雨雲の呪い・1
この世界に魔法は無い。
人を救うべく奇跡も存在しない。
そんなものは子供騙しの絵本にしか起こり得ないと、誰もが知っている。
あるのは妬み憎しみ嫌悪から生まれた醜き呪縛。
人が人を呪うを常とした混沌の世。
報復の連鎖は止まらない。
己が重ねた業は、いつかどこからか必ずその身に返る。
皆が罪と罰に染まり、世界は暗闇となった。
けれどそれに屈せず生きる、ちっぽけで不器用で、けれど逞しい人間たちは確かに存在する。
世界が清らかで美しくない事を知っていて、それでも強かに生を歩む。
小さな宵闇の世界にやがて登る、これは太陽と月と。
その光に照らし出された、小さな星たちのものがたり。
空が茜に染まり、街の至る所に闇が伸びる。
やがてそれが辺りを包み込む頃には、窓という窓が洋燈に照らされる。
仄暗くも街は、潜んでいた賑わいを取り戻す。
見れば顔をしかめるような不衛生さも、闇に紛れれば幾らかマシに見えるものだ。
しかし街を包む汚水や残飯の悪臭は、隠しようが無い。
街が活気付けば表通りは影のある目をした老若男女がどこからともなく現れる。
盗人、乞食、浪人、娼婦、闇商人。
世慣れぬ者が迷い込めば一瞬で絡め捕られる。
ここは事実国一番に栄えた美しくて醜く、恐ろしくも魅惑的な、常闇の都。
『呪われ屋』は川沿いを歩いていた。
薄暗くなった辺りに紛れるような黒い外套をすっぽりと羽織り、目深に被った頭巾の隙間から外界に興味を宿さない冷めた琥珀色の瞳を覗かせている。
目にかかるほどの猫毛は黄金、血色のうすい白磁肌が男の危なげな色のある雰囲気を誇張している。
容貌を隠して尚醸す空気の所為だろう。傍目から、美しい男であるのがすぐに知れる。
派手に着飾った女が呪われ屋に目を留め媚びを売る。それを視線も寄越さずに無視して、呪われ屋は猫のような勝手さで先を行く。
界隈には慣れたものだ。
路上の隅に女が行き倒れていようとも、子供が大男にたかられていようとも。端を流れる運河に人の形をしたものが浮かんでていようとも、気にとめることは無い。
呪われ屋の目が捉えるのは、西の空に既に沈んだ夕陽の名残の色のくらいだろう。
呪われ屋はいつも、同じ乞食の老人が座る曲がり角を折れて、路地に入る。この角を曲がる度に、老人は必ず呪われ屋に施しを求めて手を伸ばす。呪われ屋は施しどころか視線すら寄越した事がなかった。
口を聞いたことも無いし、違いが認識し合っているかも怪しい。乞食も呪われ屋も、毎度繰り返されるこの通過儀礼に何も思っていないのかもしれない。
この街では些細な物事に意味を見出そうとする人間は、いないのだ。
人気の少ない路地を幾つか折れ曲り、抜けるとそこには小さな広場がある。広場といってもただ少し空いた空間に、ガラクタの山が積み上がってるだけだ。
目抜き通りは生業の場。他所から流れてきたものも多く、雑多な人と物の行き交いがある。比べてこの場所は少なくとも、他所者が入り込むような開けた一角ではない。
あばら屋が連なり、周辺の拠り所のある子供たちが井戸に集まり遊んでいる横を通り過ぎる。
ここでは親があるものも無いものも、身を寄せ合って生活している。大人は常に仕事に出ていて、子供の世話をする暇もないだろう。その子供たちでさえ、夜が更ければ仕事に出ていく。
靴磨きや飲食店の皿洗い、くず拾いに小間使い。盗みをする事だってある。彼らは何だってするだろう。
仕事と家族と家があるこの路地街の人間は、それでもこの街では恵まれているのだ。
子供たちは遠巻きに呪われ屋を見て、しかし警戒する事は無い。子供嫌いである事を知っている彼らは、けして呪われ屋に媚びを売ろうとはしない。
得られるものがないからだ。
やがて広場の隙間に伸びる細い路地に入り、突き当たりに現れた継ぎ接ぎだらけの扉に、呪われ屋は迷いなく入って行った。
ばたりと閉じられた扉の目線の高さには、小さな十字架が掲げられていた。
神父は顔を引きつらせていた。
懺悔室にやってきた少女が、あまりに珍妙であったからだ。
ここしばらく雨など降っていないのに、少女は雨よけの外套を着込んでいた。そして頭から足の先までを滴るほど濡らし、床に盛大な水溜りを作っている。
神父は顔を引きつらせていた。
目の前の少女が、余りに陰鬱で滑稽で厄介であったから。
「ぉ、おい!シスター」
神父は振り返って背後の部屋にいる筈の修道女を呼びつけた。
「何よ。小間使いみたいに呼びつけてんじゃないわよ」
コツコツと木床を踵で鳴らし、シスターは顔を見せた。爪ヤスリを手にしているから、爪を研いていたのだろう。シスターは暇があればいつも爪を美しく整えているのだ。
邪魔されたと言わんばかりに悪態をつくシスターは、懺悔室の簡素な木格子の奥に佇む、異様な少女にはたと目を留める。
面喰らった彼女は、手にしていた爪ヤスリを床に取り落とした。
「なに、このガキ。マヌケな呪いを連れてるわねぇ…」
シスターはおおよそ修道女と思えないような体でしなをつくり、綺麗に磨いたばかりの指先を唇に当てて件の少女をしげしげと見やった。
「そうだろう。シスター。さぁさっさと修道女らしく床を拭いてくれ」
「はぁ?うっさいわねぇエセ神父の癖に。命令してんじゃないわよ」
そうは言っても悲惨な状況に、シスターは仕方なく雑巾を取りに行く。
一枚二枚では足りなさそうだ。ボロ布をありったけ持ってこよう。
シスターは面倒だと舌打ちしながら、納屋にバケツと布を取りに行く。
「お嬢さん、お嬢さん。ええ…とても可愛らしい呪いを連れておいでで。あんたさんはここを、その…呪いの為に訪れたので?」
神父は慎重に笑顔を作って語りかける。
そもそも、木格子があるので頭の薄い神父の引きつったままの笑顔を、少女は大体でしか捉える事はできないのだが。
それは神父からしても同じであった。
目の前の少女が所在なく俯く様を、何と無く是と受け取り頷いた。
「そうですかいね。では誰かからここを聞いたんで?いやここは教会ですからね。確かな伝が無ければお祈りしてお帰り頂かなくちゃならんわけで」
神父はわけのわからない事を言って、言葉を切った。おおよそ神父とは思えぬようなベタベタの媚びの浮かぶ笑顔に、少女は困惑しているようでもある。
少し考え込んでから、少女は懐からいそいそと袋を出した。
中から小さな紙の冊子と加工された木炭を取り出して、そこに言葉を書き留める。すらすらと、それは流れる様に紡がれた。
神父は格子の間から差し出された、じわり水の滲んだそれを受け取り、目を通す。
「どれ」
神父は読み始め、眉を顰めた。
その美しい文字は、半分も神父には読むことが出来なかった。
「のろ…い……きょうかい…、あ?え、あぁ、おかね…い、…?」
神父は諳んじながら、深々と首を捻った。
やがて大量に布を持って戻ってきたシスターが、神父の様子になにを馬鹿な、と紙を取り上げる。
しかしシスターにとってもそれは見慣れないものであった。
「…のろい……を…ん?あぁ、おかね。い…こ、れ……読み辛いわね」
文字を凝視し、深々と首をかしげるシスターが読み上げられたのも、神父とさして変わり映えない。
彼らは不自由な程に字が読めない訳ではない。この街では字が読めぬものも沢山いたが、二人は困る事がない程度には読める方であった。
「なによ。あんた見慣れない文字を書くのね」
紙を片手に腰に手を当てて、シスターは形のいい鼻をふんと鳴らした。
態度はおざなりだが、シスターはとても見目麗しい。
近所ではそれこそ聖女のような清廉さを讃えると評判だ。美しいシスターを目の前に、少女はどぎまぎと目を逸らした。
「かして」
シスターは手にしていた紙が背後から伸びた手にす、と抜き取られた。
驚いて形の良い瞳をぱちぱちと瞬き振り返る。
「…呪いを解いて欲しいのです。この教会の噂を聞いて来たのですが、誰の紹介もありません。お金は今はありませんが、代わりの品をお預けします。必ずお金はお渡ししますので、どうか助けて下さい」
読み終えた手が、それを神父の頭に向かってポイ、と投げやる。
呆れ通り越して冷めた声で、君たち馬鹿なの、と誰に向けてでもなく呟かれた。それは少女を含めた全員に対しての揶揄であったかもしれない。
男は鬱陶しいと言わんばかりに、息を吐く。
「呪われ屋。丁度いい所に来たな。お前の客だがどうするんだ」
興味なさそうにそっぽを向いたかと思えば、琥珀の瞳がちらりと格子の向こうを見た。
さして表情に変化があった訳でもない。呪われ屋は面倒そうに言った。
「客間に通して。仕方ないから話を聞いてあげる」
「もう。たまったもんじゃないわ。まるでキリがない」
シスターはさくらんぼのような唇を尖らせて、雑巾を絞った。
「手だって荒れちゃうじゃない。ちょっとハゲ。見てないで代わりなさいよ」
「馬鹿言え。お前はまだしも、俺の聖職者としての綺麗な手を雑巾なんかで汚すわけにはいかんだろう」
「はっ、お前の手なんて表のドブ水より汚いのよエセ糞神父!異臭野郎!」
その可愛らしい唇から零れたとは思えないような悪態と、聖職者の風上にもおけない応酬に、呪われ屋はうんざりだとでも言うように息を吐きながら応接間のソファに掛けた。
少女の方は勧められた対面のソファには座らず、脇にちょこんと立っている。
その足元にはまたも大きな水たまりが出来ていて、先ほどからその水を吸っては絞り、吸っては絞り。益々機嫌が悪くなっていくシスターに、少女は申し訳無さそうに俯いている。
そもそもの原因は、少女が頭上に連れた偏屈な「呪い」のせいであった。
「で?その至極厄介なのは何なの」
その頭上の呪いを見遣り、呪われ屋は腕を組む。
それは彼女の頭の上だけを覆う、小さな小さな「雨雲」であった。
少女が雨よけの外套を着込んでいるのも、全身行水したようななりも、立ち止まれば床に溜まる水たまりも、全てその小さな雨雲のせいであった。
雨雲はいまも、しとしとと陰鬱な小雨を降らして止まないのだ。
少女は呪われ屋の言葉にしゅんと肩を落とす。僅かに唇をすぼめて、そこから言葉が紡がれる事は無かった。
「喋れないの?それとも喋らないの?」
呪われ屋は苛立ちに詰問する。盲声であったとしても、耳は聞こえるのは確かであった。
少女は先ほども文字を書き付けた小さな冊子に、すらすらと文字を書いて示した。
呪われ屋の代わりに神父がどれどれと覗き込む。
「私は、話すことが、できません、と」
これは神父にも読めたようだ。
先ほど通用しなかった事を受けて、少女は字体を変えたようだった。
「へぇ、あんた喋れないの?言いたいこと言えないなんて私だったら狂っちゃうわ」
よくやってられるわね。とシスターは呟きながら雑巾を運んでいる。
「ふぅん。で、『呪われ屋』の噂を聞いただけでここまで来れた事は褒めてあげるよ。そうあることじゃない。でも『呪われ屋』は気まぐれだって知ってた?金はもちろんそれなりに用意してもらうよ。けれど金さえあればいいってもんでもない」
少女はこくりと頷く。
外套の頭巾の隙間から、しっとりと濡れた灰色の髪房がこぼれ落ちる。肩でに張り付く長さのそれは、埃を被った人形の髪のような、小汚い色だった。よくよく見れば、瞳の色も灰に藻が生えたような、濁った色をしている。
少女自体がさして醜い訳ではないが、血色のない肌にくすんだ瞳や髪、じめじめと陰鬱な様は、見る者にとって好ましくはない。
「そもそも、呪いは業だよ。君に心当たりはあるの?」
少女は頷く。
全般していかにも脆弱で気の小さそうな少女であるが
、意外にも意思のある目をして呪われ屋を見る。
「で?その金の代わりの品とやらを検分させてくれる?虚言には付き合えないからね」
少女は言われて懐を探った。
首に掛けられたペンダントを手繰り寄せてそれを大切に掌に包んで呪われ屋の前までやってくる。敷かれた絨毯に新しい染みが広がって、シスターは後ろで盛大にため息を零した。
懇願の瞳で少女は少しだけ呪われ屋を見つめ、それから孵ったばかりの雛を扱うような慎重さで手の中のものを差し出した。
それは、涙型の美しい宝石であった。形の大きい滑らかな瑠璃色の玉に、金彩で意匠が彫りつけてある。
呪われ屋は眉根を顰めて、差し出す少女を見上げた。
少女は言葉ないままに、掌をもう一度差し出した。
「生まれ石、ね。…まぁ、いいよ」
呪われ屋は受け取った石を手に、目の高さまであげてそれを確かめる。
この国に古くからある習慣だ。
家に女の赤子が生まれたら首に下げる宝玉を。男の赤子が生まれたら小さな守り刀を。それぞれの家の印を彫り込んで作らせる。
物の質に差はあれど、子供の一生の幸福を願って作る最初の贈り物に、親は可能な限りの最良の品を揃える。呪われ屋へは生まれ石の刻印を見つめて、小さく顔を顰めた。
「これは預からせてもらう」
呪われ屋はそれを自らの首にかけると、少女の手にしているふやけた冊子を取り上げ、木炭で数字を書き入れる。
少女はぱっと顔をあげ、期待の籠った瞳で呪われ屋を見つめると、その顔の前に冊子が示された。
「これが契約金。期限はこれくらいあれば大丈夫でしょ」
冊子を持つ手がぱっと離され、少女は慌ててそれを受け取る。
もう一度その内容を確かめて、心を決めたように頷いた。
彼女の上にたちこめる雨雲は、殆ど小雨になった。
少女は律儀にきちんと、頭を下げる。
そうしてから何かを少し考えて、手の中の冊子に書き込もうと項を捲った。
呪われ屋は腰をあげて、少女の前まで歩み立ち止まる。
冊子に呪われ屋の影が落ちて、視線を落としていた少女はふと顔を上げた。
「面倒だから、さっさと終わらせるよ」
ソファに座していた神父も、床を懸命に拭き取っているシスターも、呪われ屋と少女に注視した。
「なぁに、話纏まったの。早くそれを解いちゃってよ」
拭き掃除をいったんやめて、シスターは床に座って頬杖する。
呪われ屋は雨雲に手を入れて、少女の頭巾をずり下ろした。
それを目の端で追った少女は、次に呪われ屋の瞳を覗き込んで不思議そうに首を傾げる。
手が濡れることになった呪われ屋は盛大に顔を顰め、それから少しだけ屈んだ。
「ふぅん。ただの灰かと思ってたけど」
見開かれた瞳を覗き込んで。
呪われ屋は呟くとそのまま、少女の頬を伝った指で顎を少し上げ。
少しの迷いもなく、唇を寄せたのだ。
「………」
「………」
部屋は沈黙に満ちる。
シスターも神父も、口を開けたまま間抜けな顔でそれを見ていた。
勿論少女が声を上げることはない。
部屋に響いたのは、何かを殴りつけるような『バシッ』という音だけ。
「……ねえ。物凄く納得いかないんだけど」
「……」
少女は驚きで目を丸め、ぽかんと呪われ屋の顔を見つめていた。
動いたのは手だ。反射といっていい。
「なに、これ」
すこぶる不機嫌に、呪われ屋は頬に押し付けられた冊子を、彼女の手首ごと退かした。
口付けの寸手で、少女は手にしていたもので呪われ屋の顔を遠ざけたのだ。
少女は我に帰り、血の気の引いた顔で慌ててその手を胸の前にしまい込んだ。
ふるふると首を横に振ってから、少女は必死の形相で冊子に文字を書き連ねた。
神父が何事かとそれを覗く。
「私では、なく」
少女は一度それを示してから、またすぐに書き始める。
「兄の呪い、を解いて、ほしいのです」
「…は?」
読み上げた神父の言葉を聞いて、その場に居た三人は、それぞれに同じタイミングで声を上げた。
これ程までに珍妙な呪いを連れて、それを解こうとしないなど。
何を言い出すのかと。
そして兄とは。
「君の兄とやらも、呪いを負っているって事?」
呪われ屋の訝しげな声に、少女は深々と頷く。
「…その呪いは?負った呪いによっては、さっきの金額じゃ受けられない」
応えるように書き出された文字は、神父は全てを読み上げられない。呪われ屋は冊子を覗き込んだ。
ー兄は、出掛けたくても部屋から出られません。そういう呪いです。
「…待ってくれる。じゃあ、僕に君の家まで赴けと?」
少女は浅く頷いた。様子を伺うように、呪われ屋を見つめる。
「…どこ?」
少女は冊子にその答えを書き込んだ。
呪われ屋はそれを見て、深くため息をつく。
「悪いけど。帰ってくれる」
呪われ屋を真摯に見つめていた少女の目が、不安そうに揺らいだ。
しかし呪われ屋は追い打ちを掛けるように強い語調で断言する。
「嫌。絶対に嫌」
何か言葉を言い掛ける時のように、少女は唇を開いたが、音にならない声に気づいて思いつめたように俯く。
代わりに筆言を書く。
幾許か、乱れた字だった。
「やめてくれる。何を訴えても返事は同じ」
その筆の運びを途中で遮って。一旦はしまい込んだ生まれ石を少女の手元に押し付けた。
「はい。帰って」
呪われ屋は言うと、苛々と別の部屋に消えていった。
少女はばたりと閉じられた扉を見つめて、唖然とする。
その時、少女の頭の上にもやもやと渦巻く真っ黒な雨雲は、急に激しい雨粒を落とし始めた。
「…は?」
シスターは事のあらましを見守って、そして降り始めた雨…否、嵐に目を丸くする。
「え、なに?なんか雷みたくなってるわよ」
シスターの言う通りに、雲の周りはパチパチと小さな電流が走った。雨脚は次第に滝の形相となり、少女は口をへの字に曲げて雨を頭の先から足元まで滴らせた。
「あ、あんた!せめてその呪い解いてもらったらどうなのよ!」
シスターの言葉に、強張った顔で強く横に首を振る。
「馬鹿ねぇ!もう、たまったもんじゃないわ、それなら早く出て行って」
教会の一室を池にしてしまう。
少女は言われて、ぎゅぅ、と強く手を握りこんだ。
そして、ふらふらと、来た道をたどり始める。出て行ってくれるらしい。
「めちゃくちゃだな!シスター、大掃除のいい機会だ」
「うっさいわね、ハゲ!だまんなさい」
2人の口喧嘩など全く耳に入らない、という様子の少女は、青い顔をして静かに応接間の扉を閉めた。
あまりに静かなその物音に、2人は応酬を忘れ閉じられた扉を見つめたのだった。