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作州浪人  作者: 邑埼栞
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第六話 さてどこ行くか、とりあえず……






 さて流浪の旅は仕方ないにしても。


 どこに逃げるか。


 やはり人の多い所だよな、人が隠れるなら大都市が一番だ。



 だけど京都行くのはイヤだな。


 なんだかんだで吉岡一門とケンカせざるを得なくなりそうな気がする。


 ほとぼりを冷ますには、とにかくしばらく大人しくしてることだ。



 しかしそれならどうやって食っていくのか。


 うーん。


 都市部にいって、なんか力仕事でも見つけて、それで当面なんとかするか。




 道中、たまにまた追っ手が来たが。


 返り討ちにして懐中の財布などを貰えるのでむしろ歓迎だった。


 そして三回くらい返り討ちにしたらもう来なくなり。



 そのまま旅して、とりあえず、大坂に着きました。






 関ヶ原が終わったから政権は徳川に移っている。


 が、大坂の繁栄は変わらない。


 この後確か15年後くらいか、大坂の陣。


 あの時、一回、大坂は焼け野原になるそうだが。



 しかしその後もまた大坂は立ち直り、江戸時代を通じて経済の中心であり続ける。



 なんでかってー太閤秀吉の作った経済システムを。


 徳川家康には、下手にいじることも出来なかったせいらしい。


 日本中、全ての物産が、一度、大坂に集積される。


 そして大坂で値段がつけられる、これが全国の値段の基準となる。


 そういう制度を、豊臣秀吉が作った。



 これにより大坂には大富豪が集結するようになった。


 江戸時代は基本平和な時代。


 平和な時代に経済力だけで勝負すると。


 元手が大きい方が圧倒的に有利である。


 いくらアイディアとかあっても資本力の弱い新興商人は不利だ。



 大坂に、まず大資本が蓄積され、大商人が多々生まれた。


 これにより経済力は大坂優位の状況が先行し。


 江戸の商人たちは、後からこれを追い、かなり追いついたが。


 しかし江戸時代を通じて大坂商人が日本一である状況は変わらなかったという。



 天下の台所、大坂には近畿関西のみならず全国から人が集まる。



 全国の産物も集積される。


 まず大船で港につき、そこで小舟に移し変えられて。


 大坂中を網の目のように覆っている水路を通じて輸送される。



 大船から、荷を降ろす。


 降ろした荷を小舟に積み替える。


 基本全部、人力であり。



 荷降ろしの仕事は幾らでもあった。


 力仕事で、給金も良い。


 体力に自信がある人間にはうってつけである。




 体格が良いのと真面目に働くのを見込まれて。


 俺は港で荷卸の仕事をしばらく続けた。


 給料いいし、食い物も美味い。


 さすが大坂、食い倒れの町、屋台で売ってる軽食でもものが違う。



 これまで美作の山奥で、栄養はあるが味は……ってものばかり食ってた。


 それに比べたら大坂の食い物は全部美味すぎて。



 このまましばらく大坂で暮らせるかなーと思ってたんだが。



 ほら、俺、身長185くらいあるじゃないか。


 この時代だと巨人だ。


 さらに容貌魁偉で雰囲気も普通じゃない、怖いらしい。


 これは俺のせいでは無い絶対。


 親父の雰囲気が伝染して移ってしまったんだ。




 で、一年もしたらさー



 あれが関ヶ原で松平忠吉を討ち取った


 作州浪人、宮本武蔵らしい……って


 噂がヒソヒソと……



 ああもう勘弁してくれ


 あれは事故というかラッキーというかアンラッキーというか


 大体あのボンボンが考えなしに飛び出して来るから……



 まあそういう噂が出回って、ほとんど公然の秘密になって



 それでもそこからまだ一年以上は、粘れたんだけどね





 でさーこの時代ってさー商人でも気が荒いんだよね。


 平和な時代の商人じゃなくて、殺し合い上等の半武装勢力みたいなもんで。


 特に海運業者は半分以上、海賊の仲間であり、物騒な連中ばかり。



 俺がいつも荷降ろしさせてもらってる廻船問屋と。


 ライバルの廻船問屋がさー


 ショバ争い始めたんだよね



 この埠頭はうちが先に使う、いやうちだって


 つまりただの縄張り争いなんだけど



 最初は嫌がらせの応酬から、あっという間にエスカレート


 互いに刃物持ち出して暴れるくらいの騒ぎになってさー



 でもほら、俺は単なる荷降ろし人足だろ。


 つまりあくまで臨時雇用のアルバイト扱いなんだよ。


 そういう抗争は正社員の皆さんがやるもんであって。


 俺にはそれに手を貸す義理は無い。




 と思ってんだが。


 大きい船が来て、忙しく荷降ろししてるときに。


 ライバル会社がカチ込みかけてきやがってさー



 向こうが連れてきた用心棒の、秋山なんとかってやつが強くて。


 しかも容赦なくて真剣振り回してこっちの人間斬りまくりやがんの。


 おいおいそれはやりすぎだろうが。



 商人同士の争いなのに、これではもう戦争だ。



 その騒ぎを無視して荷降ろし、荷運びしてた俺なんだが。


 それでかえって目立って、その秋山某がこっちに来ようとしたんだ。


 で、来たら斬る気だって分かったもんで。



 荷物を降ろし、小舟用の櫓を取って立ち上がり、ジロッと睨みつけ。


 それだけでビクっとして一瞬立ち止まる秋山某。



 このタイミングだ。


 無言でノシノシと近付き。


 秋山が体勢を整える前に真っ向から一撃!



 刀を振り上げて受けた秋山だったが。


 俺の剛力の前には無駄である。


 刀ごと頭に食い込み、そのまま頭をカチ割った。


 一撃で勝負はついた。



 シーンと静まり返る周囲。


 俺は周囲を見回し怒鳴る。



「やかましいぞ貴様ら! 騒ぐやつは全員打ち倒す!」



 抗争は一瞬で鎮まった。


 スゴスゴと帰っていくライバル会社の鉄砲玉たち。



「ほら、仕事続けるぞ。」


 俺の言葉に皆は仕事を再開。


「あ、あの……」


 さっきまで騒いでたこっちの社員が俺に恐る恐る話しかけてくる。


「なんだ。」

「この死体、どうしましょ。」

「川にでも捨てればいいんじゃね?」

「は、はい。」


 全く、そんなくだらねえことより仕事だろ仕事。




 五輪の書より


「十六歳にして但馬の国、秋山という強力な兵法者に打ち勝ち……」



 あいつ、但馬出身だったのかな。


 まあどうでもいいけど。





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