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107頁目.ノエルと倉庫と立案者と……

 それから数日が経過し、ノエルの怪我はすっかり良くなった。

 その間、特に災司(ファリス)や魔物が侵攻してきたという話もなく、ノエルたちはメモラに拠点を据えるための準備を進めていたのだった。


 そんなある日、ノエルたちは拠点が整備された『魔女の墓場』に集まっていた。



「よし、これで完成ですわね」



 マリンは、その暗い空間の中に作られた木造の小屋の扉の前に、燭台を取り付けてそう言った。



「こんなに暗い空間でも、灯りがあれば意外と大丈夫なものですね。最初は怖かったけど、周りが見えるだけでこんなに安心できるとは思いませんでしたもん」


「闇の魔力も集まってるし、研究には持ってこいの場所だな。寝泊まりするには……ちょっと寒すぎるかもしれないが」


「別にここで寝泊りをしなくても、城の中に部屋を用意してもらっているでしょう? あくまで旅の拠点としてこの場をお借りしているんですから、研究や話し合いをする時だけここに来ればいいのです」


「確かにそうね。ここに泊まる気でいたけど、お城の設備を使えるなら何の心配もいらないじゃない……って、あれ? だったら、わざわざ防衛用の罠なんて仕掛けなくても良かったんじゃ?」


「無用心な場所だからね。不審者避けとして念のために張っただけさ。アタシたちと城の連中が場所を把握していれば何の問題もない。ここはあくまで()()なんだからな」


「なるほど、それもそうですね……。拠点もできたことですし、これからどうします? 旅の拠点とは言っても、どこに行くかも特に決めてませんでしたよね?」



 マリンは首を傾げてノエルに尋ねる。



「そもそもの話、わたくしたちの目的はその心臓を守ること、ですわよね? それならばこの場から動かず、敵が攻めてきたら迎撃するというだけでも問題ないんじゃありません?」


「確かに今はこの心臓を守ることが優先だが、アタシたちの目的は変わらず蘇生魔法だ。あくまでこれを守るための拠点を作ったってだけで、蘇生魔法の研究や協力者探しはまだまだ続けるつもりだからね」


「そういえば確かに、心臓のことで頭がいっぱいになってて、守ることが目的だって勘違いしちゃってた節はあるかも。あたしは旅する気満々でしたけど!」


「なるほど……。それでしたら、まだしばらくはメモラにいるということですわね」


「あぁ、そうだな」


「えっ? どこかに旅に行くんじゃないんですか?」



 ノエルはサフィアに向き直って言う。



「これまでメモラに来たことなんてなかったろう? だから、まずはメモラの中で魔女とか協力者とかを探さなきゃな」


「はっ、すっかり忘れてました! そういえばここ、来たことのない新しい国じゃないですか!」


「ふふっ。怒涛の数日間でしたから、忘れるのも無理はありませんわ。ダイヤさんの件、ノエルの家の件、ノエルの怪我の件、2匹の猫の件、そしてこの拠点の件……。ええ……本当に、本当に……大変でしたわ……」


「特に猫、だな。あいつら、アタシたちが寝てる時は静かにしてくれるからまだマシなのかもしれないが、昼間は部屋の中で暴れまくってくれるからな……」


「あ、その猫ちゃんたちのことも調べないとですよね。魔力を持ってる動物なんて、魔物とか魔導士以外に見たことありませんし」


「そういやそうだった。クロネさんに連絡したはいいが、その調査をするならアタシたちの方が適任なんだよな……。返事が来る前までには調べておくか」



 そう言って、ノエルたちはメモラの探索を始めたのだった。



***



 広大な畑や森林を有するメモラだが、もちろんそれを管理する人がその近くに村を形成して住んでいる。

 王都はその中でも、収穫した作物を保存して卸売りすることに特化した区域となっている。

 そのため倉庫が多く、王都にいるのはそこの住人と商人がほとんどである。

 王都の店では、メモラの作物以外にも豊穣の国・フェブラで採れた作物も売られており、互いに特産の作物を交換して商売が成り立っていることが見て取れる。


 ノエルたちは倉庫街を練り歩いてはみたものの、探索の手掛かりは一向に見つかる気配を見せないのだった。



「探すとしても、王都はあんまりアテにならないんじゃないですか? ずっと歩きっぱなしですけど、全く景色が変わってないですし……」


「うーん……。実は昔、この辺りも住宅街だったんだが、恐らく貿易に特化させようとして区域を作り替えたんだろうな。知らない景色だ」


「それなら早く住宅街がある場所を目指しません? 倉庫なんて見てもしょうがありませんわ」


「いや、少し興味があるからこのままぐるっと回って住宅街に行こう。思いがけない出会いがあるかもしれないしね」


「この辺りにいるのは作物を倉庫に保管しに来ている農民と、それを買う商人しかいないじゃありませんの。どんな出会いがあったとしても、わたくしたち魔女には何の関係も──」


「お? ノエルさん?」



 それは、ノエルたちの聞き覚えのある男の声だった。

 ノエルたちは声をかけられた方へと振り向く。

 そこには、定期的にフェブラの収穫祭で出会う、1人の男の姿があった。



「「えっ、ルナリオさん!?」」


「ほら、思いがけない出会いがあっただろう?」


「そ、そういえば、ルナリオさんたちってメモラに住んでいるんでしたわね。フェブラでしか会わないのですっかり忘れていましたわ……」



 ルナリオは3人に改めて挨拶をし、尋ねる。



「まさかメモラで会うなんてな! 旅の途中か?」


「まあ、そんなところだ。少しひと段落ついたから、街を探索していたのさ」


「そういや、ばあちゃんから聞いたんだけど、大魔女とかいう凄い称号をもらったんだろ? おめでとう!」


「ん? どうしてスアールさんがその話を知ってるんだ? 1面の記事になったとはいえ、魔導士以外にとってはそこまで有名な話じゃないと思ってたんだが……」



 その瞬間、ノエル以外の3人はハッとして冷や汗を流す。

 そしてそれを誤魔化そうとするかのように、ルナリオはノエルに反論した。



「い、いやあ、新聞で1面を飾ったって時点で有名だよ! 特にばあちゃんは毎日の新聞をじっくり読むし、ノエルさんの顔と名前を見つけた時はすっごく喜んでたんだから!」


「か、各地で1面を飾った顔が違うそうですし、メモラではノエルの顔だったのでしょう? でしたら、スアールさんの目に止まっても何もおかしくありませんわよ! ねえ、サフィー?」


「えっ、う、うん! って、え? もしかして、あたしの顔もセプタ中にばら撒かれたの??」


「アタシも聞いてなかったし、どうしてマリンがそんなこと知ってるんだ? まさか、お前が……?」


「い、いやぁ、やはり顔を知ってもらった方が災司(ファリス)への抑止力としての機能が働くと思いまして……。あっ、ちょっ、サフィー!? 無言で魔導書に手をかけないでくださいまし!?」


「セプタのお祭りの件もだけど、そういうことはあたしに報告してって言ったよね? 抑止力になるってのは分かるけど、どうして隠してたの??」



 そう言いながら、サフィアは空中に氷の槍を静かに形成していく。



「ちゃ、ちゃんと正当な理由があれば、報告しなくても大丈夫かと思いまして……」


「普通だったら許してたよ? でも、セプタであたしが熱狂的な人気があるらしいっていうのを知ってる上でそんなことをしたのたら、本格的に国に帰れないじゃない!」


「サフィーのことはうっかりしていて……。あ、これマズいですわ。ノエル、助けてくださいまし!」


()()()()()()()()マリンのせいだから、因果応報だな……」


「はい? どれもこれも全部……?」



 サフィアは少し考えた後、ハッとして再び無言で氷の槍の数を増やす。



「まさか、『サフィア祭』の立案者って……」


「ノエル!? なんて火種をぶちまけてくれますの!?」


「あっ、うっかり……」


「もう、ぜっっっっっったいに許さないから! お姉ちゃん最低! お姉ちゃんのバカァ!!」



 道路の真ん中で、サフィアはマリンに向けて氷の槍を連投し、マリンは必死にそれを熱で溶かしながらサフィアにひたすら謝罪をしている。

 ノエルはバツが悪そうに目を逸らし、ルナリオはそれを大笑いしながら眺めているのだった。



***



 サフィアの怒りが収まってしばらくして、ノエルはルナリオに尋ねる。



「そういや、お前はこんなところで何をしていたんだ? まあ、この辺りにいるってことはそういうことなんだろうが」


「あぁ、村の仲間と一緒に村の作物を運んできたから、それを倉庫に入れて在庫確認を終えたところだよ」


「あら、もしかしてお仕事の邪魔をしてしまいました?」


「いやいや、作業は全部終わって解散したところだったから気にしないで! この後はこのまま徒歩で帰る予定だったし」


「徒歩で? ってことは、お前たちの村はここから近いのか?」


「運動のために徒歩を選んでるから、そうだな……。大体1時間も歩けば着く距離だよ」



 そう言って、ルナリオは足元に置かれていた荷物を背負う。



「3人が良ければ、ウチの村に来るかい? ばあちゃんもきっと喜ぶと思うよ!」


「まだ昼だし……そうだな。2人がいいなら是非とも行きたい」


「どうする? お姉ちゃん」


「うーん……あー、ルナリオさんちょっと、よろしくて?」


「ん? なになに?」



 マリンはルナリオに近づき、ノエルに聞こえないようにこそこそと尋ねる。



「(ルナリオさんとソワレさんはいいとしても、他の村人の方がソワレさんを呼ぶだけでスアールさんの正体がソワレさんだとバレてしまいません?)」


「(あっ、そういやそうか……。うーん、それなら俺が先に村に入って話を伝えておくってのはどうだ?)」


「(話が伝わるのが早いのであれば問題ありませんが……)」


「(ウチの村は人口がそこまで多くないし、耳聡い連中ばっかりだ。特に変な奴もいないし、みんな話を信じてくれると思うよ)」


「(ふぅ、それなら何よりです。では、よろしくお願いしますわ)」


「(ノエルさんのため、任された!)」



 ほんの数十秒のことだったが、マリンは何事もなかったかのようにノエルに言った。



「わたくしも問題ありませんわ!」


「今、何を話していたんだ?」


「いえ、ただルナリオさんたちの村の人口を確認していただけですわ。探索にどれくらい時間を割けるのか、前もって知っておくべきでしょう?」


「なるほど、それは確かに。じゃあ2人とも問題ないってことだし、ルナリオ、案内を頼めるかい?」


「分かった。ウチの村まで徒歩にはなるけど、旅してる3人なら大丈夫かな?」


「「「大丈夫!」」」



 ルナリオに連れられ、ノエルたち3人はスアールことソワレが村長を務める村へと向かうのだった。

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