12頁目.ノエルと鉄道と弁当と……(ノエル編)
トトントトン……トトントトン……
「(ん……? なんだ、この音は……)」
ノエルは続く揺れと音で目を覚ます。
「……が……でですね…………が……て!」
「あらぁ……なの…………な……なのね……?」
重い瞼よりも先に、耳に聞こえてくる声で状況を聞き分ける。
「(この声はサフィーの……。誰と話しているんだ……?)」
瞼を動かすのと同時に、ノエルの口から声が漏れる。
「あ、サフィアちゃん、ツレの人が起きたみたいだ!」
「えっ、ホントですか!」
ノエルの耳に入ってきたのは、若い男の声。
そして、それと会話するサフィアの声だった。
「(うん……? 男の声……?)」
***
「って、男ぉ!?」
ノエルはガバッと起き上がり、辺りを見回した。
「あ、ししょー! おはようございます!」
「え? あ、あぁ、おはよう……じゃない! ここはどこ……って……」
ノエルにはここがどこなのか、全くもって分からなかった。
だが、馬車と同じように景色が流れて行く様子を見て、ここが何かしらの移動する乗り物であることは分かった。
ノエルの目の前には1人の青年と老婆、そして隣にはサフィアと、反対には自分の膝を通り越してサフィアの膝の上でいびきをかくマリンがいた。
すると、男がノエルに話しかけてくる。
「ここは列車の中ですよ、お姉さん。あんたたちが駅のホームで具合悪そうに倒れていたから、俺がここまで運んだんだ」
「ああ、それはどうも……って、ん? そんな記憶は……。まあ、いいや……。お前たちは一体……?」
「名乗るのはそっちのお姉さんが起きてからにしようと思っていたんだけどね。良い夢でも見ているのか、ずっとサフィアちゃんの膝の上で良い顔して寝てるよ」
「こいつ……アタシの膝の上で寝てるくせにふてぶてしすぎる……」
マリンはサフィアの膝を枕にして心地好さそうに爆睡していた。
ノエルはマリンの耳元にそっと近づき、言った。
「おい、早く起きないとサフィーが男に口説かれてしまうぞ」
「男ぉ!?」
「あだぁっ!?」
マリンは急いで起き上がり、その頭がノエルの鼻に当たった。
マリンは周りを見回しつつ、鼻をさするノエルに謝るのだった。
「いたた……。まあ、今回はアタシも悪いし、許してやるよ。じゃあ、気を取り直して自己紹介を……って、よく見たらノーリスで見かけた婆さんと、隣にいた青年じゃないか」
「あら、確かにそうですわね。それで、サフィーを口説こうとしていたのはこの男で間違いありませんわね?」
マリンは真顔で魔導書を開こうとする。
「お姉ちゃん、それししょーの冗談だから! この人、倒れてたお姉ちゃんたちを運んでくれたんだからね?」
マリンがノエルの方をキッと睨み付けると、ノエルは避けるように顔を背ける。
マリンはそれを見て安心し、男と老婆に丁寧に礼を言う。
「それはそれはどうも……って、なぜ倒れていたんでしたっけ……。まあいいですわ。どうやら、いつの間にか鉄道には乗れているようですし」
サフィアは何が起きても気にしない2人の性格を知ってはいたものの、ホッと胸を撫で下ろすのであった。
「じゃあ、自己紹介といきましょうかね。あぁ、あんたたちは名乗らなくてもいいよ。全部サフィアちゃんに聞いたから」
「おや、それなら話は早いってもんだね。それじゃ、よろしく」
「おう! 俺はルナリオ。ただの農民だ。こっちは俺のばあちゃんで……」
するとルナリオを老婆の手が遮った。
「リオ、私のことくらい私に喋らせてくれてもいいんじゃないかい?」
「おっと、それはゴメンよ。じゃあどうぞ、ばあちゃん」
「私の名前は……スアール。私もただの村人よ。と言っても村長なんだけど」
ルナリオは18歳。
栗色の髪で、背はやや高め。
農業をしているだけあって、健康的な体付きだ。
スアールの孫で、村長候補の1人だという。
スアールは今年で59歳になるという。
元は金髪だったようだが、半分ほど色が抜けている。
メモラにある小さな村で村長をしているという。
ノエルはルナリオに尋ねる。
「それで……この列車はどこに向かっているんだい?」
「ん? サフィアちゃん、知らずに乗せたのか?」
「お姉ちゃんたちがどこでも良いって言ってたから!」
「な、なるほど……? えーと、この列車の向かう先はな、南東の国、豊穣の国・フェブラだ!」
するとマリンがピクリと反応した。
「フェブラ……。別名・美食の都ですわね?」
「おや、マリン、知ってるのかい? その国のこと」
「えぇ、もちろんですわ。年に2回、『収穫祭』と呼ばれる、美味しいものが集まる祭典が開かれますのよ! そこに行けば各国の美味しいものが食べられるとか……!」
マリンの口からよだれが止まらない勢いで出続けている。
ノエルとサフィアは、ごくりと自分の唾を飲み込んだ。
「俺たちはその収穫祭に行ってるんだ。つまりは観光だな」
「私たちの村で育てた作物もそこで売られてるのよ。それで様子を見に行ってるってわけ」
「なるほど。フェブラには何度も行ったことあるのかい?」
「もちろん。俺は今回で10回目だけど、ばあちゃんは俺が生まれるずっと前からこの祭に行ってるらしいよ」
「ノエルさん、何か気になることでもあるのかしら? 私に答えられることなら何でも教えてあげるわよ」
ノエルは少し考えたあと、スアールに尋ねる。
「じゃあ……フェブラに魔女はいるかい?」
「あぁ、そういうこと。あなたたちが魔女だって話はサフィアちゃんから聞いてたけど、魔女探しをしているんだね。」
「その通り。それがアタシたちの旅の目的なんだ。それで……いるのかい?」
「ええ、魔女はいるわ」
「おお! やった! って、サフィー? 人にペラペラと素性を話すんじゃない。もし何かあったらどうするんだい?」
「すみませんでした……。今後は気をつけます……」
サフィアはぺこりと頭を下げた。
「まあまあ、尋ねたのは私たちの方だったんだし、許してあげなさいな。さっきの話の続きだけど、その魔女はフェブラ王の護衛をしているわ。そして、魔女は1人じゃない」
「おおっ! 何人もいるなら目的の魔女を探し出せるかもしれない!」
「やりましたわね! これで一歩前進ですわ!」
ノエルとマリンとサフィアは狭い空間ながらも手を合わせて喜ぶ。
話が終わったことを見計らったのか、ルナリオがガサゴソとカバンの中を漁り始める。
そして中から3つの箱を取り出した。
「あんたたちお腹すいてないか? 良ければ俺が予備で作っておいた弁当、食べない?」
弁当箱の中からは肉の香ばしい香りがしている。
その香りが鼻に入った瞬間、3人のお腹が同時に鳴った。
「「「食べる!!」」」
「よしきた!」
ルナリオはニコニコしながら弁当箱を配り、ノエルたちはそれを満足そうに頬張るのであった。
***
それから2時間ほどして、列車は南東の国・フェブラに到着した。
ルナリオたちは、降りると同時に荷物を担いで会場へと向かう。
「それじゃ、俺たちは会場に先に行かせてもらうよ。ごゆっくり〜!」
「またね、ノエルさん、マリンさん、サフィアちゃん」
「あぁ、また」
「ではまた、ですわ」
「ばいばーい!」
そうしてノエルたちはフェブラにて魔女探しを始めたのであった。




