ショートショート028 できそこない
むかしむかし、あるところに。
ひとりの、できそこないの研究者がいた。
その研究者は、お前はできそこないだと他の研究者たちに言われ続け、ばかにされ続けていた。
つらくなった研究者は誰もいない田舎に引っ越し、孤独に研究を続けた。
しかし、やることなすこと失敗ばかり。何をやっても、うまくいかない。
やけになった研究者は、やはり自分はダメなのだ、こんなまともな、高尚な研究などできないのだと考えた。
だが、そんなことばかり考えていては、精神がもたない。
これはいけないと思ったできそこない研究者は、自分よりも劣る存在を作ってばかにすることにした。
研究者は、その辺にあった素材を適当につなぎ合わせた。適当につないだので、思ったとおりのできそこないなやつができた。
そいつは、研究者など比較にならないできそこないだった。意味のない言葉を叫び、くだらない雑誌を読んでけたけたと笑う。そうかと思ったら、何もしていないのに急に顔を真っ赤にして怒り狂う。本当にできそこないで、本当にとんでもないやつだった。
できそこない研究者はそいつをばかにして笑い転げた。
そして、もう一体作ればもっと面白いんじゃないかと思ったので作ってみた。
二体目も無事、できそこないとして誕生した。
ただ、妙な点がひとつあった。一体目を作ったときと同じようにやったはずなのだが、少し見た目が違っていたのだ。
おかしいな。一体目の一部をサンプルに使ったし、こんなふうな違いが出るわけはないのだが。
研究者は疑問を抱いたが、もちろん分かるはずもない。
まあ、そんなのはささいなことだ。こんなこともあるだろう。
研究者はそう考え、気にしなかった。そもそも、どちらもできそこないであることに変わりはないし、研究者にとってはそれがすべてだったのだ。できそこないな研究者が、そんなことを気にするわけもなかった。
そして、今まで以上にやかましい日々が始まった。
二体に増えたそいつらは、ますますばかげた行動ばかりして、研究者が退屈することはなかった。
そうして月日が経ち、やがて研究者は死んだ。
いっぽう、研究者の他の仲間たちは、お互いにおまえはばかだという無意味な罵り合いを続けていた。そうしてついに最終戦争が起きて全滅した。
しかし、できそこない研究者の家はひどい田舎にあったので、戦争の被害を受けずに済んだ。
ところで、できそこない研究者の持ち物には、くだらない漫画や雑誌のたぐいがたくさんあった。ジャンクフードもたくさんあった。二体のできそこないにとって、その研究所はまるで楽園のようなところだった。
楽園に残された二体のできそこないは、それらの漫画や雑誌を読んだり、体に悪そうなジャンクフードを食べたりしつつ、意味なく走り回ったり、急にお互いを罵り始めたりと、相変わらずばかで平和な日々を送っていた。
そんなある日、二体のできそこないは、死んだ研究者の難しい書物を見つけた。
「これはなんだろう」
「わからないわ」
ページをパラパラとめくり、中身を読んだ。できそこないたちは確かにばかだったが、それでも毎日のように下品な雑誌を読んでいたので、文字はけっこう読むことができた。
「ふむ。ほうほう。なるほど」
「へえ、そういうことなんだ」
触れたことのない知識に触れて、できそこないたちは強い興味を持ち、さらにページをめくり続けた。
その中で、自分たちの状態が裸というものであることを知り、それが恥ずかしいことであると学んだ。二体はぼろ布を身にまとい、局部を隠すようになった。
二体は、そんなふうに急速に知識を増やしていった。
やがて子供の作り方を学んだので、子供をつくった。二体はどんどん子を生み、その子もまた子を生んで、できそこないたちは瞬く間に増えていった。
長い年月が流れた。
できそこないたちの文明はあっという間に発達し、かつてのできそこない研究者の仲間たちのような、高い科学技術まで持つようになっていた。
そしていつからか、できそこないどうしの罵り合いが激化し始めた。
「お前らはばかだ」
「お前らこそ何を考えているんだ、ばかなのはお前らのほうだろう」
そうして最終戦争が起きて、できそこないたちは全滅した。
できそこない研究者が作ったできそこないの子孫たちは、やはりできそこないだったようだ。