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28頁目.ノエルと避暑とチョロすぎる少女と……

 ヴァスカルを出発して2時間が経過した頃。


 ノエルたちが乗るラウディ行きの馬車は、熱い砂漠の道に差しかかろうとしていた。

 じりじりとした太陽の熱は馬車の中にまで侵入し、ぐっすり寝ているノエルの額にじわりと汗が滲んできている。

 一方、サフィアとマリンは指輪の効果のおかげで暑さをしのいでいた。



「ノエル、暑そうですわね……。指輪の効果範囲の中には入っているはずなのですけれど……」


「多分さっきのケンカで指輪の力が弱まって、装備してるあたしたちにしか効果がないんじゃない?」


「なるほど、それでしたら水魔法でこの中の温度を下げるというのはどうでしょう?」


「蒸発して余計に蒸し暑くなると思うけどなぁ……」


「ええと……なら、凍らせるとか?」


「何を?」


「ノエルを」


「殺す気なの!?」


「冗談ですわよ。水魔法を凍らせて氷枕でも作ればいいんじゃありません?」


「ホント、お姉ちゃんは……。それじゃ即席で、っと」



 サフィアは水の弾を作り、それを一瞬で氷の塊にする。

 そしてそれをハンカチに包んで、自分の膝の上で寝ているノエルの首裏に置いた。

 すると暑そうにしていたノエルは、再びすやすやと寝息を立て始めるのだった。



「ふう、これでよし。溶けたらまた作り直さなきゃ」


「そういえば、よくこんな暑い中で馬車を走らせられますわねぇ? 御者も馬もそれほど丈夫なのでしょうか?」


「暑さをしのぐ魔法でもかけられてるんじゃない?」


「それなら普通、車の中にもその魔法をかけますわよね?」


「あ、確かに。なら暑さに強い馬の品種とか?」


「その場合、御者さんの暑さはどうにもできないでしょう?」



 するとその御者が声をかけてきた。



「どっちも正解だよ。こいつは火山地域で育った暑さに強い馬。そんで俺には避暑の魔法がかかってるんだ」


「車の中にはかけないんですか?」


「あぁ、そりゃすまねえな。どうもこいつが試作段階の魔法らしくて、生物にしかかけられないらしいんだ」


「らしい、ってことは……あなたは魔法を使えないんですの?」


「あっはっは! 魔法なんて便利なものが使えりゃこんな仕事してねえよ! 魔法はルカって魔女にかけてもらってるんだ」



 サフィアとマリンは驚く。



「え、ルカさんを知ってるんですか!?」


「お? もしかしてルカの知り合いだったか? そりゃ奇遇だな」


「いえ、知り合いというわけではありませんが、少し用があるといいますか」


「なるほどな。そういや見る限りあんたたち魔女だろ?」


「ええ、それがどうかしました?」


「いやあ、それがもし良ければなんだが……」



***



 それから小一時間ほどで馬車は南の国・ラウディに到着した。

 ノエルは着く頃には目を覚まし、降りると同時に御者にお金を渡した。



「ここまでありがとう。これくらいで良かったかい?」


「ああ、充分だ。それじゃ嬢ちゃんたち、頼んだぜ」


「はい、任されました!」



 サフィアの返事に御者はニコッと笑い返し、そのまま馬を繋ぎに向こう側へ行ってしまった。



「もしかしてお前たち、何か面倒なことを頼まれたりしてないだろうね?」


「大丈夫ですよー。今回の任務に支障は何もないと思いますから!」


「ええ、でもノエルにも手伝ってもらいますわよ」


「詳しく聞かせてもらおうか」



***



「なるほどなるほど……って、めんどくさいことになってるじゃないか!?」


「いやいや、そう思ってるのノエル様だけですってば」


「そうですわよ。普通にしていれば勝手に依頼は達成できますから」


「えぇ……。それ、アタシを買いかぶりすぎちゃいないか……?」


「あぁもう、あなたそれでも一番の年長者ですの? しゃんとしなさい、しゃんと!」


「分かった分かった……。とりあえず分かったから、さっさとルカって奴のところに行くぞ」


「場所は……まあ有名人みたいですし、その辺の人に聞けば分かりますかね?」


「恐らくは。いざとなればこの住所の控えを参考にすれば大丈夫でしょう」


「それじゃ、行くかー!」


「「おーー!!」」



 こうして3人はルカの家探しを始めた。



***



 それから5分ほど過ぎて。

 辺りにいた住人に聞いたところ、ルカの家の場所は案外すぐに分かった。

 しかし家に行ってみると、彼女は不在なのだった。



「まぁ、こういうこともありますわよね」


「いつ頃戻ってくるんでしょう?」


「さあねぇ……。マメな性格だとは聞いていたが、書き置きをしていないとは……」


「あまり訪問してくる人がいないんじゃありません?」


「もしくは忙しすぎてそんなの書いてる暇がないとか?」


「どちらにせよここで待つしかなさそう──」



 その時だった。

 突然、3人の目の前に謎の黒い塊が降ってきた。

 いや、一瞬の出来事だったために黒い塊に見えただけで、それは紛れもなく『人間』であった。

 そこには黒い服の人間が砂浜の中に逆さまになって刺さっていたのだった。

 ノエルたちは冷静に状況を把握し始める。



「なぁ……何でこいつ、こんな暑い場所で黒い服なんて着れるんだ……?」


「まぁ、つまりはそういうことですわよねぇ……」


「ちょっと、考察する前にとりあえず助けてあげようよ!?」



***



 それから間もなく、3人は砂に埋まった身体を引き抜いた。

 そしてその引き抜かれた身体はしばらくの沈黙の後、パッと起き上がり、砂を払い始めたのだった。

 その少女の背はサフィアよりも低く童顔だが、眼鏡の奥の瞳はとても冷静で、スーツのような服の着こなしからも真面目な性格であることが伝わる。

 ノエルたちはその佇まいから、彼女がルカであることを確信した。

 砂を払い終えると、少女はノエルの目の前にスタスタと来て、ぺこりと頭を下げた。



「助けていただきありがとうございました。それでは」



 そしてこう一言礼をして、少女は家の方へと足を向ける。

 ノエルは振り向いた彼女の服の裾を掴んで言った。



「ちょ、ちょっと待つんだ。ルカ」


「……どうしてボクの名前を? 初対面のはずですが」


「アタシたちはお前に用があって来たんだ」


「用ですか……。ああ、そういえば師匠からの手紙に魔女の3人組が来ると書いてあったような……」


「どっからどう見てもアタシたちで間違いないだろう?」


「ただ、いくら師匠の知り合いとはいえ、簡単に用事と言われても困ります。ボクは忙しいのでね」


()()()()()()()()()()()()()()()、と言ったら?」



 するとルカはピクリと反応した。



「……それでは話だけでも聞かせてもらいましょうか。外ではなんですし、ウチへどうぞ」



 その瞬間、3人は同時に思った。

 「この魔女、チョロすぎるんじゃ……?」と。



 ノエルは咳払いをし、ルカに返事をする。



「あ、あぁ。お邪魔してすまないね……」



 3人はルカに連れられ、そのまま家に入るのだった。



「(この子、本当に大丈夫でしょうか……。心配ですわ……)」


「(クロネさんからの頼み、って言ったら何でも了承しそう……)」


「(ま、まぁ、少なくともアタシたちの話は聞いてくれるみたいだし、今はその話は置いておこうか……)」

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