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11頁目.ノエルと寿命と棺桶と……

 ノエルたちは央の国・ノーリスで魔女探しをしている最中、サフィアの姉のマリンと出会った。

 そして、マリンが旅の仲間として一緒に魔女探しを手伝ってくれることとなった。

 しかしその後、ノーリスで他の魔女を探してはみたものの、1人も見つかることはなかったのだった。



「やはり魔女ってのはそんなにいるもんじゃないねぇ……。ほとんどヴァスカルにいるって聞くが、まさかここまでとは……」


「それならヴァスカルで探せばよかったじゃありませんの。魔法の国で探す方がいいに決まっているでしょうに」


「あそこに住んでる連中は魔導士見習いか、魔導士をやめて一般人に成り下がってる連中だ。期待するだけ無駄だよ、無駄」


「確かに魔法は日頃の鍛錬がものを言いますものねぇ。とはいえ、一般の方々を見下すような発言はよして下さい。わたくし、無駄な喧嘩は好みませんの」


「無駄な喧嘩をいつも吹っかけてくる奴がよく言うよ……。まあさっきの発言は撤回しておくが」



 サフィアはニコニコしながら言った。



「2人とも仲良くなったみたいで良かった! また喧嘩でも始まるのかと思ってたから!」



 ノエルとマリンは声を合わせて「仲良くない!」と言う寸前でピタリと止まり、言葉を飲み込んだ。

 そして2人ともにこう思った。



「(ここで否定したら、サフィーが泣きながらとんでもない量の水魔法を撃ち込んでくる気がする……。危ない危ない……)」



***



 それからしばらくして、荷物をまとめた3人は宿を出て次に行く国について話し合っていた。



「次はどこの国に行こうか……」


「普通は隣の国に行くのが一番手っ取り早いんでしょうけど……」


「ここ、央の国だから他の国はどこも隣だよね」


「うーん……。また途中の町々を回るのもアリだが、せっかくマリンが加わったし、大きな国に行く方が効率はいいだろうけど……」



 そんなことを話していると、3人の目の前を1人の老婆と1人の青年が横切っていった。

 青年は大荷物を抱えており、老婆は杖をついて青年についていっている。



「ん……? 今の人たち、アタシたちが泊まっていた宿から出てきたよな……?」


「えぇ、そのようですけれど……。どうかしたんですの?」


「あんな大きな荷物抱えてるってことは、他の街に行こうとしてるってことだよな。でも馬車乗り場は真逆だぞ……?」


「あら、もしかして知りませんの? あちらの方向には鉄道乗り場があるんですわ」


「鉄道……? 聞いたことはあるが、国から国へ物資を運ぶための列車だろう? なおさら分からないんだが……」



 マリンは固まった。

 そして、しばらくしてハッとする。



「ノエル……。今の時代の列車は人も運べますのよ。しかも快適に」


「そ、そんなバカな……。馬車がこの世で最速の乗り物のはずだろう……?」


「一体、何年前の話をしてますの……。ノーリスの技師たちの力を侮ってはなりませんわよ? 今では、央の国から各国に鉄道が走っているんですから」



 ノエルは驚きと恥ずかしさが隠せないようで、頭を抱えてしゃがみこんだ。



「知らなかった……。わざわざ馬車に揺られてノロノロ移動していた自分に腹が立つよ……」


「ししょーは仕方ないです! 息子さんを育てるため、そして逃げるためにメモラに引きこもってたんですから!」


「ひ、引きこもり……」



 ノエルはガクリと落ち込む。

 サフィアはハッと口を押さえて謝る。



「あっ……ご、こめんなさい! お願いですから、そんなにしょんぼりしないでください〜!」


「はぁ……扱いが面倒くさい奴ですわねぇ……」


「お姉ちゃん、これ以上ししょーに追い打ちをかけないで」


「引きこもり……引きこもり……」



***



 それからしばらくして、ノエルの様子が落ち着いたのを確認し、マリンは言った。



「それでは、とりあえず鉄道乗り場に行きますわよ。この国からなら馬車に乗る必要はないんですから」


「あぁ、そうだな。どこに行くかはその後決めるか」


「了解です! ししょー、お荷物運びますね!」


「なら半分はわたくしが持ちますわよ、サフィー」


「悪いね、2人とも。どうも歳になると腰が……」



 ノエルは腰をさすりながらよたよたと歩く。



「やかましいですわよ。40歳超えた()()()に歳も何もないでしょうが。それに、わたくしはサフィーのために半分持ってあげただけですわ!」


「ねぇお姉ちゃん、『()()()()()』って何……?」


「え……? あぁ、ノエルはまだ教えてないんですのね。確かに子供には少々刺激が強い話ですが……」



 マリンがサフィアの顔をチラッと見ると、とてもキラキラとした目でこちらを見つめていた。



「うっ……サフィーが知りたがりなのは知っていましたけど、そんな目で見つめられると……」


「あぁもう、だから黙ってたのにお前ときたら……」


「あら、それは大変失礼しましたわ」


「仕方ない、いずれは知ることになるんだし、そろそろ教えてもいいだろう」


「やった〜!」



 無邪気に喜ぶサフィアを見ながら、マリンはため息をついて言った。



「それならわたくしが教えますわよ。家族として、姉としての責任がありますから」


「それもそうか。ならよろしく」


「任されましたわ。ええと、サフィー。今から言う話は心して聞きなさい」


「う、うん! 立派な魔女になるためなら!」



***



『若魔女』


 魔導士の血を持つ人間は普通の人間よりも寿命が長いと言われてます。

 特に魔女は普通の人間と比べて寿命が2倍近く違うのです。

 加えて、魔導士は魔力の力で若さを保つことができます。

 これによって100歳を超えたとしても、30代以前の見た目のままでいられるのですわ。


 ですが、魔女はあることをすることで寿命が普通の人間と同じくらいになり、若さを保てなくなってしまうのです。


 そのあること、とは『子供を身籠もること』。

 子供ができると、魔女の血に宿る魔力がその子供に分け与えられ、その魔女は魔力量が減ってしまうのですわ。


 つまり、若魔女というのは子供を身籠もったことのない、40代過ぎでも若さを保てている年増魔女のことを言うのですわ。



***



「……だからお母さまは魔女じゃないのね」


「まあ、それは人による。そのまま魔女を続ける奴もいれば、子供を育てるために魔法を捨てる奴もいる。アタシの母親なんて2人も産んでるのにバリバリ魔法を使っているからねぇ」



 するとノエルは何かに気づき、マリンの方へ振り向く。

 そして手に『闇黒鎖(ラヴォイドチェイン)』を纏わせて、首元に向けて構えた。



「っておい、マリン。さっきの説明、最後に一言多かった気がするんだが?」


「あまりに華麗に聞き流していたものですから、気づいてないんだと思っていましたわ……」


「ほら、何か言うことあるだろ。早くしないと鉄道に乗り損ねちまうかもしれないだろう?」


「サフィーの前なので今回は特別ですわよ。年増とか言ってすみませんでしたわ!」


「偉そうな言い方だったのでもう一回」


「はぁ!? ちゃんと謝りましたわよね!?」



 ノエルは鎖を伸ばし、マリンの体の周りを囲うように鎖を浮かせる。



「早くしないと鎖が締まっちゃうぞー」


「わ、わたくしが悪かったですわ! 悪かったので、その手を下げてくださいまし〜!」


「はい、下げた」



 ノエルが手を下げると同時に、鎖がマリンに縛り付いた。



「ぎゃ〜〜〜!!」


「あ、すまん。魔法を消して下げるつもりが、普通に鎖を引っ張ってしまった」



 ノエルは悪びれる様子もなく真顔で鎖を消す。

 マリンはフラフラと立ち上がった。



「えぇ……分かってますとも……。あなたに非がないということはよーく分かりましたとも! 『怒りの炎拳(イル・フラム)』!!」



 マリンはノエルに向かって拳を打ち込むフリをして、炎の弾を撃った。



「あっつ! 拳で殴ると見せかけて不意打ちとは……。だが火魔法はアタシも得意だ! 『火焔爪(フレイム・ダガー)』!!」



 ノエルは爪先に炎を纏わせ、マリンに向かって腕を突き出した。

 しかしその爪は当たる寸前で突然まっすぐ伸び、マリンの頬を掠めた。



「あちゃちゃ! 何で爪で刺すと見せかけて炎のナイフで斬ろうとしてるんですの! 不意打ちにもほどがありますわよ!」


「お前も似たようなことしてたじゃないか。お互い様だろう!」


「さっきのは拳で魔法を飛ばしているので名前に間違いはありませんわ!」


「アタシだって、爪から出した炎を手で握ることでナイフ状にして使うのが正しい使い方がから、間違いじゃない!」



 するとその瞬間2人は手を下ろし、魔導書を開いた。



「ちょ、ちょっと、2人ともまだ喧嘩を続ける気なの!? 早くしないと鉄道を乗り損ねちゃうよ!?」



 そのまま2人は同時にペンを取り出し、自分の魔導書に魔法文字を書き連ねていく。



「あれ……? ししょー……? お姉ちゃん……?」


「拳で魔法を飛ばすというのは新しいな……。射程が伸びるし……ブツブツ……」


「手を握ることで魔法の形状を変える……。これで新しく作れる魔法の形状に応用できるかもしれませんわね……ブツブツ……」



 それを聞いたサフィアは俯き、ボソッと風の呪文を唱える。

 そして2人に近づき、耳元で思い切り叫んだ。



「ふ! た! り! と! も! そういうのは列車の中でやって! 他人様の迷惑になっちゃうでしょ!!」



 その声を聞いた2人は突然クラっとする。



「あ……この目の前が揺れる感じは……」


「風魔法……『拡声波(のうしんとう)』……」



 2人はバタッとその場に倒れてしまった。

 サフィアが唱えた風の呪文は、声の大きさを口元で増幅し、脳を揺らす振動に変えるというものなのだった。



「こうでもしないと、あと2時間はここで魔導書書き続けちゃうだろうし……。さて、『蒼の棺桶(アクア・ベッド)』に乗せてっと……」



 サフィアは気絶した2人を魔法の水の塊の中に入れ、荷物と一緒に浮かばせて運んだ。

 そして、どうにか鉄道乗り場にたどり着いた。



「おじさん! 大人2人分と子ども1人分の切符を頂戴!」


「はいはい、どこ行きでも同じ料金だからね。全部で1500G(ゴールド)だよ」


「はい! お金!」


「はい、丁度だね。はい、切符。1人でおつかいなんて偉いねえ」


「おじさんもお疲れ様! じゃーねー!」



 サフィアは蒼の棺桶(アクア・ベッド)をうまく隠しつつ、駅のホームに辿り着いた。

 そして建物の影に隠れて2人を降ろした。



「ふう……意外と魔力使うなぁ……」



 するとサフィアの近くを、先ほど宿屋の前で見かけた青年が通り過ぎた。



「あ、すみませーん! そこのお兄さん!」


「ん……俺? お嬢さん、どうかしたのかい?」


「ちょっとお姉ちゃんたちが気分悪いらしくて……。良ければ列車の中まで運んでくれませんか?」


「あらら、大丈夫かな? 分かった、運んであげるよ。どこ行きの列車?」


「ありがとうございます! うーん……じゃあ、お兄さんの乗る列車に運んでください!」


「あいよ! 丁度俺とばあちゃんの席の正面に3人座れるから、そこに運んでやるよ!」



 こうしてノエルたちは無事(ではないが)鉄道に乗り、次の見知らぬ目的地へと向かうのであった。

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