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作州浪人  作者: 邑埼栞
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第十一話 急転直下! だがさらに事態は悪化する!



 さてどうやって柳生のゴロさんを倒すか……




 一瞬止まった戦場に。



 ドン! と爆発音が。


 ってー鉄砲だ!!


 しまった油断してた!



 向こうにも数丁しか無かったみたいだし。


 乱戦の中で奪われたり奪い返したり、振り回されたり放り投げられたりしてたし。


 気にしなくても大丈夫になったかと思ったら、これだ!



 撃たれたのは俺か? 痛くないけど……


 あれ?



 柳生さんが胸から血を噴き出しながら倒れました。



「よっしゃあ! ざまあみろ徳川め!」

「おお、見事だ!」

「くはは! 俺は鉄砲術習ったことがあんだよ!」



 味方が柳生さん狙撃に成功したようです。


 ううむ。剣の達人の家として有名な柳生さんだが。


 実は呪われたように鉄砲で死傷者多数なんだよね。


 柳生石舟斎の本来の嫡男とか、そのまた嫡男とか。


 どっちも戦場で鉄砲で、再起不能とか死亡とか。



 柳生のゴロさんも、その例の一つとなってしまったか。



 だがこれは勝機!



「続けえええええい!!!」



 絶叫と共に切り込む俺でした。


 いや、こういう状況だとノリノリにならないと死ぬからね。


 仕方ないのである。



 勝敗はついた。


 敵は既にバラバラに逃げ出している、が。


 ここでトドメを刺さんといかんのである。





※押し潰す、という心得


 敵が体勢を崩してよろめいたら一気に押し、押し潰せ。


 そこを逃すと結構、立ち直ったりしてしまうのである、敵も必死だからな。


 だからそのタイミング、そこを逃すな一気に押せ。


 押して押して押し潰し、絶対に立てなくなるまでやれ。



 宮本武蔵著 五輪の書より(抜粋意訳






 馬とか武器とか奪いながら追撃して壊滅させて。


 そのまま皆で、伏見奉行所に殴りこみました。


 数少ない手勢を追い散らし、奉行の人、徳川の旗本の誰か、名前知らない。


 その人の首も挙げました。



 そんなあっさり行くか? と疑問に思う人もいるだろうが。


 まだ関ヶ原終わって、大坂の陣も始まっていない過渡期。


 関ヶ原浪人は日本中に溢れていて治安は悪い。


 幕府お膝もとの江戸が一番治安悪いくらいで他は推して知るべし。


 江戸はまだ主要インフラ建設中のレベルの半開拓地で、住人は8割男で。


 主に建築労働者か、その監督官の武士。


 全員恐ろしく血の気が多く、辻斬り、強盗は日常茶飯事。


 五代綱吉の頃くらいまで行かんと平和にならない。



 つまり徳川は、関ヶ原で勝ち、天下を取った、とは言うものの。


 それはまだ事実上そうなったってだけでだな。


 ここで政権運営間違うと、それ間違って支持を失った豊臣政権のようになる。



 関東でさえまだ完璧に治まっているわけではなく。


 近畿にまで手を伸ばしている余裕は無い。


 伏見町奉行も一応置いただけ、主力は京都の所司代。



 この時期、幕府初期の京都所司代といえば、有能な官僚として有名な板倉勝重。


 三河以来の家臣だが元々せいぜい二百石だか三百石だかの中~下級武士。


 それが彼個人の能力だけで駿府奉行、江戸町奉行、関東代官、京都所司代と重要職を次々と歴任し、その度ごとに官位も上げ領土も得て、一代で大名にまで成り上がった。


 ほぼデスクワークだけでそこまで行ったから、どんだけ有能だったことか。


 ちなみに遥か後代に作られた「名奉行・大岡越前」の講談の元ネタの多くは、実はこの板倉勝重のものだと言われている。リアル名奉行だったのだ。



 いや、何が言いたかったかって言うと、要は。


 まだそういう時代だってことよ。



 そういう優れた個人を抜擢して、彼の能力で何とかしてもらわんと駄目な時代。


 まだまだ世は治まっておらず、そういう優れた能力を持つ個人が必要な時代。


 江戸時代が本当に安定して平和になったら、京都所司代はただの腰掛け職になる。


 将来、若年寄から老中に、閣僚入りを狙う人がキャリアとして通過するだけの。


 贈賄して取り入っただけのアホでも就任できるような地位に成り果てる。


 システムが安定して本当に平和になると、そうなるわけだが。



 今はまだそんな平和な時代でないので。


 確かに、間違いなく優れた人物を置かんと上手く行かないわけで。


 つまり板倉勝重を消せば、京都と、そして近畿は大混乱となる。


 彼個人の首が価値を持つ。



 すぐに代わりを出せるというほど、まだ江戸幕府は磐石では無い。



 なんて物騒なことは考えなかったよ。


 うん


 本当。



 それはともかく





 とりあえず奉行所に置いてあった、まとまった金額を皆で適当に分けて。


 こっからバラバラに逃げることにしない?って提案したんだけど。



 皆は断固反対。


 このまま勢力を集めて、京都所司代とも一戦やろうとか言い出す。



 いやさ、いつの間にか人数増えて、数百とかになってるけどさ。


 でも幕府の出先機関である京都所司代相手はちょっと。


 仮に勝っても、その先が無いよ?



 徳川が本気出したら勝てないことは同じだし。



 それに今の俺たちって、所詮、賊の一種なのよね。


 野伏とか、いやむしろ山賊とか盗賊の類か、所詮。


 背景となる領地とかがある、きちんとした武士団では無いので。


 補給が無いし、何より大将とかいないし、軍事組織になっていない。



 今も伏見奉行所の外では。


 ヒャッハーって感じに、略奪暴行やりまくってる便乗犯が多数いるみたいだし。


 うーん犯罪者。


 でもこれじゃ、町の人の支持も集まらないし。


 一時的な暴動だよなー




 やるんだったら、そういった暴動は徹底的に抑える。


 一銭盗んでも切った、織田信長のように。


 そうでなくては町衆の支持が得られない。



 町衆の支持が無ければ補給は得られない。


 補給が得られなければ戦いを続けることは出来ない。


 だから現状は、もう適当にバラけて逃げるしか……




 俺がそういうと、なんか主だった人たちが一斉に動き出した。


「静まれ静まれー!」

「一回、奉行所前の広場に集まれー!」

「来ないやつは切るぞ!」


 なんか皆、治安維持をしようとしてるみたいなので。


 まあそれは良いことだ、俺も一緒にやろう。



 出て行って、ちょっと歩くとすぐに、暴れ続けてるアホを見つけた。


 味方に対して槍を振り回し、激昂している。


 が。


 俺からみたら隙だらけだったので、近づいて適当に木刀でガツン。


 一瞬で静かに。生きてるかどうかは知らん。



 次に女性に暴行しようとしてるアホを発見。


 有無を言わさず蹴り剥がす。


 こっちを見て、一瞬怒ろうとしたようだが、相手が誰か知って青ざめる。


 が。


 許さん。


 近づいてガツン。大人しくなりました。なに多分生きてる。


 女の子に、すまんな、家に帰ってろと言っとく。



 火事場泥棒たくさんいるなあ。


 見つけるたびに殴って大人しくさせて。



 そうこうしてるうちに収まってきた。


 一旦、奉行所前の広場に戻る。



 大体、三百人くらい集まってるかな。



 しかし集めてどうしようと言うのか。



 なんかオッサンたちが、どうぞどうぞこちらにと差し招くので。


 いつの間にか中央の高い位置に立たされた。



 そしてオッサンの一人が演説を始める。



「宇喜田中納言家臣、北川丹山である!」


 もと家臣の間違いだろう。


 宇喜田秀家は、最終的には八丈島に島流しになったはずだが。


 今の時点ではどこいるんだろ、どっかに預けられて謹慎中かな。



 ボーっとしてるうちにもオッサンの演説は続く。



 まあ、俺のことを同じ宇喜田家中の期待のホープとか、にっくき徳川家康の四男の松平忠吉を見事に討ってとった豪の者、だが不運にも宇喜田家が負けたため犯罪者扱いされて追い回されているがこれは武家の習いでは無い、徳川のやり方は理不尽である、云々と言っていた、が。

 でもまー時代を切り替えて、本当に平和な時代を作るためには、武功は武功だと賞賛するわけにもいかないよね。一昔前の戦国時代なら敵ながら天晴れと褒め称えて、次の戦争の機会に今度は味方になったら、昔のことは忘れて協力したりして。敵味方の入れ変わりも激しい時代だったから要は有能かどうかだけが問題だったので、それもアリだったのだろうが。

 ここで時代を切り替える、本当に平和な時代にするには。一昔前なら賞賛されていただろう武功の持ち主でも徳川に逆らうなら、潰さねばならない。それも分かるわけで。


 分かるけどしかしだからって俺も大人しく殺されてやるわけにもいかん。


 そうこう考えているうちにオッサンの話は進み。


 結論として。



 俺を頭にして、このまま京都所司代を潰そうということになった。



 おいおいちょっと待て。



「いや、某は未だ若輩者、身分も低く、とても衆に頭立つようなものでは……」


 なんとか回避しようとするのだが。


 まあまあと周囲のオッサンたちが一斉に説得してくる。



 まず実際問題、確かにトップは出来れば身分高い人の方が良いけど。


 ここにはそんな人間はいねえ。みんな関ヶ原の落ち武者出身であり。


 それも戦後も別に特に摘発されなかった小物ばかりである。


 だから生き残って、伏見あたりをぶらぶらすることができていたのだ。



 身分高い人が無理なら有名人を頭にするしかない。


 関ヶ原で松平忠吉を討ち取った俺の武功は圧倒的に光り輝いており。


 そういう武功を上げた人間なんて他にはいません、とのこと。



 まーな……周囲のオッサンたち、みんな……


 所詮、落ち武者ですって感じの人ばっかで。


 だーれもパッとしないというか、オーラが無いというか。


 多分その辺の町を歩いていても違和感無い一般人というか。



 それでも戦国武者であるから殺人放火は手馴れた仕事で。


 そういう点では信用できる?のだが。


 戦争となるとなー



 ちゃんとした指揮官経験ある人は……


 どうもせいぜい、十数人の頭くらいにならなったことあるけど……くらいらしい。


 本当に大物が誰もいないのだ。



「宇喜田浪人の大物……明石殿とかどこにいるんだろう。」


 ポツリともらした俺の言葉に。


「明石家は宇喜田が興る前からの備前の豪族ですので地元に密着しておりますし……まあ関ヶ原で目立ってしまったので今は九州あたりに流れていったそうですが。」


 明石全登、関ヶ原で宇喜田勢を指揮して五分以上の戦いを繰り広げた名将。


 しばらく潜伏して、次に世に現れるのは大坂の陣。


 後藤又兵衛、真田幸村と並ぶ将軍として活躍する……



 が、今はいないんではどうしょうもない。



「他の大物も……」

「いませんな。」


 オッサンにバッサリ切って捨てられる。



 そうか、今は、まさに過渡期なんだな。


 関ヶ原は終わった。


 一応戦後秩序は、粗方、形だけは整えた。


 整えたけどまだ成熟していない。



 たとえば後藤又兵衛は、まだ黒田家に仕官したままである。


 もしかしたらまだ黒田如水も死んで無いのでは。


 後藤又兵衛が黒田長政とケンカして国を飛び出るのも先の話か?



 真田幸村は親父と一緒に高野山に閉じ込められるが。


 それももしかしたらまだで、今はどっか別の場所で禁固幽閉中かも。



 塙団衛門も、まだ加藤嘉明に仕えているかな。


 ケンカして飛び出すのは結構先の話かも。



 つまりまだ煮詰まってないんだなどこもかしこも。


 新しい秩序にあわせて内政を充実させるほうが優先で。


 それもまだ出来ていない。



 先に起こった関ヶ原は、あれは関ヶ原だけでなく。


 日本全土で一斉に起こった戦でもあった。


 九州から東北まで全国各地で一斉に戦いは起きて。



 今はそれが終わって、民政を立て直す時期だと。


 各地の大名も幕府も考えているのかな。



 割を食ってるのは俺たち失業者。


 潰された大名の方に属していた浪人者。



 しかしバラバラに浪人者が治安を乱しても。


 それは各個撃破して潰していけば十分で。


 徳川幕府はそれを出来るだけのシステムを……


 まさに今これから本格的に作ろうとしているところ、か。


 今はまだ出来ていない、多分。




 どうせ指名手配されている、先は無い。


 頼れるような大物にも心当たりは無い。


 うーん、どうせ死ぬなら、いっちょやってやるか。



 まあ俺が多少暴れた程度では。


 江戸時代初期に起きた、由比正雪の乱が先取りされる程度だろう。


 つまり追い詰められた失業者集団、浪人の集団が。


 ある程度まとまって乱を起こしたって程度の。



 なんかもうどうせ平穏に暮らす計画は崩壊してるぽいし。


 なに、どうしょうもなくなっても多分北海道まで逃げれば流石に大丈夫だって。


 せっかくこの時代に生まれ個人戦なら恐らく無敵のスペック持ってるんだから。



 やれるとこまでやってみるか。



 こうして宮本武蔵こと俺は。


 秩序が固まり始めた徳川時代の初期に、時代に逆行したかのような。


 匪賊の頭目となったのだった。



 めでたくなし、めでたくなし。







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