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作州浪人  作者: 邑埼栞
24/29

第二十四話 それからの武蔵 (完)


 宮本武蔵は豊臣家の制度を立案し施工した実務者であるとみなされている。


 一介の浪人の息子であった彼になぜそれほどのことが出来たのか。


 歴史の謎とされている。



 実は武蔵は前世で経済学部卒で修士課程まで終えていたんだよ! などというふざけた古文書が見つかったことがあるが勿論、一顧だにされていない。妙に凝った作りの偽書で、紙も墨も当時のもので、筆跡も武蔵本人のものと寸分変わらなかったが、もちろん偽物に決まっている。

 うまくいくかどうかわからんけど適当に商業振興策をとっておこう。後は野となれ山となれ、などと、武蔵の事績を茶化してパロったような内容であるため、この古文書を発掘して発表した学者は、宮本家の子孫の方から名誉棄損で訴えられる騒ぎになっている。



 閑話休題それはともかく



 武蔵は初期的に制度を整えた後は……


 中央政界から身を引き、故郷の美作を領土に貰い、そこに引っ込んでしまった。


 美作は山の中、内陸部、発展の可能性も低い。


 あえてそこに自分を封じ込めることで身の安全を図ったのだと言われている。



 美作二十万石、宮本家はその後も長く続き……


 明治維新で藩は失われたものの、今でも地元の名士として子孫が生きている。



 なお武蔵は美作に隠棲後、既に30過ぎていたが初めて妻を娶った。


 豊臣正則が自分の娘か、せめて親戚筋の娘をやろうと言ったのだが……


 断固として断り、あえて身分の低い郷士の娘を妻とした。


 天下の筆頭奉行として名が高かった自分がさらに豊臣の姫など娶るのは危険すぎ

ると判断したのだろう。


 その妻は、すでに結婚していた地元の幼馴染が生んだ娘を、地元の郷士に養女に

させて娶ったとかの説もあるが。(お通ちゃんの娘を嫁にしたわけだな、年齢差を

考えろよこの犯罪者!)


 正確なところは分からない。


 ただ、年の離れた夫婦であったが、仲は良好であり、子宝にも恵まれた。

(意外とマジでお通ちゃんが好きで忘れられなかったのか? うじうじと女々しい

男だのう!)



 二男二女が生まれ、長男が一人前になった後はあっさり家督を譲り。


 その後は、好きな彫刻や絵画などの趣味に没頭して静かに余生を送ったという。


 彼の残した美術品には国宝級、重要文化財級がゴロゴロある。


 これにより美作は美術の国として、大坂時代から既に有名になり……


 歴代の藩主も意図的に美術振興策を推進し、多くの芸術家が美作から出ている。


 「一対一なら誰よりも強かった」


 「単身で世の流れを変えた超絶武勇」


 「伏見・京都の悪夢」


 「長久手の鬼神」


 で知られる創業の藩主の逸話と比べると……違和感があると良く言われる。


 なお絵画や彫刻に彼が署名した時の号、「二天」というのは……


 一体どういう意味なのか? どこから取った名前なのか?


 全く不明のままである。


(史実の武蔵の号であるがこの時空では意味不明のまま)






 他に彼の小さなエピソードとしては……



 既に美作の殿様として安穏な日々を過ごしていた40歳近くのある日。


 一人の老人がよろめきながら武蔵の行列に近づいてきた。


 無礼者め! とその老人を蹴り飛ばす部下。


 あ、ちなみにこの部下、名前は北川兵庫という。近習頭取である。美作藩の筆頭

家老、北川丹山の長男だ。覚えてる人いるかな、北川丹山。俺が昔、伏見で暴れだ

した頃にそばで煽ってた宇喜多浪人のオッサンだよ。あのオッサン結局あのまま俺

にずっとついてきて側で補佐役みたいなことやってて、ついには美作二十万石の筆

頭家老で五千石取りにまでなったよ。本人的にも大出世だったそうな。まあ意外と

使えるオッサンだったからいいんだけど。


 それはともかく。


 その北川兵庫を止め、老人の顔をじっくりと見つめる武蔵。


 皺だらけでヨボヨボだ。髪は全部白髪、それもあちこち禿げて抜け落ちて。


 片足を引きずっている、古傷があるのだろう。杖に縋ってよろよろ歩いて……


 もはや人の憐れみを乞う以外に何もできない、哀れな乞食老人。



 よく見て確認した後、一度、ため息をつき、武蔵は言った。


「生きていたのか……だったら早く来いよ。何か望みはあるか?」


 その声を聴き、老人は愕然として武蔵の顔を見詰めた。


「ま、まさか……」


 かすれた聞き取りにくい声だった。


「ほら、その様じゃあ、今更、ぶん殴ってやろうとか思わねえよ。余生を安泰に暮

らせる程度のもんは……」

「いらんわ!」

「……あのな、その様で今さら意地はるなよ。そもそも俺の行列に、物乞いに来た

んだろうが?」

「知っていたら……来るものか! とにかくいらん!」

「俺も結婚した、子供も何人も……」

「知らん! 儂は行く!」

「おい……」


 老人はびっこを引きながらも急いで遠ざかっていった。


「殿! なんですかあの無礼な爺さんは! 切り捨てるべきでは!」

「いや、いい。放っておけ……いや待て。」

「やはり切りますか?!」

「違う。手持ち……十両くらいはあるかな……これ、あの爺さんにやってこい。

受け取るまで粘れ、無理にでも受け取らせろ。」

「は? なんであんな無礼なジジイに!」

「命令だ!!」

「はっ! 申し訳ありません!」




「意地を張り通して受け取らなければ、親父の勝ち……兵庫が無理にでも受け取ら

せることに成功したら、俺の勝ちかな……ま、今さら良いか。」




 この老人は、宮本修理大夫従四位下豊臣武蔵朝臣と言うほどの貴人の……実の父

親であったという説があるが、正確なところは分かっていない。


(宮本修理大夫従四位下豊臣武蔵朝臣:宮本武蔵の最終的な正式名。宮本はそのま

ま正式に苗字にした。修理大夫・従四位下は官位、どちらも朝廷より正式に得たも

の。氏は豊臣を下賜されて正式にそうなっている、これまでは断れなかった。武蔵

の名前もそのまま使った。朝臣はこういう場合につける称号。)



 その後、この老人は、そのまま路傍で野垂れ死にしたとも言い……


 なぜか津山城(美作藩の主城)の一角に住むことを許され、安楽に死んでいった

とも言うが。


 矛盾した記録が複数残っているため、事実は不明。


 ただ現代での主流の学説は、一時は保護されたのだが最後に城を抜け出して路傍

で死んでいたということでは? と言われている。


 老人の死を報告された武蔵は特に顔色も変えず、そうか、とのみ答えた。


 ただその後、家督を継いだ長男の部下として、次男を臣籍に降下させた時、その

次男の家系に「新免」という姓を与え、代々受け継がせることにした。

 美作藩の家老級の家として明治まで続く。現代でも美作地方には宮本とか新免とかの名字が多い、全部、元は親戚だったと思われる。

 なお、同じ息子であったのに、なぜか、新免家は氏が藤原となっている。宮本家

は豊臣が氏であるはずなのに意味不明。


「嘘か本当か知らないが。新免家は藤原氏らしいし。これで新免家も続くぜ親父。

まあ今更……どうでもいいことなんだろうけどな……」



 武蔵の真意は現代ではもう、分からない。






「歴史を引き戻した男」宮本武蔵。


 彼の謎と波乱に満ちた生涯は現代でも大人気の講談となっている。


 大河ドラマも複数作られている。



 だがそんなことより最後に、本人から一言。




「おっしゃあああ! 畳の上で平和に大往生できたぜ! 俺は勝ったぞおお!」




 満足して終わりを迎えられたらしい。




 最後だけは



 めでたし、めでたし






 おわり












 本当に終わりです

 追加や補足が欲しかったら言ってね

 もしかしたら書くかも


 しかし約束はしない!

 では一週間と少しの短い間でしたが、ありがとうございました。

 自分の他作も宜しかったら読んでください、ファンタジー系で全然これと違う話なんですが・・・http://ncode.syosetu.com/n3878cz/


 ではまたノシ

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― 新着の感想 ―
面白かったですが、改行か変でとても読みにくかったです。
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