第一話 地侍の倅
ある朝、目覚めたら昔の日本ぽい家の子供でした。
これは良くある転生系か、キターっと喜んでいたのは最初だけ。
まず住んでる場所がどこかも分からないド田舎の山村だった。
自給自足は当たり前、子供でも立派な労働力。
過酷な農作業にごく幼い頃から駆り出され日々労働あるのみ。
今の時代が江戸時代なのかそれ以前なのか、その辺も分からない。
なにせ何も情報が入ってこないド田舎。
周囲の人たちも、まあいい人たちなんだけど。
つまり農作業以外に何も知らない人たちであった。
現代でネット漬けの生活してた自分にはキツイ環境。
本当に何も分からない。
本さえ見たことが無い。
子供のうちが肝心なんだから字とか書とか。
なにがしか教養を身につけたいと思ったのだが。
んなこと言ってられる甘い環境ではない。
それでも体が子供だからか、そんな環境にも慣れて行き。
このまま農民として平和に暮らして終わるのかなー
なんのための転生だったんだ、わけわからねえ。
でもま、しょうがないか……と思うようになっていた。
俺が今、生れ落ちた家は、そこそこ広い土地を持ってる自作農なんだが。
しかし問題が。
親父が、ロクデナシだったのだ。
昔はきちんとした勤め人だったらしい。
しかし性格がアレだったので解雇されたというか、自分で飛び出したというか。
趣味は剣術。
俺が最強なんだーっと言い続け、ひたすら剣を振ったり酒飲んで暴れたり。
村の皆さんからは遠巻きにされてる。
まだ、村八分になってないのがラッキーってなくらいだ。完全に浮いてる。
嫁さん、俺の母親も。
俺が生まれてしばらくくらいまでは我慢してたが。
我慢できなくなって実家に逃げたそうな。
せっかく土地があるのに、きちんと活用しない。
田畑の手入れは適当。
子供が、つまり俺が少し使えるようになったらもう全部丸投げ。
十歳くらいから既に俺が田畑をほとんど見る状態に。
親父は酒飲んで寝てるか、ひたすら剣を振ってるか。
若い頃は都に出て、天下一の兵法者として認められたこともあるんだぞ、とか。
酒飲むといつも言っている。
哀しいねー。
人間、こうはなりたくないよな。
ホラ吹いて自分を慰めて、あとはウダウダやってるだけ。
実際には何もしていない。
親父は、つまり若い頃はきちんとした武士で。
どっかの家中に仕えていた、らしい。
そこから飛び出したのだが、一応、自分で食ってける程度の田畑は所有していた。
この田畑は純粋に親父の財産だから、こっから年貢とか納める必要も無い。
まあ自作農だな。この時代なら地侍か。
しかし今ではその田畑も、ほぼ俺に丸投げである。
まあいい、それだけならいい。
俺は小さい頃から体が大きく、まだ十歳くらい(正確な年齢不明)なのに大人並。
親父と違って真面目に農作業してるので村の人たちからの評判も良い。
しかしそうして俺が真面目に田畑に出ていると……
気まぐれに親父がやってくる。
そして言う。
俺は最強剣士なんだぞ、すごいだろう。
はいはいすごいねー
お前は俺の息子なんだから剣を教えてやる、うれしいだろう。
いや、今ちょっと農作業で忙しいから……
バカモン! お前は農民じゃない、武士の子だ! 剣が優先だ!
あのね父上、そうは言ってもきちんと畑見ないと食っていけない……
ガタガタ言うな!
理屈が通じる相手では無かった……
親父は俺に無理やり木刀を持たせると本気で打ちかかってくる。
まさかガキ相手にそこまでひどいことしないだろうと甘く見てると。
前に一回、頭割られた。頭蓋骨にヒビいったと思う。
血がダクダク出て、俺はその場に倒れて動かなくなり。
隣家の人は、遠くから眺めてて、あれは死んだ、と思ったらしい。
ちなみに親父は俺が倒れて動かなくなると。
なんだ軟弱なとか何とか、罵った上で、見捨てて家に帰って酒飲んで寝たらしい。
俺を介抱してくれた隣家の人が教えてくれた。
あんときからもうこのクソ親父のことは血の繋がった肉親とは思わないことにしてる。
はっきりいうがもう明らかに頭おかしい。
適応障害というか発達障害というか……
いや断言しよう、キチ○イだ。
乱心者ってやつだ、なんで昔の親父の上司とか同僚は。
こいつを成敗してくれなかったのだろう。
親父が木刀で殴りかかってくる。
俺は必死でそれを受ける。
俺が粘ると親父は意地になり、なんとしてでも打ち倒そうと本気を出す。
俺はなんとか重傷を負わずに済ませようと頑張る。
しかし親父は流石に強い、ていうか俺まだ十歳くらいだし。
結局なんだかんだで俺はボッコボコにされて、血まみれで打撲だらけになり。
そして倒れて動けなくなる。
そこでやっと親父は満足し、捨て台詞を残して家に帰って酒飲んで寝る。
俺はまた今日も中途半端で終わってしまった農作業に溜息をつき……
そして隣家の人に同情されたりしながらなんとか片付ける。
俺が真面目に農作してる時に限って。
親父はいきなり剣の修行だ!って絡んでくる。
あれは、普段まじめに働いてない自分に劣等感とか持ってるんだよな。
そして息子がきちんと働いているのが気に入らない。
自分と同じダメなところに引き摺り下ろそうとして。
息子を木刀で殴りつけるわけだ……
ああ、親父。
クズ過ぎる。
そしてそんな親父の下に生まれてしまった俺。
かなり悲惨。
あああ。
転生モノってもっと爽快なもんだと思ってたのになあ。
これじゃ何のために転生したんだか分からんぜ……