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作州浪人  作者: 邑埼栞
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第八話 俺が強い理由=もともと強い


「ハァ……やるしか無いのか……」

「そういうことだ。抜け。」



「ふん、これで十分だ。」


 そう言うと俺は杖代わりにしていた、荒削りの長大な木刀を構えた。


 いや正直言うとね、これで十分というよりは。


 これしか勝ち目が見えない。



 つまりだな、きちんと剣を抜いて同じくらいの長さの剣で切りあうならば。


 そういう訓練を徹底的に積んで来た専門家としてこの時代随一の名人。


 柳生石舟斎から直伝で教えを受けた柳生宗章なんかに、勝てるわけが無いのだ。



 同じジャンルで同じように剣の技を比べあうならば。


 無理だ絶対勝てない。


 強引にでも違う戦い方をせねば。



 俺の木刀は、普通の日本刀よりかなり長く、太く、重い。


 普通の人なら振れないほどの重さだが、俺は平気。


 この木刀と打ち合えば、間違いなく日本刀の方が、折れるか歪むかする。


 剣同士で打ち合って払うとか、そういう動作が一切出来ない。


 切断できるほど細くも無いしな。


 これで戦術がかなり限定されるはず。



 しかし


 技の比べ合い、だと。


 まあ無理だ、やはり無理だ、どう考えても無理だ。



 相手はそういった技を磨き続けて数十年というプロ。


 こっちはそういった体系立った技とか習ったことも無い。


 親父と殴り合っていただけだからな。



 なら後は、勝ち目を作るのは。


 素質だな。



 宮本武蔵に対する後代の批判として多いものは。


 つまり武蔵が強いのは彼個人が強かっただけで。


 きちんとした技術を後代に残していない、というものだ。



 武蔵は、日本刀なんて片手で振れ、振れるだろ、と教えた。


 片手で振っても別に、十分強いし、問題無い、と言った。


 いやいやいや。


 それはあんたが力強いから出来たんだろと後代の人々からツッコミの嵐!


 刀なんて片手で振って当然、だから両手に持って二刀流。


 いやいやいやいや。


 だからそれはあんたが力強かったからだろがーっと。



 あと、武蔵の逸話で、とある大名の前で御前試合をしたとき。


 武蔵は剣を構えて、相手を睨みつける。


 すると相手は武蔵の気迫に圧倒されて、もうまともに動けなくなり。


 そのまま武蔵が前に出てくるとズルズルと後ろに下がり。


 何も出来ないで結局、負けを宣告された。



 それを見ていた大名の評価。


 「それはまあ見た通り、武蔵の方が圧倒的に強いだろうさ。

  でもさーああいう迫力というか気迫というか。

  それだけで相手を圧倒してしまうってのは、あれは武蔵の天性の素質だろ。

  訓練してどの程度身につくものか?

  武蔵が生まれつき持った素質による部分がほとんどじゃね?


  剣術指南役に求めるものは、一定水準の剣のテクを教えるってことであって。

  うまくテクニックを教えられて、あと人柄が良ければ、それでいうことなし。


  別にさー

  あの武蔵みたく異常に強い必要とか、無いんだよね。

  あいつがちゃんと技術を教えられるか疑問だわー

  これが採用試験で、そういう面を見てるってこと理解してなかったし。

  ただの試合とか決闘のノリで相手を圧倒しただけだしな。


  そういうわけで武蔵には


  申し訳ありませんが~って不採用のメール送っとけ」



 そして武蔵は、なぜだーなぜまた不採用なんだーって。


 ひとしきり騒いだという。



 まあ、それはともかくだな。




 つまり素質だ。


 デタラメで理不尽な話であるが。



 つまり素質だけなら武蔵は恐らく最強である。


 ただ素質だけで最強。


 天才なのである、本当に。



 斬りあいなら、特に実際に命が懸かった殺し合いならば。


 体格、筋力、敏捷性、狡猾さ、集中力や観察力。


 あらゆる素質において武蔵に及ぶものはいない!



 技ならばそうさ、それを磨いてきたあんた、柳生宗章さんの方が上だろう。


 だから技比べはしないぞ。



 ただ武蔵の、俺の天才だけを信じ。


 それだけで圧倒してやる。



 殺す!


 精神を集中し。


 俺は名乗りを挙げる。



作州浪人さくしゅうろうにん、宮本武蔵!」



 俺の気迫に、柳生宗章の顔色が変わった。






※太刀の持ち方について


・「持つ」のでは無い。「切る」と思って剣を取れ。

・兎にも角にも、切ると思い続けるのだ

・持ち方ガタガタ言うやつが居るが、切るってことに違いなど無い

・試しに何か切ってみて、切るって感じを覚えとけ


 宮本武蔵著 五輪の書、より(抜粋意訳


 いや、具体的なコツとして、小指と薬指を締める感じでって。

 それももちろんちゃんと言ってることは知ってます。





 だが何よりも重要なことはつまり。


 殺すと思うことだよ。


 本気でそう思い、それだけに集中し。



 その意識を相手に向けると。



 絶体絶命の状態に陥った、ウサギとかタヌキとかの小動物は。


 身がすくんで動けなくなり気絶してしまうという。


 これは人にも当然ある、自然な肉体の反射作用。



 あ、やべ。


 これ、死ぬかもって。


 マジで思ったとき、思い知らされたとき。



 体が自由に動かなくなってしまう、気を失いそうになってしまう。


 これは仕方ないことであり。



 身長185、大きくしかも筋骨も太く逞しく。


 実際に関ヶ原で大物を討ち取り、その後も斬人経験多数。


 追っ手を物ともせず全員返り討ちにした。


 有名な兵法者の息子。


 顔つきも容貌魁偉。


 尋常ではない迫力。



 そんな俺が本気で殺す気になって武器を向けると。


 それだけで気絶してしまう人も、それはまあ、普通にいるだろうさ。



 冷や汗を浮かべながらも集中力を保ち。


 剣を構え続けている、この柳生のゴロさんは。


 そこは流石、訓練を積み、経験も積んでるだけのことはある。



 が


 相手が悪かったな。



 俺は天才、俺は最強、宮本武蔵だ!


 悪いが


 ただ素質と気迫だけで圧倒し



 殺させてもらうとしよう!






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