<2-28>おくすり
「ダーリン、アリスの膝に寝なさいよね」
「…………は?」
アリスに連れられて自分の部屋へと帰宅した矢先、アリスがそんなことを口にした。
ダンジョンの部屋数が増えたのと同じように、それぞれに与えられた部屋も大きくなっている。
1ヶ月前はベットがあるだけの部屋だったが、今では3人掛けのふかふかソファーに木のテーブルが追加され、部屋もそれにあわせるように大きくなった。
アリスはそのソファーの端っこに座り、自分の膝を指差している。どうやら俺は、その太股に頭を乗せる必要があるらしい。
「は? じゃないわよ。ここで寝なさいって言ってるの。
頭を撫でるって約束だったじゃない」
……? ……あー、あれか? なんか、相当昔にそんなこと言ってたきがするな。
けど、そんな前の話を今更持ち出すなんて、どうしたんだ?
「早くしなさいよね。じゃないと石をぶつけるんだから」
「……あー、はいはい、了解」
意味を考えてる暇なんてないらしい。
アリスに促されるまま、俺は、壊れそうなほど細い彼女の膝に、恐る恐る頭を乗せた。
スカート越しに柔らかい太股の感触を右の頬に感じる。
それに、なんだか、良い香りがする。とても幸せな香りだ。
(……なによ、アリスがここまでしてるのに、まだ、そんな顔してるの? ほんと、ダーリンはダーリンなんだから、まったくー)
「……っつ!! っちょ、こっち向かないでよね」
膝枕の良さを存分に感じていると、アリスが小声で何かを言っていたので、そちらに顔を向けると、アリスの顔が至近距離にあった。
まぁ、膝枕をしてもらっているのだから、当然の結果ではあるが、どうやらアリスはお気に召さなかったらしい。
顔をプイっと背け、耳まで真っ赤にして、抗議の言葉を口にする。
「こ、こっち見ないでよね。膝枕のマナーも知らないの!?」
……膝枕にマナーなんてあるのか?
いや、絶対ないだろ? 今勝手に作っただろ?
「……は、はやく、退きなさいよね。膝枕は終了よ」
「……は?」
「は? じゃないの、おしまい、って言ってるじゃない」
おぉう。どうやら、幸せの時間は打ち切りのようだ。
そっち向いたらダメなんて聞いて無いぞ。……もう少し、サービスしてくれてもいいじゃないですか。
追加料金払えば、延長できませんかねぇ?
「……ちょっとこっちに来なさいよね」
そういって、アリスはソファーからベッドの前へと移動する。そして、ベッドサイドに腰掛けた。
「隣に座りなさいよ」
「……あー、了解」
どうやら、アリスの不可解な行動は続くらしい。
俺は指示された通り、アリスの隣へと腰をおろす。
すると、突然、アリスが俺に抱きついてきた。
いくら軽いとは言っても、座ろうとしていた体勢では、アリスのタックルを受け止めれるはずも無く。2人して、ベットへと倒れこんだ。
そして気がつくと、さっきより近い距離に、真っ赤に染まったアリスの顔があった。
どうやら俺達は向かい合わせでベットに寝転んでいるらしい。
アリスは俺の胸に頭を乗せる形で、全体重を俺に預けているようで、その小さな体が俺のうえに乗っかっているのが感じられる。
体に触れる部分はすべて軟らかく、膝枕の時以上に良い香りがした。
…………まぁ、軟らかいとは言っても、胸の感触は皆無なのだが。
「……ちょっとダーリン。アリスが体を張ってるのに、失礼なこと考えてるでしょ?」
「い、いえ。滅相もございません」
「……ふん」
おぉう。なんと鋭いことだろう。
たがしかし、ちがうのだ。これは失礼な事などでは決して無い。
密着しているのに触れることが無い胸とか、最高の御褒美だとは思わないか!?
「ご馳走様です」
「なにがよ!!
……は、恥かしいから、目を閉じなさい」
「は?」
「いいから、目を閉じるのよ!」
この体勢で目を閉じろとか、次は何をしてくれるのだろうか? キスか? キスなのか? などと、そんな邪な思いも込めて俺が目を閉じると、アリスは気持ちを落ち着かせるよに、普段よりもゆっくりとしたスピードで言葉を紡ぎだした。
「大丈夫。ここにはアリスとダーリンしか居ないから、無理に強がる必要は無いわ」
「え?」
あまりにも唐突なアリスの言葉の意味が理解出来ずに、思わず目を開き、アリスの方を見る。
すると、さっきよりも顔を赤くしたアリスに頬をつねられてしまった。
「目を閉じてなさいよ、まったく……」
(敵を殺してからずっと様子がおかしいから、無理に強がってるのかと思ったけど、どうやら無自覚みたいね。
まったく、ダーリンってば、無茶しすぎなのよ。
……まぁ、勇者として頑張ろうって言う姿は嫌いじゃなけどね)
「……初めて敵を倒した人は、心がおかしくなるの。
そして、その特効薬は異性と、あ、愛し合うことって聞いたわ。
今回は特別に、アリスが相手になってあげるから、感謝しなさいよね」
「愛し合う……、相手って……」
まさか、そこまでの話しが出てくるとは思わず、戸惑う俺を尻目に、アリスの細い指が、俺の上着の中に入ってきた。




