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聖女やるならお好きにどうぞ  作者: 久條 ユウキ
第四章:聖女様、襲来編
17/21

17.逆ハー、襲来

聖女様ご一行の登場です。

そろそろ国家規模のざまぁの準備、入ります。

「私はヴィラージュ王国王太子、ラインハルト・フォン・ヴィラージュ。そしてこちらの彼女は異世界より()()()へと訪れてくれた【聖女】……つい先月、正式に婚約を交わしたショウコ・ヒイラギだ」

「…………」

「ショウコ、ジェイル殿にご挨拶を」

「…………」

「ショウコ?……どうした、気分でも悪いのか?」


 心配そうに肩を引き寄せられ、そこでようやくショウコは隣に立つ人の存在を思い出したかのようにピクリと身体を震わせると、視線を緩々とラインハルトに向けた。

 どこか不安げなその視線に、彼は彼女がこの盛大なお出迎えに気後れしているのだと理解して、安心させるようにふわりと優しく微笑む。


「すまないが、我が婚約者はどうやら長旅の疲れが出たらしい。今日のところは休ませてもらえるだろうか」

「…………長旅?王都から国境まで、魔導列車を使えば時間も短縮できただろうに。まさか馬車でここまで?」

「聖女様は城の外に出られることが少なく、それならばと殿下が馬車での移動を申し出られたのです」


 それがなにか?と言いたそうなサイラスの言葉に、ショウコはいいの、と慌てて追いすがる。


「いいの、大丈夫!ちょっとぼーっとしちゃっただけで、疲れてるわけじゃないから。だから予定通りこのまま……」

「無理をしないでくれ、ショウコ。頑張ってくれるのはありがたいが、頑張りすぎて倒れてしまっては大変だ。……私はね、君のことが心配なんだ。今日のところはどうか、休むと言ってくれないか」

「そうですよ、聖女様。明日からまた、忙しくなります。帝都でのパレードやパーティ、城内の視察など予定が詰まっているんです。ですから、今日はゆっくりお休みください」

「そうだよショウコ。君の部屋には結界を張ってあげる。だから安心して」

「私も扉の前でお守り致しますから」

「みんなが……そこまで言うなら……」


 しぶしぶ、といった様子を隠すことなくショウコは頷いた。

 その肩を抱えるようにして王太子が、反対側をガードするようにして宰相子息が、その後ろから専属魔術師と専属護衛がついていく。

 皆、タイプの違うイケメンであるのに、先導する侍女は涼しい顔でしっかりと前を向き、足早に先を進んでは「ちょっと速すぎる」「病人に気を遣え」などと後ろから注意されている。




 その姿が完全に廊下の向こうに消えた頃

 普段からあまり着ない豪奢な式服で身を飾った皇太子ジェイルは、隣に呆れたように立ち尽くす、同じくきっちりと乱れのない式服姿のカインの肩をバンバンと叩きながら、何かを堪えるように身体をくの字に曲げていた。

 そして「いいですよ、声を出しても」と許可を貰うと、堪えきれないような大声で笑い出す。


「あははははははははっ!!見たか、見たかお前ら!?あれ、あれが噂の、『ぎゃくはーごいっこうさま』というやつだぞ!?はははははははっ!あー、おかしい!自分らがどんだけ阿呆なことやってるのか、気づいてないあたりがおかしすぎるっ!!」


 ひーひーとお腹を押さえて笑い転げる皇太子。

 王太子ご一行の出迎えのために集められた者達は、殿下のいつもの悪い癖が始まったとばかりに生ぬるい視線を注いでおり、カインすらもその爆笑を止めようとはしない。


 確かに、彼らはおかしかった。

 ヴィラージュ王国とアルファード帝国は友好国というわけではなく、ただ隣国であるからそれ相応の付き合いとライバル意識がある、というだけに過ぎない。

 なのに皇太子自ら出迎えに出たことに対して謝辞すらなく、その態度は『我が国の至宝である【聖女】を連れてきてやったんだから、もてなすのは当たり前』とでも言いたげだ。

 更に、明らかにショウコの取り巻きだけで構成された外交メンバー……彼らの中心はあくまで聖女にある、それを他所の国に来てまで堂々と示すのは『さあ、弱みを握ってください』といわんばかりで、間抜けにもほどがある。

 もしここにヴィラージュ王国転覆を狙う者がいたなら、迷わず聖女を狙うだろうに。


「確かに……隣とはいえ余所の国に公で訪れておいて、あの【聖女】様しか目に入っていないという態度は、さすがに酷いですね。ヴィラージュの王太子は聡明で公明正大だと聞いていたのに、随分と印象が違います」

「あぁ、それは元婚約者殿が賢明だったからだろうな。それと……聖女殿が余程の阿呆か。男はな、エイム。傍に置く女で変わるものなんだ。覚えとけよ?」

「はぁ…………殿下がそう仰ると、妙な説得力がありますね」

「だろう?」


 暗に『女遊びが激しい』と言われたに等しい言葉にも、ジェイルは得意げに胸を張って見せる。

 含まされた嫌味に気付いていないというわけではなく、気づいていてそれを汚点だと思っていないということだ。

 これには、嫌味を含ませた第一部隊の副隊長であるエイムも苦笑いで応えるしかない。



「……それにしても、殿下がどうしてこのメンバーでとご指名なさったのか、ようやく理解できましたよ」


 カインはややうんざりという顔で、『逆ハー御一行』が去っていった廊下の先をじっと見つめている。

 ジェイルがこの面子でと直接指名したのは、カインを筆頭に第一部隊副隊長であるエイム、第二部隊のヴィーテ、第三部隊のセントラル、特殊部隊のライザの5人。

 各部隊からそれぞれ1名ずつという選抜であるので、公には腕が立ってスケジュールが空けられる者という名目で指名されているが、そこに含まされた意味はこの5人……そして最高責任者であるジェイルを加えた6人を横一列に並べてみればよくわかる。


 ジェイルはワイルド系、カインは怜悧な男前、エイムは生真面目系、ヴィーテは色男風、セントラルは癒し系で、ライザは無口系。

 6人それぞれがタイプの違うイケメンである、ということだ。


 カインの言葉に、ジェイルはふふんと得意そうに胸をそらす。


「『ぎゃくはー』というものについてローゼンリヒト夫人の教えを受けて気づいたのだ。あの【聖女】殿を出迎えるには、やはりあちらに負けず劣らずのイイ男を揃えねば失礼にあたる、とな」

「……殿下の思惑通り、しっかり見蕩れてくださいましたから()()は順調、ということでしょう。これで、誰かに惚れてくれていたならもっと話が早くなるのですが」

「それはそうだが、そうなるとうちの大事な部下の一人を生贄に捧げねばならんからなぁ……どうだ、お前達。あの聖女様とお近づきになりたいと思った者はいるか?」


 ぐるりとジェイルが視線を走らせるが、カインも含めた全員が即座に首を横に振る。

 それも当然のこと、ここにいる全員……あえてジェイルとカインは外すが、それ以外の4人には婚約者もしくは愛妻が存在しているのだ。

 そんな立場にあっても聖女に何かしら惹かれるものがあれば態度や視線でわかっただろうが、ジェイルの見た限りではそれもなさそうだった。


「ふん。ヴィラージュ王国ご自慢の至宝(せいじょさま)も、我が国では人気がないらしい。無論、俺も御免だが」


 と、この時のジェイルの言葉をもしアリアが聞いていたならこう言っただろう。

「フラグ、立っちゃったわねぇ」と。




【企画は順調な滑り出しです。彼女はどうやらワイルド系がお好みのようでした】


 朝一番で届けられた手紙には、ただそれだけが記されてあった。

 途中もし誰か他の者の手に渡っても、意味が通じないようにわざと遠回しな言い回しで書かれてはいたが、勿論お届け先……カインの実家にそろそろ馴染んできたマドカにはその意味が通じている。


「ワイルド系、ですか…………ないもの強請り、というやつでしょうか」

「あらぁ、聖女ちゃんったら殿下がお好みぃ?権力に弱いのかぁ、それとも王子様系にはそろそろ飽きたってことかしらねぇ」

「ご令嬢も聖女サマもオトコの趣味、同じかよ。つってもなー、婚約者として正式にお披露目しちゃったんだから、今更目移りとか無理だろ」

「でもぉ、あの殿下のことだから全力で堕としにかかるわよねぇ?だぁって今回の企画はそういう趣向なんだものぉ」


 今回の【企画イベント】は、聖女様ご一行をターゲットに仕掛けられる。

 舞台はアルファード帝国の王城、仕掛け人は皇太子をはじめとする『イケメン6人組』であり、協力者として帝都の住民達も加わることになる。

 何を仕掛けて、結果的に何をもくろんでいるのか、というところまでマドカはほぼ全容に近い内容を知らされてはいるが、それに対して特にどうという感想はない。

 彼女に与えられたのはこののどかな田舎町で身を隠すというだけの役割であるし、確かにあのバカ妹を許せないと思う気持ちはあるが、だからといってジェイルの立てたこの企画をひっくり返すつもりもないのだ。


「とにかく、このことはジュリア様もご承知いただかないといけませんね。我が主がいい加減心変わりしてくださるのなら協力は惜しみませんが、徒に傷つけてしまうのは避けたいですし。連絡を入れておきますね」

「はいはい。……つか、なんか途中物騒なこと言われた気がするけど」

「マドカのアレはいつものことでしょぉ?いい加減慣れなさいよねぇ」




『あの殿下のことだから全力で堕としにかかるわよねぇ?』


 このアリアの言葉通り、ジェイルはショウコの興味が自分に向いていることに気づくと、全力で彼女を堕とすべく……まずはジュリアーナに今回の企画を説明した手紙を送り、どんな噂が流れても気にしないで欲しい、むしろわざと噂を流すから聞き流して欲しいと言葉を重ね、わかりましたという返事を貰ってから本格的に計画を練り始めた。


 この段階で彼の中にはもう、当初持っていた『食われたがっているなら食ってやるのが礼儀』という上から目線の考えはなく、接するたび、知るたびに惹き付けられるジュリアーナ・ローゼンリヒトという名の女性に対し、敬意と同時に深い愛情や独占欲まで存在している。

 それ故、聖女を堕とすべく行動には移すが、それをギリギリ社交辞令の領分にとどめるべく、他のメンバーの知恵も借りて試行錯誤中である。


 聖女様ご一行がこの帝国内に滞在するのは10日間。

 その間予定されているのは王城内での立食パーティと、帝都国民に対するお披露目の会。

 外交という名目であるため城の上層にいる者達との会談も予定されているのだが、あちらサイドからは『是非帝都の視察もしたい』『他の地域も見て回りたい』と要望が出されている。

 わざわざ訓練時間を割いてまで警備にあたるくじ運の悪い第一部隊の者達などは、この難易度急上昇な要望にコメカミを引きつらせたり、悪態をついたり、喧嘩売ってんのかと憤ったり。


 それをどうにか宥め、『帝都の視察』だけは実現させることにしたものの、『他の地域を回りたい』という無理無茶無謀な要望だけは「魔物が出歩いているため危険」だと説き伏せ、どうにか取り下げさせることに成功した。

 それでもマサオミ曰くの『脳内ゆるふわ女』は、夢見る乙女のように手を胸の前で組み


「でもジェイル様は軍の中で一番お強いんでしょう?だったらきっと安心ですよ」


 と、上目遣いで必死に頼み込んできたのだが。

 勿論、企画遂行中のジェイルは嫌な顔ひとつすることなく笑みを浮かべ、「そこまで認めてもらえるのは光栄ですが」と前置きした上で、だがきっぱりと断りを入れていた。


 途端シュンとなってしまうショウコを宥めたりジェイルを睨んだりと忙しい取り巻き達を見ながら、ジェイルをはじめとする仕掛け人6名は笑いを堪えるのに大変だった。




 という経緯の書かれた手紙を読んだマサオミが爆笑し、アリアが「頭痛がするわぁ」と顔をしかめ、カインの家族達が呆れ返り、そしてマドカが


「なんだか『ざまぁ』するのもバカらしくなってきました」


 と、深いため息をついたのは無理もない。




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