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39頁目.ノエルと依頼と親友と……

 ノエルたちは念のためにラウディに滞在し、それから5日が経過した。

 その5日間、砂嵐は全く発生せず、国中の人々は歓喜に満ち溢れていた。

 そしてその間に、ラウディの兵士たちが暴れる大海蛇(シーサーペント)を討伐したという報告がノエルたちの耳に届いた。


 ルカは砂嵐発生の経緯と、それが収束したことをまとめて国王に報告し、その功績を称えられた。

 もちろんノエルたちも城に歓迎され、ご馳走を食べたり報酬金を貰ったりと至れり尽くせりの数日間なのであった。



***



 それからしばらくして。

 今は事も落ち着き、4人ともルカの家でくつろぎながらお互いの身の上話をしていた。

 ルカはノエルの昔話に夢中になっている。



「なるほど、ノエルさんにはお姉さんがいらっしゃるんですね」


「あぁ、今はどこにいるかも分からないが、自慢の姉貴さ」


「ぜひともお会いしたいですが、どこにいるか分からないなら連絡の取りようがありませんからね……」


「お前に言われちゃ、おしまいなんだがなぁ……」


「どういうことです?」



 ルカは人助けのためにいくつも街を転々としているため、居場所が分からないという話をノエルは思い出していた。

 ルカはキョトンとしている。



「お前だってこの件が片付いたらまた他の街に行くんだろ? いつもはそうしてるってクロネさんも言ってたし」


「あぁ、なるほど。そういうことですか。実は今回に関しては事情が変わりまして……」


「事情が変わった……?」


「はい。実はボク、しばらくここに住むことになったんです」


「ほう? 一体何があったのか聞かせてもらえるかい?」


「もちろんです。皆さんにはお世話になりましたから」



 ルカは席を立って書斎に行き、1枚の書類を持ってきた。

 そしてそれを3人に見せながら、ルカは説明を始めた。



「これはラウディの国王が発行した、避暑の風魔法の研究依頼書です。この家や馬車の御者さんなどにかけられているあの風魔法です」


「あぁ、そういえばあれはお前が作っていたんだっけか。って……研究依頼書?」


「ええ、これまでは生き物にしかかけられなかったということはご存知ですね? それを今度は、建物や食料運搬用の箱などにかけられるようにして欲しいという要望がありまして」


「え? それならわざわざ依頼なんて貰わなくても、ずっと研究してたよね?」


「あぁ、そういえば言っていませんでしたね。実はあの魔法、一度の発動でボクの1日分の魔力を全て使い切っちゃうせいで、労力とお金が全く見合ってなかったんですよ」


「なるほど……。国としてはその魔法が是非とも欲しい。ルカさんはその魔法を完成させたいが、完成させるための時間に対してお金と魔力が見合っていなかった。で、国がそこを保証してくれる……と。見事な利害一致ですわね」


「そういうことです。できればボク以外の魔導士でも使えるくらい簡単なものにしたいですね」



 そう言って、ルカは書類を畳んだ。



「ならしばらくはこの国にいるんだな。探す手間が省けるから助かるよ」


「ええ、少なくとも5年は。って、()()()()?」


「あぁ、お前の力を借りる日がきっと来ると思うからな。恐らく数年後に」


「数年後って……。もしかして、先日話していた完璧な蘇生魔法のことですか!?」


「その通りだとも。お前は実力不足だと言って返事を先延ばしにしたけどな」


「そうですよ! ボクは時間が欲しいと言ったはずですよね?」


「まあ聞け。この一件でお前の技量、そしてお前の魔女としてのあり方がある程度分かった。それらを総括して言うとだな……」



 ルカは息を飲む。



「今のお前じゃ、確かに実力不足だ」



 それを聞いたルカは目を伏せて俯いた。



「そう……ですよね……。それは分かっています……」


「だがな? お前は魔女として、人のために努力している。そして、たとえどれだけ時間がかかろうとも、必ず成し遂げられる力を持っている。アタシたちはこの数日、この目でその成長を見て、そう思った」


「え……?」


「つまりだな……。確かに実力としては不合格だが、魔女としては合格だ! お前は絶対にアタシたち以上の実力を持った魔女になると、アタシは確信したよ」



 その瞬間、ルカは感情を荒ぶらせて言った。



「そ、そんなこと分からないじゃないですか! 変に期待させないで下さい!」


「そんなつもりはないんだが……。サフィーたちも何か言ってやってくれよ」


「うーん、あたしもルカさんは凄い魔女だと思ってるよ?」


「わたくしもですわ。これまでの努力は誰にも負けないと思いますわよ」


「いえ、ボクは全然魔女としては未熟です! きっと数年修行してもあなた方の実力には遠く及びません!」



 必死に自分の実力を否定するルカに対して、ノエルは言い放った。



「もしかしてお前……今までの自分に自信が持てていないのか?」


「っ……!」


「ほう、図星か」


「え、ウソ!? 学園(アカデミー)を首席で卒業したのに!?」


「そうですわよ! これまでの努力に自信がないなんて思えませんわ!?」


学園(アカデミー)を首席で卒業できたのも、今こうして魔女として活動できているのも、全部クロネさんのおかげなんです! なのに自信なんて持てるはずがないでしょう!」



 その時、ノエルは何かを察したように頷いた。



「はぁん……? さてはお前、自分がクロネさんの弟子になれたのは運が良かっただけとか思っているな?」


「え、ええ……。師匠の気まぐれだと思っていましたけど……」


「そりゃいつまで経っても自信が持てないわけだよ。クロネさんが気まぐれなんかで弟子なんて取るはずないのに」


「どういう……ことですか?」


「ずっと不思議に思ってたんだよ。あの人がどうして突然弟子を取ったのかってね。なあルカ、もしかして弟子入りが決まる前にクロネさんと握手をさせられたんじゃないか?」


「え、えぇ……。とても緊張していましたけど、初めて握手した日のことはよく覚えています」


「その握手ってのはクロネさんがある魔法を使うために必要なんだよ。アタシと姉さんも昔はよく()()()()()()っけ……」


「師匠に見てもらった……?」



 ルカはしばらく考えた末、ハッとして顔を上げた。



「まさか、ボクの未来を見ていたと言うんですか!?」


「あぁ、そうだよ。それでアタシは納得したんだ。きっとクロネさんはその時、お前の可能性の光を見出していたんだ。だからお前を弟子として認めたんだってね」


「つまりボクは、将来性があったからという理由で弟子入りできたと言いたいんですか……?」


「そうさ。とはいえ将来性があってよかった、なんて思うなよ? その将来性だって、お前の努力や頑張りの結果なんだから」


「ボクは本当に師匠に認められていたんでしょうか……。やっぱりボクにそれほどの実力があるとは思えません!」



 すると突然、ノエルは苛立ったような口調になってボヤいた。



「逆に考えてみろよ。その頃からクロネさんに将来性があるって認められたんだぞ? アタシなんて15歳になるまで将来性が全くない、とか言われ続けてきたんだからな!?」


「うわぁ、クロネさん残酷……。って、ノエル様落ち着いて!?」



 サフィアはルカに食いかかろうとするノエルを引き止める。

 ノエルは恨めしそうにユラユラしている。



「最初から実力を見込まれるなんて……。羨ましい……」


「そ、そんなにですか……? ボクはまだ実感がないんですけど……」


「あの人はいくつもある未来から、最も起こる可能性のある未来を見るのさ。その中で将来性を見込まれるなんて、万が一でもありえないと言い切りたいくらいだ!」


「確かに、時魔法とはそういうものでしたね……。師匠の娘さんが言うのであれば、きっと本当のことなんでしょうね……」


「そうさっきから言ってるだろ? あとはお前の納得次第さ」


「全く……。キレてる暇があったら、早くこの話に決着をつけなさいな? ルカさんがずっと心配そうにこちらを見ていますわよ?」


「おっと、そうだった。アタシが何を言いたかったのか、ちゃんと伝えておかないとな」



 自分への怒りを収めつつ、ノエルは息を整える。



「クロネさんがお前を認めたのは確かだし、アタシもお前の将来性を見込んでいる。だからと言ってはなんだが……頼む!」



 ノエルは机に頭がつくほど頭を下げて言った。



「アタシの蘇生魔法研究に手を貸してくれ! アタシは未来も現在もこれまでもひっくるめて、お前の力を借りたいんだ!」


「ルカさん、お願いします!」


「わたくしからも、お願いしますわ!」


「っ…………」



 ルカはまだ二の足を踏んでいる。

 そこにノエルは次の手を指した。



「お願いだ。アタシは『友』としてお前の力を認めてるんだよ!」


「友……!」



 ルカはあからさまに良い反応を示している。



「そ、そうですわ! 苦楽を共にした仲ですもの! もはや『親友』と言っても過言ではありませんわよ!」


「親友…………!」


「そう親友! あたしたち3人とルカさんは強い絆で結ばれた親友だよ!」


「絆…………!!」



 ルカが目をキラキラさせているのを見て、3人は少し悪い気を感じてたじろぐ。

 もちろん3人ともちゃんとルカを友人として認めた上で言ってはいるが、少し盛っているような気がしているのであった。

 というのも、ラウディに着いた頃に考案していた『お友達計画』を、ここまであからさまに実行するとは、誰も思っていなかったからである。

 それでもノエルは、最後の手を指した。



「ルカ、アタシたちは親友としてお前を認めているし、信頼をおける存在だと思っているんだ! だから自信を持て! そしてアタシたちに協力してくれ!!」


「…………!」



 しばらくの沈黙の後、ルカは口を開いた。



「そ、そこまで言われてしまっては仕方ありませんね……。分かりました。ノエルさん、未来のボクの力をあなたにお貸しします!」


「あぁ……! よろしく頼む!」


「これからもよろしく、ルカさん!」


「よろしくお願いしますわ!」



 ルカは3人と固く握手をし、とても嬉しそうに笑うのであった。

 こうしてノエルは、風魔法の使い手・ルカを蘇生魔法作りの仲間として引き入れることに成功したのであった。

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