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作州浪人  作者: 邑埼栞
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第二十話 さあ盛り上がってまいりました! 戦乱拡大!


 気力が失せて駿府に帰った家康。


 まだ生きていても、既に現世から隠遁してしまった家康は良いが。


 現役で頑張ってる徳川家の他の面々はそんなことしていられない。




 秀忠中心となって必死に対策を練る徳川家。


 まず、京都の守りはどうする?


 徳川から誰か有力な武将を派遣して守るのか?


 すぐそばの中国筋に、福島毛利が存在するのに?



 秀忠政権では実際問題不可能であった。


 関東から東海にかけて守りを固める、それが精一杯で……



 そして朝廷は結局、京都の治安維持を豊臣に請け負わせる。


 この状況では否応言えず、豊臣はこれを受け入れる。


 豊臣家筆頭家老、片桐且元、胃痛に苦しみながらも仕事は果たす。


 能力はあるから一応、及第点程度の手配りは出来た。



 そして且元の手配は及第点程度でもだな。


 やった主体は豊臣であると認識されているならば。


 ネームバリューが違う、だから勝手に凄い高い効果を持ち……



 こうして豊臣も、大坂から京都まで、当時の日本の中心といってよい場所を。


 実効支配する大勢力に復活したとみなされる。


 単純な石高だけの問題ではない。


 豊臣家が再び事実上、京都まで支配したというこの事実が。


 日本全土に与えたインパクトは極大であり。


 これを受けて各地で大名たちが再び暴れだすのだ。




 東北で、佐竹と伊達が蠢動し。


 北陸で上杉が大暴れ、前田も不気味に少しずつ動く。


 中国筋の毛利福島連合軍は山陰を完全征服下に置くため戦争中。


 四国では長曾我部と蜂須賀が。


 九州では黒田、加藤、島津が。



 豊臣家の復活を受けて近畿の小大名は争って大坂城に詰めかけ頭を下げる。


 紀州の浅野、伊勢の藤堂などは様子見のようだ。


 今後の情勢は予断を許さない……





 これさあ……


 どうしよう?


 収拾つかねえぞ、おい。



 平和な江戸時代って、日本史的にはすごく良い時代だったんだよな。


 多くの文化が生まれて、また国内に富が蓄積されて識字率も上がって。


 その準備期間があったから明治維新に耐えられたんだ。



 それがこれでは。


 このまま戦国続けば、そのうち西欧列強に侵略されかねん。


 日本が一つにまとまるってのは必要なことなんだが……




 でもただの一介の侍大将に過ぎない、俺こと宮本武蔵には!


 別に関係ないよね!


 うん、俺、悪くない!






 さてこの状態は、ほぼ室町時代に等しい。


 つまり各地に大大名が割拠して勝手に争い合い。


 中央の豊臣という権威は認めていても基本的に言うこと聞かない。


 関東には大勢力が蟠踞して安定しているという点を考えると。


 もろに室町時代末期、つまり戦国時代のようなもんだ。




 ここから日本を統一するために。


 まず織田信長が命がけで生涯、戦い抜いた末に。


 さらに豊臣秀吉が力ずくで事態を収拾……


 せっかくそこまで出来ていたものを、またぶち壊してしまった。



 しかしだ。


 今が昔と違うのは、一度、統一された記憶を皆が持っていること。


 その記憶が薄れないうちならまだ再統一、可能かもしれない。


 このまま戦国が長引き世代が入れ替わればもう無理だろう。


 その前に、何とかせねば……



 しかしどうする?





 後世、白鷺城と異名をとる、姫路城天守閣。


 備前美作播磨その他、百万石を超える福島家の主城にて。


 当代の英雄、時代の風雲児、福島正則と。


 若くしてその腹心となった侍大将、宮本武蔵が。


 二人で今後の検討をしている……



「で、どうするんだ武蔵、この先は。畿内はほぼ豊臣家が抑えた。ここに攻め込む

など論外だ。西は毛利、こことの同盟は命綱、攻めることなどできん。越前はまだ

徳川の勢力が残存しているし、時間の問題で前田が統合するだろう。こっちも行き

止まり。四国は内側で勢力争い中だし、もともと四国は石高が低い、とってもそれ

ほど旨味の無い土地だ。」

「最終目的は徳川を滅ぼす、これしか無いっすね。」

「近畿を越えて、東海道まで、東海道も越えて関東まで……無理だな。」

「ですよねー。家康みたいな圧倒的第一人者ってのがいないし。残った勢力はそれ

ぞれが実質、横並び。飛びぬけた強者がいない。これではまとまらない。」

「ふん……確かに我が福島家とて、百万石を超えると言えども……西の毛利も同程

度で、東の豊臣家、北の前田も同程度だ。これでは決着がつかない。」

「そういうわけで我が家はまず豊臣と同盟しましょう。同盟って言うかこちらから

頭を下げて正式に臣下として復活、その上で豊臣家の筆頭大老にしてもらいましょ

う、なーに簡単です、他でもない殿ならば、福島正則ならばそうなっても当然って

もんですし。」

「そこまでなら簡単だろうが……そうなると毛利はどうする。」

「やはり毛利だけは声かけるべきでしょうね。福島が筆頭大老、毛利は次席、これ

で文句あるかと、ここは強く出ましょう。」

「それで毛利が受け入れなければどうする?」

「福島は豊臣と正式に組む、両者が組めば毛利にも勝てます。そのことは毛利にも

分かっていますから断りませんよ。」

「だといいがな。」



 もちろん元々、毛利家は五大老の一人だった。


 格でいえば福島家より上であろう。


 しかし毛利家は、今回の騒ぎで……福島正則が何も言わずに、いいから持ってけよと軽~く広島をくれたことを、非常に非常ううううに! 恩に着ていた。

 池田滅ぼすくらいは簡単だったしあの程度じゃ足りない。

 やはり福島殿の恩義に報いるにはこの提案を受けるしかないと。

 それが自然に家中の輿論にもなり、毛利輝元自身の意思でもあり。


 快く、毛利はこの提案を受け、自分が次席となることを受け入れた。


 律儀で通った毛利家の家風は失われておらず……


 真に味方にできればこれほど頼りになる相手もいなかった。



 こうして豊臣家の旗の元に、福島と毛利が集結し。


 俗に言う「二大老」政権が始まった。


 近畿地方と中国地方を合わせた極大勢力。


 これだけで関東の徳川にも匹敵する実力を持つ!



 しかし内部がまだいまいちまとまり弱いのが欠点なのだが。



 さてにこれに対する各地の反応だが。



 まず加賀の前田は、様子見。やはり慎重である。


 ここでこっちに来たら徳川が盛り返したとき言い訳できんしな。


 なお言い訳としては越前の治安が低下してるのでその維持と。


 越後を平定して越中近くまで来てる上杉景勝が油断ならんから、である。


 どっちもマジな理由かも知れんし、嘘とも言い切れない。




 日の出の勢いで越後を再征服していた上杉景勝だが。


 実際はそこで限界ギリギリである、もう体力もたん。


 再征服した越後をまとめ直さなくては……



 それに越後、新潟県は関東の隣である。


 関東を一番警戒せねばならない立地。


 ゆえに大坂に当主が参上することは致しかねる。


 致しかねるが、豊臣の名の下に再統合という、その主旨は賛同である。


 その証拠に…… 筆頭家老、直江山城が直々にやって来たぜ!




 なお四国ではまだ南北に分かれて内ゲバ継続中で。


 そしてどちらの勢力からも、我が方に味方してくれと言ってきた。


 ぶっちゃけねー


 あそこって勢いに任せとくとそのうち長曾我部が再統合しちゃうだろ。


 今は蜂須賀と協力してるが、多分最終的にはそうなる。


 蜂須賀も弱くはないが、他国出身だし。


 地元出身の長曾我部相手では分が悪い、最終的には負けるだろう。



 との予測の元。


 阿波徳島の蜂須賀は、由緒正しい豊臣譜代であるからってんで。


 まず第一に礼遇し、援助も与える、席次も高くしてやる。



 長曾我部も公式に家の復活を認め、官位も与えてやるが。


 しかし蜂須賀より一歩劣るようにする。



 長曾我部が征服途中の伊予。


 蜂須賀が征服途中の讃岐だが。


 あそこもね、出来れば中央で抑えておいて……


 長曾我部への牽制にしたいところ。



 うまくバランスとるの難しいなあ……


 こういうのは石田三成とか生きてたら任せたい仕事なのに……


 なぜか俺がやってんだよ。


 マジで、俺が。



 福島家の下級将校に過ぎないはずなんだけど。


 大阪城で、片桐さんとか大野さんとか、あと直江さんとかと話し合って。


 そして出た結論を殿の所に持っていく。


 すると殿は、その話を毛利殿と相談し決定事項として。


 秀頼公から形式的に命令して頂く、とこういう流れで今は動いている。



 俺ってば実際には全部決める実務官僚みたいになっちゃってるよ。


 本来の武蔵の在り方からかけ離れてきているなあ。


 まあ他に出来る人がいなかったからしょうがないんだが。





 九州勢も基本、様子見である。


 なお黒田は、さすがにそろそろ如水が寿命っぽいとか。


 如水死後に拡大した領土を維持できるかどうか。


 必死なのだが跡継ぎの長政は元々、大の家康党である。


 そこで結局中立、こちらの使者も、冷遇はしないが適当に追い返してきた。




 島津はこちらに好意的である、やっぱり。


 大老にしてくれるならすぐにでも駆けつけるとか言ってやがる。


 でもよー、島津は強い、強いけど、やっぱり九州最南端の家なのだ。


 遠いのよ、遠い、中央で大老とか無理だろ。


 中国筋は昔から近畿と連絡の便が良いけどさ。


 九州、それも南部の端となると無理だあ。



 そこで、まずは島津家の若手の中から誰か選んでもらってこっちに来て。


 その人を中老格としてお迎えするのはどうでしょうと言ってみたが。


 いや大老じゃなきゃ嫌だ! すぐに当主がいくから!っと。


 全然聞かないんだ、困った。


 島津とは交渉中……





 さて肥後熊本の加藤清正は、福島正則にとって無二の親友。兄弟同然だ。


 だから殿は、彼には期待していた。すぐに色よい返事をしてくれると。


 しかし返事は……微妙であった。



 すぐにでも駆けつけるとかそういう内容は一切無く。


 ただ冷静に、豊臣の復権を祝う言葉だけ、使者が言ってきた。



 それだけか? と殿は何度も何度も問い直したが返事は同じ。



 何を考えているかよくわからない。


 あるいは史実にあった通り、そろそろ体調悪くしてんのかな。


 あの人も40代で死ぬんだよな、確か……





市松いちまつめが……やるものよな。佐吉さきちといい……儂は見誤ってばかりだ。」


 福島正則と石田三成の幼名を呼び、加藤清正は感慨に耽っていた。



 公平にいって秀吉の息子同然に育てられた傍仕え出身者の中で。


 最も出来が良かったのが、この三人だった。


 しかし市松、福島正則は武に偏り。


 そして佐吉、石田三成は知に偏り。


 最もバランスがとれていたのが虎之助とらのすけ、加藤清正だったと。


 そう思っていたのだが……



 三成の関ケ原での苛烈な戦いぶりは世の評判となり。


 そして正則の大胆不敵な行動は今や日本全土を揺るがしている。



 なのに清正は……大して何も出来ていない。


 肥後熊本の五十万石、もちろん大大名であるが。



 今や南隣の島津は日向を併呑し、80万石に達しようとしており。


 北の黒田と来ては九州北部全域を併呑しつつあり既に百万石を超えた。



 黒田の強襲に一敗地に塗れた細川や鍋島の残存勢力と連携しつつ。


 なんとか黒田に対抗しているのだが正直きつい。


 如水の隠居がとっとと死ぬのをジリジリしながら待って、耐えているだけ。



 如水翁が相手と言えども自分はもう少し出来る男だと思っていたのだが。


 しかし現実は何とかギリギリ互角、情勢は悪い。




 その自分に比べて、正則はどうだ。


 あいつらしい大胆不敵な行動で、広島から出て備前美作を取ったと思ったら。


 本拠地の広島を景気よく毛利にくれてやり天下の度肝を抜いた。


 そして毛利と組んで徳川の遠征軍と互角に戦い……


 今や備前美作播磨を中心に百万石を超え……本拠地は姫路城。


 姫路城は、信長時代に秀吉が本拠地としていたこともある。


 清正たちにとっても思い出深い城である。


 その城主は今や正則。


 しかも大坂城に入って、筆頭大老となり天下に号令するとは……



 市松のことをどこかで見下していたが。


 そんな自分の方が実際には劣っていた。そのことを思い知らされて。


 清正は内心複雑で、すぐに大坂に駆けつけるって気に。


 どうしても、なれなかった。



 今から行っても、福島毛利の下風に立たされることは間違いない。


 それがどうにも嫌でたまらず。


 正則と清正は兄弟同然の親友であったが同時にライバルだった。


 互いに功を競い合って戦場を駆け抜けてきた。


 そのライバルの圧倒的な功績に、清正の心は萎縮していたのかもしれない。







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