15頁目.ノエルと仲間とバイバイと……
ノエルにスアールの正体を隠すと決めたマリンとサフィアは、ルナリオたちと話した後、その広場でノエルの帰りを待っていた。
「思っていたよりも遅いですわねぇ。まさか空腹ではなく退屈に苦しめられるとは……」
「そんなこと言ってもしょうがないでしょ? ここに残るって決めたのはあたしたちなんだし」
「あの書類がないと、わたくしたちも城に入れないことに気づいた時は絶望でしたわねぇ……」
「あはは……。また書いてもらおうにも、もうソワレさんいなくなってたしね……」
「唯一の話し相手のルナリオさんは夕刻の屋台回しで忙しそうですし、ソワレさんは運営の方に戻られましたし……。はぁ……」
マリンは大きなため息をつく。
「だからといってノエル抜きで魔女探しをしたところで意味はないですものねぇ……」
「そういえば……何でししょーはソワレさんを先に探そうとしなかったんだろ。自分のお姉ちゃんなら他の魔女さんたちより先に候補に入ると思うんだけど」
「単純に連絡先の住所を知らなかったのか……それとも……」
「知ってるけど、見栄を張ってる……とか?」
サフィアの発言を聞いたマリンは軽く頷く。
「悪いですけれど、その答えが一番納得いきますわね……。姉に迷惑をかけたくないのか、姉の手を借りずに蘇生魔法を完成させてみせたいのか、そこまでは分かりませんが」
「帰って来たら聞いてみよっと……って、ちょうど帰ってきた! ししょー! ししょー!」
サフィアは入口でキョロキョロしているノエルに向かって、飛び跳ねながら手を振る。
ノエルは声に気づき、サフィアたちの方へと向かった。
「広場で待ち合わせとは言ったが、こんな広いなんて……。城に来てくれても良かったんだぞ?」
「その書類がないとわたくしたちは城に入れませんから。それなら城の前で待つよりも、元の合流場所で待つに越したことはないでしょう?」
「あ、確かに……。それならすまない。待たせたな」
「全然問題ありませんわよ。それで、どうでしたの?」
ノエルは首を振って答えた。
「目的の魔女には会えたが、護衛魔女として国王に仕えたいらしく、断られてしまったよ。その代わり、魔法作りの手がかりにできそうなものは見つけることができた」
マリンはソワレの昔話に出てきた魔女のことを思い出す。
「あぁ、なるほど……。あの話はそういうことだったんですのね……」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、何でもありませんわ。手がかりが見つかっただけ良しということですわね!」
ノエルはマリンに尋ねる。
「あ、そういえばお前の用は済んだのかい? 夫探しか?」
「サフィーの前でそんなことを言わないでくださいまし!? それに、用というのはルナリオさんに質問していただけですわ!」
「やっぱり夫探しじゃないのか?」
「違いますわよ!!」
「まぁ確かにルナリオの奴は家庭的な男性かもしれないが、知り合って間もないというのに……。あぁ、あれか、一目惚れってやつぁだっっっ!!!」
「話を聞きなさい!」
マリンはノエルに思いきりデコピンをしたのであった。
***
それから少しして、ノエルはサフィアの魔法で作った氷で額を冷やしながら話を続ける。
「全く……冗談だったのに……」
「冗談でも言って良いものと悪いものがありますわ。わたくしは確かに男にフラれまくりの人生でしたが、少なくともサフィーの前では夫探しなんてしませんわよ!」
「分かった、分かったよ。それなら一体何を尋ねてたんだい?」
「えっ、ええと……それは……」
マリンはノエルから目をそらす。
「おや? まさかの即・前言撤回かい?」
「い、いえ、その……」
「お、お姉ちゃんは、ルナリオさんに知っている魔女がいるかどうかを聞いてたんです!」
「もしそうだとしたら、どうして目を逸らすんだ?」
「うぐっ……。流石はししょー……」
サフィアとマリンは後ろに振り返り、こそこそと話し始める。
「(どうして目を逸らしたの、お姉ちゃん!)」
「(だ、だって、スアールさんのこととか言ったら詳しく聞かれてしまうでしょう!?)」
「(その時はその時で嘘の話を教えればよかったじゃない! どうするの!?)」
「(か、かくなる上は……)」
マリンは向き直り、目線を斜め上にしたまま言った。
「い、いやぁ……ノエルを女としてどう思うかを尋ねまして……」
「は……? なぜアタシがそこで出てくるんだ??」
ノエルは疑問というより、やや怒ったような表情をしている。
「い、いえ……。ただ、ノエルが寂しくないかなと思い、尋ねた次第でしてー……」
「あぁ、そういうことか……。残念ながらその質問にどう答えられようとも、アタシは恋なんてものはしないよ」
「(あれっ? 誤魔化せた……の?)」
「(ふぅ……間一髪でしたわ……。でも……)」
マリンはノエルに尋ねる。
「どうしてですの? 結婚というのは女性の憧れなのでは……?」
「確かに、あたしも気になります!」
「アタシは母子家庭で育ったからか知らないが、男というものにあまり興味がないんだよ。恋をしないというよりは、恋というものに全く興味がない」
「わたくしとは正反対ですわねぇ……。恋は素敵なものだというのに……」
「他人の恋は物語としては素敵かもしれない。だがアタシの物語にはそんな素敵なものなんていらない。だが……」
サフィアとマリンは首を傾げて、ノエルの言葉に耳を傾ける。
「まともな衣食住と息子、そして今は弟子と仲間さえいればそれが一番素敵だと思っているよ。気遣ってくれて、ありがとな……」
ノエルはやや照れくさそうに顔を伏せている。
「なぜこんなにひねくれているのに、言うことだけは格好いいんでしょうね……」
「あたしは一生ししょーの弟子ですからね! 寂しくないですからね!!」
「やっぱりサフィーは優しいねぇ。ありがとう」
「あなたの為ではありませんが、わたくしもいますわよ。別にあなたの為ではありませんが」
「二言ほど余計だが、感謝してるよ。ホントに憎めないヤツ……」
夜も更けてきたお祭り騒ぎの中、その中心で笑い合う魔女3人がいた。
こうして、フェブラ王都での魔女探しは一旦終わったのであった。
***
その次の日の朝。
ノエルたちは次の街へと向かう前に、ルナリオたちの元を訪問した。
「あ、マリンさんにサフィアちゃん、それにノエルさんも。おはよう! どうかしたのかい?」
「おはよう。アタシたち、今日のうちに次の街へ行こうと思っててな。お別れとお礼を言いにきた」
「祭りはまだしばらくあるってのに、もったいない……。ま、色々あるんだろうしあれこれ言うつもりはないけど! とりあえず、ばあちゃん呼んでくるよ」
ルナリオは運営のテントへ行き、スアールことソワレを呼んできた。
「あら、もう出発するの? もう少しお話したかったのに」
「すまないなスアールさん。アタシには何よりも先にやらなきゃいけないことがあるんだ」
「なるほどね……。それがあなたの見つけた何よりも大きな目標なのかしら?」
「あぁ、この目標はきっと達成してみせると決めてるんだ。何十年、何百年かかろうとも」
その真剣な眼差しを見て、ソワレは優しく微笑む。
「そう……か。それなら私も安心したわ……」
彼女の顔には安心と慈愛、そして少しの寂しさがこもっていた。
「……頑張ってちょうだいね?」
「もちろんだ。精一杯頑張るよ」
「わたくしたちもいますから、心配しなくても大丈夫ですわ!」
「その通りです! ししょーの役に立ってみせます!」
「ふふっ……良い仲間を持ったわねぇ。確かにこれなら大丈夫そう」
そんなことを話していると、ルナリオが店の奥から何かを持って出てきた。
「あぁ、よかった。間に合ったわね。はい、これ」
「これは……あの時の弁当ですわね?」
「その通り。ちょっと中身を変えちゃいるけどね」
「さっきからカチャカチャと何やってるのかと思えば……って、ここに来て10分しか経ってないよ!?」
「ふふん、これこそ俺が身につけた、高速でなおかつ料理の質を落とさない料理術……『ルナリオクッキング』さ!!」
ルナリオはかっこよくドヤ顔を決めている。
「そんなこと言いながら、今朝方みんなの賄いを3人分多く作ってたリオなのでした」
「ちょっ、ばあちゃん! ネタバレはご法度だぜ?」
「なるほどねぇ? ルナリオ、あんた良い夫になると思うよ?」
ノエルはニヤニヤしながらルナリオを茶化す。
「きっとお子さんは料理が上手いイケメンか、可憐な子か……ですわね!」
「待て待て、飛躍しすぎじゃないか!? それに、俺がモテるわけないし!」
「ルナリオさん、モテる男は皆そう言うんですよ。お姉ちゃんが言ってました」
「サフィアちゃんまで! も、もうからかうのはやめてくれ〜!」
「あ、逃げた」
ルナリオは赤面しながら店の奥へとまた戻っていくのであった。
***
それからしばらくして、ノエルたちは馬車乗り場に来ていた。
鉄道を使わない理由は、周辺の街を探索したいからである。
そこには3人と、それを見送りに来たソワレとルナリオの姿があった。
「2人とも、わざわざ見送ってくれるとは思わなかったよ」
「知り合った人を送り出すのは当然のことでしょう?」
「ばあちゃんが行くなら、俺もついていくのは当然だからな」
「ルナリオさんまで……。お店があるでしょうに……」
「俺はちゃんと店を仲間に預けてきたし、心配はいらないさ」
「ああ、そうだ、これ。渡しておくわね」
ソワレはカバンから、1冊の分厚い本を取り出す。
「これは……もしかして魔導書かい? 何でこんなものを……」
「この本は……数年前にとある魔女さんに貰ったものよ。きっとあなたの旅の役に立つと思って」
「そんな……。これ、大事なものなんじゃ?」
「良いの良いの。その人の伝言で、誰か助けたい人に渡して欲しいって」
もちろん嘘だが、その言葉はソワレ自身の本心だった。
「ならありがたくいただくよ。ちゃんと使わせてもらう」
「良かった。それならこれを書いた人もきっと喜んでいるわ」
ノエルはその魔導書を受け取り、カバンにしまった。
さぁっと風が吹き、空気が静まり返る。
そして、ノエルはゆっくりと小さく口を開いた。
「そろそろ、時間だな。どうもお世話になりました、スアールさん、ルナリオ」
「お世話になりました。また収穫祭には来ますから、その時に話の続きをしましょうね!」
「おせわになりました! スアールさん、ルナリオさん、また会う日まで!」
3人は頭を下げた。
「えぇ、また会える日を楽しみにしてるわ」
「その時はもっと美味しい料理を準備しとくよ! 楽しみにしといてくれよな!」
ソワレたちは笑顔で手を振り、送り出す。
「それじゃ、行こうか」
「ええ、そうですわね」
「うん!」
風に乗って、小さな声が流れる。
「…………バイバイ、ノエル」
ノエルは何か聞こえたような気がしてパッと振り向いた。
だが、そこには手を振るスアールとルナリオの姿があっただけだった。
***
馬車の中で、ノエルは受け取った魔導書を読んでいた。
「この魔導書……光魔法ばかりだな。それもアタシが知らない上級魔法とか新しいものまで……。んー、でもなんか筆跡に見覚えあるような……」
「知り合いの魔女さんのものじゃありませんの?」
「そうそう! ししょーのししょーさんとか、ししょーのお母さまとか!」
「うーん……まあいいか。でも、何で数年前に貰ったものを、あの時あの人は都合良く持ってたんだ……? 普通、大事なものって家に置いておくよな?」
サフィアとマリンはギクッとし、あまりその魔導書について触れないようにした。
馬車に揺られ、ノエルたちは弁当を食べながら次の街へと向かうのであった。




