第四話 初めての実戦……ついでに関ケ原
さて美作の山の中から、備前岡山城下を目指して。
同じ村の仲間と一緒に旅している武蔵です。
でさあ、人数が集められているのは宇喜多領全体からだし。
その道中でいろんな人に会うんだけど。
俺が見るからに強そうなもんで、変な人に絡まれたりするんだよ。
なんとかのらりくらりとかわしていたんだけど。
そのうちかわしきれなくなってさー
オラーそのツラは見た目だけかーとか大声で騒ぐのが余りにも五月蝿いので。
分かった相手してやる、表に出ろと言ってしまった。
「我こそは新当流兵法をウンタラカンタラ、有馬ナントカカントカ……」
とか名乗りを上げていたのはほぼ聞いてません。
適当に木を削って作った木刀(道中に杖代わりにしてた)を構える。
おい真剣を抜けとかまたガタガタ言ってるのでヘっと鼻で笑ってやる。
この有馬ナントカとかさーどう見ても親父より弱いんだよねー
何よりあのクソ親父の、キ○ガイ的な怖さが全く無い。
ガキの頃からクソ親父の修行(という名の虐待)を受けていたこの俺が。
こんなちょっと人より強い程度のやつにビビるとかありえない。
「宮本武蔵だ。行くぞ。」
おっとこの名乗りはちょっとフライングだったかな。
まあいいや。親父と同じ新免とか名乗るのイヤだし。
顔真っ赤にして真剣を構えてる有馬某に接近。
ガツンと頭を木刀でカチ割ってやりました。
すぐにクタっと倒れる有馬某。
あれ?
もう終わり?
親父相手ならまずあの最初の一撃が入るわけが無くて。
そっから泥沼の殴り合いになるのだが……
あまりにもあっさり過ぎて驚く俺。
しかも相手の有馬某、鉢金を締めて頭防御してたんだが。
俺の一撃で鉢金ごと頭がゴボっと凹んでる……
うええ気持ち悪い。
なんだよ弱いクセにケンカ売ってくんじゃねーよ、へっ!
と平気で笑えたのは、俺も親父に毒されてる証拠かも。
「うわあ……一撃だ……」
「新当流の達者だったのだが……」
「宮本武蔵? 聞かない名前だな……」
なんかまわりの観客がざわざわしている。
振り返って、一緒の村から来た仲間達を見ると……
うわあ……みんな引いてる……
そんなバケモノを見るような目で見ないで欲しいなあ……
俺の実年齢まだ十代半ば、ガラスのハートなんだぞ
「やっぱり新免さんの……」
「カエルの子はカエル……」
「ここまで親に似てるとは……」
とか、おい!
親父のことは言うな!って俺が少し口調を荒げたら。
皆すごいビビって必死に謝ってきた……
いや、なんか、違うのよ、ほら。
俺達小さい頃からずっと一緒に農作業してきた仲じゃない?
そんなねー……改めまして初めましてみたいな感じで謝らなくても。
あー……
でもな、しょうがないのかも
ていうか、これなのかな
つまり俺は強過ぎる
だから浮く、浮いてしまう
だから故郷を飛び出して武者修行の旅にでも、出るしか無かったのかも
それが宮本武蔵の実情だったのかもしれない。
その晩、宿に泊まって、寝てるときに思い出した。
「十三歳にして始めて勝負、その相手は新当流有馬喜兵衛という兵法者」
宮本武蔵著、五輪の書より
気付かないうちに五輪の書通りの行動してた……
気味悪いな。
歴史の強制力というか修正力というかそんなものなのだろうか。
俺は武蔵の生涯をなぞるしかできないのか?
いや、それじゃ俺が俺である意味が無い。
くそっ、何がなんでも故郷に無事に帰って。
隣のお通ちゃんを嫁にして平和に百姓やってやる!
俺は決意を新たにした。
関ヶ原。
宇喜田秀家の手勢に属してる以上、負けました、当然。
しかし結構目立ってしまって、東軍方のちょっとエライ人を討ち取ってしまった。
だがしかし。
どうせ宇喜田は最終的には負けて総崩れだったしな。
負けた側では折角の武功も意味が無い。
俺は故郷の皆をまとめ、適当に落ち武者狩りを蹴散らしながら……
すぐに懐かしき故郷、宮本村に帰還できた。
故郷は変わらなかった、お通ちゃんも可愛いままだった。
しかし。
宇喜田が負けたわけで、この辺の領主が変わる可能性がある。
それがはっきりするまでは不安な日々が続くとのこと。
村の長老たちが心配げに毎日集まって話し合っている。
せめて新免さんがいてくれたら……とか言い出すほど弱気になってる。
あのクソ親父はあれでも一応武士なので。
新しい領主とか来たらオブザーバーとして話し合いに参加してもらえたら。
それだけで結構助かったのに……とか。
それに親父の私有地も
私有地としての所有権を新たに来る領主に再認してもらわないことには。
どうなるか分かったもんでは無いとのこと。
所有者不在では、あっさり没収とか普通にあるそうで。
ああ、クソ親父。
いないならいないでまた面倒だ。
まだ九州から帰って来てないんだ、どうしたもんか。
しばらくして、宇喜多家の取り潰しが正式に決まった。
代わりの領主は、小早川とのこと。
おお、毛利の小早川か。
なら中国筋では馴染みの大名だ。
良かった良かったと、皆は安心。
しかし俺は知ってるが。
この小早川は、小早川といっても小早川秀秋。
関ヶ原で有名になり後世にまで鳴り響く、日本一の裏切り者。
血筋としては太閤秀吉の正妻、寧々の実家の親戚筋。
そこから小早川家に養子に入った人物だ。
そして、確か小早川の治世は……
またすぐに、秀秋が若くして死ぬことで終わったはず。
まだしばらくは宮本村も安穏には行かないだろな。
江戸時代になれば確か最終的には……
幕府の直轄領、天領になったはずだが……
天領は規律がゆるく、年貢が安いことで有名。
そこまでいけば後は安泰なんだが……
いつだったっけ。
そこまで覚えてないわ!
うーん、その前にまた別の大名が来たような……
池田だったっけ? 池田は備前だったかな?
森かなー。ダメだ良く分からん。
(天領になるのは百年後。つまり武蔵には無関係)
そしてまあ、そんなことを考えても無駄であった。
ああくそっ! 俺に平安な日々は来ないのか!?
とは言っても自業自得、つまり俺が関ヶ原でやらかしたことが原因なんだが……