第十八話 二匹の狂犬の出会い! さあこっから本番だ!
そういうわけで宮本武蔵です。
今、上半身を雁字搦めに縛られまくって万一にも動けないようにされて。
周囲を武装した足軽に囲まれて連行されております。
はあ……ここまでだな。
やっぱり正規の武士団が本気出したら勝てないよね。
それにしてももう無理だな、絶対死ぬ。
福島正則とか気が荒いことで有名だしなー
うーん、絶対死ぬなら。
最後に言いたいこと言ってから死ぬかね!
福島正則のアホウにも前世の頃から言いたかったこととかあったし。
「作州浪人、宮本武蔵です。」
「ふむ、こいつが……でかいな。」
広島五十万石の主、太閤秀吉の息子同然だった男、福島正則はそれほど大柄では
無いが、いかにも歴戦の軍人!って感じの人だった。
「最後に言いたいことがあるか?」
直接聞いてくれるとはありがたい。
さすがその辺は武人だな。
「ははは! 福島正則といえば天下に知られた武名を持つらしいと聞いていたが!
名ばかりの端武者であったらしい! こんな小物に捕らわれるとはこの武蔵も焼
きが回ったものだ! とっとと切れ! この小物が!」
半分ヤケになった俺が大声でそう怒鳴ると……
福島正則および周囲の家老の方々とか。
またその周りの武士たち、足軽たち……
シーン……と静まり返ってしまった。
何を黙ってんだと思ったら……
福島正則のこめかみに血管が浮いてる……
ビキビキ!って切れる音が聞こえてくるかのような
つまりめっちゃ激怒してる!
なるほど、殿をそこまで怒らせたから周囲の人もビビってこうなったのね。
「……小物だと?」
激怒してるがまだ何とか冷静にそう返す正則。
だけど俺、どうせ死ぬし、全然気にならねえ!
「この武蔵には称賛されるべき武功はあっても、罪人として追われるべき咎など何
もない! 関ケ原で家康めの息子を討ち取った俺より功のある男はいるのか! 敵
味方に分かれていても賞賛すべき功があるなら認めるべきだろう! それを武家の
習いに反して、息子が殺されたからとかクッソくだらねえ理由でウジウジと武士ら
しくもなく俺を追い回しやがって! そんな武士ともいえない卑怯者の手先に成り
下がったお前が、小物以外の何だと言うのだ! はっ!」
「……貴様……!」
「あんたも太閤殿下同様、庶民から成り上がった男だと思ったが! その庶民の声
を聴く耳は無くなってしまったらしい! 天下の人々は皆、言っているぞ! 忠誠
を尽くして死んだ石田三成の美しさに比べて! 家康に尻尾を振って生き延びた福
島加藤の輩の醜さはどうだと! お前らのようなクズはどうせ時間が経てば家も滅
ぼされて悪名しか残らんと、なぜ分からんのだ! ほら、俺を切れよ。正々堂々と
関ケ原で戦った男を、理由にもならん理由で、家康に尻尾を振るために切れ! ど
うせお前らもすぐに俺の後を追うしな! ほら、やれい!!」
「……この……!!」
激高した正則は自ら剣を抜いて、俺を切ろうとする。
それを見て俺はニヤリと笑う。
「親同然の太閤殿下を裏切り、千載に悪名を残し、家もどうせ潰される! 何もで
きず何もならず、むなしく死ぬお前と比べたら! ここで最後まで戦い抜いて死ん
だ俺の方がマシだな! ほらどうした、切れよ! 下郎!!」
「お……おのれ……!」
福島正則だって分かってなかったわけじゃない。
このままいけば豊臣政権は完全に失われる。
秀頼様の末路もどうなるか……
しかし彼のメンタルは基本戦国大名のままだった。
だから自分の勢力を拡大することに第一に興味があり。
天下のことなど二の次である。
天下のことを第一に考えて戦った石田三成の方が例外的異常人。
正則は常識的にこの時代の人物だったに過ぎない。
そう、彼は戦国大名のメンタルを持つ男で。
武人を愛し、武人に慕われるタイプの男だった。
他家で持て余された荒武者なども福島正則には喜んで仕えた。
そして彼もそういった武者たちを大事にした。
武人を愛する男、福島正則の目から見て……
この目の前で、雁字搦めに縛られて。
それでも目に一点の曇りも無く自らの正義を高々と主張する。
関ケ原で大活躍した勇者は。
あまりにも光り輝いて見えた。
勿体ない!
惜しい!!
切りたくない!!!
それに分かってる、そうだ、こいつの言う通りなのだ。
太閤殿下の息子同然に育てられながら。
自家の拡大だけを目指し、それに成功したといって喜んでる俺など。
ただの小物であり、天下の人々からは嘲笑されているのだと。
尾張二十五万石が、関ケ原の結果、広島五十万石になった。
それが何だというのか。
確かに、くだらない。
天下の人々に、その行動の醜さを笑われているのなら。
そんなものに意味は無い。
武士は名こそ惜しけれ、名誉が全てなのに。
だが……
「ガキめ……! いいか、家を守るってのは奇麗事じゃない……! 俺も大名なら
我が家を守るために……汚いことをする必要も……!」
「アホめ。それで結局守れないっつってんだよ! 天下の民に嫌われている家だし
徳川から見たら元々敵だし、どこに家を保てる要素があるってんだ! 大人しくヘ
コヘコ頭下げてたって絶対潰されるってなぜわからん! あんた以外の人間は全員
分かってんだよ、このアホウ!」
「だからって徳川相手では勝ち目は……!」
「だからあんたは小物なんだ。」
「なんだと!」
「信長公が桶狭間に行く前、勝ち目なんかあったのか? 秀吉公は金ヶ崎の退き口
に志願して残ったというが生き残る目はあったのか? 家康は三方が原の戦いに出
るとき勝ち目あったのか? 命も家も全部賭けて戦って、だから彼らは天下人にな
ったのだ。勝ち目がないから戦わないとか……ップ、小物ー、ザコー。」
「おのれ……!」
「勝ち目のある方について上手く立ち回って五十万石までになったんだねー、うん
うん、すごいねー、そこ止まりでこっからは減るだけだろうけど! でも一時的に
でもそこまで来れた、だけでも凄いよ! そういえば明智光秀も同じくらいの石高
だったっけ! 末路も一緒だろうから、あの世で仲良くしろよ!」
「俺は……あの天下の裏切者、光秀などとは違う!」
「ばっかだなあ。同じかそれ以下だよ! 下手したらあんたは小早川秀秋以下だか
んね? だってあいつってば関ケ原んときは19とかだろ、そんなガキじゃどうし
ょうも無いし。既に40近くだったあんたに言い訳の余地は無いけどな!」
「俺があのクソガキ以下だと!!」
「小賢しく立ち回って上手くやったつもりだけど、下心を天下万民に見透かされて
バカにされてるし、このまま末路は適当に徳川に滅ぼされるだけだし? 秀秋もア
ホだったけど、それ以下のアホだろ。まあ所詮、石田三成みたいに天下を敵に回し
て戦うような、本当の勇気が無い臆病者だからな、あんたは!!」
「こ、この俺が!! 臆病者だと!!!」
「だってそうだろー。三成みたいに頭良いやつが勝ち目薄いって分かってなかった
わけないじゃん。でも戦ったんだ、三成は。真の勇気があったから。あんたはそれ
無いんだろ? 言い訳して俺を切って無かったことにして、家を保とうとピーピー
してるだけだろ? ヘタレの臆病モンじゃ無くてなんなんだよ。」
俺、絶好調である!
前世のころから福島正則とか加藤清正とか、不完全燃焼で中途半端に死んでいっ
た連中には言いたいことがあったんだ!
だがそんな俺と、固まってしまっている福島正則を見て……
「……殿、某が斬ります、これ以上好き勝手に喋らせるのは……」
「待て才蔵。」
「しかし殿……」
「良いから待て!!」
「……はい。」
「おい若僧、武蔵とか言ったな。」
「おう! 作州浪人、宮本武蔵! 天下一の剣豪だ!!」
「ふん……大きく出たな。関ケ原が初陣か。」
「ああそうだ。」
「初陣を済ませたばかりのガキの分際で偉そうに……! それだけで切っても飽き
足らないくらいだ!」
「はん、あの後、大人しく故郷に帰って百姓やろうとしてたのに……それが不可能
になって追っ手を切りながら流浪してた時点で命は諦めてるし。」
「だがな武蔵……そこまで言いたい放題言ったなら、ついでだ、聞かせろ。」
「何をだよ。」
「ここからどうやって覆すかだ。お前ならどうする。」
「俺一人じゃ無理だろべ。」
「分かっとるわ! 安芸広島に備前美作、あわせて百万石が元手だ! これを使っ
てここからどうするかだ!」
現代の歴史知識と、今の俺の異常なノリが融合し、解答を導き出す!
「毛利に広島あげて味方にしようぜ。本来の地元だし大喜びだ。」
「待てコラ、それじゃいきなり領国が半分に。」
「んで毛利と組んで、播磨の池田滅ぼそうぜ! それを条件に広島あげるんだ。そ
の後はこっちは備前美作に播磨に、毛利は防長に広島。毛利はそのまま山陰の攻略
に回ってもらって切り取り放題にしてもらって、こっちは大坂と手を結びつつ……
第一の攻略目標は彦根の井伊だ! 井伊直政が死んだところで混乱してるから狙い
目だぞ! 一気に近江まで取っちまえ!」
「そこまで行くと越前の結城秀康殿も黙っていまい。加賀の前田も。」
「前田は様子見すんだろ。あそこは慎重だ。注意するべきは結城秀康だけだろうけ
ど大丈夫! あの人が暴れて戦争を起こせば……それがこっちに付き合うだけだっ
たとしてもだな、徳川家にとっては大打撃! 勝っても負けても大問題になる!」
「悪魔みたいなやつだなお前。」
「殿! 落ち着いてください! そんなに上手くいくわけがありません! 徳川が
本気を出せば勝ち目無い状況に変わりはありませんぞ!」
「勝ち目なんか最初から無いし。現状でも同じだよ。福島家は時間の問題で滅ぼさ
れる運命にあり、決まってる。このままジリ貧で我慢して、座して滅ぼされるのを
待つわけ? 意味ねーって思わないの? 家老さん。」
「黙ってろガキが! お前なんぞに何が分かる!!」
「どーせ福島家には未来は無いってことだけは分かるぜ。さっきオッサンが呼んで
た名前からすると……もしかしてあの有名な可児才蔵か? かー! 名前だけは有名だけど実物はこんなもんかよ、幻滅だなー!」
いや、実際には福島正則にも劣らない、見事な歴戦の武人って顔だよ?
でも今は煽る!
「こ、このクソガキ……!」
「まあ待て、才蔵。それで武蔵、それだけで徳川に勝てるとでも?」
「あのよ、この作戦で重要なのは、毛利に広島をあげるって所。これが一番重要。
そして毛利が話に乗って広島を受け取れば……毛利は自分の領国を守るために必死
こいて戦わざるを得なくなる……彼らは本来の戦国大名に戻る! 多分、福島家の
皆さんよりも? 毛利家の皆さんの方が真剣に必死に戦うよ。地元だし先に負けた
恨みもあるし。毛利と福島と、中国地方だけ戦国時代に戻れば……他の地域だって
大人しくしていられないやつがきっと出る! 薩摩島津、肥後加藤、筑前黒田、西
国勢が多いけど……東国だと奥州伊達、羽州上杉、佐竹あたりも黙っちゃいないだ
ろ!」
「……それは期待できるが、確実では無いな。」
「そうですぞ殿! あくまでこっちの都合の良い期待だけです!」
「広島の福島もそうだけど……今はどこもかしこも関ケ原後の領土移動で混乱中だ
し戦争とかしたくない家ばかり。そしてそういう状況だってみんな分かってるから
別にそう決められたわけでなくても……今は戦争しないって空気が日本全土に漂っ
ている、みんな、なんとなくそう思ってる……その空気を破るだけで不意打ちの先
制攻撃になる、それだけで圧倒的に有利!」
「そうかもな……しかし確実では無い……だが……」
「確実な勝算なんざあるかよ。」
「その通りだな。」
「殿! まさか!?」
「俺もまだ40過ぎ……俺のこの年の頃、太閤殿下は、明智討伐の山崎合戦か。そ
してその後も精力的に戦い続けて天下を取られた。なのに俺は既に守りに入ってい
たか。しかし守りに入っても我が家は遠からず滅びる、武蔵の言う通りだ。どうせ
滅びる我が家ならば、死中に活路を求めるしかあるまい。」
「……殿。」
「さて武蔵よ。」
「なんだよ。」
「オラッ!!」
「がふっ!」
「よし、この一発で勘弁してやる。縄を解け!」
「はっ!」
「……なんだ、マジかよ。」
「ああ。やってやる。どうせ太閤殿下に泥の中より拾い上げられた桶屋の倅だ。惜
しいものなど何もない、すべて失っても元々よ! やってやる、やってやるから、
お前、俺に仕えろ!」
「そういうことなら……宮本武蔵です、殿……よろしくお願いします。」
「ふん、まともな口の利き方もできるのか。いいか、お前が言いだした話だ。これ
から先、多少、戦況が不利になっても……敗滅寸前になっても……他の奴らは逃が
しても、お前だけは逃がさん、地獄まで付き合ってもらうぞ!」
「……分かりました、お付き合いしましょう、殿!」
時は慶長10年7月初頭。
慶長という年号が終わると次は、元和になる予定だった。
元和といえば元和偃武、元和の年号の頃に武が主力であった時代が終わり、平和
な江戸時代が本格的に始まるという意味で知られていたのだが……
時代に逆行したモンスター宮本武蔵に。
一度感情が激発すれば何をやらかすか分からないキ○ガイの一種として当時から
定評のあった福島正則。
出会ってはならない二匹の狂犬が出会い、意気投合したとき!
もやは止められない大きな変化が……起ころうとしていた。
その時、歴史は動いた!
Q:関が原で福島正則が武蔵を遠目からでも見てたりしていなかったのか?
A:偶然すれちがった。偶然てすごい
この時空の現代のN○K特集「そのとき歴史は~」で良く扱われる題材
……とか妄想したり
Q:今の時点で慶長10年? なんかいろいろ計算が……
A:矛盾してたら後で変えるから細かいことはキニスンナ




