孤高と呼ばれる男の夢
冒険者に仕事を斡旋するギルドには常に多くの人がおり、常に賑やかである。
しかし、そのギルドは今静寂に包まれていた。
職員も冒険者もその場にいる全ての者が一人の男の存在に目を向けていた。
男はこの大陸でも珍しい黒髪と黒目を持ち、着込んでいるマントや甲冑はどれも最高級魔道具。
誰も男のことなど知らないが、誰もが男のことを知っていた。
「おい、あれって、ジンじゃ……」
「ああ、間違いない」
「どうしてこんなところに」
ひそひそと男たちが話していると、ジンと呼ばれた男がそちらを向く。
その無機質で冷たい眼光に刺された男たちはそれだけで言葉を詰まらせる。
しかし、そんなものどうでもいいと言わんばかりにジンは目線を外し、真っ直ぐギルドの窓口に向かう。
「いいか?」
「は、はいっ! な、なんでしょう!」
話しかけられた職員はビクつきながら対応する。本来なら褒められた対応ではないが、それを責める者は誰も居ないだろう。
なにせ、相手はあの「ジン・ゴトー」なのだから。
「依頼を受けたいのだが……」
「そ、それでしたらそこの掲示板に貼ってあります……う、受けたいものがございましたら、こちらに持ってきてください」
職員が指差した掲示板に向かったジンはしばらくそこに眺めていたが一枚の依頼書に目をつけ、それを持っていく。
「これで頼む」
「は、はい…………え、あの、これ、お一人でですか?」
「ああ」
「あの、こちらは、Aランクでして……その、ソロだと危険で」
「何か問題が?」
「い、いえっ! ありません!」
職員が大慌てで処理をすると、ジンは依頼書を手にしてギルドから立ち去った。
彼がいなくなり、ギルドからはどこからともなく安堵の息が漏れる。
「あー、びびったあ……」
「なあ、あれって本物か?」
「本物だろ。わざわざあいつのフリするような物好きいるかよ」
ジン・ゴトー。
冒険者とその関係者でその名前を知らぬ者はいない。
いつ、どこからやってきたのかは不明だが、彼は一年前突然やってきた。
その時からすでに卓越した能力と国宝級の重装備を身に着けていた彼はあっという間にその英名をとどろかせた。
噂によると違う大陸からの勇者だとか亡国の王子だとか言われているが真偽は定かではない。
「依頼が終わったらまたくるよな。俺、ちょっと声かけてみようかな」
「やめとけよ。俺たちが相手にされるわけ無いだろ」
圧倒的な力を持つジンに憧れや尊敬の眼差しを向けるものは多いが、ジンと接触しようとする人は非常に少ない。
理由は他人を拒絶する冷たい眼差しと孤高な性格だ。
彼の他人嫌いは有名な話で、どんなに難易度の高い任務も一人でこなせる実力も周囲に畏怖を抱かせた。
「ああいう人って普段何考えて暮らしてるんだろ」
「そりゃやっぱ、俺達じゃ考えつかないようなことだろうよ」
「だよなー」
一方その頃、噂のジン・ゴトーはというと……
「あああああ~~~~めちゃくちゃ緊張した~~~~~」
路地裏で一人呻いていた。
「なんで皆一斉にこっちみるんだよ。黙るんだよ。ビビったわ! 回れ右して帰ろうかと思ったわ! しかもなんかヒソヒソ話してやがるし! あれか! 異界人はギルドを利用するなってか!? 冒険者になるなってか!? こっちだって生活がかかってんだよチクショー!!」
叫んだジンは大きくため息をつく。
「はぁ……ゲームしようと思ったらいきなりわけのわからない世界にとばされるし、体はゲームのアバターになってるし……いや、それはいいか。レベルとスキルとアイテムが引き継がれてなかったら今頃死んでるし……けどなぁ……」
どうもこの世界では自分のような黒髪黒目の人間はいないらしい。そのせいでどこに行っても注目の的。
元の世界で人見知りでコミュ障だった自分には別の意味でハードモードである。
おかげでこの世界で一年たっても未だに親しい人間が出来ない。
「いや、諦めるな俺。頑張れ俺。いつか、そういつか努力していけばどんな夢だって叶う!!いつか、俺にも友達っていうか、旅の仲間ができる!…………はず」
自分の言葉にジンは肩を落とした。
こうやって冒険者をしているのは勿論生活の為だが、もう一つ、こうやって名声を上げていけば自分でも周囲から好かれると思ったからだ。
しかし現実は厳しく、彼は未だ一人である。
「うう……俺だって好き好んで一人でやってるんじゃないのに……」
一人じゃ危険? そんなことわかっている。わかってるけど一人でやらなければいけないのだ。仲間がいないからやむを得ず一人でやってるのだ。
「あぁ~友達が欲しい……」
ささやかながらも切実な夢は、今のところ叶いそうにない。




