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29頁目.ノエルと風魔法と指輪の秘密と……

 ルカの家に入ってみると外の暑さとは打って変わって、それなりにひんやりとしていた。

 どうやら家の中央に立っている柱を中心に魔法がかかっているようだった。



「なるほど、これが避暑の魔法とやらの効果か。だが、生物にしかかけられないと聞いていたんだが?」


「魔法は結界として発動すれば、対象も場所も問わずに使える。魔女としては当然の知識でしょう?」


「なるほど、結界魔法ですか……。でもノエル様、結界って勝手に魔力を持っていかれるんじゃありませんでしたっけ?」


「あぁその通りだよ、サフィー。その結界が発動している限り、発動者は微量だが魔力を消費していく」


「だから馬車には貼っていなかったんですわね。距離が遠くなるほど魔力の消費量も増えますし」


「その通りです。研究が進んで生物以外にもかけることができれば済む話なのですが……」


「そう上手くはいかない、か」



 ノエルは結界の元になっていると思しき中央の柱に手を触れ、目を瞑って精神を集中させる。

 そして数秒ほどで手をそっと離して言った。



「もしかしたら『そっち』も力になれるかもしれない」


「そっちも、とは……?」


「つまり、とりあえず色々と話すことがあるってことだ。どこに座ればいい?」


「それでしたらこちらの席にどうぞ。冷えたお茶をお持ちします」


「それはご丁寧にどうも」



 3人は言われるがままに椅子に座り、ルカが持ってきた冷たいお茶をぐいっと一気に飲み干したのだった。



***



「さて、まず何から話そうか……」


「ノエル様、とりあえず自己紹介をしませんか?」


「おお、うっかりしていた。それじゃサフィーからいこうか」



 サフィアはパッと立ち上がり、意気揚々と喋り始めた。



「はい! あたしはサフィア。得意な魔法は水魔法! 一応あなたより3つ年下らしいけど、タメ口なのはクセだからゴメンね!」


「そういうのは全く気にしませんからお気になさらず。好きなように話してくれて構いませんよ」


「ありがとう、ルカさん!」



 ノエルに「次はお前だ」と言わんばかりに肩を叩かれ、マリンはサフィアが座ると同時に立ち上がった。



「それでは次はわたくしですわね。わたくしはマリンと申します。得意な魔法は火魔法です。そして何より、この可愛い少女・サフィーの姉ですわ!」


「なるほど、姉妹でいらっしゃいましたか。道理で可憐な顔立ちがよく似ていらっしゃる」


「そうでしょう、そうでしょう! あなたとは仲良くできそうですわ!」


「それでは最後は……」



 ルカはノエルと目を合わせる。

 するとノエルはすっと立って淡々と自己紹介をし始めた。



「……アタシはノエル。得意な魔法は闇魔法。それでもって、クロネさんの娘の一人だ」


「なるほど、師匠の娘さんでいらっしゃいましたか……」



 しばらくの沈黙の後、ルカは叫ぶ。



「って……ええ!? 師匠に娘さんがいらしたんですか!?」


「え……知らなかったのか!? あの人の弟子なのに!?」


「あの頃のボクは自分のことに手一杯で、そこまで気が回せなかったもので……。すみません……」


「い、いや、知らなかったことを謝る必要なんてないよ。ほら、お前も自己紹介をしてくれ」


「そ、そうでしたね。ノエルさんですね、きちんと覚えました……」



 ルカは1つコホンと咳払いをして話し始めた。



「改めまして、ボクはルカと申します。クロネ師匠の弟子で、得意な魔法は風魔法です」


「なるほど。風魔法は『打ち消す能力』や『速度を操る能力』が専門の魔法。そりゃ、避暑の魔法なんて作り出せるわけだ」


「ええ、他にも乾燥防止の魔法や魔法を打ち消す魔法なども研究しています」


「クロネさんから聞いたぞ、この国の砂嵐問題を魔法で解決しようとしてるとか。もしかしてそれも風魔法で?」


「そんなことまで聞いていたんですね……。はい、その通りです。『風を打ち消す風魔法』を作ることができればきっと止められると思い、日々試行錯誤を繰り返している所存です」



 サフィアはルカとの衝撃的な出会いを思い出す。



「あ、もしかしてさっき飛んできたのって……」


「まあ、お察しの通りです……。実験をするにも砂嵐が発生する時間は不定期ですし、何よりボクはまだまだ未熟者ですので失敗ばかりで……」


「自然に抗うというのはかなりの危険が伴いますものね……。分かります……」


「よし、それじゃあアタシたちもそれに協力しようか」



 ノエルの急な申し出にルカは一瞬固まり、しばらくして言った。



「え……!? そ、そんなご迷惑をかけるわけにはいきません!」


「なに、元からクロネさんに手伝うよう言われて来たんだ。それに、アタシたち自身の用はそれが済んでからでも問題ないからね」


「なるほど、それが師匠直々の頼みというわけですか……。って、他にも用が?」


「あぁ、砂嵐の問題を解決した時の報酬代わりにひとつ協力してもらいたいんだ。詳しくは終わってから話すが、事と次第によっては断ってくれても構わんよ」


「そういう事なら構いません。ボクとしては協力者は非常に助かりますしね」


「お、ということは?」



 ルカは立ち上がり、3人に向かって頭を下げる。



「お願いします。ボクの魔法研究に協力して下さい!」


「分かった。これからよろしく頼むよ」


「はい! ありがとうございます!」



 こうしてノエルたちはルカの魔法の研究を手伝うことにした。



***



 その日の夜。

 ノエルたちは宿をルカに紹介してもらい、しばらくはそこに泊まることになった。

 また、ノエルはサフィアとマリンからそれぞれの指輪を貸してもらい、寝る前に調べることにした。



「とりあえず、魔力量や効能そのものは魔女の指輪の物語にあった通りのシロモノみたいだな……。本当に元は別々の能力を持っていたみたいだ」


「そもそも元の指輪って、旅人さんが様々な環境に耐えられるように作ったものでしたよね? それ以上の能力って本当にあるんでしょうか?」


「確かにかつてのそれぞれの指輪にはそれ以上の効果はなかったでしょうね。ですが、今のこの指輪はその時のものとは大きく違いますわ」


「その通り。何せお互いが干渉し合っているんだ。この2つに新しい関連性が生まれていてもおかしくない」


「おお……! ってことは新しい能力が使えるかもってことですね!」


「あぁ、それを今から調べようと思う。もちろん壊さないように細心の注意を払うから安心してくれ」


「「よろしくお願いします(わ)!」」


「任された!」



***



 2人が眠った後もノエルは1人で黙々と指輪を調べていた。



「(やはりな……。この2つは魔力的に繋がっている。しかも一本の線ではなく、二本の線が螺旋状に絡み合ってるような状態か……。ただ気になるのは、どれだけ距離が離れても指輪同士の繋がりが切れる様子が一切ないことだ……。一体どういう仕組みで……)」



 ノエルは指先で指輪をくるくる回しながら、魔女の指輪の物語を思い出す。



「(元は赤と白の宝石……。それが魔女の涙で藍と青に……。そして放置した結果お互いが繋がった……。ん……? いや待てよ?)」



 ノエルはカバンから魔石の資料を取り出し、おもむろにページをめくり始めた。



「(……やはりな。どの資料にも赤や白といった色の魔石は載っていない。ということは元の指輪はただの指輪で、それぞれに術式がはめ込まれているだけだったということになる。そうか! 術式は魔法の応用みたいなもんだ。だったらその術式にも属性があったはず!)」



 次に別のカバンから魔法の資料を取り出し、ガサゴソと漁る。

 そしてその中から一枚の魔導書を見つけた。



「(あった、これだ!)」



 ノエルは静かに、不敵に笑みを浮かべる。

 しかしその瞳はまるで面白いことを見つけた子供のように、キラキラと輝いていた。



「(なるほどな、ようやく分かったぞ……! この指輪に秘められた能力とやらが!)」



 ふと窓の外を見ると、月が高く昇っていた。

 ノエルはひとつ大きなあくびをする。



「ふあぁ……。続きは明日、試してみるとしよう……。もういい加減、眠い……」



 こうしてノエルたちのラウディでの探索は1日目を終えたのだった。

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