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作州浪人  作者: 邑埼栞
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第九話 絶体絶命! タダで死ぬと思うなよ!


 柳生五郎右衛門宗章は、優れた剣士であり。


 また実戦経験もある軍人でもあり。


 最後の十八人斬りが示す通り、群を抜いた武勇というものを確かに持っている。



 だが彼は、つまるところは


 常識的な範囲内で、考えられる限り、優れた剣士であるという。


 そういう範疇に留まる人間だった。



 対して武蔵はなんというか。


 モンスターというか。


 大江山の鬼みたいなもんだというか。



 つまり鬼退治に行ったサムライたち、源頼光とか坂田金時とかが人間側で最強で。


 退治される鬼の方、酒呑童子はバケモノで人外。



 武蔵は残念ながら、そのバケモノ側で。


 柳生五郎右衛門宗章は退治に行った人間側。



 一対一ならバケモノの方が強い。


 武蔵は最初から異常個体なのだ。




 誤算だった、と柳生五郎右衛門宗章は思った。


 どれだけ優れた若武者だろうと、若い者は若いわけで。


 そこを圧倒して巧みに倒すだけの技術と経験を持っているつもりだった。


 それは間違いなく、正しい自負でもあったのだが。



 相手がこんなバケモノだとか普通は想定しないので。


 別に彼は悪くない。



 戦国末期から江戸初期にかけて。


 その強さを持て余し、ひたすら流浪を続けた異常人、宮本武蔵。


 時代に遅れて生まれ、無駄に暴れ続けた徒花。



 剣は天才。


 天才というのは。


 天から与えられて、生まれつき持っているものだけで既に最強であるから。


 天才というのだ。



 武蔵は天才であり。


 柳生五郎右衛門宗章は、そうではなかった。



 対峙してみると、その事実を。


 誰よりも柳生五郎右衛門宗章自身が思い知った。






(それでも父上なら……天下の柳生石舟斎なら……なんとかできそうな気もするのだが……ああそうか、父上もまた、この武蔵に類する天才なのか……比べて俺は……大抵のやつよりは強い自信はあったが……しかし残念ながら、こういう種類の真の天才の前に出ると……)




 双方動かず、にらみ合い。


 そのまま時間経過……



 さて二人が対峙していた場所は。


 大坂から京都に向かう道の途中で。


 大坂と京都の中間くらい、ここに伏見という町がある。


 安土桃山時代の桃山とは伏見桃山のことで。


 豊臣~江戸時代には結構栄えた町だった。



 伏見手前の、街道上で対峙する二人。


 二人の名乗りは周囲の通行人はもちろん聞いていた。


 名乗りってのは周りに聞かせるためにやるもんだしな。



 京都大坂間は今でもそうだが交通量の多い道である。


 たちまち周囲に群がる野次馬。



「おお、あっちが関ヶ原で徳川様の倅を討ち取った、宇喜田浪人らしい。」

「こっちは柳生様の息子だとよ。徳川からの討手らしいぞ。」

「柳生様は同じ近畿の人だから応援したいところだが……」

「でも今は徳川方だぞ。」

「いやそれはしょうがないでしょ、勝つほうに着くのは。」

「宇喜田の浪人は真っ当に戦で頑張っただけなのに、それを戦が終わった後に、さらに追い回して討ち取ろうというのはおかしい。俺は宇喜田浪人を応援するぞ!」

「そうだ! 太閤殿下のご恩に報ずるため戦った宇喜田様は間違って無い!」

「柳生様にも幻滅だな。徳川なんかに尻尾振るとは。」



 近畿地方の人間は、特に大坂から京都にかけての人間は。


 圧倒的に豊臣贔屓であり、徳川のことは嫌いである。


 また宇喜田秀家は大坂、京都では評判の良かった、有名な貴公子でもあった。



 宇喜田様のため、太閤殿下のために。


 関ヶ原で戦い抜き、見事な武功を挙げたのに。


 理不尽にも悪者扱いされてる悲劇のヒーロー!



 みたいな扱いをしてくれているらしい。


 周囲の野次馬。


 まあ俺には有利な雰囲気だな。



 とか思ってると。



「待て待てーーーい。伏見奉行所のものだ!」



 十数騎の騎馬武者が伏見方向からやって来た。


 服は平服で、武装とかはしていないが。


 あ、でも、さすが戦国に近い時代。


 完全に平和な江戸時代なら一応、腰に帯刀してるだけだろうに。


 皆、槍を持ってきてる上に、何人かは弓矢を背負ってる。



 うぬ。槍はともかく。弓矢まで持ち出されるときつい。


 くそ、どうやってこの場を切り抜けるか……



「作州浪人、宮本武蔵だな。大人しくお縄につけぃ! 抵抗するなら討って取る!」



 下馬し、槍を構えて俺を囲み、さらに弓矢で狙って。


 まるきり殺す気じゃねーか畜生。手加減無いなー流石戦国。



 よしこれは死んだ。


 じゃあ可能な限り道連れを……


 やってやろうじゃねえか!!



 宮本武蔵の!


 無駄に強い、その強さを見せつけてやる!!






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