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<47>銀貨は食べれますか?

 道で飛び跳ねていた少女は、自分のことをクロエだと名乗り、一通りの挨拶を終えると、ポケットの中から魔玉を取り出し、商人の姉妹に買取をお願いした。


 その依頼に了承し、姉が代表して魔玉を受け取り、鑑定を行う。


「うーんとね、クロエちゃんの持ってたこの魔玉なら、銀1枚で買い取ってあげれるよー?

 けど、銀って使い難いと思うから、銅100枚にしてあげ――」


「アー、アー、アー、アー」


 鑑定を終えた姉が、クロエに買取値を伝え、どうするか聞こうとしていたところで、妹が言葉を遮り、ストップをかける。


「ちょっと、ノアちゃん? お姉ちゃん今交渉中だから、大声上げないでー」


「あははー。クロエさん、ちょっとお姉ちゃんの体調悪いみたいで、馬車の中にある薬を飲んできますから、ちょっとだけ待っててくださいね」


 そういうと、クロエの返答も聞かずに、妹は姉を荷台に引っ張り込んだ。


「ちょっとー。どうしたのー? お姉ちゃんは、体調悪くなんてないよー?

 それにお薬なんて高価な物、私達じゃ取り扱いできないんだよー?」


「……どうしたのー? は、こっちの台詞。

 いい? あたし達はお金がないの。それに安く仕入れるのは商人の基本。

 あの子、どう見たってこの辺の子でしょ? あの様子だったら、銅30枚でも大丈夫でしょ」


「んー?」


 そんな妹の言葉を聞いて、初めは意味がわからず、キョトンとした表情をしていた姉だったが、次第に意味を理解し、諭すように声を紡いだ。 


「だーめ。

 お父さんがいつも言ってたでしょー? 商人は常に誠実であれって。

 仕入れも売却も適正価格でするのよー」


「……でもさ――」


「でもじゃないのー。

 あの魔玉を銅30枚で買取ますなんて、お父さんの看板に向かって言えるー?」


「…………」


「ほーら、お客様が待ってるんだし、戻るわよ」


「……はぁーい」


 秘密の姉妹会議が無事に纏まり、クロエに銅100枚での買い取りを伝えると、クロエの口から、姉妹の予想に反した答えが返ってきた。


「んーとね。その魔玉はお姉ちゃん達にあげる。

 そのかわりに、私のお兄ちゃんとお仕事の話をして欲しいな。

 うんと、そうだった。誘うときはこれを見せなさいってサラお姉ちゃんに言われてたんだ」


 そういって、クロエは1枚のハンカチをポケットから取り出した。


 銅貨100枚、銀貨1枚、日本円にして30万円程度の価値があると告げたにも関わらず、あげると言われたことに姉妹揃って驚き、クロエがポケットから取り出したハンカチを見て、妹が息を呑む。


「……クロエちゃん? 銅100枚あったらパンがいっぱい買え――」


「……ぇちゃん。……おねえちゃん」


 姉は銅貨の価値がわからなかったのかと思い、説明しようとしたが、妹に服の裾を引っ張られ、言葉を中断した。

 

「んー? 今度はどうしたの?」


「……おうけの、もんしょう」


 妹がオバケでも見たかのような表情で、クロエが取り出したハンカチに描かれた柄に目を向ける。


「おうけ? ……王家ー? ……!!」


 姉の方も、その紋章には見覚えがあった。


 昔、父と仕入れの空き時間に観光で訪れた、王都のお城に掛けられていた旗の紋章にそっくりだった。

 父曰く、この紋章を掲げた行列が居たらすぐに道をあけなければ切り殺されるらいい。

 そして、万が一、紋章を持つ人に出会ったら、絶対に逆らってはいけないとも聞いていた。


「誠に申し訳ありませんでしたー。

 どうか、妹の命だけは、お助けください」 


「お姉ちゃん!?」


 そのハンカチに描かれた紋章が王家の物だとわかってからの姉の行動は早かった。

 突如土下座の体制になり、頭を地面につけたかと思うと、両手を前に出し、手の平を天に向けた。

 その体制は、この国における最高の謝罪の体制であり、命をあなたに捧げるという意味である。


 そして、自分の命と引き換えに願うのは、今となっては唯一の肉親である、妹の助命だった。


「だめだよ。お兄ちゃんは、自分の命と引き換えにー、っての嫌いって言ってから、私も嫌いになったの。

 それと、私は王族じゃなくて、お兄ちゃんの妹だから、畏まらなくていいんだよ?」


「えーっと、それはどういう意味でしょうか?」


「んー? とりあえず、私のことが信用出来ると思ったら付いてきて欲しいな。そしてお仕事の話をお兄ちゃん達としてほしいの。

 もし来なくても罰則なんてしないから、2人で話し合って決めてね」


 状況はいまいち把握できて居ないものの、どうやら考える時間をくれることだけはわかった。


「……お気遣い、ありがとうございますー。それでは、お言葉に甘えさせて頂き、5分ほどだけ時間を頂けますかー?」


「うん、いいよ。

 それじゃぁ、私はそこの森の中で待ってるね」


 そういって、クロエはその場を離れていった。


「……お姉ちゃん」


 クロエが去った事で緊張が緩み、妹が腰から砕け落ちるように地面に座り込んだ。

 そんな妹の頭を姉が優しく撫でる。


「大丈夫よー。すこし、深呼吸しよっかー。…………うん、ちょっとは顔色も良くなったみたいねー。

 あんまり時間がないから、お姉ちゃんの意見を言わせて貰うね。

 お姉ちゃんとしては、あのクロエちゃんって子は、信用できると思うの。だから、お姉ちゃんは、彼女についていくわね。

 それで、ノアちゃんはこの先の町で待って――」


「ダメだよ、お姉ちゃん。

 あの子のお兄ちゃんは自己犠牲が嫌いって言ってたじゃん。あたしも付いていく」


「……でも――」


「それに、お姉ちゃんの人を見る目は確かだから大丈夫だよ。

 ほら、行くよ。お客様が待ってる」


 そういって、妹は姉の手を引き、クロエが居るであろう森へと足を進めた。ただ、その声とは裏腹に、手は震え、表情も強張っている。


 そんな妹の手を姉の手がぎゅっと握り返した。


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