第二十二話 三大老と三奉行
大坂に、福島、毛利、島津の三大老が揃い……
九州と中国、近畿についてはほぼ秩序が固まり、民政の立て直しが始まった。
さてこの三大老が揃えば西日本で出来ないことなど無い。
四国について、まだ長曾我部と蜂須賀とその他がウダウダやっていたので。
もうこっちから一方的に通達して領土確定させる。
長曾我部と蜂須賀については一定の領土の拡大は認めるが……
他の地域はこっちから別の大名を派遣、豊家の名の下に命令。
長曾我部は過去に中央からの通達無視してエライ目にあったことがある。
蜂須賀は元より豊家譜代である。
こっちからの通達で四国の戦乱はあっさり収まった。
ちなみに派遣したのは、もともと山陰にいた豊臣系大名……
中村家とか堀尾家です。そうです、福島毛利が組んで潰した家ですww
つっても途中で諦めたのか降伏して来たんで。
そのまましばらく手元で使って、どうやら叛意は無いようだと分かったので。
どっちの家もね、先代ならむしろ、うちの殿より豊臣家では先輩だったけど。
その息子の代になってるから大人しく長いものに巻かれることにしたようです。
中村家には伊予の一部、堀尾家には讃岐の一部。
四国の領土は、圧倒的第一位、長曾我部、土佐全域から伊予も半分くらい。
二位が蜂須賀。阿波徳島と讃岐の南部。
次が中村と堀尾で、上位の二者とはかなり違う、その他群小って感じで落ち着きました。
でも実質、長曾我部を他の三家で監視する体制。
まあこれなら多分大丈夫っしょ。
淡路は直轄領で代官統治にしたしね。
長曾我部は第一位とはいっても四国の生産力の低さの悲しさで、せいぜい三十万
石くらいだしなー。それに四国は山だらけで開墾の余地とか低いのよ。江戸時代で
も結局生産力は大して上がってなかったし。
「さて現在の情勢ですが……四国は報告の通りです。他に、伊勢の藤堂がこっちに
寝返ってきました。藤堂高虎が組した勢力は必ず勝つといいますから縁起が良いで
すね!」
「ふん……あいつに節操などないことは最初から分かっている、味方のうちは使えるやつだから、まあ、本領安堵しといてやれ。」
「越前の松平領の治安悪化が酷すぎたので……加賀前田が本気を出して、ほぼ征服
完了してしまいました。前田はそろそろ本気でこっちにつこうか検討中のようです。」
「前田利長殿ならどんな人物か分ってるし、やりやすいが……」
「もちろん前田なら元々、豊家の大老格の家ですが……しかし真っ先に駆けつけて
味方してくれたならともかくこれまで日和見してそろそろ……と言うのでは、毛利
や島津と同格扱いは、両家が納得しないでしょう。」
「前田家にも先にまず、相応に血を流してもらわんとな。どこにする?」
「近畿に残った徳川の残存勢力、近江彦根の井伊家の討伐……だけでは弱い、これ
は我が軍だけでも余裕ですから……やはり尾張の徳川直轄領征服作戦ですかね。」
「その手勢に、主に前田から大軍を出させ、働かせる。その代償として大老復帰を
認めるか。」
「それしかないでしょう。あと、本来の北陸の領土だけで百万石の前田に、越前ま
で持たせると二百近く行きます、これは行き過ぎ。そこで近頃になって帰順してき
た紀州浅野ですが、浅野を越前に転封、越前の半分は浅野に持たせて、前田の勢力
拡大は限定的にします。この条件を飲み、また席次は福島、毛利、島津の次である
という旨も飲ませる必要がありますね。」
「ふむ……その条件、飲むかな?」
「飲まないなら、やるぞと。強気で行きましょう。なーに大丈夫ですよ、前田は慎
重な家なので飲むでしょう。」
「よし、ではその条件で話を進めろ。」
「はっ!」
前田家相手のこの交渉は拍子抜けするほどあっさりと済んだ。
家中には反対論もあったようだが前田利長、全く耳を貸さず。
断固たる態度で家中を引き締め、速攻で大坂に挨拶にも来た。
後からわかった話なんだが……
実はこの時期まで前田がこっちにつかなかったのは……
江戸にとらわれていた人質、特に前田利長の実母、芳春院。
彼女の救出作戦がやっと成功したから、だったらしい。
後で聞いてなるほどそれはしゃーねーと思ったよ。
ギリギリまで徳川の味方面をして、江戸にも頻繁に使者を送り、秀忠政権にちょっとお願いしますよ何とかしてくださいよ! と矢の催促を繰り返し連中を滅茶苦茶に焦らせて、それでもさらに使者を追加、毎月のように送り込み、それで人数を江戸に揃えて揃った所で決死の脱出、いうのは簡単だけど実現するのは凄く大変だったそうです。
そして大坂に前田利長、芳春院こと、お松様、二人そろって挨拶に来られました。で、利長公も曲者だけど、それより強いのはお松様で、なにせこの人、北政所様の親友だし、うちの殿にとっては小さいころから世話になった親戚のおばちゃんって感じの人で頭が上がらないのよ。
こうして顔を実際に会わせてしまえば昔からの付き合い、親しみってもんが簡単に復活しちゃうのよね、前田家とは普通に上手く付き合って行けそうです。
挨拶といえば……加藤清正も、やや遅れたが、前田家親子が来る前に大坂に挨拶に来ていた。彼はもちろん秀吉の息子同然の男であるから、豊臣の名の下に改めて秩序を再構築するというならば否やは無い、無いが……
「久しぶりだな、虎之助!」
「……市松か。ああ、久しぶりだ。」
「率直に聞くが……遅くないか? なぜもっと早く来なかった?」
「すまん、そこは謝る。……受け入れるのに、時間がかかった。」
「豊家の名の下に再構築……どこに迷う余地が?」
「すまん、市松……豊臣家の名の下の秩序に俺が逆らうことなどはありえない、しかし……そうだな、俺とお前の仲だ、率直に言おう。」
「おう、言ってくれ。」
「……お前に負けた。完全に負けて、差がついて……そして俺にはそれに従う以外に道が無いのだと……受け入れて納得するまでに……時間がかかった。」
「虎之助……」
「だがこうとなっては今更俺もガタガタ言わん。市松、いや、筆頭大老殿! 以降我が加藤家は御身のご指示に全面的に服従致します。これから始まる東国征伐に我が家の人数を幾らでも、好きなようにお使い下さい。」
「……わかった。頼りにしてるぞ、肥後守。」
「はっ! お任せください。」
「東国征伐にもある程度、人数は出してもらうことになるだろうが……普段のお主の仕事は島津の牽制だ。九州においては島津が第一人者であると、これは公式にそう認めた。だが島津が強くなり過ぎても問題であり……お主には九州の他の勢力をまとめていつでも島津に対抗できるよう……努めてほしい。」
「はっ! 豊家の秩序を守るため、粉骨砕身、努めさせて頂きます!」
その晩、殿と飲んだ。
いいことばかりじゃねーな、えらくなっても、と。
殿がグチを言うのは珍しかった。
以降、加藤清正は常に背筋を正して、礼儀正しく福島正則に接し……
プライベートで少し親し気な振る舞いを見せることはあっても。
公式には常に自分が目下であると、それをはっきりさせて、馴れ合うような態度は一切、見せなかったという。
言い忘れてたけど、黒田、細川の今の当主の人たちも……もとは殿と同格くらいの面々だったんだけど……この連中はごくあっさりと平気で頭を下げてました。黒田長政、細川忠興、政治家として振る舞うことが平気な連中であった。
「ふむ……お主が宮本武蔵か?」
会議の席に出ていた島津義久殿に話しかけられちゃったぜ!
70過ぎのはずなんだけどな、この人。
とてもそうは見えない! 若々しい!
やっぱり、やる気があって仕事してると違うんだろな。
「はい、そうです。中納言様。」
「ふむ……どう見ても前線で戦う武士といった面持だが……その実、福島内大臣の
懐刀、今の情勢を作った鍵となる男と聞いている。」
「いえ恐縮です、それほどのものではありません。」
「見た目の印象は全く違うが……石田治部殿と同じような仕事をしているようだな
……お前のような立場は生き方に注意が必要だぞ? 気を付けることだな。」
「はっ! ご忠告感謝致します。」
そうだよねー
軍師役ができる人材が福島家にはいなかったもんで……
事実上、俺がその役回りになってしまっている。
危ないなーと思いつつもしかし俺がやるしかないわけで……
当たり前だが現代の歴史知識に、現代で習った基本的教養。
いずれもこの時代では周囲とはレベルが違う。
頭だけでも駄目だったろうが俺の場合はむしろ最初は腕っぷしと度胸だけで有名
になったタイプじゃん。意外と頭も回るってのは後から得た評価で。
だから反感は三成ほどに買ってないとは思うが……
しかし、そうは言っても……
仕事内容が近頃、武将からかけ離れちゃってさあ。
既に慣例的に、別に正式にそう決まった名称でもないのに
「三奉行」の筆頭奉行とか呼ばれてんだよな……
これは、福島、毛利、島津の「三大老」に対して、その下で実務を実際に担って
いる今の大坂城首脳陣の三人、すなわち……
俺こと宮本武蔵。それと実質的な相役、真田幸村。親父の昌幸殿が元気一杯で軍
務のほうは見てるから、政務の方を手伝ってもらってたらいつの間にかね……なに
せ本気であらゆる分野において有能な人なもんで手伝ってもらわないと回らないん
だよね仕事が。
そしてもう一人は、これが、片桐且元さんなんだな。本来は家老のはずなのに奉
行扱いとは、これ如何に。とか言っててもしゃあない。つまりこの人も実務者とし
て有能であり、また大坂のことは新参の俺たちよりずっと詳しいからやっぱり助け
てもらわんと始まらないのよ。
ちなみに片桐さんには初対面の時は恨み言をグチグチと言われました。お前のせ
いでどれだけこっちの胃が痛んだか……って言われても、俺も死にたくなかったし
、まあいいじゃないっすか済んだ話は!って笑ったら、おのれ市松め……若いころ
からあいつのせいでこっちがどれだけ苦しんだか……って今度は殿へのグチに変わ
った。この人も実は、殿とは兄弟同然に育った人だもんなあ……
ちなみに三奉行は後で実際に法制化されて正式になる。
その時点で、俺と幸村も単独で万石貰って大名格に。
片桐さんも一万石くらい加増してもらったんだから……
だから酒飲んで俺をグチに付き合わせるの勘弁してくださいよ先輩!
真田幸村の本当の正式な名前は……とか言い出す人なんてキライです
しゃーねーでしょ、こっちのが遥かに有名になってんだから