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作州浪人  作者: 邑埼栞
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第十三話 うまく行ったように見えても地獄に近づいてるよね!





 さて江戸時代の場合、役職についたら、その役に必要な人数は。


 自腹で揃えなくてはならない。



 京都所司代になったら、京都市政に必要な人員を。


 基本、自分の家から出さねばならないということだ。



 人件費というのは金がかかる、一番かかる。


 領地が五百石あっても、軍事に使える人数はせいぜい五人だったという。


 領地が一万石でも、使える人数は百人程度。



 板倉勝重はこの時期、まだ一万石程度になったかならないか程度。


 自腹で百人揃えるのもキツイくらいである。



 だから寄騎よりき与力よりきという制度がある。


 仕事手伝えよ、と上から派遣されて来て、一時的に支配下に入る人たち。


 ただしこういう人達は本来は、上に直属してる人たちだから。


 派遣先の上司とか気にいらないと全然言うこときかなかったりする。



 有名な例は、与力として柴田勝家のもとに派遣された羽柴秀吉が、勝家の言うことを全然きかなかったあげく大喧嘩して勝手に帰ったとか、実際にあった話。


 なおその後、毛利相手に戦ってた秀吉のもとに派遣されてきた与力の森さんとか明智さんとかが、秀吉を侮ってサボタージュしたりもしてるので因果応報。




 板倉勝重と彼の手勢だけでは京都全部見るのは無理であるから。


 当然、与力は派遣されてきている。


 が。


 中の下くらいの武士から成り上がり途中の優秀な文官で官僚である勝重。


 武功派とは最初から相容れない存在である。



 気楽に与力に頼ることはできない、気の毒な立場なのである。



 また徳川直属の三河武士といえば融通利かないので有名。


 偏屈な田舎者で、都会モンだってだけで偏見持つような所がある。


 その中で、目から鼻へ抜ける才子である勝重。


 出身は同じ三河であっても、純粋な三河者からすれば異端だったことだろう。



 過去に同じように頭切れるタイプだった宿老、石川数正が、三河モンの陰湿なイビリに耐えかねて、三河を捨てて出奔してしまった例もある。

 彼などは徳川家に代々仕える家老、酒井と並ぶ二本柱の一人だったのに。

 それでもイヤんなって出て行ってしまったりしてるんだよなあ。




 板倉勝重は。


 彼の残した功績を後から見れば、大した人物だ、優れた官僚だと。


 気楽に評価も出来たけど。



 実際には、やはり、結構大変な立場で。


 彼の出世も、命懸けの戦いの末に得たもので。


 決して楽ではなかった、いや、綱渡りの連続だったのでは無いかと。




 彼の首と対面して、そう思いました。



 物見からの報告などでは。


 与力として、大久保、本多、あと井伊の手勢などもいたらしいのだが。


 だーれもついてこなかったんだ、これが。



 板倉の手勢だけ、百人もいるかいないか程度で。


 無理やり突撃してきたので。



 なんか思ったより簡単に討ち取ってしまいました。



 あの与力連中……


 事実上、板倉勝重を見殺しにしたようなもんなんだが……



 家康、多分、俺たち浪人よりも。


 物分りが悪くて、新時代の官僚である板倉勝重の価値が分からなくて。


 武功が無いからって軽く見て手伝わず、見殺しにしたあの与力連中の方を。


 滅茶苦茶、怒りそうな気がするなあ。



 あいつら終わったな。




 本多っていっても本多作左の方かな。


 本多って姓は三河に多すぎるので分からんのだが。


 大久保も同様。ていうか大久保こそ多過ぎるんだよな。


 十八大久保家とかいって、主な家柄だけでも凄い数。


 全員、家康のため命をかけて戦い、家の男手が7割がた戦死という凄い一族。


 でもそうして戦い抜いた末に得られた報酬は少なくて。


 大久保彦左衛門が「家康は冷たい」って恨みつらみを書いた本を残したくらいの。




 うーんだけど実戦となると。


 しぶとく戦うことで有名な三河者。


 その中でも実戦派、武功派の連中が揃ってるんだろな、与力たち。



 板倉勝重とその手勢は、戦だと弱かったから簡単に討ち取れた。


 ここまでは良かったが。



 さて京都に残ってる、物分りの悪い、頭の固い武功派連中は。


 まともに相手するのは、ちと骨だな……




 でもま、とりあえず。


 勢いを大切にして。



「京都所司代、板倉勝重の首を討ち取ったぞーーー!!!」



 って騒ぎながら、五百人くらいの手勢で(増えた)。


 京都にパレードしながら押し込んでみました。



 すると、責任者がいないからってんで。


 どうしたもんだか分からなくなった三河衆。


 あっさりと京都を放棄、撤退。



 ふむ……


 京都の価値が分かっていたのは多分、板倉勝重だけだったのか。


 だからその彼が死んだらもう分かる人が誰もおらず。


 三河の無骨者たちは京都を守って戦うとかゴメンなので。


 平気で逃げてしまった、と。



 純軍事的にはその通り。


 京都は防衛に向いた地形ではなく。


 過去に京都を守って勝った例は無い。



 敵が我々、統制のとれていない浪人者の集団でも。


 いや、だからこそ、我々がバラバラに京都に乱入して。


 各所に火を放って、略奪暴行を一斉に始めれば。


 どうやったって収拾のつかない騒ぎになってしまうので。



 守れない。


 だから守れる城とかある位置まで引く。


 軍事的には正しい。


 が。




 これはつまり徳川勢が、京都を守る意思が無いと表明したのと同じで。


 政治的には相当、痛いだろなー


 あの与力連中、主立つ者が切腹で済めば軽い方じゃね?


 下手すると全員、問答無用で取り潰しで斬首かもな。



 血に飢えた浪人者が群れをなして襲って来てんだぞ?


 それから京都市民を守るのが、正規の軍隊の存在意義だろう。


 そこで逃げたらダメだなー



 不利を承知で死んでも守る姿勢が必要だったのだが。


 無骨な三河者にはそれは分からなかったのだろう。




 まあそんな分析はどうでもいい。


 所司代のある二条城に入って、酒池肉林と行こうぜ!


 そこで楽しんでも先は無いような気もするがこの際、気にすんな!



 ヒャッハー!







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