<44>家庭菜園
「ちょっとスライム。あんた、もうちょっと上の部分尖らせなさい。イメージは狐の耳よ。それに、帽子としての機能も必要なんだから、その辺意識しなさいよね。…………そう、そうよ。それでいいわ。あんた、やれば出来るじゃない。
クロちゃん、すっごく似合ってるわよ。いつにも増して可愛く見えるわ」
「そう? ありがとー、アリスお姉ちゃん。これで移動のときの持ち運びが出来るようになったね。
そうだ、アリスお姉ちゃんもスライムの帽子つけてみる?」
「…………そ、そうね。大人びた雰囲気のアリスに、その可愛い帽子が似合うなんて思わないんだけど、クロちゃんがどうしても、って言うのなら、かぶってあげてもいいわよ」
きゃーきゃー言いながら、スライムを帽子の形に変形させて戯れているクロエ達を尻目に、俺は2体目の召還獣を呼びだすことを決めた。
決めた理由としては、クロエが召喚したスライムの有能さに焦りを感じた部分もあることは否定しないが、それ以上に、今ならより優秀な召喚獣を呼び出せると思ったからだ。、
まず第1に、ダンジョンにレベルがあった。そのことを考えると、俺達人間にもレベルがあってもおかしくは無いと思う。そして、もしレベルが存在するとしたら、その殆どをクロエが倒しているとは言っても、パーティを組んで同じ場所に居た俺にも、今日の戦闘で経験値が獲られていると思う。その結果として、ダンジョン同様、レベルが上がっているはずなのだ
第2に、魔玉も大量に入手した。そのため、1個といわず何個でも召喚に使用できる。対価は多いほうが良いのは異世界でも同じだろう。
以上のことから、今の俺なら強いモンスターを召喚できるという訳である。
集中力を高めるために胡坐で座り、とりあえずということで3つの魔玉を足の上に置いて目を閉じる。そして、最初の召喚同様、魔力をコントロールして魔玉に流し込んでいった。
…………。
「ちょっとダーリン。どうしたのよ、そんなにいっぱいのカラスを出して。
大道芸でも始めるつもりなの? いま、スライムで遊んでるんだから、少しは空気を読みなさいよね」
「わー、ほんとだ。全部で4体も居るね。
1匹食べていい?」
……うん。魔玉を3つ使ったら、3匹のカラスが生まれました。
きっとこれはあれだな、今後の努力次第で強力な召喚獣を呼び出せるけど、いまはまだレベルが足りなかったってことだな。
うん、そういうことにしておこう。
「……い、いや、あれだよ。……敵の動きが気になってな。王都の状況を把握しようと思って、新しく召喚したんだ。……ってことで、カラス達よ、王都へ飛んで行け」
カー、とひと鳴きしたカラス達は、大きく羽ばたいてダンジョンを出て行った。
「なーんか怪しいわね。本当にそんな理由で呼び出したの?」
「ハイ、ソウデスヨ」
そう、俺は失敗した訳ではない。1体だと心もとなかったので、複数召喚しただけだ。
ホントダヨ。
「……まぁいいわ。とりあえず、ここでの作業は終わったことだし、新しく作った畑の様子を見に行くわよ」
「はーい」
「了解したよ」
そういうことになった。
ダンジョンコアの部屋から徒歩1分以内、新しく作った石造りの扉を開き、野菜畑へと侵入した俺の目に、俺の顔よりも大きいと思われる巨大なトマトが映りこんだ。
しかし、おかしいのはその大きさだけではない。そのトマトに目や口が付いているのだ。
そして周囲に成っているキャベツやピーマン、スイカも同様に巨大で、目や口が付いていた。
「わー、あのトマト美味しそうだね。ちょっと味見しよーっと。
お兄ちゃん達の分も採ってくるから、ここで待っててねー」
そういうと、クロエがスライムナイフを手に野菜畑部屋の内部へと突撃する。すると、目や口付きの野菜達も、迫り来るクロエを撃退しようと枝や弦などを叩きつけて応戦しだした。
「ごはん、ごはん♪」
精一杯の抵抗を見せる野菜達だったが、その足は根っこであり、地面にがっちり埋まっているため野菜達はその場から動くことが出来ず、機動力に優れたクロエにその攻撃が届くことはなかった。
クロエは1本のトマトの木に狙いを絞ると、迫り来る枝を回避し、カウンター気味にその幹を切断した。すると、枝や幹などがすべて消えさり、その場に1個のトマトだけが残った。
「おいひーーー」
収穫物であるトマトは一瞬にしてクロエの口に入り、天使の微笑みの栄養源となったようだ。
「…………なぁ、サラ。この世界の野菜って凶暴なのか?」
「いや、地上の畑では、このような現象が起こることはないね。これはダンジョン特有の物だよ。
ダンジョン内には植物系の魔物が集まるエリアがあるとは聞いていたが、まさか畑だったとはね。
それに魔玉を残さないところを見ると、魔物の区分ではないようだね。
これは詳しく調べて見る必要がありそうだ」
いや、魔玉の有無とかじゃなくて、人を襲う野菜なんて、魔物認定して問題ないと思うぞ。
「ただいまー。はい、お兄ちゃんの分」
「……あぁ、ありがとう」
クロエから手渡されたトマトは、普通に日本のスーパーなどで見かけるトマトだった。
味は非常に美味しかったものの、ひさしぶりの野菜だったため、正常な判断が出来たとは思わない。
ただ、普通に食べれたことだけは確かだ。
とりあえず、かいわれ大根やもやしを俺が作ることは無理だということはわかった。




