<27>ぼっちの危機
日が完全に地平線の向うへと沈んだ暗闇。そして、さらに暗いイメージのある洞窟の中。
時間経過と共に心拍数が落ち着きを取り戻し、土と戦闘の匂いを感じながら、俺は静かに怒っていた。
「アリス、クロエ、サラ、さっきは助かった。ありがとう。
そして、なにも出来ずに申し訳なかった」
1番の怒りの先は、もちろん、自分自身だ。
なにも出来なかった所か、足手まとい以外のなにものでもなかった。
「……ふん」
案の定、アリスはご機嫌斜めなようだ。
「いいよ。お兄ちゃんだったら、いつでも私が守ってあげる。
もちろん、アリスお姉ちゃんも、サラお姉ちゃんも守ってあげるから安心してね」
クロエは、戦闘など無かったかの様に平常運転のようで、純粋無垢な笑顔を見せている。
奴隷商から、敬語以外は自信を持ってオススメ出来るとは聞いていたが、まさか、戦闘まで無理なく行えるとは思わなかった。
先ほどのナイフさばきや身のこなしから考えると、それなりの戦闘力なのではないかと思う。
妹に守ってもらう兄。…………最低でも一緒に戦えるくらいには成らなくてはいけないだろう。
「想定外の事態だね……。占いの結果では、ここは安全だったはずなんだよ……。けど、敵が出てきたことは変えようの無い事実な訳だ……。おかしいな……」
サラは、俺の話を聞き流して、1人ぶつぶつと呪文の様に呟いている。
そんな彼女に対して、比較的強めの言葉で呼びかける。彼女に対して抱える怒りの感情を抑えずに。
「サラ、俺の話を聞いてくれるか?」
「怒って居るのかい? ……まぁ、そうだろうね。一番危険だったキミが怒るのも当然の結果だね。そして、すべての責任は、場所を選んだボクに在るしね。
本当に申し訳なかったと思うよ。場所選定は間違えていた事実を認めて、謝罪しよう。それと――」
「いや、場所の問題じゃない」
なおも言葉を続けようとするサラの言葉を途中で遮った。そして、彼女に対し、諭すように言葉を続ける。
「俺が怒っていることは間違いじゃないんだが、それは狼が出てきた事に対してじゃない。
俺が怒っているのは、さっきの戦闘でのサラの行動に関してだ」
「……ボクの行動についてかい?」
サラは、心の底からわからないと言った顔をした。
そんなサラに対して、自分の行動を棚に上げ、非難の言葉をつむぐ。
「サラは、自分を犠牲にして盾になろうとしたよな?
あのような行動は今後やめてくれ。
俺のためにサラが死んだら、残された俺はどうなる? どうやって生きていけばいい?」
「…………」
「俺達が置かれている状況は、死と隣り合わせな事は理解してる。
だけど、俺は出来るだけ多くの人が生き残る道を選びたい。そして、最低でも、俺が深く知り合った人達全員が生き残る道を選びたいと思っている。
正直な話、俺の知らない場所で、知らない誰かが苦しんでいたとしても、俺の知り合い全員が幸せなら、それでいいとさえ思う。
だから、さっきみたいに、誰かが犠牲になるのは絶対に嫌だ。そうなった先の未来なんて見たくはない。
サラの行動は俺のためを思っての行動だと思うし、素直に嬉しかった。けど、それ以上にサラを失うのが怖かった。
わかってもらえるか?」
恥も立場も棚上げし、感情だけで長々と語った。そんな言葉の数々をかみ締めるかの様に、サラはゆっくりと頷いてくれた。
「そうだね。
ハルキの言うように、あれは、ただの自己満足でしか無かったね。
今後は気をつけて行動さえてもらうよ。それで許してもらえるかい?」
「あぁ、俺の行動が発端なのに、色々と言ってしまって申し訳なかった。こんな暗い話はここまでにしよう」
責任転換。押し付け。棚上げ。
俺が俊敏に動けてさえ居れば、何の問題も無かったことは理解しているが、どうしても言っておきたかった。それこそ、自己満足のために。
そんな俺の説教気味な話が終わり、不機嫌なまま、話の行く末を見守り、待ち構えていたアリスが口を開く。
「ねぇ、ダーリン。サラ姉へのお仕置きが済んだのなら、アリスの話を聞いて欲しいんだけどいいかな?
ってか、聞きなさい、良いわね?」
「……はい」
「さっきのワタワタしたのはなに?
アリスが助けなかったら、ダーリン、死んじゃってたじゃない!!」
おぉ、どうやら、終わったと思っていた話を振り返るらしい。
「はい、誠に申し訳ありません」
「謝って欲しいんじゃないわよ!! 死んじゃったら、謝ることもできないじゃない!!」
「はい、仰る通りでございます」
先の戦闘に関しては、間違いなく、俺が悪い。謝るなと言われても、謝ることしか出来ない。
そんな俺に対して、アリスがとどめの一撃を放ってきた。
「……ダーリンが勇者ってのは、本当なの?」
「お、おう。本当だとも」
いや、勇者じゃないんだが、ここは、そう言うしかないだろう。怒ってるアリスって意外に怖いし。
「ふん、アリスには、さっきの行動が、とても勇者には見えなかったわよ。
アンタが勇者じゃないなら、この同盟に意味なんてなくなってくるんだからね。その辺をきっちりさせなさいよ」
「…………」
どうやら俺の不甲斐ない行動のせいで、ぼっち同盟の存続が、危機的状況に陥ってしまったようだ。




