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31頁目.ノエルと回転と計画と……

 サフィアとルカ、それぞれの風魔法を確認するべく、4人はルカの家の近くの浜辺にやって来た。



「まあこれくらいの広さなら大丈夫だろう。それじゃルカから見せてもらおうか」


「ボクからですか。分かりました。できればどなたかの力をお借りしたいのですが」


「打ち消す魔法の相手というわけですわね。それではわたくしが行きましょう。火力調整はお手の物ですわ!」


「あ、最大火力で構いませんよ。ボクの風魔法ならどんな攻撃でも打ち消せる自信があります。あの砂嵐は例外ですけど……」


「へえ、言いますわねぇ……。だったら早速参りますわよ! 『滅亡の灼拳(エル・グラン・フラム)』!」



 マリンの拳は炎を纏い、巨大な腕となってルカの方へと飛んでいく。



「待て待て! 流石にそんなバカみたいな火力を打ち消せるわけがないだろう!」


「ボクを甘く見てもらっては困ります! これでもクロネ様の弟子ですから! 『減衰の旋風(ディケイ・スペル)』!」



 ルカはマリンの魔法を風で抑え込む。

 次第にマリンの炎の腕は小さくなり、気づくと最初の半分ほどになっていた。

 しかしそれでもマリンの攻撃の勢いは収まることなく、ルカは後ずさりをしている。



「くっ、まさかこれほどの火力を出せる魔法が……あるなんて……!」


「わたくしを甘く見た罰ですわ。少し熱いでしょうけど、我慢してくださいまし」



 ルカの起こした風はマリンの炎でかき消され、その炎はそのままルカに襲いかかった。



「ぐ、ぐあぁぁぁぁぁ!!」


「はい、ルカさん、水!」



 サフィアは燃え移ってすぐに水魔法をかけ、鎮火したのだった。



***



 その後すぐ、ノエルはルカに治癒の光魔法をかけて立ち上がらせた。



「やはりボクはまだまだ未熟ですね……。風魔法の限界も知らずに良い気になっていたようです……」


「あまり気にするな。あいつの火力がバカみたいにおかしいだけで、普通の魔法なら打ち消せたはずさ」


「だったら良いのですが……。でもこのままで砂嵐に対抗できるのでしょうか……」


「風魔法は所詮『勢いを減らして打ち消す』魔法の類だ。相手の攻撃の威力がそれを上回るのであれば必ず破られてしまう。それなら他の魔法を使って──」


「さあ、いつでも撃ってきてよお姉ちゃん!」


「妹に拳を向けるのは些か気が引けますが……。行きますわよ!」


「って、お前らちゃんと話を聞けえ!」



 サフィアとマリンは2人をよそに勝手に魔法の披露を始めていたのであった。



「『滅亡の灼拳(エル・グラン・フラム)』ゥ!」


「いや、だからその魔法は風魔法なんかじゃ打ち消せ──」


「いくよー! 『減衰の旋風(ディケイ・スペル)』!」



 マリンの炎の拳がサフィアの起こした風に飲み込まれる。

 ここまでは先ほどと同じであった。

 そう、()()()()()、である。



「「……ええええ!?」」



 その炎の拳は一瞬で消えてしまったのであった。

 サフィアは魔導書を閉じて息を整える。

 ノエルとルカは食いつくようにサフィアに詰め寄った。



「そ、それってさっきと同じ魔法……だよな?」


「はい、同じ呪文ですから消費魔力も同じくらいかと」


「それならどうしてボクの魔法とは結果が違うのです……?」


「結果が違うとなると……。まさか魔法の操作だけで結果が変わるとでも? いやそんなまさかな?」


「いえ、そのまさかで合ってますよノエル様。でもルカさんが知らないのは意外だったんだけど」


「魔法の操作というのは……いわゆる魔法を撃つ方向や出し方の調整のことですよね? しかし今回に関しては、狙う方向くらいしか調整する必要がなかったと思うのですが……」


「あー、そういうこと……。これはあたしの口から説明しなきゃいけないみたいね……」



 サフィアはそう言うと、砂の上に2つの渦巻きを描く。

 片方は時計回り、もう片方は反時計回りの渦だ。



「風魔法は大きく2つに分けることができるの。それが『順転』と『反転』」


「ええ、それならボクも知っています。『順転』は力を増幅させる回転方向、『反転』は力を減衰させる回転方向ですよね?」


「その通りよ。例えばあたしの魔法『拡声波(のうしんとう)』は順転の風魔法。さっきみたいな打ち消す魔法は反転の風魔法ってわけ」


「へえ、風魔法ってそんな仕組みだったのか。知らなかったよ」


「まあこれは使ってみて初めて体感できるものですからね。ノエル様が知らないのも無理はありません。さあ、続けますよ」



 サフィアは砂の上にまた渦巻きを描いた。

 次は1つの大きな反時計回りの渦だ。




「風魔法において魔法の操作をする時、さっきルカさんが言っていたような操作はもちろんだけど、実はもう1つ操作しなきゃいけないものがあるの」


「え、全て言い切ったつもりでいたのですが……。それに風魔法特有の操作なんて聞いたことありませんよ?」


「まさか本当に知らないとは思わなかったわ……」



 ルカは考えたり悩んだりを繰り返している。

 サフィアは深いため息をついて言った。



「仕方ないわね……。教えてあげる。それは『風の回転速度』よ」


「風の回転速度? そんなものを追加の呪文もなしに操作できるというのですか!?」


「やっぱりそんな勘違いをしてたのね。魔法文字の教わり方の問題かもしれないけど、呪文の単語の一部はあくまで補助的なもので、意識すればある程度は操作できるのよ?」


「え、ええ!? そんなこと師匠も誰も教えてくれませんでしたよ!?」


「なるほど、アカデミーで学んだことが全てだと思い込んでしまってたってわけか。そして多分クロネさんは自分の魔法の属性のせいもあって、単語の仕組みについて教えるのを忘れていたんだろうよ……」


「どういうことですの? 確かクロネさんの魔法は時魔法…………あぁ、そういう……」



 マリンは何やら納得のいった様子で頷く。



「そう、あの人はいつも時を止めて詠唱する癖がついているせいで、魔法の呪文の仕組みに無頓着だったのさ。かく言うアタシもルフールに教えてもらって初めて気づいたからな」


「まあとにかく、風魔法については回転速度を操作することができるの。つまりは勢いを殺すにしても増すにしても、速度を早めればより大きな結果を残すことができるってわけ」


「ということは、先程は反転の速度を増加させて一気にあの魔法を消し去った、という認識で良いのですか?」


「そうよ。まあ慣れればすぐにできると思うわ。特にルカさんみたいに器用な人ならなおさらね」


「じゃあサフィー、ルカに教えてやってくれ。アタシとこいつは家の前で待っておくから」


「了解しました! では早速やっていこ〜!」


「はい、よろしくお願いします! サフィアさん!」



 こうしてサフィアはルカに風魔法の操作について教えるのであった。



***



 2人を待っている間、ノエルとマリンは玄関前の階段に座って2人を見ていた。



「これで良かったのかねぇ……」


「唐突に何の話ですの」


「ほら、アレだよ。馬車の御者に頼まれてたやつ」


「あぁ、()()()()()のことですわね。まあ上手くいっているんじゃありませんの?」


「それなら良いんだが……その子供っぽい名前はどうにかならないのか?」


「何を今更。サフィーとわたくしの命名に文句は言わせませんわよ」



 ノエルたち3人はあの時、『ルカの友人になって欲しい』と頼まれたのであった。

 理由は『同年代の友人や魔女の友人がいない』という噂を聞いたからだという。



「どういう過ごし方をすればそんな噂が立つんだよ……」


「きっといつも働いてばかりなのでしょう。確かに少し可哀想に思えてきますわね……」


「『人付き合いが苦手だったのは昔の話』とかクロネさんは言っていたが、アカデミー卒業までには間に合わなかったというわけか……」


「それに加えて各地を転々としているせいもあって、現地の人とも仲良くなりきれていないのかもしれませんわね」


「つくづく可哀想な奴だな……。っと、いけないいけない。アタシたちが友人になるためにはそういう感情は捨てておかないと……」



 哀れみの目でルカの方を眺めていた二人は、同時に自分の頬を叩いて気を引き締める。

 するとマリンは、何かを思い出したかのようにノエルの方を向いて尋ねる。



「あ、そういえば結局、指輪については何か分かりまして?」


「ん? あぁ、色々分かったさ……。ただ、ここから先は試してみないと分からないというか……」


「ということはやはり何か秘密が隠されていたわけですわね?」



 ノエルは軽く頷く。



「何か魔法が込められているのは分かった。だが、それが何の魔法なのかは今の時点では何とも言えない」


「やはり強力な魔法が秘められていたとか!?」


「だったら良いんだが……。普通なら属性とかだけでも分かるはずなのに、それすらも分からないなんて……」



 ノエルは手を頭の後ろに回して寝そべり、空を見上げる。



「確かにそれはおかしい話ですわね……。って、魔石が素材なのに属性が分からないんですの?」


「その宝石は魔石じゃない。本当にただの宝石だったんだよ」


「ではこの神器のいつもの力は一体……?」


「それは伝承通り、その宝石に込められた結界の力さ」


「ええ!? これ、ただの結界だったんですの!?」


「神器にしてはやけに普通の効果だと思ってたんだ。調べてみたらお前のもサフィーのも、風魔法の結界が発動していた」



 マリンは恐る恐る宝石に触れて魔力を探る。

 しばらくして、マリンは驚きの表情を浮かべ、間もなく納得したように指輪から手を離した。



「それで、その属性不明の秘められた魔法というのは……?」


「あぁ、これはお前たちの指輪の魔力的繋がりから分かったことなんだが、どうやら何かの魔法が複合的にかかっているようなんだ」


「と、言いますと?」


「結界に加えて、2つの指輪に同じ魔法がかかっていたってことさ。さっき言った通り、効果は不明なんだが」


「ふむ、同じ効果の魔法ですか……。って、それをどうやって試すんですの? 属性くらいは分からないと発動すらできないのでは?」


「そこでアタシも詰みさ。どうして属性が分からない? そしてどうして同じ効果の魔法がかかっている?」



 ノエルはパッと上体を起き上がらせ、マリンの方を向く。



「そして一番の謎は『どの時点で』その魔法がかけられたのか、なんだよ」


「確かに! 物語の中にはそんな話はありませんでしたし、わたくしも聞いたことがありませんわね」


「だからこそ手がかりがない。完全な詰みってわけだ」


「なるほど……。まあ、とりあえず調べていただいて感謝しますわ」


「アタシの知見も広がったし、礼には及ばんさ」



 ノエルとマリンは魔法の稽古をする2人の方に目を向ける。

 そろそろ日が昇ってきたらしく、2人の影が短くなってきている。



「そろそろ切り上げようか」


「ですわね。お腹も空いてきた頃でしょうし」



 ノエルは声を上げて2人を呼ぶ。



「おーい! もう昼になるから一度こっちに戻ってこーい!」


「はーい! 今行きます!」


「了解しましたー!」



 4人はルカの家に戻り、昼食休憩をとるのであった。

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