13頁目.ノエルと門番とグリルと……
豊穣の国・フェブラ。
この国では、春と秋に収穫祭と呼ばれる美食のお祭りが国を挙げて行われる。
もちろん食事処だけではなく、屋外にある舞台では舞踊やサーカスなどの見世物が行われたり、その周辺では食器や調理器具などを売る行商人がいたりもする。
この収穫祭は1週間、つまり7日かけて開催され、他の国の人たちはここでしか食べられないものや祭りを楽しむためだけにやってくるのであった。
***
「ノエルぅ〜! 収穫祭行きましょう〜! ねえ〜!」
フェブラに着いて列車から降りたノエルたちは、魔女を探しに王城へと向かっていた。
そんな時、ノエルの手をがっしりと握りながら、マリンは駄々をこねていた。
「さっきから何度も言ってるだろ。魔女探しが先だ」
「美味しい料理が食べられるんですわよ!? 大陸中の味が格安で!」
「お姉ちゃん、ついさっきルナリオさんの弁当食べたばっかりだよね?」
「それとこれとは話が別ですわ! 何ですか、列車の外に出てみれば辺り一面美味しそうな料理の香りって! 料理の香りだけで食欲が治まらなくなるなんて思わなかったんですのよ!」
それを聞いたノエルは痺れを切らしたのか、無言で振り返り、マリンの頬を両手で掴んだ。
「駄々をこねるのもいい加減にしろ。腹が減ったなら勝手に買ってくればいいだけだろう。アタシを巻き込むな」
「そ、そんな言い方はないでしょう! ただ祭りに行きたいと言っているだけですのに!」
「アタシは早く魔女を探し出さなきゃいけないんだ! お前のワガママについていくほど暇じゃない! 勝手に行ってこい!」
「ししょー! 落ち着いて!!」
ノエルはハッとして手を離し、振り戻って城に向かって歩き始める。
「いたたた……。なぜあんなにピリピリしているんでしょう……。何かあったのでしょうか……」
「お姉ちゃんがしつこすぎたんだと思うけど……。ししょーって短気なところあるし」
「それにしても短気すぎるような……。いつもの感じなら、適当に魔法であしらうはずなんですけれど……」
「あ、それは確かに。ということは……あぁ、なるほど……」
ノエルはスタスタと歩みを進めながら、心の中ではこんなことを考えてばかりいた。
「(収穫祭に行きたい……いや、イースを救うのが先……! でも美味しいご飯が安くで食べられるというのは魅力的……いやいや! イースを後回しにしたら一生後悔するだろ! とはいえ食べれなくて後悔するってのも……いやいやいや!)」
ノエルは鳴るお腹を抑えつつ、フェブラ城へと足を進めた。
***
それから20分後。
「よし、着いた。城の作りはヴァスカルとあまり変わらなさそうだな」
ノエルは城門前に到着した。
あとを追ってサフィアが次に着き、最後にヘロヘロになったマリンがやってきた。
「にばーん!!」
「はぁ……はぁ……。す、空きっ腹に運動は……堪えますわね……」
「全く……お前はアタシより色んなところがデカいんだから、食事くらい買ってくれば良かったのに。あんな量の弁当じゃ足りなかったんだろう?」
「……もしかしてさっき言ってたのはそういう……ことだったんですの……?」
「うん……? そうだが……何だ?」
ノエルはキョトンとしている。
マリンは呆れた顔で叫んだ。
「遠回しにもほどがありますわよ!?」
その後、とりあえず周辺で焼きそばを買ったマリンは、1分もしないうちにそれをペロリと完食した。
「やはりフェブラの料理は違いますわねぇ。特に野菜! 新鮮さはもちろんですが、ひと噛みひと噛みで深い味わいが口の中に広がって……!」
「はい、食うのはその辺にしな。城に入るぞ」
「はいはい、分かりましたわよ。入城許可は取っているんですの?」
「何を言う。つい今さっき来たばかりじゃないか。それにそんなもの、門番に言えばもらえるだろ」
***
「入城は許可できません」
「なぜだぁぁぁぁあ!?」
ノエルたちは文字通りの門前払いを食らってしまった。
「城に入るには王族の方か、この城の関係者の許可が必要なのです。無関係の方を入れるとなると、警備に支障が出ますので」
「どこぞの国の城の警備とは大違いだな……。あ、これは褒め言葉だ、気にするな」
「王族の知り合いはいないのはもちろん、城の関係者というのも知り合いにはいませんわねぇ……チラッ」
「いや、そこであたしの方を見られても困るわ? 流石にお姉ちゃんより知り合いが多いなんてことあるわけ…………あっ」
サフィアは何かを思い出したかのように2人の腕を引っ張る。
「おっとっと、どうしたんだサフィー?」
「お城の関係者なら知り合いにいるわ! もちろんししょーもお姉ちゃんも知ってる人!」
「うーん……思い当たる節はないが……」
「まさか……スアールさんとルナリオさんですの? でもあの人たちはメモラ出身ですし、ただの村人だと……」
その会話が聞こえていたのか、門番の1人が反応する。
「ん? 誰と知り合いだと……?」
「スアールさんとルナリオさんですわ。彼女たちがどうかしましたの?」
「ど、どうかしたも何も、彼女はこの国においては国王と同じくらい偉い……いや、凄い人だ。あの方がお許しなら、ここを通してやってもいいだろう」
「あの婆さん、そんなに有名な人だったのか……。ということはあの人に許可を貰えば通してくれるというわけだな?」
「そういうことだ。彼女は恐らく、収穫祭の幹部として祭りの本会場の中心で店を切り盛りしていらっしゃるだろう。毎年のことだしな」
「あら、場所まで教えてもらえるとは、ありがとうございます! また来ますわ!」
こうしてノエルたちはスアールを探しに、王都の中心部にある収穫祭の本会場へと向かった。
***
「まさか、知り合ったのがこの国で有名な人だったなんてな」
「どうしてあの方は有名なのでしょう……? それに収穫祭の幹部って……」
「あ、そういえばサフィーはどうしてスアールさんが城の関係者だって知ってたんだい?」
「えっ!? あ、そ、その……2人が寝ている間に色々お話ししてたらその話を聞いたの!」
「へえ……どんな話をしましたの? 興味がありますわ!」
「ええ!? ど、どんな話したっけな〜! さっきの話は思い出せたんだけどな〜!」
あからさまに何かを誤魔化そうとしているサフィーをジト目で見つつ、ノエルは歩みを早める。
「ま、その話はまた後で聞かせてもらうからな。今は早くスアールさんを探す時だ」
「そう言いつつ、本当は早く料理が食べたくてしょうがないんですわね? 時たま、出店の前で足が止まってますわよ?」
「そ、そんなことはない! とにかく急ぐぞ!」
「はいはい、分かってますわよ」
すると、サフィアが指をさして言った。
「ししょー! あそこに本会場って書いてある!」
ノエルたちは収穫祭の本会場にたどり着いた。
そこは収穫祭の中心地であり、料理の出店や野菜売りの露店、舞台などの様々な施設が集まっていた。
マリンはその中からルナリオを見つけ出した。
「あ、あそこ。ルナリオさんですわ!」
「本当だ。でも観光客というよりは……」
「お店の店員さん……?」
ノエルたちが近づいてみると、そこはどうやら野菜焼きの出店のようだった。
「お、いらっしゃい。ノエルさんにマリンさんにサフィアちゃん。そろそろ来る頃だと思ってたよ」
「こんな所で何をしてるんだ? 観光じゃなかったのかい?」
「あぁ、これはいつものことでね。観光に来ただけだってのに、みんな俺を見つけるなり料理を作ってくれってうるさいんだ。わざわざこんな店と食材までご丁寧に用意しやがって……」
そう言って、ルナリオは広場で酒を飲み交わす人たちを顎で指す。
「まあ、とても慕われているんですのね。確かにお弁当はとても美味しかったです」
「そう言ってもらえると光栄だよ。それで、おひとつどうです?」
マリンは看板の品書きを眺める。
「何かオススメのものは……って、ここ、他の店と比べてお肉の匂いがしませんわね?」
「あぁ、ここは野菜と茸類専門なんだ。収穫祭なんだから肉より野菜を食べるべきだと思ってね」
「なら、この『やみつきグリル』をひと……いえ、3つくださいな!」
「あいよ! 仲間思いのマリンさんには1つ分安くしといてやるよ!」
「あ、ありがとうございます!」
ノエルはサフィアにひそひそと尋ねる。
「あれって本当にアタシらの分だったのかねぇ?」
「うーん……看板の絵を見る限りかなりの量あったから、多分1人で食べるつもりではなかったと思いますけど……」
「並の焼きそばを1分で食べきる女だぞ……?意外とあれくらいいけるのかもしれないじゃないか」
「だーれが大食いですって?」
いつのまにかマリンがノエルの後ろに立っていた。
ノエルは口に手を当て、目を逸らす。
「ちゃんと聞こえてましたわよ? 今さら誤魔化しは効きませんわ」
そう言ってマリンは木皿をサフィアに渡す。
「はい、これはサフィーの分。そして残りはわたくしの分でいいんですわね?」
「わ、悪かった、悪かったから! せめてひと口だけでもいいから食べさせてくれ〜!」
マリンは一度黙りこみ、しばらくしてもう1つの木皿をノエルに渡した。
「冗談ですわよ。その代わり、あとでお金は頂きますからね」
ノエルはぱあっと笑顔になったが、一瞬で我に返り、咳き込んだ。
「分かってるって。早く食べようじゃないか!」
そう言って、ノエルたちは近くの椅子に座って手を合わせる。
「「「いただきまーす!!!」」」
「おう、召し上がれー」
「うあっちち……芋はホックホクで塩がよく効いてる……!」
「キノコも肉厚で……。タレによって色々な味が楽しめますわね!」
「野菜って苦手だったけど、これならいくらでも食べられちゃう!」
3人は店の前で『やみつきグリル』をペロリと完食してしまった。
「「「ごちそーさまでしたー!!」」」
「ああ、お粗末様でしたー。いやあ、美味しそうに食べてくれるのを見るのはやっぱり嬉しいもんだな!」
「本当に美味しかったよ。毎年来ようかな……?」
「毎年この店があるかは別として、ばあちゃんの付き添いはするだろうから、また会うかもしれないね」
「あ、そうですわ。スアールさん、どこにいらっしゃいます?」
「そうだった。ばあちゃんから言伝を頼まれてたんだった」
そう言って、ルナリオは店の奥から1枚の巻物を持ってきた。
「この書類を持っていけば城に入れるらしい。紹介状みたいなものだってさ」
「おお、手回しが早い! ありがたく受け取らせてもらうよ」
「なーに、ばあちゃんがお節介焼きなのはいつものことだから」
マリンはルナリオから巻物を受け取り、ノエルに渡す。
そして、少し怪訝な表情でノエルに言った。
「……ノエルは先に行っててくださいまし。わたくしは少し用がありますので」
「ん? そうか。サフィーはどうする?」
「あたしはお姉ちゃんと一緒にいるよ。ちょっと走り疲れちゃったし」
「分かった。それなら、終わったらこの広場で待ち合わせだな」
ノエルは城に向かって駆けていった。
***
マリンはノエルの姿が見えなくなったのを確認して、ルナリオの方を向いた。
「さて、尋ねたいことがあるんですけれど、よろしいですか?」
「あぁ、別に店も混んでないし、いいよ?」
マリンは深呼吸をし、真剣な表情でルナリオに尋ねた。
「あなたのおばあさま……スアールさんとは、何者ですの?」




