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000頁目.ファーリとプロローグとエピローグと……

 これはとても昔、この世に魔法と呼ばれるものが生まれる前の物語。

 そして、この世に魔法が生まれ、広まるまでの物語……。



***



 昔々、メモラという国にファーリという名前の少女が住んでいました。

 母親は農民、父親は王国の兵士で、何の変哲もない人間の家庭で生まれ育った、ひとりっ子の女の子でした。


 しかし、彼女は周りから『変な子供』と言われていました。

 なぜなら彼女は、みんなには見えない『精霊さん』と呼ばれる、たくさんの小さなお友達とお話しすることができたからです。

 そのせいで彼女は物心ついた頃からずっと、誰も来ない森の中、ひとりぼっちで遊んでいました。



***



 ある日、ファーリが森の中で光の精霊さんとお話をしていると、とある火の精霊さんと水の精霊さんが喧嘩を始めました。

 すると、彼女の足元がたちまちに燃え始めたかと思うと、近くにあった池の水が塊となって炎を消し去るように飛んできました。

 ファーリがその2人を諫めると、次は風の精霊さんが土の精霊さんに悪戯をし、風と土埃が吹き荒び始めました。


 その瞬間、彼女は溜息をついてこう言いました。



「光の精霊さん、お願いね」



 すると突然、天から光が降ってきました。

 その光は辺りを照らし、風の精霊さんと土の精霊さんを落ち着かせ、喧嘩をやめた2人は手を取り合いました。



「いつもなら、闇の精霊さんが悪戯してるけど、今日はみんなどうしたの?」



 精霊さんたちはファーリに話を聞いてもらいたいと、たちまちに話し始め、ファーリは混乱してしまいました。

 話をまとめると、光の精霊さんに独り占めされているのが気に食わなかったらしく、悪戯をしてしまったということでした。

 それくらい、精霊さんたちはファーリのことが大好きだったのです。



「大丈夫、私はずっとあなたたちと一緒よ。だから、あなたたちも私とずっと一緒にいてね?」



 両親以外では、精霊さんたちこそが、彼女の心の支えだったのです。

 彼女はそんな毎日がとても楽しくて、外に出かけるといつも、誰もいない森の中に行くのでした。



***



 それから十数年が経ちました。

 18歳になったファーリは、家の隣にある野菜の直売所で母親の手伝いをしていました。

 未だに精霊さんたちとは交流を続けており、精霊さんたちが使える不思議な力についても色々と見聞を深めていました。


 そんなある日、事件が起こりました。

 彼女が森で遊んでいる最中に家で火事が起き、中にいた母親がその中に閉じ込められてしまったのです。

 精霊さんからそのことを聞いたファーリは、急いで家に帰りました。



「水の精霊さん! お願い、お母さんを助けたいの!!」



 彼女は母親を助けるためにみんなの前で水の精霊さんの力を使い、無事に火事を鎮火したのでした。

 しかし、母親の救出に成功したファーリに送られたのは、賛辞ではなく、罵詈雑言の数々でした。


『気味が悪い』『化け物だ』『魔物なんじゃないのか?』


 これまで、彼女は周りからの悪口に無頓着でした。

 それは、どんな言葉を浴びせられようとも、両親が、精霊さんたちが自分を肯定してくれたからです。

 ですが、今回だけは違いました。



「は、離れなさい! この()()!!」



 それは、助けたはずの自分の母親からかけられた言葉だったのです。

 ファーリは酷く傷つきました。


 そして彼女は、涙に暮れながら家を出て行ってしまいました。



***



 家を出たファーリは、少しのお金と精霊さんたちの力を借りて、旅を始めました。

 もちろん精霊さんの力を隠しながらの旅でしたが、困っている人が自分と重なってしまい、つい精霊さんの力で人助けをしてしまう時もありました。

 ですが、助けられた人たちは皆、彼女の力を恐れ、逃げてしまうのでした。


 そんな毎日を過ごすたびに、メモラで母親からかけられた言葉を思い出し、彼女は精霊さんの力を使うことが怖くなっていくのでした。

 そして彼女はその恐るべき力に、自戒の念を込めてこう名前をつけました。



「私が『悪魔』になるための『方法』。即ち『魔法』と呼びましょう」



***



 ファーリがひとり旅を始めて数年が経過しました。

 彼女は人目につかない場所で魔法を使い、魔物退治でお金を稼いでいました。


 そんなある日のこと。

 彼女は魔物から助けたある旅人の男に、隠していた魔法を見られてしまいました。

 また怖がられてしまうことを彼女は恐れましたが、その旅人がかけた言葉はファーリの思うものとは真逆のものでした。



「その不思議な力……。とても綺麗だ……! どうやったんだ!?」



 彼女は驚きました。

 これまで恐れられてきた力を、まさか肯定してくれる人がいるとは思わなかったからです。


 その旅人はファーリの話を熱心に聞いてくれました。

 これまで誰にも信じられなかった話を、旅人は全て信じてくれました。

 そして彼はこう言いました。



「人を助けるためにその力を使っていたんだろう? だったら君は化け物なんかじゃない。立派な優しい人間だよ」



 ファーリはその言葉に救われました。

 魔女と言われる所以である自分の力を憎み、それでもその力と精霊さんにすがるしかなかった日々は、たった1人の言葉で全て覆ったのです。


 そんな彼の一言で、彼女は恋に落ちました。

 それが恋心とは気付かずとも、彼のことを好きになってしまったのです。


 彼女はその旅人の旅に付いて行くことにしました。

 精霊さんたちも、嬉しそうに旅人を迎えてくれました。

 旅人も彼女と同じように家を飛び出て旅を始めたらしく、2人は次第に仲良くなるのでした。



***



 それからさらに数年後、大陸を一周し終えた2人は結婚しました。

 メモラにある一戸建ての家を買い、夫婦仲良く暮らし、3人の子供も生まれました。


 しかし、子供たちと触れ合って間もなく、ファーリは驚きました。

 その子供たちも、彼女のように精霊さんが見えていたのです。

 ですが、ファーリは悲しみませんでした。

 子供たちが魔法が使えることで淘汰されても、夫と自分が支えられる確証があったからです。


 3人の子供たちはすくすくと成長し、精霊さんとお話しするようになりました。

 ただ、ファーリはあることに気づきました。



「この子たち……。まさか、精霊さんの色しか見えていないの……?」



 自分が見えている精霊さんと、子供たちが見えている精霊さんに明らかな違いがあったのです。

 それもそのはず。

 精霊を見るための魔力はファーリの血液に含まれており、子供たちには一部の魔力しか遺伝しなかったのです。


 また、さらに成長した子供たちは自然と魔法を使えるようになりました。

 そこで、ファーリは子供たちに危ない魔法を使わせないよう、『言葉』で魔法を制限するよう、精霊さんたちと魂の盟約を交わしたのです。

 それが今の『呪文』と『魔法文字』なのです。



***



 時は流れ、それから100年が経ちました。

 夫を早くに亡くしたファーリは魔力のおかげで若さが保たれており、子供たちやその子孫に支えられながら、日々魔法の研究をしていました。

 また、魔法の有用性が子孫たちのおかげで大陸中に広まり、様々な魔法が生まれるようになりました。

 魔法を使える自分の子孫は『魔導士』と呼ばれ、女の魔導士である『魔女』と区別するために男の魔導士を『魔法使い』と呼ぶようになったのもこの頃でした。


 しかしある時、ファーリは魔力で若さを保っていたものの、病気にかかってしまいました。

 医者に見せても治す方法は無いと言われ、彼女は自分の家で寝ているしかありませんでした。


 そして、次第に症状は重くなっていき、遂に彼女は精霊さんが見えなくなってしまいました。



「精霊さん……。どこにいるの……?」



 そうして悲しみに暮れていたある日、事件は起きたのです。

 それは、彼女の子孫の1人が自分の兄を魔法で殺した、というものでした。

 彼女は、その事件を聞き、絶望しました。


 かつて夫に『綺麗だ』と褒められた、人を助けるための魔法。

 それが時間を経て、人殺しに使われてしまった。



「『悪魔』になるための『方法』が、本当に『悪魔』を生んでしまった……。そんなもの……私が知っている魔法じゃない……! こんな魔法(もの)……あの人に見せられない……!」



 彼女は自分以外の魔法に絶望し、悲嘆し、憎悪し、そしてその感情は『呪いの魔法』を生み、それは彼女を化け物へと変化させてしまいました。



 それが、『原初の大厄災』です。



 化け物となった彼女は全ての魔法を消さんがため、メモラを中心に大陸中に呪いをばら撒き、自分の子孫を殺そうとしました。

 しかし、魔法が浸透した世の中で、それは全くもって無意味な行動でした。

 ファーリの子孫たちが魔法を使って呪いを防ぎ、ファーリを討伐しようと徒党を組んだからです。


 そして彼女が化け物となって7日後。

 子孫の魔法に負けた自身の魔法にすら絶望し、病気によって衰弱した彼女は、子孫たちの手で命を絶たれたのでした……。



***



 これが、この世に魔法が生まれ、広まり、そして原初の大厄災が引き起こされるまでの物語です。


 今、この世にある魔法が、彼女が願っているものでありますように。


 偉大なる母、ファーリの冥福を祈って。



 著者──ファーリの3人の子供たち

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