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25頁目.ノエルと指輪とおばあさまと……

 マリンは話を続けた。



「この指輪の名前は『藍玉の涙(ティアマリン)』。サフィーのは『蒼玉の涙(ティアサファイア)』。おばあさまの形見の指輪ですわ」


「ま、まさか神器を2つも持ってる家族がいるとは……。いや、噴水を含むと3つか……?」


「おばあさまは大変有名な魔女でしたから。当時のセプタ王は、所有していたこの指輪を譲ってくださったと聞きます」


「そんな簡単に神器を譲る王も王だが、王に神器を貰えるおばあさまもおばあさまだな……」



 ノエルは苦笑いしながら言った。



「まあ、当時はまだ原初の大厄災が起きる前の魔女最盛期でしたもの。神器がいくつも作られて、どの国も持て余してたらしいですわよ」


「それが今となっては貴重な代物になるなんて、誰も思わなかったろうねぇ。それで、その神器の能力はなんなんだ?」



 マリンとサフィアは指輪を外し教卓にコトンと置いた。

 マリンの指輪には薄い藍色の宝石がはめ込まれており、サフィアの指輪には透き通った青色の宝石がはめ込まれている。



「この2つの指輪は()()対となる違う能力を持っていましたわ。それぞれ『高温への耐性を得る』と『低温への耐性を得る』というものだったそうです」


「ほう、対の神器とはこりゃ珍しい。って、ん? 『元は』?」


「ええ、今はほぼ同じ能力になっていますの。どうしてかはこの指輪の起源を辿る必要があるのですが……」



 マリンはちらとノエルの顔色を伺う。

 するとノエルはジュンを見て、やれやれと溜息を吐いた。

 彼は目をキラキラさせながら話を聞いていたのだった。



「……ジュンが興味を持ったみたいだ。聞かせてやってくれ」


「ふふっ、そういうことなら。分かりましたわ。この話はサフィーも小さい頃にお母さまから昔話として聞いてたんじゃありません?」


「えっ、あれ実話だったの!?」


「ええ、実話ですわよ。わたくしはおばあさまが生きていた頃にこの話を聞き、実話だと教わりましたから。まぁ、とにかく始めますわよ」



***



《魔女の指輪》



 あるところに1人の魔女がおりました。

 その魔女はたいへん魔法が上手く、誰にでもしたわれる人気者でした。



 ある日、魔女は道に迷った男の旅人を宿に案内しました。


 するとその旅人は笑顔で『ありがとう』と言いました。

 その笑顔を見た瞬間、魔女は初めて恋をしたのでした。


 旅人がしばらく村にいると聞き、魔女は考えました。


『どうしたら私は旅人さんにこの想いを届けられるだろう?』


 そして魔女は思いつきました。



『何か贈りものをしよう。旅人さんに喜んでもらえるような素敵な贈りものを!』



 魔女は考え、考え、ひたすら考えた末に、旅に便利な力を持った指輪を贈ることにしました。

 もちろん魔女の手作りです。


 魔女は旅人のことを想いながら心を込めて指輪を作りました。


 ひとつめは、暑いところでも涼しく感じられるようになる赤色の指輪。

 ふたつめは、寒いところでもあったかく感じられるようになる白色の指輪。


 魔女はついにその指輪を渡そうと決意しました。



 ある日、魔女が指輪を持って旅人のところに行くと、旅人は部屋で手紙を書いていました。

 旅人は手紙を書きながら嬉しそうにしたり、頭を抱えて悩んだり、何やら楽しそうな様子でした。


『誰に手紙を書いてるのですか?』


 魔女は尋ねました。


『妻と娘です。元気にしてるって教えてあげるんですよ。』


 旅人は答えました。

 その時、魔女は旅人の手に指輪が付いているのを見てしまいました。


 魔女は思いました。



『この人には大事な人がいるんだ。そんな人に指輪なんてあげられないわね。』



 魔女は旅人に別れを告げ、走って家に戻りました。

 そしてベッドに顔を伏せ、ずっと泣き続けるのでした。


 魔女の初めての恋は失恋に終わりました。

 ふたつの指輪はずっと魔女の涙で濡れ続け、赤い指輪は藍色に、白い指輪は青色になったのでした。



-おしまい-



***



「最後に余談ですが、この指輪は結局、彼女がずっと箱にしまったままだったので、能力同士が干渉しあって『どんな環境にもある程度耐えられる』という能力に変化しましたわ」


「能力が変化したのって放置したからなの!? 涙関係なくないか!?」


「いや、まぁ放置する原因となったのは彼女の失恋ですし、涙は演出上必要だったでしょう?」


「ま、まぁ悲しい話ではあったが……」



 するとノエルは「うん?」と頭を傾げる。



「そういえば、何でその指輪がセプタ王のところにあったんだ?」


「あぁ、実はこの話には裏話といいますか、続きがありまして」


「物語として語られない続きとは。気になるな」


「でしょう? なぜ語られないのかはさておき、続きをお聞かせしましょう」



***



 それから5年後、魔女は村を離れて旅をすることにしました。

 と言っても、旅人が忘れられなかったわけではなく、外の国を旅してみたいと思ったのです。


 もちろんふたつの指輪をつけて、古今東西たくさんの国でたくさんの人と出会いました。


 そして魔女は再びあの旅人と巡り合ったのです。



***



「おお! 良い話じゃないか!」


「ええ、良い話ですわね。ここまでは。ですが物語として語られない理由がこの後にあるのです」



***



 旅人は魔女のことをちゃんと覚えていました。

 不意の再開に魔女は喜ぶ気持ちが抑えられませんでした。



 しかしその日の夜、魔女が泊まっていた宿が火事になってしまったのです。


 その次の日、旅人がその宿の前を通ると、黒焦げになった遺体がいくつも運び出されているのが見えました。

 旅人はその中に、左半身だけが綺麗に残った女性と思しき遺体を見出しました。

 その左手にはふたつの綺麗な指輪が付いていたのです。


 旅人はそれが、昨日久しぶりに会った魔女のものだと気付きました。

 旅人は指輪を手に取り、悲しみながら思いました。


『かつて彼女は私を助けてくれた。でも私は何も返すことができなかった。せめて我が国で遺体を弔おう。』


 その後、旅人は国に帰り、魔女の遺体を国を挙げて葬いました。


 そして指輪はそのまま国の宝物として大事に保管されるのでした。



-おしまい-



***



「「魔女ぉぉぉぉ!!」」



 ノエルとジュンは話が終わると同時に泣き叫んだ。



「悲しすぎるだろ! 結局指輪は旅人の手に渡ったってのに、死んじまうなんて!!」


「再会の喜びを噛み締めてる最中に死ぬなんて最悪だよ! 浮かばれないよ!」


「落ち着きなさい。これが真実なんですから」



 ノエルとジュンはゼーゼーと息を切らしながら我に返った。

 ノエルは尋ねる。



「とりあえずなぜ語られないのかは分かった。だが結局、旅人は何者だったんだ?」


「あ、話してませんでしたわね。彼の正体はおばあさまに指輪を譲ったセプタ王……に後々なる、セプタの王子ですわ」


「あぁ、だから国を挙げてーだの、国で保管ーだの言ってたのか」


「あら意外。驚かないんですのね?」


「魔女が突然死んだ衝撃の方が大きすぎてな。しかも実話だって言うんだからなおさらだ」



 するとジュンがマリンに向かって手を挙げて言った。



「はいはい、質問!」


「はい、何でしょう?」


「何でそんな大事な指輪を、その旅人はおばあさまって人にあげたんだ?」


「あぁ、おばあさまはその魔女の双子の姉だったのです。だから遺品として譲ってもらったのですわ」


「確かに家族の遺品なら貰うのは当然かー。つまりその指輪は形見の形見ってことなんだな!」


「そう言われてみるとそうですわねぇ。ちなみにこの物語は、おばあさまが彼女から相談を受けた時に聞いた話が元になっているんですのよ」


「あぁ、なるほど。だからお前は知っていたわけだ」



 ノエルとジュンは納得がいったように手を叩く。

 するとその瞬間、チャイムが鳴り響いた。



「おや、もう終わってしまったか」


「あ、授業中にも関わらず関係のない話をしてしまいましたわね……」


「いや、とある神器の生まれの物語を聞けるなんて、滅多にない貴重な体験だったよ。実際今日教えることはほとんど終わってたし、いい時間潰しにもなった」


「そう言ってもらえると、おばあさまも大おばあさまもきっと喜ぶと思います」



 マリンとサフィアは少し嬉しそうな表情で指輪を見ていた。

 するとサフィアは突然我に返り、叫んだ。



「って、今回あたしの出番少なすぎません!? あたしだってノエル様の授業受けたかったのに!」


「お前に教えることなんてもうほとんどないんだけどねぇ?」


「まだ召喚魔法は教わってないです! その様子だとジュン君は召喚できたみたいですね!」


「へっ、お前なんかに召喚なんてできんのかよ!」


「できますー! チビっ子の魔法使いにできてこの天才魔女様にできないことなんてありませーん!」



 ジュンとサフィアは火花を散らしている。

 そして2人は勢いで自分の魔導書に手をかけたのだった。

 ノエルはそこに割り込んで言った。



「分かった、分かったから! ちゃんとサフィーにも近いうちに教えてやるから、喧嘩はやめろ!」


「やったぁ! ノエル様大好き! そしてジュン君、いい助力だったわ!」



 サフィアとジュンは「いぇーい!」とハイタッチをしている。

 ノエルはそれを見て、わなわなと震える。



「もしかしてアタシ……こいつらに一本取られた……?」


「ジュン君は頭が切れますわねぇ。このノエルを騙せるなんて」


「へへっ、やったぜ!」


「チッ! してやられた! ま、言ったことは守る主義だ。ちゃんと教えてやるよ」


「ありがとうございます!」



 サフィアはニヤリと笑い、ジュンと笑い合うのだった。



***



 4人が外を見るともう夕方で、ジュンが帰る時間になってしまっていた。

 ジュンは落ち込んだ表情で席から立つ。

 そしてノエルに言った。



「本当に今日で終わりなのか……?」


「あぁ、終わりさ。アタシたちは明日にはこの国を出なきゃならない」


「そうか……そうだよな。やることがあるんだもんな……」



 その瞬間、ジュンは顔をパンパンと叩き、気をつけをする。

 そして頭を下げて言った。



「1週間、ありがとうございました! 今回学んだことを活かして、立派な魔法使いになってみせます!」



 ノエルたちは突然のジュンの真面目さに気圧された。

 少しして3人はハッとし、整列して礼を返して言った。



「こちらこそ。色々と勉強になったよ」


「わたくしも。貴重な体験でしたわ」


「まあ、悪くなかったわね。召喚魔法を教えてもらうきっかけもできたし!」



 しばらくして顔を上げると、ジュンもノエルも、誰もが少し恥ずかしそうにしながら笑っているのだった。


 こうして、ノエルたちの臨時講師としての最後の1日は幕を閉じたのであった。

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