10頁目.ノエルとマリンと魔法勝負と……
その次の日の明朝。
「ところでお前、本当に魔女なんだよな?」
「突然わたくしの泊まっている部屋に来たと思えば……。何ですか藪から棒に」
ノエルはマリンが泊まっている宿の部屋を訪問していた。
サフィアはまだ寝ている時間であるため、念のために防護の魔法をかけてきた。
「いや、蘇生魔法に興味はないかな、と」
マリンはピクッと反応した。
「今、何と言いましたの……?」
「蘇生魔法。人を蘇らせる魔法だ」
「でもあれは原初の魔女ですら作り得なかったと……」
「ほう……詳しいね?」
「あ、しまった……。で、でも、わたくしはそんな危なっかしいものになど手を出すつもりはありません!」
「大丈夫さ。危険なのを作るつもりはさらさらない。ただ、その魔法はアタシ1人じゃ作れないんだ」
「その魔法で蘇らせたい人が、あなたが守りたかった人なのですか?」
ノエルは一瞬驚くが、ため息をひとつ吐いて穏やかな表情をする。
「はぁ……。姉妹揃って鋭い奴らだ……。あぁ、そうさ。アタシの……息子だ」
「その見た目ですと……本当の息子というわけではなさそうですが……」
「アタシは確かに純潔だが、あいつのことは本当の息子だと思ってるよ」
「しょうがありませんわね、そこまで言うのなら……」
マリンはノエルの手をやや抵抗ありげに握りしめた。
「わたくしも手助けしますわよ。その魔法作り」
ノエルは口を開け、ポカンとした表情で固まっている。
「お、お前……良いのか? そんな簡単に了承して……」
「誰もタダで手伝うとは言ってませんわよ?」
マリンはすぅ、と息を吸い、真剣な表情をする。
「わたくしもあなたたちの旅に連れて行きなさい。サフィーはわたくしが守りますわ」
「はぁ? お前も修行中だろう? アタシの方が強いんだからお前の力なんて必要ないね!」
「マリンですわ」
「は?」
「わたくしの名前。お前、じゃなくてマリンと呼びなさい」
「えぇ、面倒くさい……。とにかくお前は足手まといだ、連れて行くつもりはないね」
ノエルはマリンの手を振り払った。
「だーかーらー! マリンと呼べと言っているのですわ!! それに、わたくしの強さを舐めないでくださいまし!?」
「ほう……? 言ったね? それじゃあ勝負でもするかい?」
「上等ですわ! 火力勝負ですの? それともどちらかが倒れるまでですの?」
「それなら堂々と……」
その瞬間、窓がバタッと開き声が聞こえた。
「堂々と、トランプ勝負はどうかな!?」
「「うわ(きゃ)ぁぁぁぁああ!?」」
2人の目の前に現れたのは、窓から逆さまに覗くルージェンヌであった。
「ここ3階だぞ!? どうやってここまで!?」
「それにここ、ツルツルの外壁だったような……」
「まあまあ、とりあえず入れて〜!」
マリンは窓を開け、そこからルージェンヌがくるんっと部屋に入ってきた。
***
「まず聞きますわ。どうしてわたくしの泊まっている宿と部屋を知っているのですか」
「いやぁ、カジノから出たらちょうど目の前にこの黒い魔女さんがいてね〜。もしかしてと思って尾いてきたら大正解!」
「ん? お前たち知り合いなのかい?」
「うん、そうだよ、なんてったってこのひ……」
マリンはルージェンヌの口を手で塞ぐ。
「そ、そうなのです! この街に来た時にちょっとお世話になった方なのですわー。あ、あはは……」
「ふーん? それで……魔女同士の争いにトランプ勝負ってのは……」
「昨日カジノに来た兵士さんたちに魔女のこと聞いて回ってたら、面白い話を聞いてね」
「ほう? 魔女のおもしろ話かい。それとトランプにどう関係が?」
「どうやら『魔法有りのトランプ勝負』ってのが、巷の魔女たちの間で流行ってるそうじゃない。それに非常に興味が湧いてね」
ノエルは合点のいった顔をしてる反面、マリンは首を傾げていた。
「魔法有り? それでは勝負にならないのでは?」
「いや、お互いが魔女ならいい勝負になる。どのトランプゲームをするかにもよるが……」
「ズバリ、『スピード』で勝負ってのはどうかな!?」
「「スピード……あぁ、あのサフィーが一番好きなトランプ遊び……」」
「おお、息ピッタリ! じゃあ、決まりかな?」
『スピード』とは、トランプ52枚の札を赤のカードと黒のカードの半分に分け、自分の山札として使うトランプ遊びである。
お互い向き合い、山札の一番上のカードを間に置いて台札とする。
さらにその上から4枚を取り自分の場札として相手に見えるように表にし、「スピード!」の掛け声で始まる。
2枚の台札の数字と1つ違い(例えば、Kに対してはQとAが該当する)の場札を早い者順で出し、山札が先になくなった方の勝ちである。
場札が常に4枚になるように山札から出していくため、速さを比べる勝負となっている。
「確かにこれなら……」
「魔法の強さが直接、勝負に関わりますわね……!」
「なら両者承諾ということで、準備するよー」
ルージェンヌは華麗な手さばきでカードを赤と黒に分け、両方の山札をシャッフルして、2人の目の前に置いた。
その時間、僅か5秒。
それを見ていた2人は同じことを考えていた。
「(こいつと速さで勝負したら……)」
「(多分負けますわね……これは……)」
「それじゃ、始めるよ〜! スピード!」
掛け声とともに台札がめくられ、2人の猛攻が始まった。
そう、本当の猛攻であった。
「先手必勝ですわ! 火炎纏い!!」
マリンは火をノエルの手に纏わせる。
「あっつ、あっつ! ええい、闇夜霧!!」
「ま、前が見えませんわ〜! そ、それなら、火焔纏い!!」
「うあっつ、あちちちち!! くそっ、闇黒鎖!!」
「手、手が動きませんわ〜!!」
ルージェンヌはその様子をボーッと見ていた。
「何やってるんだろ、この人たちは……。これじゃ勝負になんないね〜。まあ、仕方ないか……。魔女だもんねぇ……」
この後、結局魔法勝負になってしまったスピード対決は、騒ぎを不審に思った宿の主人に見つかったことで中止となり、3人は追い出されてしまったのであった。
***
「それで、どっちが勝ったのかな?」
「わたくしですわ!!」
「いや、アタシだね!!」
ノエルとマリンは頭をかち合わせながら睨み合っている。
そこにルージェンヌが割って入って言った。
「あー、うん、ゴメンね。実はこういうこと聞いといてなんだけど、勝負は決まってたんだよね……」
「は? それってどういう……」
「ふふーん、ですわ!」
マリンは腕を組んで胸を張る。
「実は……マリンさんが分身してさっさと勝ってたんだよ。ノエルさんの場札も使いつつ」
「熱さで手一杯だったから気がつかなかった……」
「これでわたくしがサフィーを守るに値する力を持ってる証明になりましたわね!」
「仕方ない……勝負は勝負だ。アタシの負けだよ、マリン」
ぱぁぁ、とマリンの顔が明るくなっていく。
「うんうん、やっぱり勝負は潔く負けを認めないとね〜!」
「感謝しますわ、ルーさん。これでわたくしは愛する妹をドロボーババアから守ることができま……だだだだ! 腕の関節が変な方に〜!?」
ノエルはマリンの後ろに回り込み、彼女の腕を紫色の鎖のようなもので押さえつけていた。
「あまり調子に乗るなよ……? あくまでサフィーの護衛として認めただけで、負けたつもりはさらさらないからな……!」
「ま、負けず嫌いにもほどがあるってもんですわよ〜!?」
「あとアタシがお前をマリンと呼ぶんだから、ババア呼びもやめてくれないとねぇ?」
「痛たたたた! 脅迫じみてきてますわよ!? わ、分かりました、分かりましたから離してくださいまし〜!!」
ノエルは魔法を引っ込めた。
「はぁ……はぁ……。本当に嫌な奴ですわね……!」
「本当だよ……。どうしてこんなシスコンのお調子者と一緒に旅しなきゃいけないんだか!」
「全くですわ……。やはりこんな頭のネジが飛んだ年増とサフィーを一緒に居させるのは危険ですわ!」
「「ああぁん!?」」
「あぁ……また勝負が始まりそうな雰囲気に……。魔女さんは大変だねぇ……」
ルージェンヌはやれやれ、と言いながら2人の勝負が終わるのをただ見守るのであった。
結局その後、サフィアが来て2人の喧嘩を止めるまで、勝負は続いた。
***
ルージェンヌと別れたあと、3人はノエルたちの宿へと戻った。
その後、ノエルはマリンの同行についてサフィアに話した。
サフィアは大いに喜んだため、ノエルは渋々とマリンの同行を承諾したのであった。
***
ルージェンヌはというと、その後もノーリスのカジノに出入りし、イカサマを続けるのであった。
そしてしばらくして各地にあるカジノを巡って旅をすることとなったらしいが、それはまた別のお話。
***
こうしてノエル、サフィア、マリンの三人旅はここから始まったのであった。
今回出てきたキャラクター、ルージェンヌはゆらる(@Zillah_LA)さんからお借りしました。




