<6>姫に召喚されまして 6
サラから差し出された1枚の紙に目を通すが、そこには図とも文字とも判断の付かない物が書かれていた。
あえて表現するなら幾何学模様をぶち壊して現代アートを混ぜた感じだ。……いや、自分で言っててもよくわからないのだが、そんな感じなんだ。
「……読んでおいてくれと言われても、読めないんだが?」
「おっと、そうだったね。文字に関しては効果範囲外だった」
そういって、彼女は白衣のポケットから、薄い虫眼鏡のような物を取り出した。
「これを通して見れば、読めるはずだよ」
とりあえず、指示通りにレンズ越しで契約書を見ると、書かれていた文字が日本語になった。
「……説明してもらえるよな?」
「あぁ、勿論だよ。
まず、こちらの世界の文字は、キミの知る文字では無いだろう。そして、喋る言葉もだ。
ゆえに、キミには召喚時に魔法をかけたんだけど、生憎と要領が足りなくてね。喋る、聞くに関しては、出来るようにしたんだが、書く、読むは出来なかったんだ」
だから、魔法の虫眼鏡で代用ってことか。
なんというか、この道具が今までで、1番異世界を感じるものだな……。
「契約書に関しては、読んで貰えばわかると思う。
そちらに関しては後で質問を受けるよ」
そう言い残して、彼女は去っていった。
1人になり、まずは契約書を読んでみることにする。
そこに書かれていた内容は大きく分けて4つであった。
1つ目、サラを裏切らないこと。
2つ目、サラも俺を裏切れないこと。
3つ目、上下関係は無く、2人は平等であること。
4つ目、今後購入する奴隷の契約者は、俺になること。
何度読み返しても、俺が不利になることはなさそうで、本当に彼女に協力するための契約のようだった。
一方的に召喚された事実が無ければ、即座に契約しても良い内容だ。
さらに、自分の感情を整頓する。
日本での俺は周囲とのつながりがない。ニートで両親もすでに無く、親戚も数年に1度会えば良いほうだ。
女性関係など言うまでもない。
もし、日本へ帰れると言われても、帰りたいと本気で思えるかと聞かれれば、答えはノーだった。
そんなことを考えているうちに、サラが帰ってきたので、結論を伝える。
「サラと契約をしても良いが、1つだけ条件がある。
このレンズをもう3つ、作ってくれないか?
2枚は魔法をかけなくて良い」
「…………いまある分も含めて、合計で4枚か。
了解した、すぐ用意させてもらうよ」
何に使うのかを聞かれるかと思ったが、彼女は契約を優先したようだ。
「それで、契約はここに名前を書けば良いのか?
生憎と、日本語しか書けないが問題ないか?」
「あぁ、キミの国の言葉で書いてくれて構わないよ。
ちなみに偽名を書くと、魔法で弾き飛ばされるから注意して欲しい」
偽るつもりは無いが、細心の注意で文字を書くことにしよう。
彼女からペンを受け取り、慣れない羽ペンに手間取りながらも、自分の名前を書き上げ、サラに返す。
「……ありがとう。感謝するよ」
異国の名前を見つめる王女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
ひとりぼっちの姫に、ひとりぼっちの異世界人が仲間になった。




