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<29>ぼっちの危機 3

 手の中には、ひんやりとした玉がある。そして、首元にも、ひんやりとした金属がある。

 そしてその金属は、的確に俺の頚動脈に向けられている気がする。


「あのー、アリスさん? 

 首元に押し当てられた、これ。なにかなー?」


「あら? 見てわかんない?

 あ、そっか、ダーリンからは、顎が邪魔して見えないね。

 やさしいアリスが教えてあげる。アリスが押し当ててるのは、ナイフだよ」


 勇者の証を見せるために、特殊魔法を使用する準備が整い、いざ、覚悟を決めて決行!! ってなったところで、アリスが突如、俺の後ろに回り、抱きつくような形で、俺の首にナイフを這わせてきた。


「そんな物騒な物はポケットにしまっておいてくれないかなー、なんて思うんですが、どうでしょう」


「いやよ。このナイフはダーリンの首元にあるのが、正しい位置なんだから」


「…………」


 本気の殺意は無いと思うが、さすがに美少女相手でも、首にナイフは許容範囲外だったようで、背筋にひやりとした物を感じ、額から嫌な汗が吹き出る。

 危機感を含んだ緊張のせいで、魔玉が俺の手元から落ち、クロエの方へと転がっていってしまった。


「ボクはハルキの解放を題材に、アリスと交渉すべきなのかな? ……いや、刺激するだけで終わる可能性があるね。ならば……、いや……」


 さすがのサラもこの状況は読めなかったようで、事が起こった後でようやく対策を考え始めたようだ。


「……うんと、あれ? 相手は、アリスおねえちゃんだし、けど、お兄ちゃんがピンチっぽいし。……え? どうしよ」


 クロエも、俺を助けるために動こうとするが、俺が人質にとられていることに加え、相手がアリスのため、動くに動けない状況のようだ。


「……そうだね。ハルキ、キミなら出来ると、ボクは確信しているよ。

 自信を持ってアリスの課題に取り組むべきだと進言させてもらうよ」


「あのね、お兄ちゃん。私も、お兄ちゃんなら出来ると思うの。

 アリスお姉ちゃんにすごい魔法を見せて、早く仲直りしてあげてね」


 どうやら2人とも、応援する以外の選択肢が見つからなかったようだ。


「えっと、アリスさんは、そのナイフをどのように使うか、教えていただけますか?」


「ふふん、そんなの決まってるじゃない。もし、召喚魔法を失敗するようなら、勇者を偽った罪と、アリスのことを騙した罪で、ぐさっといくためだよ。

 なんか、さっきから、ダーリンの反応がソワソワした感じなんだよね。だから、ちょっと本気になってもらおうかなーって思ったアリスの優しさだよ。

 何回もチャレンジしてもいいけど、失敗するたびにグサグサ刺しちゃうから、安心してね」


 そんな物騒なことを話すアリスの声は、とても生き生きとしていた。


「……冗談、ですよね?」


「ふふふ、その身をもって試してみる?」


 ……あー、なんだろ。アリスの声が、本気な気がする。 


 あれかな? もしかすると、ツンデレじゃなくて、ヤンデレだった?


「いえ、試しは大丈夫です。本気でやらせて頂きます。

 それでは、魔玉をこちらに貰えますか?」


 ナイフが首元にある状態では迂闊に動けないので、魔玉を持ってきて欲しいと要求する。そして、クロエから魔玉を受け取り、ひんやりとした感覚を手で包み込むように持つと、じっくりと目を閉じた。

 ちなみに、魔玉を持ってきてくれるときに、クロエが何とかしてくれないかな、とも思ったが、そんな願いもむなしく、普通に持ってきてくれるだけだった。


 自分の中に流れる魔力を感じ取り、血流に乗るようなイメージで全身に行き渡らせる。そして、手の中に包み込んだ魔玉に向けて、徐々に魔力を流し込んだ。

 その流れに逆らうことなく、 魔玉に魔力が集まり、すこしだけ熱を帯びだしたかと思うと、手の中から魔玉の感覚が消えうせた。


 服を作った時の5倍程度の疲労間を感じながら、恐る恐る目を開くも、アリスの手に握られたナイフが俺の体を貫くことは無かった。

 

「……出来た」


 思わず呟いた俺の視線の先には、召喚獣らしき生物が居た。 


 足先は3つに割れ、その先端には、獲物を捕らえるための鋭い爪を持ち合わせている。そして口元には、どんな物でも貫通出来そうな、硬い嘴がある。

 全身は、漆黒の闇に覆われたかと思うほどの深みがある黒一色で統一され、足と嘴以外を艶やかな羽毛が覆う。

 両腕の変わりに存在する翼を勇ましく広げれば、彼の体をその偉大なる大空へと誘ってくれそうだ。


 つまりは、










 ………………カラスだった。


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