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作州浪人  作者: 邑埼栞
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第五話 自業自得とは言え……強制的に武者修行出立

「大人しくしろ!」

「手向かうと容赦せんぞ!」


「うるせーーー!!!」



 さて故郷の平和な宮本村でのんびり農作業中……だった宮本武蔵です。


 今、剣を抜いた連中に取り囲まれております。


 どうしてこうなった……



 いや、わかってますけどね……



 実はね、関ヶ原でさー


 俺、結構偉そうな武将を討ち取ったんだわ。


 身分高そうなのに凄い突出して、孤立してたからさー


 一応、馬周りの親衛隊も五、六人いたけど、まあザコでしたし問題なし。


 そして「宮本武蔵だ! 覚えとけ!」って大声で怒鳴ったんだよね。


 だってほら戦場だぜ。


 テンションを滅茶苦茶に高くしとかないとそもそも生き残れないって。


 無理にでもノリノリになっとかないと、流れに乗れないと死ぬ。


 だから勢いでそんなふうに叫んじゃったわけだが。




 討ち取った武将。


 なんと!


 松平忠吉まつだいらただよしでした。




 徳川家康の四男で。


 徳川四天王の一人、井伊いい直政なおまさが後見してる人。


 尾張五十万石とかになる人だよ。



 関ヶ原では史実でも、ここで功を稼がずいつ稼ぐとばかりに積極的に働き。


 家康の息子のくせに先陣を福島正則と争って、共に前後して突撃。


 相手はもちろん宇喜田家。


 激しく押し合った末に、最後は打ち破る。


 さらに最後の島津勢との戦いで、島津豊久を討ち取り。


 もくろみ通り、一挙に名を挙げる。


 それまでは家康の息子、大勢いるうちの一人に過ぎなかったから。


 戦後は一気に、尾張五十万石の太守となる。


 ちなみにその前は埼玉あたりの一部で十万石だったから。


 大出世だぜ! 家康は身内に厳しいから身内補正とかないからな!




 しかし関ヶ原での負傷が後を引き、若くして死ぬ。


 死後、尾張徳川は、忠吉の弟が引き継ぎ、そのまま御三家尾張として続く。


 忠吉は名を挙げたが、それだけで。


 結局、その子孫が続くってわけには行かなかった。



 だから死んでも大して歴史に影響ない人だと言える。


 御三家筆頭、尾張徳川家はどうせ家康の9男、義直から正式に始まるのである。



 少しは歴史改変できたと言える、が。


 あくまで少しで、多分長い目で見れば全然影響無いと思う。


 史実でも関ヶ原の負傷が後を引いて、この後は精彩が無くなったというし。



 だからそんなに問題はないのだよ!


 なんて理論は。


 小早川から派遣された、捕縛役の人たちには通じませんでした。





 松平忠吉をあっという間に討ち取った男。


 徒武者かちむしゃだったからそれほど身分は高くない。


 宇喜田の手勢の中にいた。


 宮本武蔵と名乗った。


 体躯長大、容貌魁偉、一目で分かる特徴的な外見。



 このくらい情報が揃っていれば。


 確かに頑張れば探せるでしょうね。


 俺、目立ってたし……




 捕縛に来た小早川家の手勢も必死である。


 なにせ小早川、関ヶ原の裏切りは天下に悪評として轟いている。


 なんとか勝ち組に分類される方に入ったが実際ギリギリ。


 徳川の機嫌を絶対に損ないたくない、ご機嫌取りに必死。



 だから家康の四男、忠吉を討ち取った野郎とか。


 見逃すわけが無い。



 でも捕まったら絶対死ぬよね。


 だからとりあえず。


 ここで冒頭に戻りますが……



「大人しくしろ!」

「手向かうと容赦せんぞ!」


「うるせーーー!!!」



 勿体ぶっても仕方ない、結論だけ言いますと。


 捕縛に来たの十人くらいいたの全員返り討ちにしました。


 俺も戦場帰りで気が立っていたのだろう。



 荒れ狂ってあっという間に皆殺しにしてしまった……


 いや、まっとうな武士は二人くらいしかいなかったし。


 後は足軽小物の類、大して戦意なし?


 指揮官の武士二人をクワで頭、かち割って、剣を貰って。


 そのあとはもう事務的処理だったな、俺的には。


 我ながら引く程の強さである。普通の武士とか勝負にならん。



 そしてそれを見て……


 青ざめる村人たち。


 新たなご領主様の手勢を殺してしまっては大問題になる……


 だよねー



 しかし俺が強過ぎるので自分達で捕縛は不可能。


 おそるおそる遠巻きに俺を眺める村人達。



 隣のおっちゃんも同じ表情で。


 いや、それよりもだな。


 幼馴染のお通ちゃんが、完全に引いてた。



 目の前で十人からの人間が虐殺されるのを見たらなー


 それは女性は引くだろう。


 恐ろしいだろう、怖いだろう。



 もうこれまでみたいに俺に優しくしてくれるってのも、無理だろう。



 はぁ……


 ここまで、だな。


 もう無理だ。



 穏やかに百姓として暮らす夢は砕け散ったか。



 これ以上、俺が村にいたら、みんなに迷惑かけることになるし。



 俺はそのまま家に帰るとすぐに荷物をまとめて。



 流浪の旅に出た。



 家屋敷は、親父が戻ってこなかったら村で適当に処分してくれと言い残して。



 こうして結局、俺こと宮本武蔵は。



 強制的に武者修行の旅に出ざるを得なくなったわけだ。



 めでたくなし、めでたくなし。







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