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98頁目.ノエルと合流と扉と……

 ドゴン、と重い音が禁書庫に響き渡る。

 その瞬間、壁に開いた穴からマリンがクロネたちのところへと飛び込んできたのだった。



「そちらの戦況はどうなって……。なっ!?」


「見ての通りじゃ。ジェニーは呪いの力で悪魔となった。そして、あの悪魔には基本属性の魔法しか通用せんことが分かった」


「なるほど、それでこちらと合流する必要があったわけですのね……。ですが、アレの動きを止めたところで時間稼ぎにしかなりませんわよ?」


「あっちの大男を封じさえすれば、あとはその指輪の力でどうにかできるっスよね? だからアチキたちがあっちに加勢して、パパッと終わらせて戻ってくるまでの時間稼ぎを頼みたいっス!」


「そういうことでしたら承知しましたわ、姉様。では、こちらはわたくしに任せてくださいまし!」


「そちらはよろしくお願いします、マリンさん!」



 そう話している間に、ゴーレムたちは壁を壊しきっていた。

 クロネたち3人は、瓦礫の丘を跨いでノエルたちと合流したのだった。

 しかし、ルフールだけは残ってマリンの横に並んでいる。



「……どうしてルフールさんだけこちらに残っているんですの?」


「単なる好奇心さ。どうせあっちに行ってもやることないし、せっかくならお前の本気の魔法ってのをこの目に収めておきたくてね」


「そういえば無類の魔法好きでしたわね……。防護結界があるとはいえ、わたくしの魔法に巻き込まれないように注意してくださいまし?」


「うちの弟子と違って、話が早くて助かるよ。さあ、ワタシにマリンの全身全霊をかけた魔法を存分に見せておくれよ!」



 ルフールがそう言った瞬間、マリンは手に炎を纏わせて悪魔へと立ち向かっていくのであった。



***



「ってことで、ガジョウの動きを止めにきたっス」


「お、助かるよ。イエティたちの攻撃もアタシの攻撃も、防護結界のせいで通用しなくて困ってたところだ」


「意気揚々と召喚してたってのに、あの呪いの鞭を殴り続けるしかないんだもの。おかげで攻撃の手は緩んでるけど、サフィアちゃんの魔力が少しもったいなくも感じるわね」


「まさか敵にも防護結界がかかってるなんて思ってなかったんだもん! はぁ……もう魔力は払ってるから、召喚門に戻しても意味ないしなぁ……」


「とりあえず、マリンを待たせても悪いからの。手早く終わらせるとするか」



 そう言って、クロネは魔導書を開いて呪文を唱える。

 そして、右手をガジョウに向けてかざす。



「『位置時停止グラン・エル・ストップ』!」



 その瞬間、ガジョウの動きが空中で止まった。

 が、呪いの攻撃はそのままノエルたちに襲いかかってくる。

 ノエルはそれを魔法で弾き返し、呪いの動きを警戒しながらクロネに尋ねる。



「ガジョウの動きを止めたんじゃなかったのか? それとも、呪いがあいつの意思とは別の存在だったとか……」


「それもあるかもしれないっスけど、単純にクロネさんの魔法をあの呪いが弾いてるだけだと思うっス。大厄災の呪いには特殊魔法が効かないんスよ」


「はぁ!? じゃあ、そっちはかなり苦戦したんじゃないか……?」


「ええ、だから合流したかったのです。ボクたちでは太刀打ちできませんでしたから」


「なるほどなぁ。それで……こいつはどうする? 呪いは攻撃を続けているが、どれくらいまでガジョウ本体の動きは止まるんだ?」


「持って5分じゃな。それも、この魔法の再発動にはいかんせん時間がかかってしまうから、2度目をアテにされては困るぞ」



 ノエルは少し考え、クロネに尋ねた。



「じゃあ、これで両方の呪いをマリンの指輪で祓えば問題ないってことだよな? 今なら光魔法の光量で隙を抜かれることもないだろうから」


「そういうことになろう。早くルフールたちと合流して、マリンの指輪の魔法を起動させるんじゃ!」


「サフィーとロヴィアはここから離れられないだろうし……仕方ない。アタシが行こう。サフィーは光が見え始めたらイエティたちを帰しておいてくれ。下手に暴れられても困るからな」


「分かりました!」



 ノエルは頷き、マリンたちの方へと移動した。



***



「おっ、ノエルが来たね。そっちはどうなった?」


「こっちの手筈は済んだ! あとはアタシに任せて魔法を起動してくれ!」


「わ、分かりましたわ! では、任せましたわよ!」



 マリンはノエルと場所を交代し、指輪を上に掲げて詠唱を始めた。

 その間、ジェニーに纏わり付いた悪魔はひたすらに攻撃をしてくる。

 ノエルは思いがけない連撃に少しあとずさるが、全ての攻撃を魔法でいなした。



「なるほど、こいつがジェニーってことか。うっかり身体に触れないようにしなきゃな」


「こいつ、自分が呼び出した呪いに焼かれて今は意識を失ってるんだ。だからこいつはジェニーじゃなくて、(まさ)しく悪魔と呼ぶべき存在さ」


「あぁ、そう言っても過言じゃないくらい嫌な魔力の塊だ。ジェニーが全身を包帯で覆っていた理由もこれで分かったな。アタシの中の謎がまたひとつ解けてしまったよ」


「余裕そうで何より。さて、マリンの方はどうなってるかな?」



 ルフールが後ろを振り向くと、資料庫の最奥の扉の前で手元を輝かせるマリンの姿がある。

 その魔法の発動寸前まで溜め込まれた神々しい光を目に、ルフールは恍惚な表情を浮かべる。



「これが……ワタシのまだ見ぬ魔法、原初魔法の輝かしさか……! 実に、実に美しい……!!」


「お前さては、そのためだけにこっちに残ってたな!? 他にできることくらいなかったのか?」


「空間転移、空間生成、防護結界、強化結界。前2つは壁のせいで、後ろ2つは呪いのせいで通用しない。そんな状況でどうしろっていうんだ? 他の魔法も使えなくはないが、せいぜい中級魔法程度だぞ?」


「そういえばクロネさんもエストも、特殊魔法使いは大抵基本魔法が苦手だよなぁ。まあ、それなら仕方ないか……?」



 すると、マリンは大声で叫んだ。



「皆さん、目を瞑ってくださいまし! 行きますわよ!」



 ノエルはその声に合わせてジェニー本体を魔弾で吹き飛ばし、サフィアはイエティたちを帰した召喚門の鍵を閉める。



「『天の光(ピュリフィケーション)』!!」



 指輪を中心に眩い光が部屋中を満たす。

 すると、ガジョウの魔導書から伸びていた呪いの鞭が暴れる音が消え、ジェニーを覆っている『悪魔』も苦しそうな呻き声を上げる。



「呪いが苦しむとは、おかしな話もあったもんだな。なるほど、過ぎた呪いは魔物となってしまうというわけか」


「声が聞こえるということは、まだ倒しきれていないということだ。この光が止むまで気を抜くんじゃないぞ、ノエル」


「分かってる。だが、この魔法は仮にも原初魔法だ。流石に呪いの残滓を祓いきれないなんてことは──」



 その時だった。

 軋むような唸り声を上げていたそれが、強い咆哮を上げた。

 そして、その声は凄まじい速さでノエルたちの横を掠めていった。



「アタシたちの後ろに走って……はっ!?」



 ノエルたちの前には壊れた瓦礫を挟んで、禁書庫に続く通路がある。

 このファーリの資料庫には扉がひとつしかなく、それは通路の真正面に作られていた。

 つまりノエルたちの後ろには、『ファーリの遺産』が保管されている部屋の扉があったのだった。



「マリン! そいつを止めろ!!」


「む、無理ですわ! これの発動中は魔法が……!」


「なるほど、いくら扉が魔法を無効化する素材でも、呪いの魔力には関係しないのか! ハハッ、ワタシたちはしてやられたってわけだ!」


「そんな呑気なことを言ってる場合じゃない! あと数秒で光が晴れるはずだから、突破される前に急いで奴を止めるんだ! クロネさんたちも合流してくれ!」


「分かっておる!」



 ノエルは後ろへ向き直り、魔導書を構えて光が晴れるのを待つ。

 そして間もなく、指輪から発せられた光は収まり、ノエルたちは一斉に目を開いた。



「……チッ! 扉が開いている!」


「国王の命令はあれど、このままでは遺産を守れませんわ! ノエル、ルフールさん、部屋に入りますわよ!」


「もちろんさ、言われなくても!」



***



 ノエルたち8人は急いで部屋の中へと入る。

 資料庫と同じくらいの広さのその部屋は、扉以外の四方八方が塞がれている。

 中央の階段の上にはガラスのような透明な結界に囲まれた空間があり、その中に何かが見えた。



「ノエル様、あそこです!」


「くっ、間に合わなかったか……!」



 『悪魔』は結界を破り、中央に置かれた何かに触れようとしている。



「おい、待て! それに触るんじゃない!」



 その声が聞こえたのか、『悪魔』は一瞬だけ動きをピタッと止めてノエルたちの方へと振り向く。

 しかし、そのまま向き直り中央の()()を手に取ったのだった。



「こうなったら力づくで取り返すしか──」


「……ファーリは……愚かであった」


「っ……!?」



 突然聞こえた謎の低い声に、ノエルたちは一瞬たじろぐ。

 見上げると、口を開いた『悪魔』がノエルたちに語りかけていたのだった。



「ファーリは愚かであった。ゆえに我々の意図せぬ行動をし、我々の意図せぬ結果を生み出した」


「お前は一体……何者だ?」


「我々は精霊。お前たちの言う魔力たる精霊ではなく、魔物の原点となりし精霊」



 精霊と名乗った黒い魔力はその黒い輝きを次第に強め、実体を形成していく。

 そして、それはノエルたちを睨み付けるように目を光らせて、こう言ったのだった。



「言うなれば、真の精霊である」

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