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14頁目.ノエルと呪いと昔話と……

 ノエルは紹介状を持って城門前まで来ていた。



「ふう、やっぱり魔女の身体はずっと若いままだから運動は楽で良いな〜。さて、と」



 ノエルは先ほどもらった巻物をカバンから取り出し、門番に見せる。



「ほら、スアールさんの許可をちゃんと貰ってるぞ。これで通してくれるな?」


「……うむ、これは確かにあの方のサインだな。通っても良いぞ」


「よし、これでひとまずは前進だ。あとは魔導士がどこにいるか……」



 すると門番のもう1人が振り向いて言った。



「護衛魔導士の皆さんは国王様のお側にいますよ。そもそも2人しかいませんけどね」


「おお、情報感謝するよ。つまり玉座の間に行けば謁見できる……か。よし、行ってみるよ。ありがとう」



***



 玉座の間にて。

 ノエルは赤い絨毯の上を歩き、中程でひざまずいた。

 それからしばらくして、国王がやってくる。

 そして、玉座に座ってノエルに言った。



「面を上げよ」


「はい」



 ノエルが顔を上げると、目の前には国王、その左右に護衛魔導士と思しき男女が1人ずついるのが分かる。



「何用だ。わざわざ忙しい収穫祭の時に訪ねてくるとは」


「申し訳ありません、収穫祭だということを知らずに来たもので……。用はただ1つでございます」


「言ってみろ」


「えーと……失礼ながら、国王様の護衛魔導士に用がございまして……」


「なんだ、そういうことか。儂は魔法のことはよく分からんからなぁ。よい、2人とも下がっていいぞ」



 ノエルは慌てて制止する。



「あ、女性の方だけで構いません! 護衛が2人ともいなくなるというのは、いささか危険かと」


「む、そうか。ならば下がれ、サティーヌ」


「はっ。王の仰せのままに」


「この者たちに部屋を与えよ。2人だけで話したいことなのであろう?」


「感謝します」



 こうして、ノエルはどうにかフェブラの魔女と話し合う機会を得たのであった。



***



 応接室にて。



「ええと、サティーヌと言ったか。すまないな、仕事中だろうに」


「構いませんよ、ノエルさん。それで……用とは?」


「あぁ、ちょっと長い話になる……」



 ノエルは自分の目的について全て話した。

 何度か質問はされたものの、サティーヌは怪しむこともせずきちんと話を聞いてくれたのだった。



「蘇生魔法……ですか」


「そう、それも可能な限り安全なものだ。それを作りたくて色んな国の優秀な魔女の協力を募っている」


「私、そんなに優秀ではありませんよ? 得意なのは闇魔法の中でも呪い系くらいですし……」


「少しでも手がかりが見つかればいいんだ。何か自分しか知らなさそうなことでも、知り合いの魔女のこととかでもいい」


「あなたの中の魔力を見る限り、あなたの方が闇魔法のことは得意そうですしね……。知り合いの魔女と言われても……」



 ノエルはピクリと反応する。



「待て。今、何て言った? アタシの魔力を見たとか何とか……」


「ええ、私は魔力を目で見ることができますから……」



 ノエルは驚き、立ち上がって言った。



「い、いいや、魔力は本来、感じ取るもののはずだ。視覚的に感知できるなんて聞いたことがない! どういうことだ!?」


「昔、原初の大厄災について調べていたんですけど、それと何か関係が……?」



 ノエルはハッとして尋ねた。



「なるほど……! その時、原初の魔女・ファーリに関連する物であったり、大厄災の呪いに触れたりしたか?」


「え? ええ、大厄災の呪いの残滓を手に入れて調べていました。その時くらいでしょうか、魔力が見えるようになったのは」


「それだ! その残滓とやらはどこにある!」


「それが……それのせいで不祥事を起こしてしまったもので、その時にあの方が祓ってしまいました……」


「くうっ……。もしかしたら何か掴めると思ったのに……!」



 悔しがるノエルを見て、サティーヌは質問する。



「ところで、どうしてファーリが関わると魔力が見えるのです?」


「正しくはファーリについて魔導士が関わると、だ。ファーリというのは知っての通りアタシたちの祖先なんだが、不思議な力を持っていたらしい」


「不思議な力……ですか」


「彼女は魔法を使う時、魔導書も呪文も用いずに発動していたそうだ」


「ええっ!? どういうことです!?」


「どうやら魔法の源である魔力が見えたらしい。魔力と会話していたという話もある」


「さ、流石に私は魔力の声までは聴こえませんね……」



 ノエルは一度悩んだ。



「(魔力が見えるのは確かに特殊だが……魔法の熟練度に変化があるわけではないみたいだ。それに彼女よりアタシの方が闇魔法に特化しているという話は恐らく正しい……。うーむ……)」



 サティーヌは机の上の紅茶を手に取り、飲む。

 そしてカップを置き、膝の上に手を置き直してノエルの方を見た。



「私は()()()に人生を救われました。そしてその方の助言通り、国王の護衛魔導士となったんです」


「ほう……?」


「なので、あなたの蘇生魔法作りに興味はありますが、やはり私にはこの仕事が一番なんです。すみませんが、他を当たってくださいませんか?」


「そうか……。それがあんたの意志なら全然構わない。あんたみたいな良い魔女に会えて嬉しかったよ」


「そう言ってもらえると嬉しいです。きっと()()()も喜びます」



 ノエルは先ほどから出ている単語に引っかかる。



「そういえば、さっきから言っている『あの方』って……。一体、誰なんだい?」



***



 一方、マリンたちのいる本会場にて。



「あなたのおばあさま……スアールさんとは何者ですの?」



 マリンの質問の本来の意図、それはスアールがこの国においてどのような立場の人間かを知ることである。

 もしも王族やその末裔であれば、紹介状ひとつで国王と面会できるのは納得できる。

 しかし、それならば現在の身分に疑問が残る。


 マリンはその真相を知るためにも、ルナリオに尋ねたのだった。

 ルナリオは一度考え、そして答えた。



「ばあちゃんは昔、()()()()()らしい」



 マリンは驚く。



「……つ、続けてくださいまし!」



 ルナリオの話はこう続いた。



***



 俺が生まれるずっと昔、ばあちゃんはこの国に立ち寄った。

 当時のこの国は豊穣の国とは呼ばれてなかったらしく、むしろ飢饉に見舞われていたという。


 そんな時、ばあちゃんはある家の近くを通りがかった。

 その家も飢饉の影響で食糧が足りずに困っていたけれど、その家の主人はばあちゃんを引き止め、笑顔でこう言ったそうだ。



「お前さん、腹減ってるだろ? 良ければウチの畑で採れた野菜、食って行きなよ」



 ばあちゃんはもちろん断った。

 でも主人はどうしてもと言って聞かなかった。


 結局その受け取った野菜をばあちゃんは食べることにした。

 実際味に期待はしていなかったらしいけど、見た目は立派なものだった。


 ひと口かじった瞬間、ばあちゃんは仰天したらしい。

 飢饉に見舞われているというのに、どうしてこんなに美味しい野菜が採れているのだろう、とね。


 ばあちゃんは案内されるまま、その家の畑に行ってみた。

 すると先ほど食べたものよりかなり小ぶりのものが並んでいた。

 だがそのほとんどは呪いに侵されていたんだ。

 どうやら国中の作物の一部に、成長しない呪いが広がっていたらしい。


 つまりは逆。

 美味しい作物が採れるのに、それが呪いに侵されて食べられなくなり、飢饉に陥っていたんだ。


 ばあちゃんは魔女だったからその呪いを祓う方法を知っていた。

 とはいえ、呪いの出所が分からなければ、祓っても再発する可能性があった。

 そこで、ばあちゃんは国中の畑を巡り巡って出所を探った。


 するとその分布がフェブラ城を中心に散らばっていたことが分かった。


 そしてばあちゃんは真相にたどり着いた。

 犯人は、城で原初の大厄災について調べていた魔女だった。

 どうやら大厄災の呪いの残滓を拾って調べているうちに、その呪いが部屋から漏れ出してしまったらしい。


 ばあちゃんはその残滓を祓い、その魔女にこう言ったそうだ。



「あなた、闇魔法が得意ならいっそのこと国王の護衛魔導士になっちゃいなさいな。罪滅ぼしにもなるでしょうし、何なら呪いの魔法を人に撃ってもいい仕事よ!」



***



「うわぁ、えげつない発想をしますわねぇ……」


「あっはは、確かに。でもばあちゃんらしい発想だよ」


「うーん……。でも、その性格……わたくしの知る誰かに似ているような……」



 ルナリオは話を続ける。



***



 その後、ばあちゃんはその魔女と一緒に全ての畑の呪いを祓った。

 その年の作物のほとんどは食べられるものではなかったものの、種は無事だった。


 次の年からは豊作続きだったらしい。

 呪いのせいで作物が育たなかった分、土の栄養が残っていたみたいだね。


 それからというもの、ばあちゃんは国中から英雄……というよりは救世主として讃えられるようになりましたとさ。


 おしまい。



***



「長かったですわねぇ。良い話でしたけど……けど……」


「うん? まだ疑問が残ってそうな顔をしてるけど?」


「疑問……というより質問ですわ。どうして彼女は魔女ということをわたくしたちに隠していたんですの?」


「えっと、それは……もう魔女じゃないからっていうのと……」


「他にも理由が…………って、ん?」



 色々と思考を巡らしていたマリンの視界の端に、サフィアがルナリオに向かって何か言おうとしている姿が映る。



「……そうですわ……分かりました! スアールさんが教えてくださらなかった理由、それは……()()()ですわね?」



 ルナリオはギクッとする。



「ど、どうして分かったんだい……?」


「先ほど出たスアールさんの性格、あれはどう考えてもノエルとそっくりでしたもの。あとは、サフィーの反応というのもありますけど」


「えっ!? あたし!?」


「先ほどから……いえ、鉄道に乗っていた時から、様子がおかしかったですもの」


「あっはは……流石はお姉さんってことかな。ま、とりあえず正解だよ。ノエルさんが残る理由の全てだ」



 ルナリオは店の奥に行き、一本の杖を持ってきた。



「これは……スアールさんが身体の支えとして使っていた杖ですわね。だいぶ古いもののようですが……。って……あぁっ!!」


「どうやらあんたはノエルさんから話を聞いてたみたいだね」



 マリンはルナリオから杖を受け取り、恐る恐る杖を掲げて目をつむる。

 そしてしばらく念じて、唱えた。



「……『魔力解放(リリース)』!」



 すると杖の先に付いているくすんだ白い珠に光が灯った。



「やっぱり……そういうことでしたのね……。スアールさんの、あの人の正体は……!」



***



「分かりました。ノエルさんには教えても問題ないでしょう。あの方はこの国の魔女ではありませんが、この国にとっては重要な魔女なんです」


「なるほど、もしかしてスアールさんが言っていたもう1人の魔女がその人か……? 呪いを祓ったってことは、光魔法の使い手ということになるが……」


「ええ、その通り。あの方の名前は……ソワレさん、と言います」



***



「ソワレさん、ですわね!」

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