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23頁目.ノエルと目と魔法教育と……

「なるほどそれであの別館をぶっ壊して、オバケたちを捕まえて今に至る、と……」


「「「「大変申し訳ございません……」」」」



 ノエルたち3人とライジュはクロネの呼び出しを受けて学長室に来ていた。

 そしてクロネに頭を下げさせられていたのであった。



「って、何でアタシまで頭を下げなきゃいけないんだ!」


「連帯責任ってやつじゃ。今回の件についてはお前の監督不行き届きでもあるしの」


「うっ、それは確かに……」



 ノエルは言い返すことができない様子だ。

 サフィアは恐る恐るクロネに尋ねる。



「な、何か処罰とかあるんですか……?」


「いや別にないぞ? 元はと言えば、ワシがライジュについて何の説明もしてなかったせいじゃから、ワシも悪いからの」


「なるほどな。クロネさんも連帯責任に含まれるから免除にする、と」


「そういうことじゃ。ライジュの研究室は……そうじゃな、明日までに新しい場所を用意しておくよ」



 するとライジュはクロネから目を逸らしながら答える。



「あのぉ……それなんですけど……。私、ここにいるべきではないと思いまして……」


「……と言うと?」


「やはり魔導士と死霊術士(ネクロマンサー)は合わないんですよ……。せっかく拾っては貰いましたが、どこにいてもやっぱり私は後ろ指を指される立場なんです……」


「それで辞めるって?」


「私にはここで教師として教える資格なんてないんです! それに私はあの冷たい人目を避けるためにあそこで研究をしていたんですし、今となってはもう……」



 クロネはひとつ溜め息をつき、椅子から立ち上がってライジュの目の前に立った。

 そしてライジュの顔を両手で挟んで自分の方へ向け、目と目を合わせた。



「ライジュ。ワシのこの目は冷たく見えるか?」


「い、いいえ……。いつものお優しい目です……」


「こいつら3人の目はどうじゃった?」


「冷たくなかったです……」


「じゃあ、ジュン……いや、生徒たちの目は?」



 ライジュは少し目をつぶり、答えた。



「……ただ騒がしくしていただけで、優しい目でした」


「そう、お前はお前を見る目全てが冷たいと思い込んでるだけなんじゃ。確かに悪い噂を聞いた連中が、お前に酷いことを言ったことがあるかもしれぬ」



 クロネは目を合わせたままライジュの頬から手を離し、言った。



「じゃがな、お前がこの学園に来てから実際にそんな事を言われたことはあったか?」



 その瞬間、ライジュはハッとした顔をした。



「ない……です……」


「「ええっ!? ない(んです)の!?」」



 ライジュの話を聞いていたサフィアとマリンは驚いている。



「つまり、全てライジュのトラウマが引き起こした錯覚、ということじゃ。元からこの学園の連中はお前を冷たい目なんかで見とらんよ」


「そ、そんなまさか……」


「だってワシ、ちゃんとお前の事情については全校集会で話しとるし。お前はいつも欠席しているがな」


「でも職員室の先生方は何かよそよそしい感じでしたわよ?」


「それは単にみんなビビっとるだけじゃよ。()()()に」


「「「「はい……?」」」」



 4人はポカンとしている。

 するとクロネは突然昔話を始めた。



「数年前、ライジュのとある実験が失敗しての。オバケが100体ほど学内に逃げてしまったんじゃ」


「あぁ、そういえばそんなことも……」


「その日は生徒たちは授業がない日でな? 教師たちは全員仕事をしておったんじゃ」


「まさかとは思いますけどその話、怖い話だったりします? わたくしその手の話は苦手なのですけれど……」


「大丈夫じゃよ。職員室にオバケ100体が突然現れて、部屋を荒らしたりイタズラしたりしただけじゃから」


「う、うわぁ……」



 ノエルたち3人はゾッとした表情をしている。

 すると、サフィアが手を挙げて尋ねた。



「つまりオバケがトラウマになっちゃって、先生たちはその原因であるライジュさんを避け続けてる。ってことですか?」


「その通り。じゃからあの校舎には誰も近づかん。気味が悪いしオバケが出るし……なんて最悪じゃろ?」


「え、えーと……。つまりどういうことです……?」



 話がこんがらがってきたのか、ライジュはクロネに尋ねる。



「つまりお前は別にここで魔法を教えても何も言われないし、冷たい目で見られたりもしない。ライジュ、お前はここに居ていいんじゃよ」


「ほ、本当ですか? 信じていいんですね……?」


「信じられないなら、魂の盟約とかやってもいいんじゃよ?」


「い、いえいえ! 学長を縛るような真似するくらいなら信じますよ! 私、辞めたりしませんから!」


「よしよし。それに万が一にでも何かあった時は、ワシに相談してくれれば対処するしの」


「ありがとうございます……!」



 ライジュは頭を下げる。



「あと、もしあの校舎が心地良かったのなら、明日までに建て直しとくぞ?」


「えっ、そんなことできるんですか!? 願ってもない話ですけど!」


「ワシを誰だと思っとるんじゃ? 時魔法の使い手じゃぞ?」


「そういえばそうでした……。本当にありがとうございます!」



 ライジュはペコペコと頭を下げ続けた。



***



 しばらくして、クロネは4人を椅子に座らせる。

 そして紅茶を淹れて4人に振る舞ったのだった。

 クロネはノエルたちに尋ねる。



「さて、それでジュンの様子はどうじゃ?」


「真面目にやってるよ。今日は魔導書の使い方を教えてやった」


「そうかそうか。それは何よりじゃな」



 クロネは嬉しそうに笑っている。



「で? 一体、これは何のつもりだったんだ? アタシたちに魔法を教えさせるなんて」


()()じゃよ」


「改革? 何のだよ」


「この魔導士学園ウィザード・アカデミーの校則の、延いてはこの魔法の国の在り方の改革じゃよ」


「ほう……。詳しく聞かせてもらおうか?」



 クロネは紅茶をすすり、答えた。



「ここの校則には『魔導士は自らの()に合う魔法を使うべし』というのがあっての。ここで言う『自らの()』というのは()()の事なんじゃ」


「だからジュンは他のみんなと同じ授業を受けて退屈していたんだねぇ」


「そこでワシは、校則を変更することを少し前から決めておった。今の校則は、集団魔法教育についてまだ理解が深まってない時代に作ったものじゃったから、そろそろ変える頃かと思ってな」


「どんな風に変えるつもりだい?」


「ワシは先程の校則をこのように変えるつもりじゃ。『魔導士は自らの技能に応じた魔法を()()()学ぶべし』とな」



 4人はその言葉に反応し、クロネの方を向いた。

 ライジュは嬉しそうに尋ねる。



「ということはもしかして、ジュン君みたいな生徒が自分の知りたい魔法を学べるって事ですか!」


「そういうことじゃ。そしてこれにはライジュの死霊術も含むつもりなんじゃが、どうじゃ?」


「死霊術は魔法とは言えませんけど、良いんですか……?」


「魔法ってのは、原初の魔女が体系化させた不思議な術の総称じゃ。死霊術だって不思議な術であることには変わりないし、魔法に近いものと言えよう?」


「なるほど……分かりました。学長がそう仰るのであれば、この私の知恵をお使い下さい!」


「よし来た! これで新校則の制定に一歩近づいたぞ!」



 ノエルは怪訝な顔でクロネに聞く。



「そういえばこの国の在り方がどうとか言っていたのは一体……?」


「ワシはこの国の教育大臣でもあるんじゃが、王が……」


「ちょっと待て。今何て?」


「ワシ、この国の教育大臣なんじゃよ。じゃから忙しいと言っておろうが」


「そういうことは先に言ってくれよ!? それ知ってりゃ、少しは資料の量も遠慮したのに!」


「言っても少ししか遠慮せんじゃろ! それに、あの程度の資料ならもうとっくに片付けとるわ!」



 クロネは奥の机の上を指差した。

 そこにはノエルたちが持ってきた資料がきちんとまとめられた、1つのファイルと1冊の魔導書があったのだった。

 クロネはそれをノエルに渡す。



「ほれ、これが頼まれとった資料じゃ。それと魔導書も」


「おお……。読みやすくまとめられてる上に、魔導書の新しい文字の解析まで……。感謝するよクロネさん」


「なに、娘に頼まれたことをしたまでじゃ。当然のことじゃよ」


「えっ、娘……?」



 その声を上げたのはライジュだった。



「ん? お前たち、言っておらんかったのか?」


「まぁ、ノエルの話は出てきませんでしたし……」


「そういえば、確かにノエル様のこと紹介する暇もなかったね……」


「えっ……えっ……? クロネ学長の娘さん……?」



 ライジュはひたすらに戸惑っている様子だ。



「あ、あぁ。アタシはクロネさんの娘のノエルと言う。自己紹介が遅れてすまなかったな」


「た……たた、大変ご迷惑をおかけしました〜!! 特にオバケの件については感謝しかございません!」


「突然恐縮しないでくれ!? アタシとクロネさんは血の繋がりはあっても、ただの師弟関係だから!」



 ノエルはライジュをなだめる。

 すると、クロネが目を点にしてノエルに言った。



「えっ、ちょ、ノエル……? 家族って言う方が優先じゃろ……?」


「もちろん家族だけど、あんたはこの国の『魔法教育の救世主様』で、アタシはただの一介の魔女だ。母親がこうだから自分も、って訳にはいかない事情じゃないか」


「こんなに立派に育ってくれて嬉しいんじゃが、少しくらい娘っぽく振る舞ってくれてもよかろう……」


「家ならまだしも、こんな公の場で母親面されると恥ずかしいんだよ! 察してくれ!」



 マリンはニヤニヤしながらノエルをからかう。



「あ、そういうことだったんですの? 意外と可愛らしいところもあるんですのねぇ?」


「うるさい。話を戻すぞ。それで王様が何だって?」


「あぁ、そういう話じゃったな。それで、王がこの国の魔法教育についてワシに提案してきたんじゃよ」


「どんな提案だ?」


「この国を『最強の魔法国家にする』という提案じゃ。最強と言っても軍を作るためとかではなく、魔法に優れた国、という意味じゃ」


「それで優れた魔女が育ってくれればアタシ的にも助かるが……。まあ、それだけの話で本当に済むなら、ここの図書館の文献を漁る方がよっぽどマシか?」



 クロネは笑いながら言った。



「それはそうじゃな。お前たちが探している魔女たち程の技量を持つ魔女を育てるなら、間違いなく100年はかかるじゃろうしな」


「途方もない数字ですわねぇ」


「それほどまでに魔法というのは奥が深いんじゃよ。むしろ数十年でノエルやソワレほどの魔女が育ったのは奇跡とも言えるじゃろう」


「やめてくれ……。それは流石に褒めすぎだ」


「いやいや、ノエルさんの魔力量は間違いなく大陸一、二を争いますって。上級召喚魔法なんて本の中でしか使える人見たことありませんよ」


「ライジュまで! ただの鍛錬の賜物ってだけなのに!」



 クロネは何か閃いた様な顔をして言う。



「どう鍛錬すればそんなに強くなれるのなら、お前自身がアカデミーで教えれば、10年もしないうちに探してる魔女が見つかるかもしれんぞ?」


「そんなことしてるうちに魔女探しに行く方が絶対早いし正確だ。その手には乗らないぞ?」


「ちっ……良い線いったと思ったんじゃが……」


「まあつまり、自分で言うのも何だが、アタシたちみたいな強い魔女がどう教えるかを知りたかったということだな?」


「ざっくり言うとそんな感じじゃ。すまんな、知らぬ間にこの国のために働いてもらって」


「ちゃんと次の優秀な魔女の場所を教えてもらう、って契約の元だからな。それだけ守ってもらえるなら何でもするさ」



 クロネはうんうん、と頷いた。



「さて、そろそろ日も暮れてきたし宿に戻るか。ライジュはどうする?」


「私は実家通いなので」


「そうか、じゃあまたな。クロネさんも」


「えぇ、また」


「明日が最終日じゃから、終わったらここに集合するんじゃぞ〜」


「分かってる分かってる。じゃ!」


「ご機嫌よう〜」


「さようなら〜」



 そう言ってノエルたちは宿に戻るのであった。

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