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12頁目.ノエルと正体と心の内と……(スアール編)

 タタンタタン……タタンタタン……


 この列車はノーリス発フェブラ行。

 100人ほどの人を乗せ、3時間かけてレールの上を走る。


 その中に1人、思案に暮れる老婆がいた。


 名はソワレ。

 かつては魔女だったが、家庭を持ったことで魔女であることをやめた。

 見た目の若さは無くなり、そろそろ50歳になる。


 思案に暮れる理由は複雑で簡単だ。

 自分の孫が知らない女性を2人も抱えて、さらに小さな女の子まで連れ込んで来たのだから、驚かないわけがない。

 しかも、その知らない女性2人はどうやら気絶しているようだ。


 何か面倒なことに巻き込まれているのではないだろうか。

 そんなことを思いながら、ソワレは窓の外を眺めていた。



「あの〜……」



 先ほど孫が連れてきた小さな女の子が、私の顔を覗きこんできた。

 こういう幼い少女を見ると、どうしても妹のことを思い出してならない。



「あ、あぁ……どうかした? 私に何か用かしら?」



 あぁ、違う。

 流石にこの言い方は素っ気無さすぎるわ。

 用があるから声をかけたに決まってるじゃないの。



「い、いいえ! 素敵な杖ですね!」



 彼女はそう言って、私が使っている杖を指す。

 どうやら気を遣わせてしまったようだ。

 子どもに気を遣わせるというのは、些か大人として恥ずかしい気もする。



「あぁ、この杖。私のお気に入りなのよ。思い出の品ってやつね」


「だから大事に握ってるんですね!あたしにもそういうものがあればなぁ……」


「いつかきっと見つかるわよ。これだって昔から持ってるものだけど、宝物みたいに感じ始めたのは大人になってからだし」


「はぇ〜。素敵な大人の女性って憧れます!」



 さて、少しは打ち解けることができたかしら。

 そろそろ自己紹介とかしておかないと話しにくくなる気がするわね。



「リオ? あなた、この子たちに自己紹介はしたのかしら?」


「えっ、俺? まだだけど……」


「ふーん……。名前も名乗らずに女性を3人も連れ込むとは、いい度胸してるじゃない」


「ち、違うから! 事情はさっき話しただろ!?」


「それとこれとは話が別。名前を知るというのは大事なことなんだから。もし兵士に捕まったりしたら一巻の終わりよ?」


「反省します……」



 よくよく考えてみると、この女の子、おかしな点でいっぱいよね……。

 こんな知らない男の人について行くし、気絶した2人の女性を連れてるし、珍しい髪の色だし……。



「それじゃ、改めまして。俺はルナリオ。よろしくな」


「私はソワレ。よろしくね」



 私が名乗った瞬間、その少女は目を見開いた。

 私の名前が変だったのかしら。

 それとも……もしかして、私の名前を知っている……のかしら?



「え、ええと、あたしはサフィアって言います。こっちの赤い髪の方がマリンお姉ちゃんで、床で寝てる黒い髪の方はあたしの師匠のノエル様です!」


()()()…………?」



 それは私の妹の名前。

 私の大事な家族の1人の名前。

 確かに妹の髪は黒かったし、結婚してないなら44歳とはいえ30代に見えるはず。

 で、でも焦っちゃダメね。

 もしかしたら同じ名前の別人かもしれないじゃない。

 偶然にもほどがあるものね。



「そのノエルさんは何の師匠なの?」


「魔法です! 私もお姉ちゃんも師匠も魔女なんです!」



 妹は今はどうか知らないけれど、少なくとも魔女だった。

 現代の魔女の人数を考えた上で、さらに名前が被る確率となると……。

 い、いいえ、まだ分からないわ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「ま、魔女ねえ。珍しいわねぇ。こんなところで会えるなんてー」


「え、ソワレさんも魔女ですよね……?」



 マズい、バレてる。



「な、何のことかしら〜?」


「誤魔化しても無駄です! こんなあたしだって、魔力感知くらい身につけてるんですから」



 実際子どもだと思って甘く見ていた。

 やはり魔女は魔女、か。

 まして誰かの弟子になっているということは、こんな見た目でも魔法はいっぱしってことね。

 これは降参だわ……。



「ええ、あなたの言う通り、確かに私は魔女だったわ。でも昔の話よ」


「やったー! 当たったー! もしかして、とは思ったけど!」


「え……? ま、まさか魔力感知なんてしてなかったの?」


「はい! まだまだ未熟でそんなことできませんから!」



 これは一本取られたわね。

 甘く見ていたにも程があったってことかしら。

 でもそれならどうして……。



「じゃあノエルさんにいつか出来るところを見せてあげなきゃね」


「どうして()()ってつけるんですか? 姉妹なのに……」



 あぁ、そういうこと。

 やっぱりこの子は私とノエルの関係を知っているのね。

 さしずめ、ノエルが昔話でもしたのかしら。



「バレてちゃしょうがないか。ごめんなさいね、どうしてもこの姿はノエルに見られたくなくて……」


「どうしてです?」


「この子にとって私は憧れの存在だった。魔女としても女性としても、ね。あ、これは自惚れとかじゃなくて、昔にこの子の口から実際に聞いたことよ」



 そう、私はノエルの理想の姉さんじゃないといけない。

 だから魔法を捨てたなんて言えないし、ましてやこんな老いた姿なんて見せられたものじゃない。



「だから私はノエルの夢を壊さないであげたいの。きっと今でもこの子は私を追いかけてるんだろうしね……」


「ソワレさん……」



 分かってる。

 これは『逃げ』だ。

 私自身がバレるのを怖がってるだけ。

 でもこうするしか……。



「わ、分かりました! ししょーには絶対にバレないように頑張ります!」


「えっ……? いいの……?」


「はい、もちろんです!」



 正直驚いた。

 魔女とはいえ所詮は子ども。

 私の言うことなんて気にも留めないんだろうと思ってた。


 でも……この子は違うわね。

 ()()()()()()()

 昔のノエルにそっくりだわ。

 ノエルも相変わらずってことかしら。



「ふふっ……」


「あ、笑った!」


「おっ、珍しい! ばあちゃんが子供の前で笑うなんて!」


「え? 今、私笑ってた?」



 気が付かなかった。

 私はいつまで経っても妹離れできてなかったってことかしら。

 でも、きっと……この子なら私の知らないノエルを知っている。


 ()()()()

 妹が、ノエルがどんな成長をしているのか、知りたい。



「じゃあ……サフィアちゃん。私にノエルの話、聞かせてちょうだい?」


「はい! 良いですよ! じゃあまずは、あたしとししょーの出会いの物語から!」


「おっ、昔話なら俺も混ぜてくれよ!」



 こうしてサフィアちゃんは、私に私の知らないノエルのことをたくさん教えてくれた。



***



「そこで師匠が黒い魔法でですね! 敵を蹴散らしていく姿がホンットーにカッコよくて!」


「あらぁ、そうなの……? あなたにとっては素敵な師匠なのね……?」


「はいっ!」



 サフィアちゃんがそんなことを話していると、目の前で眠っていたノエルが目を覚ます。



「う、うぅん……」


「サフィアちゃん、ツレの人が起きたみたいだ!」



 そうして私はノエルと再会できた。

 まぁ私の正体を明かしてないから再会とはまた違うと思うけど、私はそれでも構わない。



「それじゃ、ばあちゃん、どうぞ」



 私はいつまでも、この子の憧れでありたいんだから。



「私の名前は……」



 そうだ、名前を誤魔化すくらいなら、王様がくれた爵位で名乗ろう。

 それなら姉としての威厳も、私の中ではきっと保たれる。



「私の名前は……スアール」



***



「とまあ、こんな感じよ」


「なるほど、理解しましたわ……。ノエルを先に行かせた甲斐があったってことですわね」



 ソワレはマリンとサフィアの前に座って話をしていた。

 少し前にマリンがスアールの正体を当てた瞬間に、ソワレ本人がちょうど帰ってきていたため、そのまま話の流れでこんな話に発展していたのであった。



「とりあえずマリンさんが話が分かる魔女さんで良かったわ。たまに話が通じない魔導士とかいるから……」


「いますわねぇ、話が通じない黒い魔女……」


「お姉ちゃん、遠回しにししょーの悪口を言わないで」



 ソワレはそのやり取りを見て笑った。



「まぁ、とにかくノエルにこのことは内緒にしていて?」


「もちろんですわ。同じ姉同士、仲良くしましょう!」



 そうして2人は固い握手をするのであった。



***



「うん……? ソワレ……? って、姉さんじゃないか! あんた、姉さんの知り合いだったのかい!?」


「もしかして……ソワレさんが仰っていた妹さんってノエルさんだったんですか!?」



 ノエルとサティーヌは互いに驚いている。



「い、一回落ち着こう。深呼吸だ」


「は、はい!」


「「すーーーはーーー……」」



 落ち着くはずもない。

 深呼吸をしたとしても、衝撃の事実には変わりがなかった。

 とはいえ、少しは気が楽になった2人であった。



「姉さん……。こんなところで活動していたんだな……。しかも魔女として……」


「はい。今はこの国の作物の管理などをなさっていて、毎年大助かりなんですよ」


「へえ……。流石は姉さん……。アタシとはやることの規模が違う」


「ふふ……。聞いてた通り、仲のいい姉妹なんですねぇ」



 そんなことを話していると、扉を叩く音が聞こえた。



「失礼します。そろそろ国王が次の会合にお出かけになりますので、サティーヌ様、ご準備を」


「はい、分かりました。というわけで、今日はここまでですね」


「そうか……。それは残念だ。もっと話したかったのに」


「またいつかきっと会えますから。その時にお話しましょう?」


「あぁ、そうだな。姉さんの話はその時に詳しく聞かせてもらうよ」



 2人は握手を交わす。



「それでは蘇生魔法の件、頑張ってくださいね!」


「あぁ、必ず完成させて息子の顔を見せに来てやるよ」



 こうしてノエルは王城を去り、マリンたちの元へと駆け戻るのであった。

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