1 「破産が怖い今日この頃、父さんお元気ですか?」
※注意※
下品です。鬱陶しくて言動のキモい親父が登場します。不快に感じる可能性があります。
鏡に映る自分の顔を見つめる。
うん、今日も美しい。
煌めく銀髪、大きな青い瞳、長い睫、思わず吸い付きたくなるような唇……。って、この顔もの凄く見覚えがある!
私は鏡を見つめて唸った。
目の大きさは若干私のほうが大きいけど、でもそれ以外はそっくりじゃない、父さんに! なんなのこれ、ここまで似るってなんか怖い。もうこれ呪いか何かじゃないの?
「父さん……」
そういえば元気かな? 全然連絡してないけど、魂の恋人が見つかって無事成長できたことを知らせなきゃいけないよね。
手紙を書いて、ガルディスに送ってもらおうかな。
そんなことを考えていたら、ガルディスが仕事から帰って来た。
「お帰りなさい」
玄関まで行けば抱っこしてくれる。もう子供じゃないのに!
「リズ、いい子にしていたか?」
「うん」
「今日の土産だ」
ガルディスが持っていた紙袋から服を取り出す。
うわ、また買ってきた。毎日毎日、服だ宝石だ髪飾りだと贈ってくれるけど、もう沢山ありすぎるから要らないよ。しかも高級品ばかりこんなに買ってお金は大丈夫なの?
「なんだ? 気に入らないのか? では別の品を――」
「買ってこなくていい!」
なんだかもの凄く不安になってきた。金銭管理は私がした方がいい? そうでないと破産まっしぐらのような気がしてきた。
私が完全に成長したあの日、呆然とするガルディスに自分が恋する種族という珍しい種族であること、本当はもうすぐ二十歳であることを告げた。ガルディスは凄く驚いて、凄く喜んでくれた。そしてその日から、
「リズ」
頬にちゅっちゅと口づけられる。
ガルディスの溺愛が止まらなくなった。
うん、溺愛は嬉しいんだけどね。贈り物が部屋を埋め尽くしているし、ちょっと庭に出ただけでも不満げな顔で家に戻されてしまうし、もう少し自由にさせてくれるとありがたいんだけど。
「食事にする? お風呂にする?」
「風呂に入る」
「じゃあ一緒に……」
「駄目だ!」
……チッ。相思相愛、結婚の約束までしたというのに、ガルディスは頬への口づけ以外私に触れてこない。
なんで我慢する必要があるのかな? 毎朝毎朝ガルディスの赤竜さんが内に秘めし炎を放射したくてうずうずしてること知ってるんだからね!
それに魔力の波動を合わせるのも駄目なんだって。私達は波動が合いすぎるから危険だって。下手をすれば再起不能になる可能性があるとかなんとか言っていた。そんなに危ないことだったなんて知らなかったとはいえ恐ろしい。
「じゃあ食事の準備をして待ってるね」
頬に軽く口づければ、ガルディスが私を下ろしてくれる。私は台所に行き、フォークやスプーンを並べ……、
「今夜も美味そうだな」
はや! なんでこんなに早いのよ! また水を浴びただけで出てきたのかな?
「ごしごししてきて!」
「ごしごししてきた」
んー、本当かな?
「お湯に浸からないの?」
「少しでもリズと一緒に居たい」
……う、そんな真顔で言われたらちょっと恥ずかしい。
「じゃあ食べようか」
椅子に座って食事を始める。そしてガルディスのお腹にある程度の料理が収まってから、私は手紙のことを切り出した。
「あのね、お願いがあるの」
ガルディスが口の中の肉を飲み込んで首を傾げる。
「ん? なんだ、何が欲しい」
うわー、何でも買ってくれそうな顔をしてる。
「そうじゃなくて、父さんに手紙を出したいの」
そう言えば、ガルディスの手が止まった。
「……父さん?」
私を見つめ、ガルディスが軽く眉を寄せる。
「父さん」
私は頷く。
「……墓に供えるのか?」
だから勝手に殺さないでってば!
「生きてるよ、私の父さん」
ガルディスが目を見開く。
「そう……なのか?」
あきらかに動揺した表情。本当に完全に死んでいると思ってたんだね。
「何処に居る?」
隣国の街の名前を告げれば、ガルディスが頷く。その街の名は知っているみたい。
「父さんは大怪我をして旅ができなくなってしまったの。それでやむなく父さんを置いて私はひとりで魂の恋人探しをしていたの」
説明すれば、ガルディスは顎に手を当てて唸った。
「そうだったのか、動けないほどの大怪我を……」
「手紙、出してくれる?」
「…………」
ガルディスはじっと何かを考えている様子で返事をしない。
え、駄目なの? 手紙さえ出しちゃいけないの?
ちょっと焦ったけど、そうではなかったみたい。ガルディスが私を優しい目で見つめて口を開く。
「では、会いに行くか」
「え?」
会いに行くって、父さんに?
「ちょうど隣国の城で行われる式典に顔を出してほしいと言われていたんだ。リズがいるからと断っていたのだが……、親父殿が居る街から隣国の王都までは近いし、親父殿の所にリズを送って、それから俺だけ式典に参加して、式典後に迎えに行くというのはどうだ?」
えええ! 隣国また式典があるの!? ……じゃなくて、
「いいの!?」
連れて行ってくれるの?
「ああ。リズを一人にしたくなかったが、親父殿と一緒にいるなら俺も安心できる」
うわ、嬉しい! 久しぶりに父さんに会える!
私は思わず立ち上がってガルディスに抱きついた。
「ありがとう、ガルディス!」
これで直接父さんの怪我の具合も確かめられるし、生活状況も確認できる。あの父さんだから元気であることは間違いないとは思うけど、だけどやっぱりちょっと心配だったんだよね。
「では旅装を揃えなくてはならないな。急がなければ式典に間に合わないから、二日後には出発するぞ」
二日後か。思わぬ急展開だけど、こんな機会を逃したくないから急いで支度をしなくちゃ。
「馬車も用意して、親父殿への土産も用意しなくてはならないな。それから……」
あ、散財の予感。
やっぱり金銭管理は私がした方がいいかもって、ガルディスの話を聞きながら本気で考えた。




