<25>おひとりさまですか?
鬱蒼と茂る木々の合間を歩き始めてから30分ほど。
「ふう。ようやく到着したか。
占い通りとは言え、なかなかに良い場所に辿り付けたな」
唐突に、サラがそんなことを呟いた。
目の前には5階建てのマンジョンほどの崖が聳え立ち、その根元には大きな穴が開いていた。
サラが言うように、雨風を凌げるあの場所は、俺達のような逃亡者が暮らすのには良い場所だと思う。
それに、周囲に人の気配も無く、最悪の場合、篭城も出来ると思うので、追っ手から身を守るのにも適した場所に見える。
しかし、目的地に関して、1つだけ確認しなければいけないことが発覚した。
「……サラ。逃亡先の目的地に関しては、良い場所を知っているから任せて欲しいと聞いていたんだが、いま、占い通りって言ったか?」
「ん? あぁ、たしかについ先ほど、そう言ったと記憶しているよ。
それがどうかしたのかい?」
俺の質問に、サラは心の底から、質問の意図が理解できない、と言った表情を浮かべた。そして、少し考える素振りを見せると、何かに思い至ったかのように言葉を紡ぐ。
「……あぁ、兄達に、占い師から情報が漏れ、場所がばれることを気にしているのかい?
それは大丈夫だよ。準備から実行まで、すべて自分ひとりで行った結果だからね」
すべて1人でって……。おひとり様占いって、ものすごく寂しくないか? とか色々思うところもあったのだが、今はそれどころではない。そんなことよりも重要なことがある。
「もしかして、なんだが。
俺達の目的地は、占いによって決められていたのか?」
「ん? あぁ、そうだね。その通りだよ。
研究所に引き篭もっていたボクは、逃げる場所として適切な地点を知らなかったからね。占いに頼らせて貰った結果がこの場所だね」
「……サラの占いは当たるのか?」
「的中率はわからないね。何せ、今回が初めてのことだから、統計のとりようがないよ。あえて確立を算出するとすれば、1回中、1回成功で失敗なしの100%になるものの、統計学としては、試行回数が少なすぎて、意味を成さない数字になってしまうよ」
…………。
「あー、クロエ。
大事なことを占いで決めるって、この国では一般的なのか?」
「んぅ? 占い? んー、私はしないかな。
占いって、あんまり当たらないからね」
魔法が存在する世界なので、占いの分野も物凄い変化があるのかもしれない、と思ったのだが、どうやら地球の物と比べて、大きな違いは無いようだ。
つまり、今日のラッキースポットが海だったから、海水浴行こうよ、的な考えで逃亡先を決めたらしい。
逃亡生活において、隠れるための拠点が大切なことは言うまでもない。
うん、サラって、思ったよりもバカなのかもしれない。
…………けど、まぁ、それが根拠の無い占いの結果でも、目の前には作戦通りの良い場所がある事実は変わらないし、今は気にしないことにしよう。そのほうが精神的にも良いと思うし。
「……サラ、今後の拠点にする場所は、この洞窟の中ってことで良いんだな?」
「あぁ、その通りだよ。さっそくだが、中に入るとしようか」
自身の占いを信じるサラは、躊躇無く、先頭に立って、森の中にぽっかりと開いた洞窟に入って行く。しかし、人間が住み易い場所は、動物にとっても済みやすいわけで、中に熊とか敵が居ないか、ものすごく心配で、サラの後ろをかなり離れて歩いた。
クロエも不安だったのか、俺と同じくらいの位置まで下がってきている。
「ん? どうしたんだい、2人とも。
そんな所にいないで、中に入ろうじゃないか」
「……あぁ、いま行くよ」
それでも洞窟に入らない選択肢は無いため、恐る恐る中をのぞきこんだが、見える範囲は砂と岩と土だけ。
サラに襲い掛かる者も動物も無い。
どうやら危険は無いようだ。
そんな訳で、覚悟を決め、洞窟に足を踏み入れたのだが、洞窟内部は予想以上に広かった。
横幅は学校の教室程度の広さがあり、奥はずっと続いているようで、少なくとも、入口から差し込む夕焼けの光りが届く範囲では、その全貌はわからなかった。
「……ふぅ、ひとまずは、逃亡作戦成功か」
身の安全と、これ以上歩かなくて良いという達成感が全身を襲う。
「もうだめ、1歩も歩けねぇ」
俺は、出来る限り平坦な地面を探し、唯一の荷物である護衛用のナイフをポケットから投げ捨て、肩から崩れ落ちるように、勢い良く倒れこんだ。
硬い地面だが、寝れると言うだけでも、今はすごくありがたい。
……ん? 背中に乗ってるはずのアリス?
あぁ、彼女なら、途中からずっと、クロエの背中に居るよ?
え? 男とか兄の意地? あーぁ、そんなのあったねぇー。
けど、知ってる? 人間って、頑張り過ぎると、体に悪いんだぜ。
人生は長い、ほどほどに頑張るのが一番!! 明日出来る事は今日しなくても良いんだよ。
と、まぁ。そんなこんなで、色々と思うところはあるものの、無事に、そして順調に、本拠地を確保することが出来た。




