20頁目.ノエルと魔導書とわ た し た ち と……
ノエルは授業を続ける。
「4限目。呪文を唱えずに魔法を発動しよう」
「え……? そんなことできるなんて聞いたことないぞ!?」
「やはりこの学園は実戦的な魔法は教えない方針なのかな。アタシみたいに戦闘特化の魔導士は皆、呪文を唱えずに魔法を発動するんだ」
「どうやってやるんだ?」
ノエルは黒板にチョークで図解を描き、説明する。
「昨日解説した呪文っていうのは、身体の中ではなく自然の魔力を操作するための言葉だ。つまり、身体の中の魔力を操作できれば言葉を発しなくても魔法は出せる。効果は少し弱まるけどね」
「でも……本当にそんなことできるのか……?」
「ふむ、見せる方が早そうだな。サフィー、よろしく」
「えっ、あたしですか!?」
サフィアは椅子から立ち上がり、やや嫌そうに声を上げる。
「アタシは形のある魔法が苦手だし、マリンは火だから危ない。サフィーなら水だから形も分かりやすいし安全だ」
「なるほど、そういうことですか。分かりました」
サフィアはしばらく目を閉じて集中し、手を机に向ける。
「はあっ!」
掛け声とともにサフィアの正面に白い竜巻が起こり、机の上に天井に届くほどの氷の柱が出現した。
ジュンは目をキラキラさせながらノエルの方を振り向く。
「な、なあ! オレにもできるのか!?」
「あぁ、できるよ。時間はかかるかもしれないけど」
「それでもいいから教えてくれ!」
「もちろん教えるとも」
***
ノエルとジュンは昨日に引き続き、練習場にやってきた。
到着するなりジュンは辺りをキョロキョロと見回す。
「なぁ、あの赤いのと青いのは?」
「あぁ、あの二人はちょっと用事があるらしい。だから今日はしばらくアタシと2人きりだ」
マリンたちは昨日の魔導書の主を探しに向かわせた。
ジュンからその教師の名前を聞いた2人は、職員室に訪ねに行ったのだった。
「まあいいや。早くやろうぜ!」
「じゃあまず大事なのは想像力だ。発動したい魔法の単語の意味を思い浮かべるもよし、魔法の名前から想像するもよし、実際見たことがあるならそれを想像するもよしだ」
「想像か……よし、じゃあ昨日教わった魔法を想像して……」
「昨日……あぁ、『樹縛鎖』か。それじゃ、自分の中の魔力と周りの魔力が一体化するような感じを想像してくれ」
「一体化……」
ジュンは目をつぶって集中する。
しばらくは何も起きなかったが、次第にジュンの周りにキラキラとした細かな光が集まってくる。
「よし、あとは発動する場所めがけて、その思い描いた力を解き放つんだ!」
「……はっ!!」
ジュンは手を前に突き出し、ノエルの足元に『樹縛鎖』を……発動できなかった。
「あ、あれ……? 出ないぞ?」
「想像力が足りなかったか、解き放つ瞬間に頭の中で考えた図が崩れたか、だね」
「くっそー、難しいな、これ!」
「これを初見でできたら拍手モノだ。それに、今回お前が使おうとした魔法をお前自身はまだ見たことがない。想像力が足りないのも当然だ」
「なら……『エル・ベース・バインド・ルート・フォン・サイト・コウル・ジュン』!」
その呪文は、昨日ノエルがジュンに渡した『樹縛鎖』のものだった。
今度はしっかりと発動し、木の根がノエルの足元に巻きつく。
ノエルは足元を黙って眺め、それから黒い炎で木の根を焼き切った。
「……ジュン、使うときは言ってくれ。少し驚いた」
「ご、ごめんなさい……」
ジュンはぺこりと頭を下げる。
「まあいい。これで実際にどんな魔法かは分かっただろう?」
「うん、思っていたよりも太い木の根だった。それと、両足じゃなくて片足だけを封じるんだな」
「そう、そうやって修正していくんだよ。あと呪文を唱えずに、とは言ったが、魔法の名前は言ってもいいぞ。むしろその方が発動しやすい」
「分かった。もう一回やってみる!」
それから何度も失敗したが、発動可能になるまでの時間はどんどん短くなっていった。
そして40回目くらいになって……。
「……『樹縛鎖』!」
ノエルの足元から木の根が出現し、足首を軽く掴んだ。
「おお、発動できたじゃないか! まぁ少々弱い拘束だったが良しとしよう」
「やったぁ!」
「ふーむ。さっきアタシが少し叱ったのが拘束の弱さの原因かもしれないな……。すまない」
「いや、あれはオレが悪かったんだし、弱いのはオレの想像力不足だ」
「ま、発動の仕方は分かったみたいで良かったよ。それじゃ、次に移ろう」
***
「5限目。魔導書を使いこなそう」
「ここまで来て魔導書? 魔導書って初心者向けのものじゃないのか?」
「じゃあ聞こう。魔導書とは?」
「魔法文字と魔法の名前が記された紙で、魔導士じゃなくても魔法を発動させることができるもの、だろ?」
「少し説明が足りないな?」
「えーと、魔法を一度発動したら紙から文字が消えて使えなくなる。あとは……あ、呪文を唱えなくてもいい!」
「その通り。言い換えるなら、さっきの呪文なし魔法の、想像力も要らない版だ。魔法の名前は必要だけどね」
ノエルは1枚の紙に5個の魔法を書き込む。
そしてそれをジュンに渡し、説明し始めた。
「何も考えずにこの魔法の名前を5回言ってみろ」
「えーと、『黒弾』、『黒弾』、『黒弾』、『黒弾』、『黒弾』……って何だこの魔法?」
するとジュンの周りに5つの黒い球体が浮かび上がる。
しばらくするとパッと弾けて消えた。
「今のは即席で作った魔法だ。黒くて浮遊して、5秒で消える球というのを想像しながら書いてみた」
「どういうことだ?」
「魔導書は書いた人によって魔法の内容が変わってくる。例えばただ何も考えずに魔法文字を書いたなら、その魔法文字の法則通りに発動する」
「うん、それは習った」
「もう一つ、魔法を想像しながら魔法文字を書いた場合、魔法文字の法則を無視できるんだ。簡単な話、創作の魔法を発動できる」
「え、何だよそれ。何でも作れるじゃん!」
「ふふ、そんなに甘くはないよ」
ノエルは再び紙に魔法を書き込み、ジュンに渡した。
「なら、また同じようにしてみてくれ」
「うん、『黒弾』、『黒弾』、『黒弾』、『黒弾』、『黒弾』」
すると再びジュンの周りに黒い球体が現れる。
しかし、一瞬で消えてしまった。
「今のは本当は5秒後に爆発する予定だった」
「ば、爆発!? 何てもん渡すんだよ!」
ジュンは白紙をノエルに押しつける。
「でも発動しなかっただろう? なぜだと思う?」
「うーん……書いた時に想像力が足りなかったとか?」
「もちろんアタシはちゃんと想像したさ。足りなかったのは『魔法文字の単語数』だ」
「え? でも想像して書いたなら、魔法文字の法則は無視できるって言ってたじゃん」
「ならさっき発動しようとしていた魔法を法則を基にして、魔法文字で表してみよう」
ノエルは紙に20単語ほどの魔法文字を書き連ねた。
「うわ……多いな……」
「頭の中で想像した魔法は、文字を書けば書くほど魔力が注がれてはっきりしたものになるんだよ。さっき書いたのはたったの4単語だったから、それが十分に反映されていなかった、というわけだ」
「じゃあでたらめに魔法文字書いてもいいのか?」
「法則無視とは言ったが、それはちゃんと書くべきだな。もし少しでも想像力が足りないまま書いてた場合、とんでもない魔法を書いてしまっているかもしれないからね」
「なるほど……。覚えとく……」
ノエルは紙をくるくると畳んでカバンに戻した。
「さて、本題はここからだ」
「えっ、今ので終わりじゃ……?」
「今までのは基礎編だ。ちゃんと最初に『使いこなそう』って言ったじゃないか」
「てっきり書く時の話かと……」
「魔導書を書いたらそれで終わりじゃないだろう? いつかは使うんだ。その効率的な使い方を教える」
ノエルはカバンから自分の魔導書を取り出し、ジュンに見せた。
「これはアタシの魔導書だ。好きに見てみな。危ないやつは入ってないから安心してくれ」
ジュンはペラペラとページをめくっていく。
しばらくめくっていったところでジュンは頭を傾げる。
「んん? これほとんど同じ魔法じゃん。しかも……束縛系の魔法ばっか」
「これを見てアタシがどういう風に戦ってると思う?」
「敵の動きを先に封じて、その後に攻撃する……?」
「その通り。束縛系だったり呪い系の魔法は戦闘中にパッと想像するのが大変だし、呪文も長い。だから先に魔導書に書いておくんだ」
「なるほど……! 確かに効率的だ!」
そしてノエルは別のページを開いて見せる。
「こっちは属性弾ばっかり。全部見たことないやつだけど」
「これは連発用の魔導書だ。魔導書の場合、魔力は書いている時に消費されているから、戦闘中に魔力不足になった時に使う」
「そうか! しかもその場で想像せずに連発できるから普段より早く撃てる!」
「そうそう、飲み込みが早いねえ。これが大体の魔導書の有効な使い方だ」
「おお、めちゃくちゃ勉強になった!」
無邪気に喜ぶジュンを見て、ノエルは考える。
「(やっぱり根は真面目な子だねぇ。さて、あいつらの方はどうなってることやら……)」
***
一方その頃、マリンとサフィアは見知らぬ館の暗い廊下を走っていた。
「ねえ、お姉ちゃん! 後ろ来てる!?」
「ええ、絶賛追いつかれる寸前ですわよ!」
後ろを振り向くと、薄ぼんやりと光る人のような形のなにかが追いかけてきているのが見える。
「ヒッ! もう何なのこいつらぁぁ!? 魔法は効かないし、なんか浮いてるし!」
「しかも、なぜか階段を何度も降りてるはずですのに、いつまで経っても下に着かないなんておかしいですわよ、この場所〜!」
『 わ た し た ち と あ そ ぼ ? 』
「ひぎゃあああ!?」
「どうしてこんなことにぃぃ!?」」




