ……知識と経験と……」


「付き合いの長さですわねぇ……」



 マリンは断面図を畳んでカバンに戻して謎の建物の方に向き直る。

 すると突然、その建物の奥から拍手と共に誰かが向かってくるのが見える。



「いやー! 素晴らしい推理だね!」


「うん? 誰だ、あいつ?」


「2人の知り合いじゃないの?」


「あんな女性、わたくしの知り合いにはいませんわよ?」


「ちょっと、聞こえてないのかな!? 素晴らしい推理でーすーよー!」


「あ? ああ、そりゃどうも……って、誰だいあんた?」



 その女性は、ノエルの前に立つなり悩ましい顔をする。



「うーん……思ってた反応と違うなぁ……。普通なら『周りには誰もいなかったはず! いつから話を聞いていた?』とか聞いてくるもんだけど……」


「いや、それも思いはしたが、口に出すのが面倒で……」


「なるほど……ってなるかぁ! 何よ、面倒って! せっかくアタイが真実を伝えに来てあげたのに!」


「あぁ、なるほど。こいつ、アタシが苦手な部類だ……」


「本人を目の前にして言うことじゃないよね!? あ、あからさまに嫌そうな顔するな〜!」



 ノエルの前でひたすらに喚く謎の少女。

 サフィアは痺れを切らしたように声をかけた。



「あのぉ〜? とりあえず名乗っていただけないでしょうか〜?」


「あ、ゴメン! すっかり忘れてた!」


「忘れてたって、さっきから誰だと聞いていたじゃないか……」


「ノエル……。今は黙っていた方が身のためですわ……」



 その少女は見た目からして18、19といったところだろうか、サフィアよりも少し大人びた顔つきをしている。

 頭には大きなバンダナを着け、服装は胸の部分がやや強調された意匠の鍛冶屋服で、その上から長めのコートを羽織っている。

 少女は胸に手を当てて、自信ありげに話し始めた。



「アタイは……ロウィ! あそこにいるゴーレムたちを作った張本人にして、この国の工業を支える紅一点!」


「お、お前があのゴーレムを作った魔女だって!?」


「まさかとは思いましたが、本当に魔女だとは思いませんでしたわ……」


「うん。ルカさんと同じくらいの歳に見えたから一般人かと思っちゃった」


「おーおー、いい反応してくれちゃって! お姉さん嬉しい!」


「それで、何の用だ?」


「あんたたちの推理が合ってるって話でしょうが! この国にアタイがゴーレムを与えたのも、それで歯車を動かさなくなったのも、そのことを揉み消されたのも全部正解!」



 一気に喋ったからか、ロウィと名乗る少女は肩で息をしている。



「っていうか、あんたたちこそこんな所に何しに来たの? 魔女でしょ?」


「あたしたちは歯車の音が小さくなったのが本当なのか見に来ただけで、特に用は無い……ですよね?」


「いや……。アタシたちはお前の工房を見に来た見物客だ。案内してくれ!」


「え、ノエル様!?」


「はぁ……やっぱりこうなった……」


「見物ねぇ……。まあ、ゴーレムに興味を持ってくれたんなら悪い気はしない、か。分かった、案内してあげる!」



 ロウィはそう言って手を差し出した。



「感謝するよ。アタシはノエル。闇魔法を得意とする魔女さ」


「あたしはサフィア! ノエル様の一番弟子にして水魔法の使い手よ!」


「わたくしはマリン。サフィーの姉にしてノエルの永遠のライバルにして火魔法を操る魔女ですわ!」



 それぞれ自己紹介をし、3人はロウィと握手を交わした。

 かくして、ノエルたちは土魔法でゴーレムを使役する魔女・ロウィと出会ったのであった。

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