32頁目.ノエルと死活問題と実験開始と……
ルカの家で昼食を済ませた4人は、魔力の回復のためにしばらく休憩することにした。
現在、ノエルたちはリビングの机を囲んで談笑している。
「それで、ルカの修行はどうだい? まあたった2時間ほどでそこまでの変化があるとは思えないけど」
「そんな簡単に習得されたら流石のあたしも面目が立ちませんって。一応コツとか教えて反復練習してる段階です」
「なるほど。ルカはどうだ?」
「ボク自身、風魔法にはそれなりに自信があったのですが、サフィアさんのような操作ができるようになるにはまだまだ時間がかかりそうですね」
「まあ、サフィーは魔力の扱いに関しては誰にも負けないほどの実力者だ。目標にするのはいいが、これが普通だとは思わないでくれよ?」
「流石にアカデミーにもここまでの才能の持ち主はいませんでした。サフィアさんを基準にして考えるほどボクの目は節穴じゃありませんよ」
ルカはそう言ってお茶をすする。
その横で、サフィアはあからさまに照れるのであった。
「とはいえ風魔法の知識や魔力量はルカさんの方が豊富ですから、修行を積めばきっとサフィーよりも風魔法をうまく扱えるようになるはずですわ」
「そうだな。サフィーはどちらかというと水魔法の方が得意だし、上級以上の風魔法はまだ使えないもんな?」
「ぐっ……痛いところを突いてきますね……。べ、別に水魔法だけでも魔女として生きていくことはできますし!」
「はいはい、落ち着きなさいサフィー。いつかきっと使えるようになりますわよ」
拗ねるサフィーをマリンがなだめている間に、ノエルはルカに質問した。
「ところで、ルカは上級風魔法は使えるのか?」
「はい、一応は。ただ、使えるのが順転の風魔法だけなので、今回の砂嵐を止めるためには使えないと判断しました。なので反転の上級風魔法を作っていたのですが……」
「そいつが失敗続き、というわけだな」
「はい……。もちろんアカデミーの魔導書庫にある反転の上級風魔法は全て調べ尽くしたのですが、どれもボクの魔力量や想像力を超えたものばかりで……」
「風魔法は基本属性の中でもクセが強い方だと聞いたことがある。アタシも魔法を作ることの難しさは分かっているつもりだが、風魔法を作る難しさは想像もしたくないねえ……」
「分かっていただけて幸いです……。ですが、これは死活問題です。どうにかしてあの砂嵐に対抗できる魔法を作り上げなければなりませんから」
「うーむ……どうしたものか……」
ノエルは目をつぶって考え始めた。
「(魔法を作るにはその魔法をうまく想像できるかどうかにかかっている。つまり風魔法に詳しくないアタシとマリンはこの魔法作りには関われない……。とはいえ、サフィーに上級魔法を作らせるのは危険すぎる、か……)」
ふと、ノエルはサフィアが話していた風魔法の仕組みを思い返す。
「(『順転』と『反転』か……。これまでは砂嵐を反転の風魔法で消そうとしていたんだったな。まあ、順転させたら被害が大きくなってしまうから当たり前といえば当たり前……って、あれ?)」
ノエルはハッとし、ルカに尋ねる。
「な、なあルカ。順転の風魔法って他の魔法にも影響するのか?」
「モノにもよりますが、先ほどの反転魔法と同様に他の魔法に影響するものもありますよ」
「それって、魔法の効果を増幅させることもできるってことだよな?」
「そうですね。ボクが使える上級風魔法の中にもそんな効果のものがあります」
「もしかしてだが、その魔法、反転の風魔法にもかけられたりしないのか?」
「それは試したことはありませんが、原理的にはできるはずです。しかし、一体何を考えて……?」
それを聞いたノエルはニヤリと笑い、立ち上がる。
そして3人に向かって言った。
「そろそろ魔力も溜まってきた頃合いだろう? 早速実験だ! 成功すればきっと砂嵐に対抗できるぞ!」
「ほ、本当ですか!? ボクにはさっぱり分からなかったのですが……」
「その説明はあとでしてやるから。ほら、サフィーの実力の見せ所だぞ!」
ふて腐れていたサフィアは、マリンの腕から顔を出す。
どうやら機嫌が少し良くなったようだ。
「し、仕方ありませんね……。ノエル様、今回は許してあげます」
「サフィーに免じてわたくしも許して差し上げますわ」
「それは良かっ……いや待て、お前に何を許される必要があるっていうんだ」
「サフィーを拗ねさせるということは、わたくしを拗ねさせるも同義ですわ」
「……後でお前にもちゃんと出番があるから、準備しておけよ」
「そういうことなら仕方ありませんわね! どんどんわたくしを頼るといいですわ!」
サフィアはノエルの真意に気づいていた。
「(相手にするのが面倒過ぎて、ついにお姉ちゃんを受け流せるようになったんですね……)」
***
ノエルたちは再びルカの家の前の砂浜にやってきた。
陽は登り切っており、相当に暑い時間帯であることが分かる。
しかし、サフィアたちの指輪のおかげで、ノエルたちはそれなりに涼しい中で実験を始めることができるのだった。
「今言うとアレだが、本当にサフィーとマリンには感謝しかないよ」
「本当に神器を何だと思って……。まあ、今更過ぎて気にしませんけど」
「それで、一体何を実験するんですか? 風魔法の操作の修行はまだ途中ですが……」
ノエルは胸を張り、自信満々に言った。
「サフィーが使う反転の風魔法を、ルカの順転の上級風魔法で強めることができるのかどうかの実験だ!」
「た、確かに試したことがないとは言いましたけど、それで何を……。って、まさか……!」
「あたしの魔法を増幅させて砂嵐にぶつけるってことですか!?」
「その通り。反転の上級風魔法が使えない上に作れないと言うのなら、それと同じくらい強力な魔法を生み出せばいいじゃないか!」
そこにマリンが割って入る。
「待ってくださいな。道理にはかなっていますが、些か強引なのではなくって? 成功する保証はどこにもないんですのよ?」
「だから試して練習するんだよ。そのためのお前なんだからな」
「……なるほど。また高火力の魔法を撃てばいい、というわけですわね」
「話が早くて助かるよ。だが、アレよりも強力な魔法じゃないと練習にならない。というわけで──」
***
数分後。
4人は実験のための陣形を組み終わった。
サフィアの後ろにルカ、その2人の対面にマリンとノエルが並んでいる。
「ねえ、これ本当に大丈夫なんですわよね?」
「あいつらを信じろって。それに向こうにはサフィーの指輪があるから、炎の熱で怪我する心配はないはずだろ」
「で、ですが……」
「おーい! こっちは準備完了だ! そっちはどうだー?」
「こっちも準備完了でーす! いつでもどうぞー!」
「だとさ。それじゃ、いくぞ!」
ノエルの考えはこうだ。
マリンとノエルの2人で、威力高めの上級火魔法をサフィアたちに撃つ。
その魔法をサフィアが反転の風魔法で打ち消そうとする。
そこでルカがサフィアの魔法に順転の上級風魔法を撃ち込む。
魔法が凄まじい速さで消えれば実験は成功。
逆に変化がなかったり、むしろ強力になった場合は失敗ということになる。
あとは練習を重ねて、2人の調子を合わせれば完成!
という算段のようだ。
計画通り、ノエルとマリンは同時に魔法を放った。
「『灼熱大剣』!」
「うぅ……。『滅亡の灼拳』ぅ!」
炎の巨大な剣と拳がサフィアに向かって飛んでいく。
サフィアは集中して丁度いいところを見計らう。
「……ここっ! 『減衰の旋風』!」
サフィアの魔法がノエルたちの魔法を止める。
しかし、その勢いはなかなか収まらず、サフィアは後ずさりをしている。
ルカはサフィアの肩に手を置いて詠唱を始めた。
「ルカさん! 今だよ!」
「はいっ! いきます!」
ルカの周りを鋭い風が包み込む。
そして次第にその風はルカの手元に集まり、光り始めた。
「『増幅の時津風』!」
その瞬間、ルカの手元の風がサフィアの身体の周りを通って、サフィアの魔法と融合した。
すると、サフィアの目の前にあった小さなつむじ風が、突然大きくなり始めたのだった。
「よし、いい調子だ! そのまま気を抜くなよ、2人とも!」
ノエルの声に後押しされてか、サフィアの魔法の回転が少しだけ早くなる。
風に包まれた炎の剣は静かに消え、そして炎の拳も間もなく消え去ったのだった。
「せ…………」
「「「「成功だー!!」」」」
ノエルとマリンは拳を握り、サフィアとルカは手を繋いではしゃいでいる。
こうして、砂嵐に対抗できるかもしれない魔法を、ノエルたちは編み出すことに成功したのであった。




