16頁目.ノエルと反抗期と×印と……
それから6年という長いようで、魔女にとっては短い時間が過ぎた。
ノエル達3人は相変わらず魔女探しをしたり、祭りに行ったり、時には修行をしたりと、それなりに有意義な時間を過ごしていた。
魔女探しについては残念ながら協力者を見つけ出すことができなかったが、魔導書を買い取ったり、珍しい魔具を買って使ってみたりと、たくさんの経験と貯蓄を得ることができたのだった。
その中で誰よりも経験を得た人物がいた。
サフィアである。
今年で15歳になったサフィアは、水魔法と風魔法の中級魔法程度は自在に扱えるようになり、遂には上級魔法の一部を使えるほどに成長した。
さらにノエルは魔法だけではなく学問も教えていたため、サフィアはいっぱしの魔女へと成長を遂げていた。
ノエルのことを「ししょー!」と元気一杯に呼んでいた頃の面影はどこへやら、いつの間にか「ノエル様!」と呼ぶようになっていた。
とはいえ、お姉ちゃん子なのはいつも通りである。
ノエルとマリンは相変わらず喧嘩したり協力したりと仲が良い様子で、毎日魔法の研究に勤しんでいる。
新しい魔法をサフィアに教えてみたり、手合わせの時の隠し玉として使ってみたり。
とりあえずいつもと変わらず、それでいて着実に成長していく日々が流れていた。
***
ある日のこと。
西の国・セプタのある街の魔女探しを終えた3人は、その街の宿で次の目的地について話し合っていた。
「さて、随分と長い時間がかかったけど、ようやくセプタとフェブラ周辺の街の探索が終わったね」
「そんなこと言って、わたくしたちにとって6年なんて短いものじゃありませんの」
「お姉ちゃん、それあたし見て言ってる?」
マリンはぴたりと黙り込み、サフィアから目を逸らしてまた喋り始める。
「6年とはやはり長いものでしたわね〜! こんなに大きくなってもやっぱりサフィーは可愛い!」
マリンは話の勢いでそのままサフィアに抱きついた。
サフィアは途中までされるがままだったが、時間が経つにつれてマリンを剥がそうとしている。
「話が逸れてる! それとベタベタするのをやめて! 大人でしょ!」
とうとう引き剥がされ、マリンは悲しそうな目でサフィアを見つめる。
「あぁ、遂に反抗期なのですわね……。お姉ちゃんに抱きついてきたあの頃が懐かしい……」
「いやいや、ほとんどお姉ちゃんから抱きついて来た記憶しかないから! 捏造はやめて!」
「なーにバカなことやってんだい、あんたたちは」
ノエルは痺れを切らしたのか話に割り込んだ。
「はーい、あたしは何もしてませーん。ただお姉ちゃんがくっついてきたから剥がしただけでーす」
「うぅっ、どうしてサフィーはノエルには従順なんですの……? わたくし、お姉ちゃんなのに……」
「自立したい時期なんだよ、きっと。アタシもそうだったし」
マリンは一瞬ハッとし、頭を抱えた。
「ということは、いつしか『お姉ちゃんなんて嫌い!』なんて言われる日が来てしまうのでしょうか……」
「待って、ねえ、お姉ちゃん? あたし、別にそんなつもりじゃ……」
「うわぁぁぁ! ノエル〜! どうしましょう! サフィーに嫌われたりなんてしたらわたくし、わたくし〜!」
ノエルは溜息をつきながらぽんぽんとマリンの頭を撫でる。
「こりゃ相当拗らせてるねえ……。サフィー、お姉ちゃんは大事にしろよ……?」
「だから別にお姉ちゃんを嫌いになるなんてことは……。あぁ、もう面倒くさい……」
サフィアも溜息をつき、仕方なさそうにマリンに抱きついた。
「あー、お姉ちゃんゴメンねー。寂しかったよねー、大好きだよー」
「うわぁ、棒読み……。ま、こいつにとっちゃ関係なさそうだけど」
ノエルの言う通り一瞬でマリンの顔はぱあっと明るくなり、サフィアに抱きつき返すのであった。
***
それからしばらくして。
「2人とも、何の話してたか忘れてないよね? 特にお姉ちゃん」
「もちろん覚えてますわよ。次の目的地ですわね!」
マリンはドヤ顔をしながら胸を張る。
「うん、胸を張って言うほどのことじゃないぞ?」
「それで、行き先はどうしますか?」
「わたくしはサフィーの行く場所ならどこへでも!」
「お姉ちゃんは黙ってて。話が進まないから」
「ガーン!?」
マリンは先ほどのようにしょぼんと落ち込み、部屋の隅で座り込んでしまった。
「お姉ちゃんは置いといて……。そろそろどこかの王都に行く頃合いかな、とは思うんですよね」
「そうだねぇ……。とはいえ、まだ魔導書とか資料とか色々まとまってないんだよ。流石に新しい国に行くとなると情報量が溢れてしまう」
「うーん……それなら新しい国じゃなくて、既に行った国を再調査というのはどうでしょうか? それなら得られる情報量も少ないですし、まとめる時間も取れると思います」
「既に行った国、か……。とはいえセプタの魔女はお前たちの婆さんしかいなかったそうだし、ノーリスは再調査するには広すぎる。師匠のいる国は魔女なんて近寄らないだろうし、フェブラは毎年行ってるからねぇ」
ノエルは地図に書いてある国に小さく×印をつけていく。
そしてあることに気がついた。
「そういやヴァスカルにはしばらく戻ってないねぇ。優秀な魔女を集めきってから帰るつもりでいたからだけど」
「ヴァスカルというと……ノエル様の故郷ですよね? 魔導士が住人のほとんどを占める、別名・魔法の国」
「そう、魔法の国。と言っても、そのほとんどが魔法をやめて家族を持った者たちだ」
「ならヴァスカルにも戻る意味もなさそうですね〜」
サフィアは筆で×印を入れようとしたが、ノエルがそれを制止する。
「いや、戻る意味はあるかもしれない。蘇生魔法の手がかりに繋がる可能性のある人がいるからね」
「それってもしかして……ノエル様のお母様のことですか?」
「あぁ、そうだ。あの人ならこの資料もパパッと片付けられるだろうし、蘇生魔法に繋がる情報ももらえて一石二鳥だ!」
「どんな人なんです? 魔女、ってのはもちろん知ってますけど」
「一言で言うなら、家族想いの良い人だよ。ちょっと愛が強すぎる気もするけど……。ちなみに得意な魔法の系統は、特殊属性の中の『時魔法』だ」
ノエルたち3人は誰一人として特殊属性の魔法をうまく使えないため、この話はサフィアの目をキラキラと輝かせた。
「特殊属性! それも使える人が一番少ないって言われてる時魔法! あたし、会ってみたいです!」
ノエルはニヤッと笑い、地図を畳んだ。
「そうか、なら次の目的地は決まったね。おいマリン、いつまでいじけてんだい。早く行くよ!」
マリンはゆっくり立ち上がり、パパッと荷造りを終わらせた。
「さあ、早く行きますわよ! 新しい殿方を探しに……じゃなかった、ノエルのお母様の元へ!」
「いじけながらそんなこと考えてたのか、この万年独身女!」
「わたくしはちゃんといつか結婚できますー! わたくしより強いお方を婿にするんですー!」
「いやいや、お前みたいな血の気の多い女は触れただけで火傷しちまうだろ」
マリンはムッとしながらノエルに言い返す。
「あら、お先に火傷したいんですの?」
「ハッ、お前ごときの火力でアタシの炎を超えられるなんて思うなよ?」
ノエルとマリンはあと少しでぶつかりそうな距離までメンチを切り合っている。
そこに、いつものようにサフィアが割り込んだ。
「あの、喧嘩するならせめて宿から出てからにしてくれません? 今回も部屋の修理代なんて払わされたら、いくらノエル様の財布とはいえそろそろキツくありません?」
それは実に的を得た発言であった。
ノエルがルフールから貰った魔具の財布のおかげで1日に2000Gは手に入るが、そのほとんどは3人分の食費と移動代と宿賃で消えてしまっていた。
あまりの金欠に、気づけば朝起きると同時に「エイプリー・ルフール!」と叫ぶようになっていたノエルなのであった。
「わ、分かったよ。ほら、悪かったから。早く馬車乗り場に行くぞ」
「サフィーに免じて許してあげますわ。その代わり、わたくしの分の荷物も持ってくださいまし?」
「おや、それくらい自分で持てないくらい老化が進んできたのかい?」
「キーッ! わたくしがノエルより老けてるわけないでしょうがー!」
「あぁ、もう、そんなのあたしが持つから! いい加減2人とも仲良くしなさーい!」




