<35>ダンジョンを作ろう 2
「コアちゃん、ポイントって、いまあったりするの?」
「多いとは言えないんすが、ちょっとくらいならあるっす。
最近は、皆様の近くで過ごしてきたっすから、その間のポイントが溜まってるっす」
さぁ、ダンジョンを作成しよう、ってなったのだが、先の説明にもあった通り、ダンジョン作成にはポイントが必要って事で、ダンジョンコアに確認してもらったのだが、どうやら問題は無いらしい。
えっと、ダンジョンに必要な物は、っと。
「クロエ、とりあえずは入口の階段から作ってみるか」
「うん、そうしよっか。……えっと、ここでいいよね?
それじゃぁ、コアちゃん、お願いね」
「うっす、了解っす」
クロエが洞窟の中央に移動し、ダンジョンコアに指示を出す。
すると、指示を受けたダンジョンコアが淡く光りを放ったかと思えば、辺りの土がもこもこと動き出した。
クロエに危険はなさそうだし、なんだか、アリスの土魔法に近いな、なんて思って見ていると、蟻地獄の様に土や石が地面深くへと流れ落ち、徐々に穴が広がりを見せる。
そして、人が5人ほど並んで通れる大きさになったかと思った所で、ダンジョンコアの光りが消えた。
「できたっす」
「うん、ありがとね」
出来立てホヤホヤのダンジョン入口は、緩やかな傾斜の階段なっていて、足元は石でしっかりと舗装されていた。壁はコンクリートのような素材で覆われており、なかなか頑丈そうに見える。
とりあえず、崩れる心配はなさそうなので、ダンジョンコアを持つクロエを先頭に、サラに生活魔法で炎を出してもらい、辺りを照らしながら階段を下りる。すると、階段を降りた先で、少しばかり広い空間にたどり着いた。
「サラ、なるべく小さな炎で、この辺全体を明るく出来るか?」
「可能だよ」
地下なので、酸素の心配などがあったが、光を灯さない訳にもいかない。
俺が檻の中で見せてもらった程度の炎が、サラの指先から飛んで行き、天井付近を舞う。そして、その炎の数が5個を超えるほど増えたところで、ようやく周囲の状況がわかってきた。
どうやら、ここは部屋のような場所らしい。
大きさは、1人暮らしのアパートには少しばかり大きい程度といったところだろう。
地面は階段同様、石が整然と並べられ、壁や天井もコンクリート素材で舗装されている。
そして、部屋の中央に、ポツンと石で出来た台座のようなものがあるだけで、他には何も無かった。
「オーナー様、自分をあそこの石に乗せて欲しいっす」
「うん、わかったよ」
そういって、クロエがダンジョンコアの指示に従い、石で出来た台座のようなものに向けて、その足を踏み出そうとした。しかし、その手を俺が掴み、行動を妨げたことにより、クロエの動きが止まる。
「…………ん? お兄ちゃん? どうしたの?」
そんな俺の行動の意図がわからなかったらしいクロエは、キョトンとした表情を見せた。
「クロエ、ダンジョンコアをあそこの石に乗せるの、俺に任せてくれないか?
誰が乗せても問題ないんだよな?」
「はいっす。お仲間様でも問題はないっす」
「んゅー?
いいけど、なんで?」
「なんとなくだよ、なんとなく。
なんか、こういうのは、勇者として俺がやっとかなきゃなー、って思うんだよな。
クロエもそう思わないか?」
「そうなのかな? うーん。…………まぁ、いいや。お兄ちゃんがそういうのなら間違って無いと思うし、任せてあげる。
はい、お兄ちゃん」
そういって、クロエがダンジョンコアを手渡してくれた。
ダンジョンコアは、サラ自身が城からくすねて来たものだ。そのため、このダンジョンコアが偽物であって、兄達の仕込みで厄介なことが起きるってことは無いと思う。しかし、そもそもが、ダンジョンコア自体を信用していい物なのかはわからない。
日本のゲームや小説などでは、ダンジョンが魔王の手先として描かれることが多いと思う。そして、この世界でもダンジョンは敵の本拠地や兵器の意味合いが強く、悪い印象が大半らしい。
ゆえに、このままダンジョンコアの指示通りに動いていった場合、何か俺達にとって不利益となる事態に発展する可能性がある思うのだが、そうだからといって、兄達から身を守るためには、ダンジョンを作成するほかに道がない。
そんな状況なため、石の台座にダンジョンコアを載せるなどといった、いかにも怪しいイベントをクロエにさせるわけにはいかないと直感的に思った。だから、兄である俺がやるというわけだ。
兄は妹を守るべき存在だしな。
…………いや、まぁ、実際に何か厄介ごとが起きた場合、俺がクロエに助けてもらう可能性が極めて高いんだけど。そこはあれだよ。気持ちの問題ってやつだ。
ってか、ふと思ったんだが、兄である俺は、カラスを召喚して軍隊を使役する者。
妹はダンジョンコアを扱う者。つまりはダンジョンマスター。
勇者とその妹って言うよりも、魔王と筆頭魔族の兄妹って言ったほうが、納得できると思うのは俺だけだろうか?
…………気のせい、だよ、な? そうだよな?
まぁ、いいや。無駄なことを考えている間に、石の台座に到着したし、今はこいつに集中するとしよう。




