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こんなに大きくなりました  作者: 手絞り薬味
山賊とお嬢ちゃん
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「山賊様~! おはようございます」

 山頂にやって来た男が俺に挨拶をしてくる。

「ああ、おはよう」

 早いもので、この山に来てから数日が経った。

 そして俺が山賊だと付近の住民から認識されてからからも数日経ったことになる。

 ……何故だ。全力で否定しているのに。

 道さえ外れなければ安全だということが分かってもらえたようで、付近の住民も商人も山道を利用するようになった。

「ほい、通行料」

 男から果物を一つ渡された。金ではなくても何か渡せば山賊は道を通してくれる、と広めたのは誰だ。最初に通った農民夫婦か?

「いや~、山賊様がいい山賊様で良かったよ」

 いい山賊というのはなんだ。

 たった数日で、付近の住民は俺という存在にかなり慣れたらしい。ここら辺の住民は精神がたくましいな。王都なら、この顔に慣れてもらうのにかなりの日数を要するというのに。顔は怖いが怒らせなければ大丈夫だと、通る者たちがこそこそ話しているのも耳にした。

「通行料などいらん」

「でも山賊様は略奪をせんから……。安全に通らせてもらっていることへのせめてもの礼ですから受け取ってください」

「…………」

 騎士が略奪するわけがないだろう。でもまあ貰っておくか。あくまで礼として。

「気をつけて行けよ」

「はい」

 男の背中を見送り、果物をかじりながら俺は今日することを考える。小屋に机と椅子が欲しいが、上手く作れるだろうか? それから魔獣も狩りに行かないといけないな。

 狩っても狩っても減らないのはどういうことなのか。時々、気のせいかと思うほど一瞬だが、強い力を感じる。かなり強い魔獣がどこかに潜んでいるのだろう。軽く探ってみたがよく分からない。そいつがこの山のボスなのだろうか。知能の高い魔獣だと厄介だな。

 ああ、これではいつ王都に帰れるか分からないな。

 肩を落として鍋の準備をする。この鍋もここを通った者が置いていったのだ。おかげでスープが作れるようになった。

 ……調味料がないけどな!

 心の底から調味料が欲しいな。魔獣の毛皮と引き換えに貰えないかどうか山越えする者に交渉してみるか? しかし調味料など持ち歩いているだろうか。わざわざ買ってきてもらうわけにもいかないしな。

 うーむ、街に行けないのは不便だな。

 自然そのままの味スープを食べられるだけありがたいと思いながら飲み干し、机と椅子を作るための木を伐採してついでに魔獣狩りをするかと立ち上がった時、

「……ん?」

 俺は気づいた。

 山に入ってすぐのところから動かない者がいるな。怪我でもしたのか?

「仕方がないな、見に行ってみるか」

 伐採と魔獣狩りを後回しにして、俺は山道を下りて行く。そして暫く行けば、それらしい影が見えた。が、

「……子供?」

 十歳……いや、もっと小さいな、八歳くらいか? ドレス姿で蹲っているが、何故そんな姿でこんな場所に居る? どう見ても山越えには向かない恰好だぞ。

 近づけば、子供が顔を上げて視線をこちらに向けてくる。長い金の髪に緑の瞳……。

 くっそ可愛いな!

 いや、決してそういう趣味ではない。

「おい、どうした?」

 すると子供は、軽く目を見開いて、

「山賊さん……?」

 と訊いてきた。

「山賊ではない。騎士だ」

「……山賊じゃないんだ」

 何故がっかりする。

「山賊さんはどこ?」

「そんなものはいない」

「だって、みんな言っているわ。この山の頂上に山賊が住み着いて、でもその山賊は略奪をしない優しい山賊だって。あなたじゃないの?」

「それは俺のことだが……」

 だが山賊ではないと言おうとしたら、子供が笑顔を向けてきた。

「じゃあ、やっぱりあなたが山賊さんね!」

 嬉しそうに立ち上がろうとして、子供が顔をしかめる。

「どうした?」

「足が痛いの」

 見てみれば、山登りは到底無理そうな、お洒落な革靴を履いていた。こんなので山道を歩けばそりゃ痛いだろう。

「おい、お前どこのお嬢様だ?」

 訊けば、子供が指をさす。

「あっちの街の一番大きい屋敷」

 一番大きい……? まさか。

「……領主の家のお嬢様、じゃないよな?」

 すると、きょとんとしたあと頷いた。

「そうよ。なんで知ってるの?」

 俺は内心舌打ちする。

 やっぱりそうか! どうりで身なりもいいし言葉遣いも上品なわけだ。

 くそ親父め! 領主の一人娘は美人だって……確かにそうだが、さすがにこんな子供に手を出すほど馬鹿ではないぞ。親父の中で俺はどれだけケダモノになっているのだ。

「領主のところのお嬢様が、なんでこんなところにいる?」

「山賊さんに会いに来たの」

「一人でか?」

 子供は首を横に振る。

「そこまでは馬車で来たの」

 そこ、というのは山に入るまでか。

「その馬車と従者はどうした?」

「帰ってもらったわ。お昼に迎えに来てねって言ってあるの」

「……ふーん」

 頷きながら、俺はさりげなく子供の背後に視線を向ける。ぎくりとした態度で隠れたのは、この子供の護衛か。ちゃんと付いてきているのだな。灰茶の髪と瞳の人の良さそうなおっさんだ。と言っても俺の方がよほどおっさん顔だがな! 歳は親父より少し若いくらいだろうか?

「どうして俺に会いたかった?」

「だって、山賊なんて絵本でしか見たことがなかったんですもの。会ってみたかったの」

 ……興味本位か。困ったお嬢ちゃんだ。

「もう見たからいいだろう、帰れ」

「迎えが来るのはお昼よ」

「いいから帰れ」

「嫌よ! まだ山賊さんのお家を見ていないわ!」

「…………」

 我が儘お嬢様なのか? 参ったな。

「じゃあ、俺の家を見たら帰るんだな」

「お昼になったらね」

 ……仕方がないな。

 俺はお嬢ちゃんに向かって手を伸ばす。

「おい、抱っこしてやる」

 するとお嬢ちゃんは、目を瞬かせてから首を横に振った。

「私、子供じゃないわ」

 子供だよ、どこからどう見ても。

「足が痛いんだろ? いいからこい」

 少し強引に抱き上げれば、お嬢ちゃんは小さな悲鳴をあげ、その直後に歓声を上げた。

「うわあ、高い!」

 きゃっきゃと笑う姿はまさに子供だ。

 そういえば、こうして誰かを抱っこするのも久しぶりだな。成長前のツクヨを抱っこして以来か。

 山頂に向かって歩いていけば、背後から護衛もついてくる。

「ほれ、着いたぞ」

 小屋の前で止まれば、お嬢ちゃんは目を見開いて叫んだ。

「ぼろぼろ! それに小さいわ!」

 悪かったな。これでも修繕したんだぞ。

 小屋の中に入るが、ドアは開けたままにしておく。これで護衛も安心できるだろう。

 お嬢ちゃんが小屋の中を見回す。

「何もないわ」

 あるだろう、水がめが。

「寝る時はどうするの?」

「もう少しすれば毛皮ができあがるから、それを敷く」

「毛皮?」

 もう一度外に出て、天日に干してある魔獣の毛皮を見せた。

「わあ、凄い!」

 喜ぶお嬢ちゃんを切り株に座らせて、靴を脱がせる。少し皮がめくれた程度か。

「こんな靴で山道を歩くな」

「だって、こういうのしか持っていないわ」

 お嬢様ならそうだろうな。

「傷薬を塗ってやる。もう山には来るなよ、魔獣だって出るのだからな」

「でもね……」

「でも、じゃない。お嬢ちゃん一人じゃ危ないんだ」

 怖いと言われる顔でじっと見つめれば、お嬢ちゃんが首をすくめて上目遣いをしてきた。

「お嬢ちゃんじゃないわ。ルルよ」

「ルル?」

 愛称だろうか。

「俺はハルヒだ」

「そう。よろしくね、山賊さん」

 だからハルヒだと……まあいい。

「下まで送ってやるから帰れ」

「嫌よ! まだ山賊さんの生活を見てないわ」

 生活って、なにを見たいんだ。

 俺は腰に手を当てて少しだけお嬢ちゃんに顔を近づける。

「あのなあ、俺はこう見えて忙しいんだ」

「……もしかして略奪するの? 略奪しない山賊さんだって聞いたのに」

 不安げな表情で訊くな!

「違う。魔獣を狩るのが俺の仕事だ」

 そう教えれば、途端にお嬢ちゃんの目がきらきらと輝きだす。……嫌な予感がするな。

「魔獣を? 見たい!」

 ああ、やっぱりそうくるか。

「絶対に駄目だ。危ないだろう」

「山賊さんは危なくないの?」

「俺は強いからな」

 強いが、正直この山の討伐は一人ではきつい。置いて帰りやがった親父を俺は恨む。

「強いの見てみたい!」

 そう言いながら俺が腰に佩いている剣に手を触れようとしたから、慌てて止めた。

「こら、危ないだろう」

「その剣で魔獣をやっつけるの? ルルにも触らせて」

「駄目だ。騎士にとって剣はとても大切なものなんだ。だから絶対に触るな」

 お嬢ちゃんが唇を尖らせて不満げな声を上げる。

 なんなんだ、この子は。

「いいからもう帰るぞ」

「嫌よ!」

「帰るんだ」

 やだやだとわめくお嬢ちゃんを抱き上げて山を下りれば、馬車が待っていた。

「やだ、山賊さん!」

 まだ抵抗するお嬢ちゃんを馬車に押し込む。やはり馬車も帰らずに待っていたのだな。

 俺は、御者と護衛に聞こえるように大きな声で言う。

「いいか、この山は危ない。お嬢ちゃんの来るようなところじゃない。もう来るなよ!」

 ドアを閉めれば、付いてきていた護衛が御者の横に乗り込んで俺に向かって頭を下げた。

 馬車が走り出す。

 わあわあ声が聞こえるが、さすがに走っている馬車からは降りる勇気がないようだ。

「……なんだか朝から疲れたな」

 うなだれて、俺は魔獣狩りに向かった。


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