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作州浪人  作者: 邑埼栞
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第十六話 武蔵の戦いはこれからだ!



 公卿は政治のプロである。


 武力を失った平安時代以降は特にそうである。


 力が無い、ならば政治力だけ、弁舌だけで何とかせねばならない。



 勢い、その政治術はとことん磨き抜かれて。


 素朴な田舎者が多い武士など思いもつかない術策を弄する。



 彼らは表向きに正式の要請を送るだけ、で済ましたりしない。


 それはあくまで表向き。



 本気の場合は、同時に裏口からも話を通す。



 豊臣家は武家であるが同時に公家であり、公卿と縁が深い。


 秀頼の教育係として大量に公家出身者が大坂城に出仕している。


 城内のことなど朝廷に筒抜けである。



 情報を朝廷側から、豊臣家中枢に流すのも簡単。


 秀頼はまだ幼いから流してもしょうがないけど。


 淀殿に伝えるくらいはとても簡単である。



 とある下級公家の女房からの時候の挨拶の手紙。


 に見せかけた書状が淀殿の所に届いた。


 且元が左大臣からの書状を受け取ったのとほぼ同じ時期にである。



 時候の挨拶や、他の儀礼的な話題の後に、追伸のつけたしのようにして。


 近頃は物騒で、二条城に賊が入りこんだりしましたが、豊臣家に対処が命じられ

ることになったようなので安心しております……


 と、書かれていた。




 淀殿は生粋のお姫様育ちである。


 浪人者のことなど塵芥のように思っている。


 心の底からどうでも良い。



 しかし、京の都の真ん中の二条城にまで賊が入り込んでいるとは……


 対応が豊臣家に申し付けられたというが城内ではそんな話は聞かない。


 どうなってるのか且元に少し聞いてみよう。



 且元の胃痛がさらに悪化することが決定した。




 女の噂話は拡散速度が速い。


 まして大坂城は、半ば、女の城でもあり。


 奥は女だらけ。普通の城より遥かに多いだろう。



 淀殿から周囲の女官に、女官からまた周囲にと。


 あっという間に噂が広がる。


 表まで伝わるのもあっという間だった。



 久々の実戦だ、と張り切る武官たち。


 是非自分に出陣を申し付けて欲しいと且元のところに申し込みが殺到。


 そういう問題じゃないんだと泣きたくなる且元。




 豊臣家を縮小しつつも形だけでも残すには軍事的実力を今さら示すとか最悪。


 絶対に出兵してはならない、関東の意向もそうであるはず。


 しかし今、目の前に危機がある。


 千を越える浪人が武装して二条城を占拠。


 これを何とかしないと不味い、確かに不味いのだがしかし。




 悩みまくる片桐且元のところにまた再び急使がやってくる!



「今度は何だ!」


「先三位中納言殿が急病で亡くなられました!」



 このタイミングで……!


 且元は貧血を起こして倒れた。





 先の三位中納言こと小早川秀秋。


 小早川秀秋は、せっかく裏切って備前中心に五十万石以上の領土を得たのに。


 そのあと、すぐに死に、小早川家は取り潰しとなる。



 徳川としては関ヶ原では格好良く、徳川家が中心になって勝ったことにしたかった。


 裏切りで勝ったとかあんまり言いたくない事実である。



 だから秀秋が死んだら喜んで小早川家をぶっ潰した。


 気持ちは分かる。




 しかし備前岡山というのは、難治の地である。


 この地域で昔、一番強かった大名は、まず赤松氏である。


 足利幕府の将軍をぶっ殺して足利将軍家にケンカを売り壊滅した。



 次は山名氏である。


 応仁の乱の首魁の一人、山名宗全の本拠地の一つ。


 つまり日本を二つに割って大乱を起こし足利幕府を無きに等しいものにした。


 その犯人の地元である。



 その次に宇喜田である。


 戦国時代でも一二を争う極悪人、宇喜田直家。


 生涯にまともな戦争をしたのは数えるほど。


 後は全部、暗殺で片付けたという、ある意味、見上げた人物である。


 元の主君、同輩、嫁の実家、嫁、その他にも敵味方見境無く。


 邪魔になったら殺した。利害計算だけを優先し、それ以外考えなかった。



 江戸時代初期に江戸で内乱を起こしかけた元宇喜田家臣というのもいる。


 江戸時代の平和が安定したところで仇討ち騒ぎを起こした赤穂浪士も近所。



 なんというか、こう。


 つまりなぜかそういう連中が揃って出てくる場所なのだ。



 この時点だと、ほんの少し前まで宇喜田の領土。


 小早川になってから数年しか経ってない。


 まだまだ全然治まってないのである。




 もちろん史実なら徳川家は、あっさりと小早川取り潰し。


 新たな大名を持って来て配置転換、すぐ終わり、何の問題も起きなかった。



 しかしこの時空だと。




 うん、別に一つ一つだったら、バラバラだったら、どってことなかったんだ。


 でも連続して短い期間内に起こったのが不味かった。



 浪人が伏見や京都で暴れた、そのくらいのことは起こり得ると分かってた。


 なにせ関ヶ原浪人は全国に溢れているのだから。



 京都所司代、板倉勝重が死んだ。


 これはかなり痛いがしかし、それもそれで起こり得ることで。


 江戸で育ちつつあった新時代の幕府閣僚級の誰かが京都に移れば済む話。



 井伊直政が死んだ。


 残念なことだが、しかしこれも普通に起こり得ることだった。



 小早川秀秋の死も同様で。



 だがそういった事件が連続して短い間に起きたのが不味かった。




 関ヶ原後、まだ数年である。


 徳川による新秩序が作られ始めている段階。



 ここでビシっと治めれば徳川の治世は安定する。


 ここでミスが重なれば全て台無しになる可能性も。



 すごく大事な、微妙な時期なのだ。





 運だ、運。


 所詮最後は偶然とか幸運だ。


 桶狭間の時、雨が降らなかったら信長もどうなったか分からん。


 三方ヶ原で家康がウンコ漏らしながらも逃げ切れたのもほぼ幸運だ。


 越前からの撤退戦で秀吉が何とか生き延びたのも偶然だ。




 そういう運があるかどうかが最後の一線を、左右する。





 

 宮本武蔵一党の匪賊は千を超える人数で二条城を占拠したとは言うものの。


 たとえば井伊家が本気出して軍勢出してきたら一蹴される。


 越前松平家が本気出しても同じ。


 伊勢藤堂が本気出しても同じ。


 豊臣が覚悟決めて軍勢出しても同じ。



 四方八方敵だらけであり途中でどれだけ粘っても。


 最終的な敗北は確定している。




 どう考えても先が無い。



 だがそこで一つの偶然が。



 小早川秀秋の急死である。


 さらにその情報を武蔵の仲間の浪人たちが偶然、ゲットした。



 小早川領の備前美作とは、ほぼイコールで元は宇喜田領であり。


 武蔵と多くの宇喜田浪人たちにとって本来の地元であった。


 このまま京都に籠もっていてもジリ貧。先行き無し。



 逃げるといっても当てが無かったところで。


 もともとの地元でもある備前美作が領主小早川秀秋の急死で絶賛大混乱なら。


 よし、そこに乗り込もう!と



 浪人どもが決断するのはあっという間だった。



 地縁を頼って隠れることも容易であるだろうし。


 下級の武士でも殺して成り代わるとかも混乱してれば可能かも。


 適当に略奪して逃げるって手もある。



 なにせ浪人の集団。本質的にはタチの悪いイナゴみたいなもんである。


 弱いところに食いついて自分達の腹を満たすしか考えていない。


 関ヶ原以来のストレス解消もしたい。




 伏見と京都で徴発略奪しまくったので馬は大量にあった。


 その馬を利用して一気に西進、備前に向かう!



 備前に行って何をするのか?


 とりあえずヒャッハー!ってやるよね。



 後のことは後のことだ!



 京都に雪隠詰めになってるよりはマシ!



 行くぞおおおお!!!



 武蔵の戦いはこれからだ!!












・勢いで書いてここまでは一気に来たがここで止まった、最初は

・だから最初は本当に、ほぼここで「完」で投げる感じだった

・起承転結の転ですね、こっから。難しかった……でも続きましたから大丈夫


 ではまた次回(今日中)ノシ

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