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<3-1>近くの街で 6

「……つまり、キミは宣戦布告がしたいのかい?

 それはまた、思い切った決断をしたね」


「まぁ、本当ならできる限りの衝突は避けて、ダンジョンの奥に引き篭もるのが正しい選択だと思うんだけどさ。実際、その形を目指してダンジョンの強化をメインに行動していたんだしな。

 けど、あれだ。……なんて言うか、実際に人が死んだと聞くとな。このままじゃダメなんじゃないかな、とかそんなことを考えてしまってな。

 大変な事だとは思うが、出来る限りの事はしたいんだ」


「なるほどね。ハルキの気持ちは理解したよ。

 まぁ、キミが決めたことなら皆も反対はしないだろうね。たぶん喜んで手伝いをしてくれると思うよ。

 それにボク個人の意見としても、その考えに賛成だからね」


 滅ぼされた村を見た俺は、やりきれない思いと新たなる決意を胸に、サラ達が残る街へと帰ってきた。

 

 街の入口を潜った瞬間、それじゃ残りの屋台を食べてくるね、といって走り出したクロエと別れ、カラスからの情報を手がかりに、宿で魔方陣を書いていたサラと合流を果たした俺は、早速とばかりに、胸のうちを打ち明けた。


 深い考えも無く、ただ目の前の悲惨さに流されているだけのような発言だったのだが、サラの反応はそこまで悪くは無い。

  

「それで? 具体的にはどうする予定なんだい?」


 どうやらサラも具体的な作戦があれば、協力してくれるらしい。

 それならばと、その日の夜と翌日の帰り道で、必死に考えてきた作戦を明かすことにする。


「えーっと、まずは、さっきも言ったとおり、宣戦布告を行いたい。そのために、手紙かなんかを敵の中枢に直接届けたいんだ。

 そうすれば、敵は混乱するだろうし、その混乱が大きければ収束するのに時間がかかるし、一般の人達にも情報が伝わりやすいだろうからね。

 運搬役として、俺のカラスを使えば何とかなると思う」


「なるほど。たしかに、キミのカラスで手紙を運べば、兄達は混乱するだろうね。

 けど、手紙でいいのかい? 敵の中枢に物を運べるなら、王子を暗殺できるような物が良いのではないのかな?」


 なんとも物騒な意見だが、確かに敵対を表明するならば、王子達を消してしまうのが1番良い。

 だが、1番手っ取り早い作戦は逸れ相応のリスクを負うことになる。


「いや、そこまではしないよ。

 暗殺までしてしまうと、敵の報復が怖いからね。万が一、未遂に終わってしまったら、敵の団結を手助けしてしまうことになる」


 両方とも生き残ればまだ良いが、片方は成功し、片方は失敗に終わった場合、俺達が生き残る可能性は消えて無くなるだろう。

 それに、非力なカラスを使っての暗殺なんて出来る気がしないし。


「その手紙とは別に、周囲の農村や町にも手紙を出したい。

 勇者国として受け入れ態勢を整えるまで王国側に敵対心を知られるな、と言った内容でね。

 自分の身を守るためなら、俺の悪口を言ってもいいし、顔を踏みつけてもいいから、絶対に生き残れって伝えればいいかな」


 つまりは、敵を混乱させ、その間に受け容れの意思表示と体勢を整える、そのような作戦だった。

 

 まぁ、言うはやすし、そんな感じだ、


「なるほど、王国と敵対してでも民を守る、それがキミの答えという訳だ。

 それに、たとえ自分の顔に泥が塗られようとも、国民の命が最優先か……。うん、立派な考えだと思うよ」


 ……いや、俺としては、模写だろうが彫刻だろうが、俺に似せて造られたものがどうなろうと、別にいいってだけなんだけど、まぁ、別に訂正しなくてもいいか。


「けれど、村に手紙を出すのはやめたほうが良いとボクは考えるよ」


 ん? え? 


「……立派な考えじゃなかったのか?」


「そうだね。考え方自体は立派だと思うよ。

 けれど、手紙という連絡手段が適切じゃないんだ。

 町ならまだしも、農村くらいの人数だと、そこにいる人全員が集まっても、誰一人として文字が読めない可能性があるからね。むしろ、農村じゃ文字を読める者が居るほうが珍しいんじゃないかな?」


 ……おぉう。そういえば、この世界の識字率を忘れてた。ってか、おれ自身も付与付きメガネのお陰で文字は読めるけど、書くほうって出来ねぇじゃん。

 

 ……どうしよう、いきなり詰んだ。

 

「…………あー、あの、サラ様。

 何か、良い手段は無いでしょうか? お教えくださると幸いです」


「んー、そうだね。村の方は商人達に伝言を頼むといいんじゃないかな?

 たしか、少しばかりお金を払えば頼めたと思うよ。

 ……まぁ、今回は内容が内容だから、信用できそうな商人を選ばなきゃいけないと思うけどね。

 その辺は、ボクよりもミリアかノアに聞いたほうがいいんじゃないかい?」


「はい、了解しました。

 ほんと、皆様にはご迷惑をおかけします」


 結局、王子達への手紙はサラが、周囲の村はミリアとノアの意見を聞くことになった。

 どうやら俺は、ケンカを売ることすら出来ないらしい。

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