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<54> 勇者の力

ユニークアクセス数が50,000を突破しました。ありがとうございます。

「ボクの記憶によると、君達を招待した覚えは無いんだが、一応は挨拶をさせてもらうよ。

 ようこそ、ボク達の城へ」


 討伐隊が部屋の崩落に巻き込まれてから数分。


 人々の表情が、落下の痛みから戸惑いへと変わりつつある中に、突然、サラの声が響いた。


 その声の出所は、4匹のカラスがそれぞれの口に咥える魔玉だ。


 この魔玉には、人間が持つ声を発するという能力を付与魔法で与えてもらった物で、イメージは一方通行の電話だ。


 そして、松明を持つカラスとは異なり、喋る魔玉を持つカラスは隠密状態にしてあるため、兵士達がいくら周囲を見渡そうとも、声の出所はわからない。

 

 出所不明で、いろんな方向から降り注ぐサラの声は、神々しさや恐怖心を彼らに与えていることだろう。


「おっと、ボクの自己紹介がまだだったね。

 ボクの名前はサラ。キミ達の国では、まだ第4王女のままかな? それとも、もう王位は剥奪されて、逆賊扱いにでもなっているかな?


 まぁ、どちらにせよ、ボクはあんな国に戻るつもりは無いから良いんだけどね。

 それじゃ、ボク自身の話はここまでにしておこうか。


 さて早速だが質問をさせて貰うよ。キミ達は、自分が直面している状態を正確に把握しているかい?

 ボクの占いでは、まだの人も何人か居ると出ているから、ボクの口から説明させてもらうよ。


 キミ達は高い壁に囲まれているため、そこからの脱出は非常に困難だ。そして、足元には大量の油。上空には火を持ったカラス。

 ボクの主が判断を下せば、キミ達は一瞬にして丸焼きになる。そんな状態だね」


 流れるようにすらすらと話をしたサラは、そこで一度言葉を区切り、兵士達の反応を見る。……まぁ、見るのはカラス経由の俺とダンジョンマスターのクロエなんだが……。


 薄々は自分達の身が危ないと感じて居たのだろうが、はっきりと敵の口から、いつでも殺せますよ、と聞かされた兵士達は、大半の者が溜息を吐き出し天を仰いだ。


 そんな絶望的な雰囲気が兵士全体へと連鎖的に伝わったことを確認したサラは、満足気な雰囲気を全面に押し出し、言葉を続ける。


「つまり、キミ達は不幸のどん底というわけだね。……けど、そんなキミ達にも救いはあるんだ。

 それは、キミ達の挑んだ相手が勇者様だという点だね」


 サラが、勇者、と言う言葉を口にしたことで、それまで絶望に天を仰いでいた人々が、突然意識を取り戻したかのように、サラの言葉に耳を傾け始めた。


「今後の話をするためには、まず、勇者様が本物であるかを皆に知ってもらう必要があるね。

 それじゃぁ、キミ達のために、勇者様の神秘の力を披露して頂くよ」


 サラの言葉に、どんなことが起きるのかと、兵士達が身構える中、部屋全体が強い光りに包まれる。

 そして、次の瞬間には、崩れ去った天井がもとに戻り、つなぎ目の無い石で覆われた部屋に戻った。ただし、兵士達の足元には、いまだに油が存在し、空中の松明も健在だ。

 

 実際の所、この現象は勇者、つまり俺の力ではない。何を隠そう、クロエがダンジョンコアにお願いして、高いポイントと引き換えに、自動修復の機能を入手したのだ。

 なぜ、油がそのままなのかは不明だが、部屋をもとに戻したのはクロエ様であり、俺様ではない。

 ……まぁ、嘘も方便、クロエの力は俺のもの、問題はない!! ……はずだ。


 やっぱ、クロエが勇者なんじゃね? っとの思いが俺の中を駆け巡るが、そんなことなど知らない一般兵達は、神でも光臨したかのような大騒ぎだ。


 土魔法を使いこなせるアリスですら魔力不足で出来ないことを一瞬にしてやって見せたのだ、いくら魔法の世界の住民と言えども、騒ぐのも無理は無いと思う。


「ボクの主である勇者様は、歴代の勇者様同様、大変に御心の優しい方であり、自分の命を狙ったキミ達を助けても良いと仰られている。

 さらには、キミ達を理不尽な命令を下す国から保護してあげても良いとさえ仰ってくださっているんだ」


 サラがそこまで言い終わると、一般の兵士からは、勇者だってよ、勇者に保護して貰えば今みたいに理不尽な命令を聞かなくてよくなるんじゃないか? 勇者様に矢を向けたなんて、この国はおしまいだー、などの声が漏れ聞こえ、辺りがざわついた。


「ただし!! 手厚く保護するのは魔王の手下で無い者だけだ。

 残念ながら、いかに勇者様であっても、魔王の手の者か否かはその者の行動でしかわからない。

 そこで、このような物を用意した」


「…………ん? なんだこれ? ……首輪?」


 俺はサラの言葉に合わせるように、20匹のカラスに命令を下し、一般兵だと思われる人の手元に向けて、最寄の町からミリアとノアに買ってきてもらった首輪を投げた。


「その首輪には勇者様の魔力が込められている。奴隷の首輪と同じ効果を発揮する代物だよ。

 それをこの集団のトップとその側近達に嵌めてほしいんだ。魔王の手先じゃないキミ達なら出来るはずだね。

 ……魔王の手先である者達に告ぐ。万が一、一般市民を傷つけた場合、勇者様の逆鱗に触れる。そう心得た方が良いと忠告させてもらうよ」


 そうサラが言葉を締めくくったことにより、辺りに一瞬の静寂が訪れたのだが、それからの光景は凄まじいの一言だった。


 手元へと飛んできた首輪を見つめた人々は、まるでそれが神の化身であるかのように恭しく扱い。

 准伯爵やその側近達の近くに居た者は、一斉に彼等に対して敵意の篭った視線を向ける。そして、我先にと手を伸ばし、相手の行動を封じ込めた。

 そして、サラの言葉が終了してから5分もしないうちに、ターゲットであった敵の上層部の人間全員に、首輪がかけられた。


「……いやー、宗教って怖いな。俺が准伯爵の立場だったらと思うとぞっとするね。

 まぁいいや、とりあえず、敵は完全に鎮圧したし、一般兵達にここに住むか、帰るかを聞いたら終了だな」  

 

 ほんと、100人の敵を見たときはどうなることかと思ったが、案外なんとかなるもんだな。

 まぁ、今回の場合、敵の大将が無能だったお陰で、敵の士気がびっくりするほど低かったってのもあるだろうがな。


「あー、えっと、兄様。ちょっと聞いてもいい?」


「ん? どうした?」


「あたし達が買ってきた首輪なんですけど、あれって普通の首輪だよね? 兄様が魔力を込める時間なんて無かったと思うんだけど……」


「……あー、うん、まぁ、そうだね」


「けど、准伯爵様とかは本当に奴隷になったみたいなんでしょ?」


「……あー、そこはあれだね。……うん、それこそ、本当に勇者の力だね」


「はぁ、なるほど?」


 ぶっちゃけた話、出来ることなら本物の奴隷の首輪を入手したかったのだが、俺達にはお金も時間も足りなかった。

 ゆえに代わりとして、近くの町で買える安いネックレスで妥協した。


 しかし、ただのネックレスとはいえ、あの状況で首に物を巻かれれば、まさかそれが偽者などとは思うまい。それゆえ、准伯爵達は、自己暗示、自己暗示、思い込みの力で、その場から動けないわけだ。


 ……あれ? 部屋の修復はクロエでしょ? 首輪は思い込みでしょ? …………なんか、俺って、勇者って言うより、詐欺師って感じじゃね?


 ……まぁ、みんなの命が助かったし、詐欺師だろうが勇者だろうが、どっちだっていいか。

 

 それじゃぁ、予定より少し早いけど、お世話になった長男様に、少しばかりの牽制を入れるとしますかね。

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